Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~ 作:拓田しろう
私が初めてマンガを描いたのは、入院したお父さんを喜ばせるためでした。
小学4年の夏――父は病に倒れ、やがて帰らぬ人となりました。
病気になった父は日に日に弱っていって、最初はベッドの上で笑って話してくれていたのに、やがて声も小さくなり、寝ている時間が増えていきました。
子供だった私には、なぜ父が弱っていくか、寝ている時間が増えていったのかがわかりませんでした。
ある日、母に『どうしてお父さんはずっと元気がないの?』と聞いたら『お父さん、きっと退屈してるんじゃない?』と言ったんです。
子供心、それだったら面白いことがあれば、きっと父も元気になるよね、ってそう思ったんです。
どうすれば父を元気づけられるのか。わからないなりに一生懸命考えて……それで、父がマンガ好きだったので、ノートに絵を描いて、持って行ったんです。
当時大好きだったアニメのキャラクター。ぎこちない線で、不格好な吹き出しを描いて、父に見せました。
そしたら元気がなかった父は、すごくよく笑って、褒めてくれたんです。
『すごいじゃないか彩! 自分で考えて描いたのかい?』
『うんっ! 彩ね! お父さんのためにいっしょーけんめーかんがえて描いたんだよ』
『そうかそうか。それはすごいなぁ。彩、とっても上手だよ』
病気で伏せていて、元気なかった父が喜んでくれた瞬間でした。
――その一言が嬉しくて、夢中で続きを描きました。
いつもは元気がないけど、マンガを描いて持って行くと、たくさん笑ってくれたんです。
こうやって毎日描いていれば、父の病気もきっとよくなる。あの時は本気でそう思っていました。
父が好きだった、私でも読めそうなマンガに目を通して、どういう物語が好きなのか考えました。
コマ割りや吹き出しを似せてみたり、別々のマンガのセリフをつなぎ合わせて話を作ってみたり、父が喜ぶんじゃないかと思った方法はなんでもやってみました。そして、父はその度に喜んでくれました。
『おお! こりゃすごい! あの作品のセリフと同じじゃないか』
『うん、わかってくれた? 彩ね、お父さんのマンガ読んでみて、好きそうなのかんがえて描いたんだよ』
『すごいじゃないか! あれ大人が読むタイプのマンガだぞ。あれを読んだのか?』
『うん! 難しい漢字とかあってわからない時もあったけど、なんとなくぜんたいかんはつかんだよ』
『はは! 彩はそういう才能があるんだなぁ。しっかり伸ばして、世の中の人たちを笑顔にするんだよ?』
『……ねぇ、お父さん。いつになったらおうちに帰ってくるの?』
『あともう少しだよ。元気になったら帰るからね。そしたらたくさん一緒に遊ぼう』
『うん……お父さん、大好き』
『ああ、お父さんも、彩が大好きだ――』
けれどそれから間もなく、容態が急変して、父は帰らぬ人になってしまいました。
夏休みに入ってすぐのことでした。
蝉の鳴き声がやけにうるさくて、夏の日差しで頭がボーっとしていて、遠くを見ると蜃気楼で景色が歪んで、現実味がなかったのをよく覚えてます。
続きのマンガを描いたノートを持ったまま、亡き父の遺体を目の前にして、私は絶望していました。
まだ夏休みは始まったばかりだというのに――あまりにも残酷な夏でした。
父のことを忘れられなかった私は、それからもずっと描き続けていました。
あの時みたいに、父に笑ってほしくて、喜んでほしくて、褒めてほしくて――。
そんなことをしたって、父のことを忘れられるわけでも、ましてや父が帰ってくることもない。それはわかっていました。
けれど、あの時父に褒めてもらった瞬間の嬉しさが、私をマンガに縛りつけ続けました。
描き続けることで父と繋がっていたい――そんな切なさだけが、手を動かす理由でした。
もう喜んでくれる人はいない。それでも空っぽのまま、私は描くことをやめられなかったんです。
そんな私を見かねて、中学2年生の頃、母が『こみパで出店してみたら』と背中を押してくれました。
それから毎月新刊を描くようになったけれど……私はずっと変わらないまま。
父が面白いんじゃないかと思う話を、ただただ描き続けていただけなんです。
誰かに向けて描いていたわけでもない。
情熱なんてあるはずもない。
誰からも感想ももらえないまま、5年間ずっと描いてきて――和樹さんと出会ったんです。
最後まで読んでくれてありがとう。
彩の物語を最後まで楽しんでみてね☆
感想・評価・お気に入り ぜひよろしくお願いいたします。