Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~ 作:拓田しろう
チクッ、タクッ、チクッ、タクッ――。
静かな部屋に、時計の秒針を刻む音だけが響いてる。
時刻は既に午後8時。いつもだったらそろそろ原稿を切り上げて帰宅している時間だが、まだ終わらせる気配はなかった。
チクッ、タクッ、チクッ、タクッ、チクッ、タクッ――。
軽快に滑らせるペンとは対照的に、私の心は荒れていた。描き殴るように原稿を仕上げては、次の作業に取り掛かる。
作業に取り掛かってから、既に5時間が経過しているが、それでも手を止められなかった。
時折、詠美さんが不安そうな顔を浮かべながら、私を見てくる。それに対してなんのお構いなしに作業を続けていた。
「……ねぇ、彩? そろそろ……」
「………………」
原稿用紙にペン先を滑らせ、無言のまま応対する。
作業を続けていると、原稿に水滴が落ちる。インクが滲んで線がボヤける。
ティッシュで抑えるように水滴を吸い取るが、次から次へと水滴が垂れて、無惨な染みを広げていった。
「……ッ! 彩! どうしたの!?」
甲高い声色に反応して、顔を上げる。
――あれ、詠美さんの顔が、ボヤけて……?
手で頬を撫でると、自分が泣いていることに気が付く。それがわかった途端、胸の奥からナニかが溢れてきて、涙が止まらなくなった。
声を上げて泣きじゃくる。詠美さんが駆けつけてきて、肩を抱いてくれる。
両手で顔を覆い、しばらくの間、詠美さんに抱かれながら泣き続けた。
---
『彩、今夜はウチに泊まっていきなさい』
詠美さんからそう言われたのは、泣き止んで少し経ってからだった。
そう言うと詠美さんは『両親に話してくる』と言って部屋を後にし、すぐに戻ってくると『一緒にお風呂入ろう』と言って、着替えとタオルを渡してくれた。
しかし、そう言われてもこれ以上迷惑をかける訳にはいかない。まだ全然帰れる時間帯なので帰宅する旨を伝えると。
『ほら、あたしの言うことは絶対服従って言ったでしょ?』
と言って、電話を渡されて親に泊まってくることを伝えるように促された。
絶対服従の件は、原稿だけでなく私生活にも及ぶものなのか。そうなるとこれからの生活も心配になるけど、そんな会話が許される状況じゃなかった。
素直に母親に外泊してくることを電話し、促されるまま詠美さんに連れられてお風呂に向かった。
「デッ……! 彩って着痩せする方なのね……」
「……え」
脱衣所で洋服を脱いでいると、詠美さんがまじまじと私の胸を見つめてくる。
それに気づいて、顔を赤らめ、タオルで隠そうとするが詠美さんに止められた。
「もー! 銭湯じゃないんだからそんなんで隠さないの! さぁ早くお風呂に入りましょ」
そう言って2人で浴室に入っていった。
先にシャワーで体を洗わせてもらう。湯船に浸かると体が温まるのと同時に、気持ちが落ち着いていくのを感じた。
「彩って髪長いわよね? しかも綺麗にしてるし、なにか手入れしてるの?」
「……お母さんが、美容にうるさい人で……トリートメントとかは普段から使ってます」
「へぇ、お母さんが教えてくれるのね。あたし長いと手入れが大変だし、夏場だと暑くて鬱陶しくなっちゃうのよね」
「私も……実は短くしたいんです。ただ、お母さんが『髪は女の命なの!』って言って、切るのを反対してくるんです」
「え、それで長いままなの?」
詠美さんはあれこれといろいろと話しかけてきてくれた。
2人で背中合わせになりながら湯船に浸かる。背中から詠美さんの体温が伝わってきて、ポカポカと温かくなった。
「……あったかいね、彩」
「……はい」
「お母さんが言ってたの。お風呂は心の洗濯なんだって。だから気持ちが荒れた時は、お風呂に入れば楽になるって」
「……っ」
詠美さんの気遣いが心に染みた。小さく鼻をすすりながら、また涙を流した。
お風呂から出ると、詠美さんのお母さんが夕飯を準備してくれていた。
「詠美が友達を泊まらせるなんて初めてなの。お口に合えばいいんだけど……」
そう言われてしまうと、なんだか恐縮してしまう。私の表情を察してか、詠美さんのお母さんは「遠慮しないでね」と優しく声をかけてくれた。
食器の後片付けくらいは手伝おうと声をかけると。
「あら、彩さんは気が利くのね。でも大丈夫よ。あたしの方でやっておくから詠美と部屋に戻ってね。お父さんが彩さんの分の布団を敷いてくれてるから、今日はそこで寝てね」
そういえばお父さんの姿を見かけないと思ったら、裏で布団を敷いてくれていたらしい。
何から何までお世話になりっぱなしで申し訳なかったが、素直に好意に甘えた。
部屋に戻ると、詠美さんのベッドの横に布団が敷かれていた。
腰を降ろすと、どっと疲れが押し寄せてきた。
「彩、少しは落ち着いた?」
「……はい、あの……ありがとうございます」
「いいの。それより今日は驚いちゃった。彩もあんな風に大きな声出したりするのね」
「……すみません」
「あ、ごめん。気にしてた?」
「……いえ、その、いろいろお手間かけてしまったから……」
「うん。彩の姿もそうだけど、由宇のあんなこと言うのも初めてだったから……」
そういうと、詠美さんは暗い顔をして俯いてしまった。
2人はケンカこそするが、なんだかんだで仲はいいのだと思う。それが、あんなことを言われて詠美さんだってショックだっただろう。
しかも、今回のことだけ考えれば、詠美さんはなにも悪くない。私が詠美さんにお願いして、引き受けたら誤解されたのだから。
その上、私が感情的になったばかりに、仲を決裂させてしまったのだ。どう考えても、悪いのは私だろう。
「ねぇ、彩がマンガを描いてあげたい人って誰なの?」
「……え?」
「ほら、言ってたじゃない。『とっくの昔にいなくなっちゃった』って。どういうことなのかって思ってさ」
そう言われて、俯いてしまう。
いろいろ我慢できなかったとはいえ、そんなことまで口走ってしまったのか。
由宇さんには、本当に悪いことをしたように思う。
「あ、ほら、イヤならいいんだけど」
「いえ……大丈夫です。その……」
少し口を結ぶ。一呼吸おいて、理由を口にする。
「……私の、お父さんです……」
最後まで読んでくれてありがとう。
彩の物語を最後まで楽しんでみてね☆
感想・評価・お気に入り ぜひよろしくお願いいたします。