Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~ 作:拓田しろう
開場と同時に、参加者はまっすぐ詠美さんのブースになだれ込み、一気に長蛇の列が並んだ。
売り子さんたちは慣れた手つきで会計を済ませて同人誌を売り、参加者もスムーズに支払内を済ませては、他の列に向かった。
私も机の上の同人誌がなくなると、補充のため段ボールから取り出して、売り子の人に手渡す。
幸いなことに、忙しすぎて先ほどの件を悩む暇がなかった。
売り子に指示されたことを的確にこなして、とにかく列を
これがこみパ一番人気と言われるサークルの売れ行き。チラッと詠美さんを見ると、応援の声をかけてくれる人に笑顔で応対している。
――本当に、すごい人なんだな。
いつもは辛辣な指導ばかり受けているので、たまに疑ってみたくなるが、この状態を目の当たりにすると、まるで文句が出てこない。
やはりすごい人に師事しているんだな、と改めて感じた。
ほぼノンストップで接客すること3時間弱。最後の1冊の同人誌を参加者に売ると、完売して拍手が巻き起こった。
この場だけこみパが終了したよう。周りのサークルもこのことに気付いて拍手を送ってくれるのが見えた。
売り子さんたちといえば、疲労困憊といった顔つきで机から離れて、水分補給していた。満足に飲み物も飲めなかったんだ。当然だろう。
私も疲れていたが、まずは詠美さんに声をかけておきたくて、近寄っていった。
「……詠美さん、お疲れ様です」
「あ、彩! 手伝ってくれてありがとう」
「すごい、午前中の内に完売してしまいましたね」
「とーぜんよ! あたし、こみパの女王だもん。今日は部数が多かった分、ちょっと時間がかかったくらいなんだからっ!」
「あら、相変わらずすごい売れ行きね。でも中身の方はどうなのかしら?」
不意に背後から落ち着いた声が響いた。
振り向くと、スーツ姿に身を包んだ女性が立っていた。鋭い眼差しと隙のない立ち居振る舞いからして、ただ者ではないことが一目でわかる。
「
詠美さんがわずかに眉をひそめて、その女性を呼んだ。
「こんにちは、大庭さん。私にも今日の新刊、見せてくれるかしら?」
「ふん、どうぞ。こちらが新刊になります」
つっけんどんな態度で、詠美さんは見本誌を手渡した。
女性は「拝見します」と短く告げ、静かにページをめくり始めた。
「ふん、どう? 澤ちゃん。前よりも更に良くなったでしょ? そろそろあたしの実力を認めてもいいんじゃない?」
「……そうね、
「ふふふっ、でしょでしょ?」
「でも――内容は相変わらずお粗末ね。読者の声に応えようとする姿勢は評価できるけれど、あなた自身の〝描きたいもの〟がまるで見えてこない。もっと真剣に、自分の物語に向き合いなさい。そう前にも忠告したはずよ」
「……ッ! な、なんですって」
その言葉が胸を突いた。まるで自分に言われているみたいだ。
詠美さんに師事してから描いているネーム。売れるために、描きたくもない話を積み重ねてきた自分。
澤田の批判は、今の自分の姿そのものなような気がして、胸が苦しくなった。
「確かに画力は抜きん出ているし、構成も破綻はない。でも、それだけ。このままでは連載を任されてもすぐに打ち切りよ。大庭さん――あなたは〝売れる同人作家〟で満足するの? それとも〝マンガ家〟を目指すの?」
本をパタンと閉じると、新刊を詠美さんに返し、澤田さんは「それでは失礼」とだけ言い残して歩き去った。
詠美さんは俯いたまま、悔しさに唇をかみしめている。とても声をかけられる雰囲気ではなく、沈黙に耐えかねていたところで、ようやく口を開いた。
「……彩、後片付けしましょ」
「……あ、はい」
そう言うと詠美さんは早歩きでブースに戻って片づけを開始した。
売り子で頑張ってくれたスタッフにお礼を伝え、その場は解散することになった。
『完売しました』の張り紙を机に貼って、椅子を片付けると、私たちの荷物をまとめて、その場を後にしようとする。
「彩、ついてきてくれる?」
「……はい。あの、詠美さん」
「あによ」
「さっきの人は、その、どういった方なんですか?」
「……コミックZの編集長の澤田さん。マンガ家をスカウトしたりしてるの」
「……スカウト?」
「そう、あたし前からプロにならないか、って声をかけられてるの。それで自作のマンガを持ってあの人に見てもらったんだけど、すごい酷評もらって、それ以来、たまに見に来てはいつもああなの」
「いつも……ですか」
「そう。もうやんなっちゃう。あたしはこみパの女王だし、売れ行きだってトップなのに。でもあの人はいつもそれじゃダメだ、って言われるの。もー意味わかんない」
詠美さんは顔を合わせてくれない。おそらく、悔しくて私の方を見たくないんだろう。
歩きながら詠美さんの愚痴を聞いた。「澤ちゃんの指摘はわかりづらい」とか「どういったものを描いてほしいかわからない」とか、いろいろ思うところが多いようだ。
そのまま、以前詠美さんと会った通路に向かうと――。
「おーい、こんなところで何しとるんや詠美? ちょっとツラ貸しや?」
――待ち構えていた由宇さんと南さんの姿があった。
最後まで読んでくれてありがとう。
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