Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~ 作:拓田しろう
和樹さんの家の最寄り駅を降りて、力なく歩いていく。
空は曇っており、既に暗くなっている。呼吸をする度に白い息が吐かれる。目には涙が浮かべており、すれ違う人が振り返ってくる。
風が冷たい。あれから2カ月しか経っていないというのに、ずいぶん昔なように感じた。
――和樹さんっ、和樹さんっ、和樹さんっ……!
流れる涙を拭うこともせず、ただ和樹さんの家に向かって歩き続ける。
鉛のように体が重い。力が全く入らない。でも、そんなこと関係ないっ!
あの人に……和樹さんに事情を説明したい。ちゃんと、話を聞いてもらいたい。
知らなかったの。
私の本が売れるようになってほしくて、あんなに真摯にアドバイスをくれたなんて……ユニットに誘ってくれたなんて考えもしなくて。
憐れんでいたんじゃなかったんですか? 私があまりに売れてないから。だから売り上げが悪いときに、あんなに悲しそうな顔をしてたんじゃないんですか?
自分に釣り合わないからガッカリしていたと思ったんです。隣に相応しくないって……。
あの時に浮かべる
思いが溢れてきて思考が定まらない。
激情に心が揺れるたびに涙が溢れる。嗚咽が止まらない。なにがなんだかわからない。
全て自分の勘違いだったなんて、この2カ月間の努力が、全部和樹さんを裏切っていたなんて――。
――こんなの、嫌だよぉ……。
嘘までついて、あんなに苦労して。それが全部全部全部っ! 和樹さんを苦しめるだけだったなんてっ!
どうすればいい? なんて言えばいい? どう謝れば、和樹さんはわかってくれるんだろう……?
和樹さんのアパートの前に着く。見上げると空はすっかり暗くなっている。が、和樹さんの部屋に明かりは灯ってない。
――まだ、帰って、ない?
会場で和樹さんのブースに行ってみたら、既に完売して片づけられていた。
荷物もなく、帰っていると思ったけど、どこかに寄り道をしているのだろうか?
足に力が入らない。ふらふらして、電柱に寄りかかるように体を預ける。
和樹さんが帰ってくれば、この道を通るはず。ここで待っていよう。
今日は一段と冷え込んだ。今朝の気温は1℃だったが、今は氷点下になるだろう。
寒さで手がかじかみ、震えながら和樹さんの帰りを待った。
追い打ちをかけるように、ポツリッポツリッと雨が降ってきて、次第に強まってきた。
服が濡れて、体温を奪っていく。ガタガタと震えが止まらなくなるが、それでも、この場を離れるわけにはいかない。
少しでも早く、和樹さんに事情を伝えないと。
次第にその場に立っていられず、その場に座り込んでしまう。
スカートの裾から、雨に濡れた地面の水滴を吸い上げ、腰回りまで冷えていく。
ただただ、雨に打ち付けられ、俯いてしまう。
――ああ、いつかのこみパみたいだ。
昔の参加している時は、ずっと俯いていた。
顔も上げず、呼び込みもせず、売れない同人誌を認識するのが嫌で黙って過ごしていた。
あの頃は毎回辛かった。血潮にかけた同人誌が見向きもされず、目の前を通り過ぎていく参加者。
自分1人だとどうすることもできなかった。
そんな時、初参加した和樹さんに挨拶で新刊を渡したんだっけ?
他の人たちは渡しても、少し嫌な顔をして見抜きもしなかったのに、あの人は真剣に読んで感想を伝えてくれたんだ。
子供のように喜んで、本当に楽しそうに話してくれた。
日の光のように暖かで、明るく真っ直ぐな眼差し。すぐ好意を抱いた。
一緒にいると安心して、でもマンガの話をすると、心が躍った。お互いの本の感想を言い合いながら、ずっと笑ってた。
ああ、本当になんて楽しい日々。あの時間さえあれば、売れなくても良かったんだ。
和樹さんが喜ぶだけで嬉しかった。和樹さんが笑うだけで心が躍った。和樹さんと一緒にいるだけで、私は幸せだった――。
――不意に、雨が止んだ。
天気が変わったわけではない。辺りはまだ雨音でうるさい。それでも私に降りかかっていた水滴はなかった。
街灯の明かりが遮られ、影が私の目の前を覆う。
見上げるとそこには、和樹さんが立っていた。
「彩……」
「……」
部屋の明かりは、まだ灯っていない。
手荷物がないことから、和樹さんは帰宅してきたわけではなく、自宅にいたのだとわかる。
和樹さんが手を差し伸べる。
「……帰ろう、彩」
その手を掴み、ゆっくり引き上げられていく。
そのまま手を引かれながら、和樹さんの部屋に通され、入るとすぐにバスタオルを手渡される。
「それで体を拭いて。風邪ひくぞ。今風呂用意してやるから」
久方ぶりに和樹さんの家で聞くその声は、どこか淡々として冷たかった。
目を合わせることもなく、背を向けて準備に取りかかろうとする。衝動に突き動かされるように、私はその背中にしがみついた。
和樹さんの身体はピクリと動いたが、振り払うことはなかった。
私の濡れた服から染み出した水滴が彼の服を濡らしていく。それでも、背中は確かにそこにあって、拒絶されることなく受け止めてくれていた。
「彩……?」
掠れた声が、背中越しに聞こえてきた。
その響きに胸が熱くなり、こらえきれず言葉が溢れ出す。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「なんで、謝るんだ?」
「私……和樹さんに……ずっと……迷惑かけてた……いつも……和樹さんが描くの……邪魔してた……」
背中は動かない。ただ黙って、私の言葉を受け止めていた。
「和樹さんが……なんでユニットに誘ったか……わからなかったの……もう……これ以上……迷惑かけたくなかったから……でも……一緒にいたかったの……ずっと……ずっとそばにいたかったの……」
告げるように、搾り出すように、和樹さんに思いを伝える。しがみつく腕に力を込める。
「だから……だからひとりでいっぱい売れるマンガを描けたら……そしたら……和樹さんの邪魔にならないから……描くときも……こみパのときも……ずっと一緒にいれると思ったから……」
呼吸が荒い。震える声は止まらない。
「お願い……嫌いにならないで……なんでも言うこと……聞きます……どんなことしても……いいですから……」
暗闇に吐き出した言葉は、自分でも惨めに聞こえた。
けれど、それでも伝えずにはいられなかった。
「だから……」
必死に縋るように告げた瞬間――。
「バカッ!」
和樹さんの怒号が、全てを吹き飛ばした。
最後まで読んでくれてありがとう。
彩の物語を最後まで楽しんでみてね☆
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