Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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47話 溢れ出す思い

 

 チクッ、タクッ、チクッ、タクッ――。

 

 静かな部屋に、時計の秒針を刻む音だけが響いてる。

 時刻は既に午後8時。いつもだったらそろそろ原稿を切り上げて帰宅している時間だが、まだ終わらせる気配はなかった。

 

 チクッ、タクッ、チクッ、タクッ、チクッ、タクッ――。

 

 軽快に滑らせるペンとは対照的に、私の心は荒れていた。描き殴るように原稿を仕上げては、次の作業に取り掛かる。

 作業に取り掛かってから、既に5時間が経過しているが、それでも手を止められなかった。

 時折、詠美さんが不安そうな顔を浮かべながら、私を見てくる。それに対してなんのお構いなしに作業を続けていた。

 

「……ねぇ、彩? そろそろ……」

「………………」

 

 原稿用紙にペン先を滑らせ、無言のまま応対する。

 作業を続けていると、原稿に水滴が落ちる。インクが滲んで線がボヤける。

 ティッシュで抑えるように水滴を吸い取るが、次から次へと水滴が垂れて、無惨な染みを広げていった。

 

「……ッ! 彩! どうしたの!?」

 

 甲高い声色に反応して、顔を上げる。

 

 ――あれ、詠美さんの顔が、ボヤけて……?

 

 手で頬を撫でると、自分が泣いていることに気が付く。それがわかった途端、胸の奥からナニかが溢れてきて、涙が止まらなくなった。

 声を上げて泣きじゃくる。詠美さんが駆けつけてきて、肩を抱いてくれる。

 両手で顔を覆い、しばらくの間、詠美さんに抱かれながら泣き続けた。

 

 ---

 

『彩、今夜はウチに泊まっていきなさい』

 

 詠美さんからそう言われたのは、泣き止んで少し経ってからだった。

 そう言うと詠美さんは『両親に話してくる』と言って部屋を後にし、すぐに戻ってくると『一緒にお風呂入ろう』と言って、着替えとタオルを渡してくれた。

 しかし、そう言われてもこれ以上迷惑をかける訳にはいかない。まだ全然帰れる時間帯なので帰宅する旨を伝えると。

 

『ほら、あたしの言うことは絶対服従って言ったでしょ?』

 

 と言って、電話を渡されて親に泊まってくることを伝えるように促された。

 絶対服従の件は、原稿だけでなく私生活にも及ぶものなのか。そうなるとこれからの生活も心配になるけど、そんな会話が許される状況じゃなかった。

 素直に母親に外泊してくることを電話し、促されるまま詠美さんに連れられてお風呂に向かった。

 

「デッ……! 彩って着痩せする方なのね……」

「……え」

 

 脱衣所で洋服を脱いでいると、詠美さんがまじまじと私の胸を見つめてくる。

 それに気づいて、顔を赤らめ、タオルで隠そうとするが詠美さんに止められた。

 

「もー! 銭湯じゃないんだからそんなんで隠さないの! さぁ早くお風呂に入りましょ」

 

 そう言って2人で浴室に入っていった。

 先にシャワーで体を洗わせてもらう。湯船に浸かると体が温まるのと同時に、気持ちが落ち着いていくのを感じた。

 

「彩って髪長いわよね? しかも綺麗にしてるし、なにか手入れしてるの?」

「……お母さんが、美容にうるさい人で……トリートメントとかは普段から使ってます」

「へぇ、お母さんが教えてくれるのね。あたし長いと手入れが大変だし、夏場だと暑くて鬱陶しくなっちゃうのよね」

「私も……実は短くしたいんです。ただ、お母さんが『髪は女の命なの!』って言って、切るのを反対してくるんです」

「え、それで長いままなの?」

 

 詠美さんはあれこれといろいろと話しかけてきてくれた。

 2人で背中合わせになりながら湯船に浸かる。背中から詠美さんの体温が伝わってきて、ポカポカと温かくなった。

 

「……あったかいね、彩」

「……はい」

「お母さんが言ってたの。お風呂は心の洗濯なんだって。だから気持ちが荒れた時は、お風呂に入れば楽になるって」

「……っ」

 

 詠美さんの気遣いが心に染みた。小さく鼻をすすりながら、また涙を流した。

 お風呂から出ると、詠美さんのお母さんが夕飯を準備してくれていた。

 

「詠美が友達を泊まらせるなんて初めてなの。お口に合えばいいんだけど……」

 

 そう言われてしまうと、なんだか恐縮してしまう。私の表情を察してか、詠美さんのお母さんは「遠慮しないでね」と優しく声をかけてくれた。

 食器の後片付けくらいは手伝おうと声をかけると。

 

「あら、彩さんは気が利くのね。でも大丈夫よ。あたしの方でやっておくから詠美と部屋に戻ってね。お父さんが彩さんの分の布団を敷いてくれてるから、今日はそこで寝てね」

 

 そういえばお父さんの姿を見かけないと思ったら、裏で布団を敷いてくれていたらしい。

 何から何までお世話になりっぱなしで申し訳なかったが、素直に好意に甘えた。

 

 部屋に戻ると、詠美さんのベッドの横に布団が敷かれていた。

 腰を降ろすと、どっと疲れが押し寄せてきた。

 

「彩、少しは落ち着いた?」

「……はい、あの……ありがとうございます」

「いいの。それより今日は驚いちゃった。彩もあんな風に大きな声出したりするのね」

「……すみません」

「あ、ごめん。気にしてた?」

「……いえ、その、いろいろお手間かけてしまったから……」

「うん。彩の姿もそうだけど、由宇のあんなこと言うのも初めてだったから……」

 

 そういうと、詠美さんは暗い顔をして俯いてしまった。

 2人はケンカこそするが、なんだかんだで仲はいいのだと思う。それが、あんなことを言われて詠美さんだってショックだっただろう。

 しかも、今回のことだけ考えれば、詠美さんはなにも悪くない。私が詠美さんにお願いして、引き受けたら誤解されたのだから。

 その上、私が感情的になったばかりに、仲を決裂させてしまったのだ。どう考えても、悪いのは私だろう。

 

「ねぇ、彩がマンガを描いてあげたい人って誰なの?」

「……え?」

「ほら、言ってたじゃない。『とっくの昔にいなくなっちゃった』って。どういうことなのかって思ってさ」

 

 そう言われて、俯いてしまう。

 いろいろ我慢できなかったとはいえ、そんなことまで口走ってしまったのか。

 由宇さんには、本当に悪いことをしたように思う。

 

「あ、ほら、イヤならいいんだけど」

「いえ……大丈夫です。その……」

 

 少し口を結ぶ。一呼吸おいて、理由を口にする。

 

「……私の、お父さんです……」

 




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