Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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45話 澤田編集長の来訪

 

 開場と同時に、参加者はまっすぐ詠美さんのブースになだれ込み、一気に長蛇の列が並んだ。

 売り子さんたちは慣れた手つきで会計を済ませて同人誌を売り、参加者もスムーズに支払内を済ませては、他の列に向かった。

 私も机の上の同人誌がなくなると、補充のため段ボールから取り出して、売り子の人に手渡す。

 

 幸いなことに、忙しすぎて先ほどの件を悩む暇がなかった。

 売り子に指示されたことを的確にこなして、とにかく列を(さば)いた。

 これがこみパ一番人気と言われるサークルの売れ行き。チラッと詠美さんを見ると、応援の声をかけてくれる人に笑顔で応対している。

 

 ――本当に、すごい人なんだな。

 

 いつもは辛辣な指導ばかり受けているので、たまに疑ってみたくなるが、この状態を目の当たりにすると、まるで文句が出てこない。

 やはりすごい人に師事しているんだな、と改めて感じた。

 

 ほぼノンストップで接客すること3時間弱。最後の1冊の同人誌を参加者に売ると、完売して拍手が巻き起こった。

 この場だけこみパが終了したよう。周りのサークルもこのことに気付いて拍手を送ってくれるのが見えた。

 売り子さんたちといえば、疲労困憊といった顔つきで机から離れて、水分補給していた。満足に飲み物も飲めなかったんだ。当然だろう。

 私も疲れていたが、まずは詠美さんに声をかけておきたくて、近寄っていった。

 

「……詠美さん、お疲れ様です」

「あ、彩! 手伝ってくれてありがとう」

「すごい、午前中の内に完売してしまいましたね」

「とーぜんよ! あたし、こみパの女王だもん。今日は部数が多かった分、ちょっと時間がかかったくらいなんだからっ!」

 

「あら、相変わらずすごい売れ行きね。でも中身の方はどうなのかしら?」

 

 不意に背後から落ち着いた声が響いた。

 振り向くと、スーツ姿に身を包んだ女性が立っていた。鋭い眼差しと隙のない立ち居振る舞いからして、ただ者ではないことが一目でわかる。

 

(さわ)ちゃん」

 

 詠美さんがわずかに眉をひそめて、その女性を呼んだ。

 

「こんにちは、大庭さん。私にも今日の新刊、見せてくれるかしら?」

「ふん、どうぞ。こちらが新刊になります」

 

 つっけんどんな態度で、詠美さんは見本誌を手渡した。

 女性は「拝見します」と短く告げ、静かにページをめくり始めた。

 

「ふん、どう? 澤ちゃん。前よりも更に良くなったでしょ? そろそろあたしの実力を認めてもいいんじゃない?」

「……そうね、()()()()前よりも確かに洗練されてきたわ」

「ふふふっ、でしょでしょ?」

「でも――内容は相変わらずお粗末ね。読者の声に応えようとする姿勢は評価できるけれど、あなた自身の〝描きたいもの〟がまるで見えてこない。もっと真剣に、自分の物語に向き合いなさい。そう前にも忠告したはずよ」

「……ッ! な、なんですって」

 

 その言葉が胸を突いた。まるで自分に言われているみたいだ。

 詠美さんに師事してから描いているネーム。売れるために、描きたくもない話を積み重ねてきた自分。

 澤田の批判は、今の自分の姿そのものなような気がして、胸が苦しくなった。

 

「確かに画力は抜きん出ているし、構成も破綻はない。でも、それだけ。このままでは連載を任されてもすぐに打ち切りよ。大庭さん――あなたは〝売れる同人作家〟で満足するの? それとも〝マンガ家〟を目指すの?」

 

 本をパタンと閉じると、新刊を詠美さんに返し、澤田さんは「それでは失礼」とだけ言い残して歩き去った。

 詠美さんは俯いたまま、悔しさに唇をかみしめている。とても声をかけられる雰囲気ではなく、沈黙に耐えかねていたところで、ようやく口を開いた。

 

「……彩、後片付けしましょ」

「……あ、はい」

 

 そう言うと詠美さんは早歩きでブースに戻って片づけを開始した。

 売り子で頑張ってくれたスタッフにお礼を伝え、その場は解散することになった。

 『完売しました』の張り紙を机に貼って、椅子を片付けると、私たちの荷物をまとめて、その場を後にしようとする。

 

「彩、ついてきてくれる?」

「……はい。あの、詠美さん」

「あによ」

「さっきの人は、その、どういった方なんですか?」

「……コミックZの編集長の澤田さん。マンガ家をスカウトしたりしてるの」

「……スカウト?」

「そう、あたし前からプロにならないか、って声をかけられてるの。それで自作のマンガを持ってあの人に見てもらったんだけど、すごい酷評もらって、それ以来、たまに見に来てはいつもああなの」

「いつも……ですか」

「そう。もうやんなっちゃう。あたしはこみパの女王だし、売れ行きだってトップなのに。でもあの人はいつもそれじゃダメだ、って言われるの。もー意味わかんない」

 

 詠美さんは顔を合わせてくれない。おそらく、悔しくて私の方を見たくないんだろう。

 歩きながら詠美さんの愚痴を聞いた。「澤ちゃんの指摘はわかりづらい」とか「どういったものを描いてほしいかわからない」とか、いろいろ思うところが多いようだ。

 

 そのまま、以前詠美さんと会った通路に向かうと――。

 

「おーい、こんなところで何しとるんや詠美? ちょっとツラ貸しや?」

 

 ――待ち構えていた由宇さんと南さんの姿があった。

 




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