Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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49話 友達を得た日

 

「え、出会ったって、まさか彩と和樹(あいつ)の関係って……?」

「……はい、恋人同士です」

「えーっ! そ、そそそ、そういう関係だったの!?」

 

 よっぽど意外だったようで、ベッドに倒れこみながら天井を仰ぐ。

 顔を紅潮させ、落ち着きがない。どうやら色恋沙汰の話に免疫がないようだ。

 

「和樹さんとの出会いは偶然でした。さすがの私も、父が亡くなった当時のような心境で描き続けていたわけではないです。ただ長年描き続けていると、自分のマンガってどうなんだろうって、気になってきたんです。誰かに読んでほしい、感想がほしいって」

「……うん」

「でも売れなくて、もうやめてしまおうかなって思っていたところ、隣のブースにいた和樹さんが読んで感想をくれたんです」

「そうだったんだ」

「それが、本当に嬉しかったんです。和樹さんは私がこだわった細かい点にも気が付いてくれて、たくさん感想をくれました。それがすごい楽しくて。それから毎月のようにお互いの同人誌の感想を言い合ったんです。少しずつ交流していく内に仲良くなって、ユニットに誘われたんです」

「それでそれで、2人はいつ恋人関係になったの?」

「……秋頃に、紅葉を見に行こうって公園に言ったんです。その時に、その……」

「え、なになにっ!」

 

 詠美さんは、いつの間にかに起き上がっている。目をキラキラさせて私の目を凝視してきた。

 

「……キスをして……」

「きゃーーーっ! 初めてを外でしたの!? だいたんー!」

「ちょ、ちょっと、詠美さん!」

「あー、ごめんごめん。つい興奮しちゃって」

 

 頭をポリポリと搔きながら、笑って応対してきた。

 先ほどから興味津々といった感じでにやけ続けている。

 こみパの女王、なんて言われているけど、中身はやはり私と同じ女子高生なようだ。

 

「それから付き合うようになったんです。でもお互い原稿やってて忙しいし、いつも会っているから。時々遊びにも行きましたけど、それだけですよ」

「へぇ~、そうなんだ」

「……でも、うまくいかなくって……。和樹さんは一気に人気が出て大手サークルになってしまって。それに隣同士でやってるだけで、比較されたり、冷たい視線を浴びせられたりして。和樹さんも、私の売り上げを聞くとすごい落胆した顔をして……」

「……」

「和樹さんの友達から、言われたんです。『私じゃ足を引っ張る』って。売れてない自覚あったから、いつか和樹さんに迷惑かけるだろうって思ってたの。和樹さんは大丈夫って言ってたけど、私にはそれが耐えられなくて……」

「……うん」

「一度はユニットを解散して、それぞれで活動しようとも思ったんです。でも、もう1人で描いていたくない。和樹さんと一緒に原稿を描きたい。そのためなら自分のこだわりもなにもかも全部捨てて売れるようになりたいって、それで詠美さんにお願いしたんです」

「そう、だったんだね……」

 

 今振り返ってみると、ユニットを組んでいた頃から、いろいろストレスを抱えていた。

 周りからの冷たい視線が怖くて『なんでお前が隣にいるんだ?』と言われているような気がしていた。

 そしてなによりも、売り上げが振るわない時の和樹さんの表情が辛かった。

 

 そんな状態だったから、由宇さんに言われた一言が、余計に胸に刺さったんだと思う。

 由宇さんは、私の父のことを知らなかったわけだし、強いストレスを感じながらユニットを組んでいたことなんて知りもしなかっただろう。

 しかも飲んでいた時に、ふと口にしたセリフだったわけだし、あんな言われ方をされて、さぞ戸惑っただろう。本当に悪いことをした。

 

「ねぇ、彩に足を引っ張ってるって言ってきたやつって誰なの?」

「……九品仏大志さんっていう、和樹さんの友達です。前からこみパのことに詳しかったみたいで、和樹さんを同人に誘った人なんだそうです」

「あいつか、私も何度か見たことある」

「……知ってるんですか?」

「うん、ちょっとした有名人だもん。『九品仏が認めたサークルは人気が出る』って噂なの。実をいうと、あたしも言われたことがある」

「……え、詠美さんもですか?」

「うん、ずっと前のことだけどね」

 

