Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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48話 お父さんの記憶

 

 私が初めてマンガを描いたのは、入院したお父さんを喜ばせるためでした。

 小学4年の夏――父は病に倒れ、やがて帰らぬ人となりました。

 病気になった父は日に日に弱っていって、最初はベッドの上で笑って話してくれていたのに、やがて声も小さくなり、寝ている時間が増えていきました。

 

 子供だった私には、なぜ父が弱っていくか、寝ている時間が増えていったのかがわかりませんでした。

 ある日、母に『どうしてお父さんはずっと元気がないの?』と聞いたら『お父さん、きっと退屈してるんじゃない?』と言ったんです。

 子供心、それだったら面白いことがあれば、きっと父も元気になるよね、ってそう思ったんです。

 

 どうすれば父を元気づけられるのか。わからないなりに一生懸命考えて……それで、父がマンガ好きだったので、ノートに絵を描いて、持って行ったんです。

 当時大好きだったアニメのキャラクター。ぎこちない線で、不格好な吹き出しを描いて、父に見せました。

 そしたら元気がなかった父は、すごくよく笑って、褒めてくれたんです。

 

『すごいじゃないか彩! 自分で考えて描いたのかい?』

『うんっ! 彩ね! お父さんのためにいっしょーけんめーかんがえて描いたんだよ』

『そうかそうか。それはすごいなぁ。彩、とっても上手だよ』

 

 病気で伏せていて、元気なかった父が喜んでくれた瞬間でした。

 

 ――その一言が嬉しくて、夢中で続きを描きました。

 

 いつもは元気がないけど、マンガを描いて持って行くと、たくさん笑ってくれたんです。

 こうやって毎日描いていれば、父の病気もきっとよくなる。あの時は本気でそう思っていました。

 

 父が好きだった、私でも読めそうなマンガに目を通して、どういう物語が好きなのか考えました。

 コマ割りや吹き出しを似せてみたり、別々のマンガのセリフをつなぎ合わせて話を作ってみたり、父が喜ぶんじゃないかと思った方法はなんでもやってみました。そして、父はその度に喜んでくれました。

 

『おお! こりゃすごい! あの作品のセリフと同じじゃないか』

『うん、わかってくれた? 彩ね、お父さんのマンガ読んでみて、好きそうなのかんがえて描いたんだよ』

『すごいじゃないか! あれ大人が読むタイプのマンガだぞ。あれを読んだのか?』

『うん! 難しい漢字とかあってわからない時もあったけど、なんとなくぜんたいかんはつかんだよ』

『はは! 彩はそういう才能があるんだなぁ。しっかり伸ばして、世の中の人たちを笑顔にするんだよ?』

『……ねぇ、お父さん。いつになったらおうちに帰ってくるの?』

『あともう少しだよ。元気になったら帰るからね。そしたらたくさん一緒に遊ぼう』

『うん……お父さん、大好き』

『ああ、お父さんも、彩が大好きだ――』

 

 けれどそれから間もなく、容態が急変して、父は帰らぬ人になってしまいました。

 夏休みに入ってすぐのことでした。

 蝉の鳴き声がやけにうるさくて、夏の日差しで頭がボーっとしていて、遠くを見ると蜃気楼で景色が歪んで、現実味がなかったのをよく覚えてます。

 続きのマンガを描いたノートを持ったまま、亡き父の遺体を目の前にして、私は絶望していました。

 まだ夏休みは始まったばかりだというのに――あまりにも残酷な夏でした。

 

 父のことを忘れられなかった私は、それからもずっと描き続けていました。

 あの時みたいに、父に笑ってほしくて、喜んでほしくて、褒めてほしくて――。

 そんなことをしたって、父のことを忘れられるわけでも、ましてや父が帰ってくることもない。それはわかっていました。

 

 けれど、あの時父に褒めてもらった瞬間の嬉しさが、私をマンガに縛りつけ続けました。

 描き続けることで父と繋がっていたい――そんな切なさだけが、手を動かす理由でした。

 もう喜んでくれる人はいない。それでも空っぽのまま、私は描くことをやめられなかったんです。

 

 そんな私を見かねて、中学2年生の頃、母が『こみパで出店してみたら』と背中を押してくれました。

 それから毎月新刊を描くようになったけれど……私はずっと変わらないまま。

 父が面白いんじゃないかと思う話を、ただただ描き続けていただけなんです。

 

 誰かに向けて描いていたわけでもない。

 情熱なんてあるはずもない。

 誰からも感想ももらえないまま、5年間ずっと描いてきて――和樹さんと出会ったんです。

 




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