Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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54話 不意の遭遇

 

 入稿日の朝。起きたのは昼過ぎだった。

 詠美さんと示し合わせたように同じ時間に起きて、時計を見ると昼の12時。日はとっくに上がっている。

 一緒にリビングに行くと、お母さんが優しく笑って温かい飲み物と食事を用意してくれた。

 

「昨日はお疲れさま。最近頑張ってたもんね。今日は用件済ませたらゆっくり休んでね」

 

 最近慣れてきたとはいえ、友達の家で昼過ぎまで寝てしまうとは……。

 大庭一家には本当に甘えっぱなしである。慌てて頭を下げて謝罪する。

 

「いいのよ。詠美のやってることはわかってるつもりだし。それにあたしも彩ちゃんみたいな友達がいてくれて嬉しいの」

 

 コロコロと笑顔で接してくれた。

 同人活動は身内から理解が得られない場合もあり、大変な思いをしている作家さんも多いと聞くが、詠美さんは全く問題ないみたいだ。

 こんな家族に支えられているので、詠美さんも伸び伸び活動できるのだろう。

 

「彩、食事を済ませたら、入稿しに行くわよ。寝坊したから結構ギリギリになっちゃった」

「……はい」

 

 そうして、2人でご飯を食べるのであった。

 

 ---

 

「にゃあ! 大庭さん、いつも御贔屓(ごひいき)にありがとうございます! それでは原稿受け付けましたです☆ 当日サークルスペースにお持ちしますね。毎度ありがとうございました」

「ん、よろしく頼むわね」

 

 入稿手続きを済ませて印刷所を出る。

 これで一安心、といわんばかりに詠美さんは大きく伸びをする。

 

「……詠美さん、その、すみません、私の分まで印刷代を出してもらってしまって……」

「またその話? 何度も言わせないで。一応私のサークル名義で出してもらうんだし、売れるって見込んだ上でやってるんだから」

「……でも、もし売れなかったら」

「あーもー! そういう話題禁止! せっかく終わってかいほーかんに溢れてるってのに、イヤなこと言わないでよね」

 

 入稿も無事に完成した。とはいえ、それはまだ入り口に立ったばかりである。売れるかどうかは、当日になってみないとわからないのだ。

 

「ね、それより、2人でファミレス行ってみない?」

「……えっ?」

「だーかーら、ファミレス。一緒に行ってくれるって話だったじゃない」

「は……はいっ!」

 

 思わぬ提案で反応が遅れたが、笑顔で頷いた。確かにタイミングとしては最適かもしれない。

 商店街近くにあるファミレスに入って、2人でテーブル席に通される。

 お互い初めてなので緊張しながらメニューを見て、何を頼めばいいかと狼狽(うろた)える。

 近くの席で同世代と思われる子たちがドリングバーを頼んでおしゃべりしていたので、そうか、今どきの女子高生はドリングバーを飲むのかと理解して、とりあえず店員さんに2つ注文した。

 

「よし、あたしたち、自然だったわよね……?」

「……バッチリです。詠美さん」

 

 お互い顔を近づけてひそひそと話す。

 しかし、その光景こそが自然でないことに気付き、すぐに元通り座り直して苦笑した。

 

「あはは、やっぱり慣れないね」

「……でも、2人で来れました。一歩前進ですね」

 

 そう言って、お互い笑いあった。

 飲み物を持ってきて、しばらくの間、今回の原稿の話やこみパの話をした。

 サークル参加用チケットは明日渡すとか、現地はまた8時集合とか、やはり売り上げが出なかったらどうしよう、と言ったら詠美さんから怒られた。

 そこまで話して、やっぱり普通の女子高生みたいな会話ってできないわね、とまた笑いあった。

 

「ねぇ、彩。相談があるんだけど」

「……なんですか?」

「もしよかったらさ、このままあたしとユニット組んでみない?」

「……えっ?」

「彩と和樹(あいつ)のことは知ってるんだけど、でも、ここ最近の作業はあたしにとっても楽しくてさ。ここ2カ月ですごい成長したし、彩だったらあたしの隣に相応しいわ」

「……」

 

 思わぬ提案を受けて、ポカンとしてしまう。まさかユニットの誘いがあるなんて思わなかった。

 確かにこの2カ月を振り返ってみれば、大変ながらも楽しい日々だった。最初は心が折れかかって泣いていたりもしたが、努力を積み重ねてかなり上達したと思う。

 そしてなにより、詠美さんといい友達になれた。

 由宇さんとのいざこざに巻き込んでしまったが、それ以来、優しく親切になり、なんでも相談できる間柄にまでになった。

 

 ただ、それでも今の話は容易に頷けなかった。

 私の本来の目的は売れるようになって和樹さんの隣に居続けること。それが念頭にあるので、すぐには返事ができなかった。

 

「状況はわかってるつもり。だから、和樹(あいつ)となんかあって戻れなかったらね」

「……縁起でもないこと言わないでください」

「あー、ごめんごめん。でも彩だったら大歓迎だから」

 

 そう言って、また笑い合いながらこの話は終わった。

 初めてのファミレスでデザートはハードルが高いわね、と言いながら会計を済ませ、お店を出た。

 

「じゃあね。お互い疲れたから今日は帰りましょう」

「……はい、それではまたこみパで」

 

 そう言って詠美さんは背を向けて帰宅していった。

 私も自宅へ帰ろうとしたところ――。

 

「――彩」

 

 後ろから聞き覚えのある声が響き、ハッと後ろを振り返ると、和樹さんの姿があった。

 

「やっぱり彩か。なにしてるんだ? それに今のは詠美か?」

「……あ……あ」

 

 原稿が終わったことで気が緩んでいた。

 確かにこの商店街は和樹さんもよく出歩く場所だ。遭遇することを警戒して近づかないようにしていたのに、すっかり忘れていた。

 

「そういや、この間チョコ、ありがとな」

「……えっ」

「ほら、バレンタインデーの時。名前がなかったけど、あれって彩がくれたんだろ?」

「あ……そう……です」

 

 頭が真っ白になる。言葉が入ってこない。

 あれだけ必死に隠し通してきたのに、最後の最後で油断してしまった。

 どうすればいいのかわからず、そのまま背を向けて逃げようとした。すると、手首を掴まれて阻まれた。

 

「待ってくれ! 最近、俺のこと避けてないか?」

 

 率直な言葉に何も返せない。

 避けているのは事実だが、かと言って『はい、そうです』なんて言えない。

 なんとかしてこの場を脱せないかと考えを巡らせる。

 

「……ごめんなさい……」

 

 ただその甲斐なく、結局はそのまま謝りながら走り出すという、一番原始的な手段でその場を後にした。

 

 そのまま逃げるように自宅に帰り、ドアを閉めると反射的に鍵を閉めた。

 冬だというのに汗をびっしょりとかき、息も上がっていた。

 靴を脱ぎ、自室に向かう。ベッドに腰をかけると、そのまま後ろに倒れて両手で顔を覆った。そうしていると悲しくなってきて、涙が出てきた。

 さっきまで入稿して詠美さんと仲良くおしゃべりしていたというのに、落差が酷すぎて気持ちがさらに沈んだ。

 

 ――次のこみパが終われば、もうこんな思いをせずに済むだろうか。

 

 売れるようになれば、全部うまくいく。

 ただそのことだけを願って、ここまで頑張ってこれた。

 

 詠美さんは売れる、と言ってくれた。でも、当日にならないとうまくいくかなんてわからない。

 うつ伏せになって顔を埋めると、声にならない声でまた泣いた。

 




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