 それは全然知らなかった。

 でも考えてみれば、和樹さんの売り上げと人気が出るスピードは異常だった。

 50部とはいえ、初参加で完売していたことを考えると、大志さんが裏で宣伝活動をしていた可能性は大いにある。

 

「それとさ、和樹(あいつ)はなんで彩とユニットを組もうって誘ってきたの?」

「……それがわからないんです」

「え、わからない?」

 

 コクッっと首肯する。

 

「本当にわからないんです。『彩と組みたいと思った』ってそれきりで。でも私があの人に提供できるものなんてない。詠美さんと由宇さんの誘いを断って、どうして私なんかと組んだんだろうって、ずっと悩んでました」

「……」

「でも、和樹さんと一緒に作業するのは楽しいし、私もあの人のこと好きだし。だから離れられなかったんです」

 

 詠美さんは真っ直ぐ視線を向けたまま、顎に手を当てて考えている。

 私もこのことについては、幾度となく考えてきた。しかし、納得のいく回答が得られず、いまだにモヤモヤしている点だった。

 

「ま、考えてもわからないわね。でもそっか、彩はそんな思いで同人誌を描いてたんだ」

「……結局、周りのことばかり気にしすぎてしまったんです」

「ううん、そっちじゃない。……お父さんのこと」

「……えっ」

「彩の同人誌を初めて見た時ね、すごいって思ったの。あたしでもこんな話描けないって。絵柄はこみパ向きじゃなかったけど、本当にプロのマンガ家なのかと思ったもん。しかもあたしと同い年で、こんなに描ける子がいたんだって」

「……そう、だったんですか……?」

「……うん、あんまり言いたくなかったけどね」

 

 考えてみれば、詠美さんは初めて私の同人誌を読んだ時、なにも言わずに黙って読んでいた。

 以降も毎月のようにブースに顔を出しては読んでいた。あれは和樹さんを訪ねてきたんではなくて、私の本を読みに来てくれていたのか。

 

「ちょっとね、嫉妬しちゃったの。でもなんかさっきの話を聞いてたら、なんであんな話が描けるかわかった気がする」

「……全然売れてないですけどね」

「そうね。いくら技術力があったり面白い話を作れても、『売れる』ってのはまた違うんだと思う。だから私は売れてるのに(さわ)ちゃんから見るとなにかが足りないんだと思うの……」

「……」

 

 おそらく昼のことを言っているのだろう。

 ここ1カ月ほどの付き合いではあるが、詠美さんは真剣にマンガに向き合ってる。そうじゃないと普段からあれだけの作業量をこなせるわけがない。

 しかし創意工夫をしているが、いまだに澤田編集長の声はかからない。マンガ家デビューの道は、それほど険しいのだろう。

 

 詠美さんはパッとこちらを見ると、真剣な眼差しで口を開いた。

 

「彩、あいつらを見返してやろう」

「……えっ?」

「売れるようになろうって言ってるの。だってこのままじゃ悔しいじゃない。彩はなにも悪くない。私はこみパ向きに売れる本の描き方しかわからないけど、でも一度売れれば知名度も上がるわ。そうすれば周りの連中も黙るし、和樹(あいつ)とも一緒にいられる。あたしが協力してあげるわ」

「……あ、ありがとう……ございます」

 

 その話を聞いて、目頭が熱くなった。

 また涙が溢れ出してきて、その場で嗚咽を漏らして泣きじゃくると、詠美さんは先ほどと同じように、私の肩を抱いてくれた。

 

 私は、1人で抱え込んでいて、辛かったのだ。

 和樹さんが叱責(しっせき)されたあの日からずっと――。

 それが思わぬ形で人に相談することができて、心のつかえがとれたように感じる。

 心強いパートナー(ともだち)を得られた気分だった。

 

 泣き止んで少し落ち着くと、もう寝ましょと促され、明かりを消して布団に潜り込む。

 

「……あのさ、彩」

「……なんですか?」

「こういうこと聞くのもアレなんだけど……彩と和樹(あいつ)って、えっと……その……もう、シタ?」

「な、なにをですか!?」

「え、いや、その……なにってナニよ、あれっ……! わかるでしょ!?」

「まだシテませんっ!」

 

 暗闇の中、私の声がやけに響いた。

 詠美さんは「へ、へぇ~、そうなんだ……」とだけ呟いて、顔を隠すように布団に潜り込んでしまった。

 さすが詠美さん。さっきまでのいい雰囲気を、こんな形で壊してくるなんて思わなかった。

 




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