Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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43話 1月のこみパ

 

 詠美さん宅に入り浸る日々が続いた。

 ゲームをやり、ネームを考え、大手サークルの同人誌を借りて読んで、自分なりに売れる同人誌の絵の描き方や物語の勉強をした。

 帰宅して夕食を食べてお風呂に入ると、寝るまで絵を描いて画力アップに努めた。

 徹底的に、描いて描いて描き続けた。

 

 なりを潜めていた詠美さんの辛辣な口調は、ネームになったらまた再現した。

 ダメ出しをくらい、その度に詠美さんが言っていることを一生懸命汲みとろうとしたが、詠美さんの注意は、その時々によって観点が違ってなかなか法則が掴めない。

 

 あまりやりたくなかったが、途中から詠美さんが何に対して指摘しているか、メモを取り出した。

 注意を受ける度に指摘された内容を書いて、いったいどういった観点が重要なのかを分析した。

 そんなことを繰り返している内に、なんとなく詠美さんが考える『売れる同人誌』というものの感覚を掴めた気がして、その法則に則ってネームを再編して詠美さんに見せてみる。

 すると、いつも辛辣だった詠美さんの口調と表情が、パッと明るくなった。

 

「あ、わかってきたじゃない。そうそう、こういう感じよ」

 

 その一言を聞いて、自分の分析結果が間違いないと確信を得た。

 非常にわかりにくかったが、ようやくどういった観点を気にしなければならないかが、よくわかってきた。

 その後は、模写とネーム共に及第点をもらえるレベルまで仕上げるのに、苦労しなかった。

 

「うん、感覚掴んできたわね。ここまでくれば、後は本を描いてしまってもいいと思うわ」

 

 詠美さんのところで描き続けて、約1カ月。

 ようやく『売れる同人誌』というものが、どういうものか理解できた感じがした。

 認められた達成感を得て、ほっと胸を撫でおろした。

 

 ――その時にふと、和樹さんだったらこのネームを見たら、どう思うだろうか、と考えてしまった。

 

「……」

 

 詠美さんに認められた高揚感が一気に引いて、心が冷たくなるのを感じた。

 改めて詠美さんの承認をもらったネームに目を通してみる。

 キャラクターは可愛いけれど、ただ可愛く転んでドジを踏む場面。無理やり笑わせるセリフ。描いていて、自分でも寒気がした。

 こういってはなんだけど、()()()()()()()()()()()()。けれど詠美さんは笑顔で『これでいい』と認めてくれる。その矛盾が、胸をさらに冷たく締めつけた。

 

 以前の私だったら、こんな話なんて発想すらしていなかっただろう。それが何の因果か、売れる同人誌を描くために、こんな本を描こうとしている。

 売れたいがために、描きたくないものを描くだなんて、そんなものに意味があるのだろうか? そんな考えを逡巡させる。

 

 ――きっと和樹さんは、この模写やネームを見ても、喜ばないだろうな。

 

 そういえば、和樹さんはどうだったのだろう?

 和樹さんは売れていたけど、描きたくないものを描いているような雰囲気ではなかった。

 多少売れるための工夫はしていたのかもしれないけど、詠美さんのようにリサーチして売れるジャンルを狙っている感じでもなかった。

 

 そこまで考えて、急に不安になる。

 売れるために描きたくないものを描いているが、描きたいものを描き続けて売れる道もあったのでは――?

 

 ――私は大きな選択ミスをしてしまったのではないか?

 

 そこまで考えて、ぶんぶんと頭を横に振る。

 すると首筋に急激な痛みが走った。気づけば肩はこわばり、背中は鉛のように重い。

 最近俯きがちに原稿ばかり描いているので、肩回りが痛くてしょうがない。その影響か、少し眩暈がしてきた。

 

「ん? どうしたの彩。そんなところで突っ立って」

「……いえ、なんでも……ありません……」

 

 詠美さんに気付かれないように、テーブルの前に座る。眩暈で視界がぐらつく。まるで自分の選んだ道そのものが、足場から崩れ落ちていくようだった。

 ダメだ。そんなことを考えては。これが、この方法が、最適な方法だったんだ――。

 そう、自分に言い聞かせ、少し肩をほぐして、また原稿作業に戻る。……けれどペンを握る手は、震えが止まらなかった。

 

 ---

 

「え……1月のこみパの手伝いですか?」

「そう、あたしのブースの手伝いをしてほしいの」

 

 いつものように、詠美さん宅で原稿作業をしていたところ、そんな話を聞かされた。

 

「知っていると思うけど、あたしのブース、すぐに完売しちゃうけど、その分売り子するの大変なのよね。今回は彩にも手伝ってほしいの」

 

 そう言われて、少し迷ってしまう。

 詠美さんのブースの手伝いをするのは、やぶさかではない。ただ問題は、あの会場には和樹さんがいる、ということだ。

 和樹さんには、詠美さんとユニットを組んだことを伝えてない。12月のこみパの申し込み以来、受験勉強だと嘘をついているところだから、会場で見つかるのは非常にまずい。

 遭遇率は低いだろうけど、可能性がないわけではない。どうしようかと考えていると、しびれを切らした詠美さんが声をかけてきた。

 

「なに? あたしの言うことは絶対服従よ。そこのところ、わかってるわよね?」

「……はい」

 

 詠美さんにちゃんと説明できればよかったけど、複雑な事情なので説明しづらい。

 元より、無理を言って教えてもらっている詠美さんのいうことだ。聞くしかなかった。

 

「……わかりました。お手伝いします」

「ん。じゃあこれサークル参加チケットね。私のブースはわかるでしょ? 朝8時に現地集合でお願い」

 

 会場でなんとか鉢合わせないよう、祈るしかない。

 

 ――この時の私は疲れていた。だから、詠美さんとユニットを組んだ時の懸念の1つを、すっかり忘れていた。

 




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