Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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55話 完売

 

 ――2月こみパ当日。

 この日は朝から調子が悪かった。連日売り上げが心配で、眠れない日々が続いたからだ。

 

 原稿の不安はなくなったものの、手持ち無沙汰になってしまったため、やることがなく暇を持て余した。

 また模写でもしようかと思って机に向かってみたけど、気持ちが落ち着かず、何も描く気になれなかった。

 何をするにしてもこみパのことが頭から離れず、おかしを食べて気を紛らわす、という日々を過ごした。

 

 そしてようやくこの日を迎えた。

 あまり眠れず、朝5時に目が覚めてしまったため、朝風呂に入って目を覚ます。

 

 ――今日が運命の日。

 

 そんな言葉を浮かび、頭が冴え渡った。

 体は怠いものの、頭はハッキリとしてる。待ち合わせには時間があるが、サークル参加用の入場口は早い時間から空いている。

 準備をして、いち早く自宅を後にした。

 

 ---

 

 東京ビッグサイトに到着すると、既に長蛇の列が並んでいた。

 今の気温はわずか1℃。空を見上げるとどんよりとした雲が広がっている。

 こんな寒空の中、よく並んでいると思う。参加者の人たちの熱意には本当に感心させられる。

 詠美さんも大手サークルのため多くの人がブースに並ぶが、あの長蛇の列のほんの一部でしかないと思うと、こみパの規模の大きさに改めて驚かされた。

 驚きの念を抱えつつ、サークル参加用の入り口から入場していくのであった。

 

「あれ、彩?」

「……え、詠美さん?」

 

 詠美さんのブースに到着すると、既に詠美さんがいた。

 

「……おはようございます。早いですね」

「おはよ! 彩。なんか早く目が覚めちゃってね。早めに会場入りしたの。ねぇ、見て彩。あの段ボールが彩の本よ」

 

 指を指した方向を見ると、5つの大きな段ボールが積まれていた。その横にさらに10倍近い段ボールが積まれているが、それが詠美さんの本だろう。

 近づいて中を開けると、見栄えよい表紙が目に映る。1カ月間、苦労して描いた原稿の集大成だった。

 

 それを見て感動で瞼が熱くなる。

 オフセット印刷は試したことなかったが、こんなに綺麗に仕上がるんだ、と心が震えた。

 (いろど)り豊かに配色された表紙の、なんとも見ごたえのある事か。

 今朝の今朝まで不安だったが、これだったら売れるのではないか、と期待で胸が膨らんだ。

 

「うん、いい出来ね。本にしてみるとさらにいい感じ」

「……はいっ! はいっ!」

「あはは、彩嬉しそう!」

「いえ、オフセットって初めてで、こんなに綺麗に仕上がるなんて思ってなかったので……」

「そうよね。あたしも初めてオフセットにした時は感動したなぁ」

 

 2人で見合って笑い合う。今朝までの不安が吹き飛び、急に元気が出てきた。

 詠美さんの同人誌を見てみると、詠美さんの本も素敵な仕上がりだった。試しにテーブルに並べてみると、壁サークルに恥じない見栄えで、思わず頬が緩んだ。

 

 そうして詠美さんと過ごしていると、いつもの販売スタッフが揃いだしてミーティングを始める。

 私は前回と同じで、見本誌チェックのスタッフに同人誌を提示した。ふと、南さんが来ないかと懸念したが、今回来たのは別のスタッフだった。

 滞りなくチェックを済ませたら、いよいよ会場の時間帯になる。

 今か今かと開場の放送を待ち構えていると、ついにその時が来た。

 

『これより、こみっくパーティーを開始します』

 

 館内放送が流れると、会場は、膨らんだ風船が割れたような一瞬の静寂と、歓喜に包まれた。

 遠くに見える参加者の列が、スタッフの誘導されながら前進するのが見える。そして外に出ると一気に早歩きになり、多くの参加者がこちらに向かってくるのが見えた。

 詠美さんのブースには一瞬で列が出来上がり、売り子スタッフが購入者を捌いていった。

 

「はい! 本日新刊が2冊! 1冊は限定500部です! ご興味があればいかがですかー!」

 

 販売スタッフのその一言で参加者の目つきが変わった。

 500部と言えば一般サークルとしては膨大な部数だが、壁サークルとしては少ない。Cat or Fish!?の新刊であれば見逃すまい、と一気に注文が殺到した。

 

 来る人は全員、購入できる分だけ購入し、私が描いた同人誌は飛ぶように売れた。

 その後も注文は途絶えることがなく、始まって2時間もしないうちに、私の本は完売してしまった。

 

 電光石火、とはまさにこのことだと思った。

 夢のような現実に、目を瞬かせながら呆然としていた。

 後ろから近づいてきた詠美さんが、ポンポンと肩を叩く。

 

「ね、売れるって言ったでしょ?」

 

 歯茎を見せながらそう言って笑うと、急に売れた実感を得られて気分が高揚してきた。

 

「……はいっ! 詠美さん、私、本が売れるようになりました!」

「やったね、彩!」

 

 そう言って、ひと際強く肩を叩かれた。

 




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