Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~ 作:拓田しろう
時間通りに
ここに来るまでも、和樹さんと会わないか心配していた。
幸い、詠美さんと和樹さんのブースの位置は真逆で、距離も相当離れているため、遭遇する確率は低かった。
とはいえ、ブースに向かうまでの道で会う可能性だってある。ユニットを組んでいたおかげで、大体和樹さんが何時頃に来るか、どういうルートを通るか予想できたので、避けるようにして来場した。
「彩、おはよ。今日はよろしくね。あたしのブースで売り子をして、売れ行きを見るだなんて、ちょー光栄なことなんだからっ!」
到着すると、いつものように自信満々な表情で語りかけてくる。
詠美さんのブースの周りには、売り子のために集められたスタッフが数名いる。規模を考えれば当然といえば当然だが、私ひとりじゃなかったのである。
ブースに置かれた段ボールを山を見る。部数を聞くと5000部だという。それを1冊1000円で売るのだ。売上金額を考えただけでも、すごい金額になることがわかる。
これをまだ高校生である女の子を売り切る、というのだから、とんでもない。改めて詠美さんの実力を目の当たりにした。
「さぁ! 開場までに準備しないとスムーズに売り切れないわよ。本の出し入れしやすいように配置して、釣り銭はこの袋の中にあるからよろしくね。4つあるから売り上げもその中に入れて。それから買った人に対しては先着順でこのシール渡してあげて。シールはここにまとめてあるから」
集まっているスタッフは、みんな慣れているようで、手際よく本を配置して準備をしていく。
詠美さんもテキパキと指示をしていて、段取りよく物事を進めている。
私といえば、他の人と違ってどう動いていいかわからずに困惑していた。一般サークルと壁サークルの準備の仕方は全く違う。まるで要領を掴めておらず、なにをしていいかわからなかったところ、詠美さんから他のスタッフとは別の指示を下される。
「彩、あと少しでスタッフの人が見本誌確認しにくるから対応してくれる? 売り子はあの人たちに任せてしまえばいいから、なにか困ったことがあったら状況に応じてヘルプしてあげて」
詠美さんの的確な指示に、惚れ惚れする。同人誌指導の時は抽象的な指摘が多かったけど、具体的な指示を下す姿を見て、思わず「すごいな」と声が漏れる。
「なによ、彩?」
「……いえ、指示が上手だな、と思って……」
「とーぜんでしょ! どんだけ壁サークルやってると思ってんの? 参加者ってスムーズに売らないと他の列に行っちゃうんだから。準備って大事なの」
普段から傲慢な発言が多い詠美さんからは、想像しがたい言葉だった。なるほど。こみパの女王は、こういったところもしっかり気を付けているのか。
こみパスタッフが訪ねてくる声が聞こえて、見本誌用の新刊を持っていく。そして、南さんと鉢合わせることになった。
「おはようございます。見本誌チェックをしますね……え、彩、ちゃん?」
「あ……」
お互い、凝視する。
和樹さんに遭遇することばかり気にして、他の知り合いと会う可能性を、すっかり忘れていた。
南さんは目を見開いたまま、言葉を失ったように固まっていた。咄嗟のことでどうしてよいかわからず、私は目を逸らしてしまう。
「え、え? 彩ちゃん、どうしてここに? ここ詠美ちゃんのブースよね?」
「……あの、見本誌チェック、お願いします……」
両手で詠美さんの新刊を差し出す。
南さんは訝しげに私を見ながらも、スタッフとしての仕事をこなした。
「はい、結構です。ねぇ彩ちゃん、どうして詠美ちゃんのところにいるの? 和樹さんとは――」
「……あの、すみません……!」
そう言って頭を下げ、逃げるようにその場を後にした。
――どうしよう……。どうしようどうしようどうしよう……!
胸の中で鐘が乱打されるように、思考がちぎれちぎれになっていく。
なんてバカなんだ。南さんや由宇さんたちと遭遇する可能性だってあったのに、すっぽりとその可能性だけ抜け落ちていた。
なんでそんな簡単なことにすら気が付かなかったんだろう? 疲れ? ストレス? 大丈夫だと思った? いや、そもそもそんなことどうだっていい! 絶対に
焦りで考えがまとまらない。今から南さんのところに行って事情を話そうか?
いやでも、追いかけたら追いかけたで、更に他の知り合いに遭遇するリスクが高まる。それに詠美さんとユニットを組んでいることはどう言えばいい?
都合のいい嘘をつける自信はない。それに向こうだって仕事中だ。ゆっくり説明する時間なんてある訳ない。
「彩! 一度こっちに来て、これからのことミーティングするから!」
詠美さんの言葉にハッとなる。
そうだ。とりあえず、今は詠美さんの手伝いに集中しないと。
詠美さんの呼ばれた場所に集まり、今日の動きについて説明があった。しかし、内容の半分も入ってこない。
――和樹さんに伝わるかもしれない。
手足が震え、頭いっぱいになる。余計なことなんて考えられない。
祈るような気持ちになりながら、開場の時間を迎えた。
最後まで読んでくれてありがとう。
彩の物語を最後まで楽しんでみてね☆
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