Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~ 作:拓田しろう
――同人活動史上、今回が一番の追い込みになった。
毎日のように詠美さん宅で描き続ける日が続いた。学校が終わると着替えもせずに、詠美さん宅に向かって原稿を描いた。
最近は原稿道具も詠美さん宅に置きっぱなしにすることが多くなった。毎度毎度持ち運ぶのが大変、というのもあるが、学校帰りに直接行けるようにするためだ。
学校、原稿、睡眠と毎日がこの3つの繰り返し。アルバイトも既にやめているため、全てのリソースを原稿に注いでいる状態だった。
しかし、この日ばかりは少し違った。
「ねぇ、彩。こんなことあたしが言うのもなんだけど、明日ってバレンタインデーだけど、いいの?」
『いいの?』というのは、私と和樹さんの関係を知っているからだろう。最近原稿漬けで頭がまわっていなかったが、そういえばそんな時期だ。
「そう……ですね……」
「
詠美さんの仰る通りだけど、あまり気乗りしなかった。
原稿のことで頭がいっぱい、というのもあるけど、離れておいて気持ちだけ伝えるなんて勝手なやつだ、なんて思われないだろうか?
そのことを詠美さんに話してみると、少し考えた後に口を開いた。
「でも、それだと自然消滅しちゃわない?」
「……」
――先日の悪夢のことを思い出す。
そうか、確かにそうかもしれない。
原稿の疲れとストレスで考えられなかったが、本当にこのまま
ちゃんと気持ちを伝える意味でも、チョコを渡した方がいい気がしてきた。
「……そういえば、詠美さんは渡す相手いないんですか?」
「えっ!? あたし? あたしは、そう、あれよ! そりゃこみパの女王って言われてるくらいだし? そんな相手の1人や2人や3人くらいよゆーでいるわよ!」
「3人も好きな人がいるんですか?」
「え、いや、そうじゃなくて……」
詠美さんは慌てふためいて顔を紅潮させている。
その様子で大体の状況は察したが、少し面白かったのでそのまま見ていた。
しかし、すぐに観念したのか、ぐったり
「いや、彩の前で見栄はってもダメね。いないわよ、そんな相手」
もっと頑張るかと思いきや、ハァッと溜息をつくと、あっさり相手がいないことを認めた。
「あたし、こみパの女王なんて呼ばれてるけど、実際は全然立派じゃないの。成績も良くないし、友達もいないし、ましてや彼氏なんてできたことない。ただマンガを描いてて、ちょっと売れてるだけ」
「……そう、なんですか?」
「うん、なのに周りは勝手なことばかり言うのよ。きっと勉強もできるとか、人間関係もうまくいってるとか、まるで聖人君子みたいにさ。でも学校じゃただの『オタク趣味の痛い女』扱い。だから強がって傲慢に振る舞うけど、そうすればするほど人が離れていくの……」
「……」
「ほんとはね、周りの子たちがちょっと羨ましい。周りの子たちみたいにファミレスで甘いもの食べて、お茶しながら、おしゃべりするだけで楽しいんだろうなって……そう思うの」
聞いたことがある。
成功して、急にお金を持ち出したり名声を得てしまった人たちは、人間関係が狂うという。
周りの人たちの変化が大きすぎることで、本人もどう対応していいかわからず、知らず知らずのうちに他人を傷つけてしまうこともあるんだとか。
おそらく詠美さんは、本来は素直で一途な人なんだと思う。
だが『こみパの女王』と呼ばれるようになってから、周囲に求められる姿を演じるうちに、無理して背伸びするようになったのだろう。急に売れて、周りの態度が急変したことで戸惑っているに違いない。
由宇さんも『チヤホヤされて増長した』と言っていたが、彼女もまた、影響を受けた一人なのかもしれない。
――売れたくて努力したのに、そのことで苦しむなんて、なんて皮肉な話だろう。
なんだか少し悪いことをした気分になった。
詠美さんに友達がいないことは知っていたし、こう言ってはなんだが、彼氏だって絶対いないと思っていた。
しかし、こうやって素直に吐露されると、どう反応していいかわからなくなる。
「……今度、一緒に行きましょう」
「え?」
「……原稿が終わったら、一緒にファミレス行きましょう。私も、そういう普通の女子高生みたいな遊びってやったことなくて……。お友達とパフェとかケーキとか食べてみたいので、詠美さんがよかったらと思って……」
「……うん! すごい嬉しい! 一緒に行こう!」
それが終わったらどうなっているんだろう。和樹さんと元通りの関係に戻れるのだろうか?
そこまで考えて、また気分が暗くなる。最善の手を尽くして頑張っているはずなのに、
以前からいろいろ考えているが、なにが原因か結局わからず仕舞いである。
――とにかく、和樹さんにチョコを渡して想いを伝えよう。
立ち止まりそうな気持ちを奮い立たせ、また原稿を描き始めるのであった。
最後まで読んでくれてありがとう。
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