Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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5話 だってそうやもん☆

 

 いつも通り、会場入りをしてブース準備をする。

 

 今朝は普段より気持ちよく目が覚めた。

 いつもは『また売れずに1人か……』と憂鬱になるのに、今回は誰かと話せると思うだけで、胸が少し弾んだ。

 

「彩ちゃん、おはようございます」

「あ……南さん、おはようございます」

「昨日は手伝ってくれてありがとうね」

「いえ、こちらこそ。突然連絡したのにありがとうございます」

 

 昨日手伝ったこと、というのは前日設営のことだ。

 いつも1人で参加しているのだけど、南さんに電話して手伝えることがないかを聞いてみたところ、『ネコの手も借りたいの~』と言って、スタッフの手伝いを依頼された。

 終わるとお茶をご馳走になり、南さんの身の上話を聞いた。

 南さんから社会人になってから上京して東京で働いていること、実家に両親を残してきていること、週刊誌の編集をしている先輩がいることなど、いろいろな話を聞いて過ごした。

 すっかり打ち解けて、お互い下の名前で呼び合うようになった程だ。

 

「昨日はごめんね、彩ちゃん聞き上手だから話が止まらなくて」

「……いえ、私も色んなお話しができて楽しかったです」

 

 素直に気持ちを伝えると、南さんはにかむように笑った。

 そうしているうちにチェックが終わり、見本誌を返却された。

 

「はい、結構です」

「あ……ありがとうございます」

「彩ちゃんは同人誌を描いてどれくらいになるの?」

「4・5年くらいです」

「あら、長いのね。絵も個性的で上手だし、見ていて楽しかったわ」

「え……本当ですか?」

「うん。仕事柄たくさんの同人誌を見てきたけど、彩ちゃんのは本当に印象に残ったの」

 

 意外な話で驚く。

 ただ実績が伴っていないので、素直に喜ぶ気になれず、俯いてしまう。

 

「ごめんなさい、なにか悪いことを言ってしまったかしら?」

「いえ……そういうわけでは……」

「……売れないことを気にしているの?」

 

 ドキッとして、つい南さんを見つめてしまう。

 私の目を見ると、優しく微笑んだ。

 

「確かに売れないのは辛いかもしれないわね。でも安易に売り上げを伸ばそうとすると、本来の自分を見失ってうまくいかなくなることも多いわ」

「自分を見失う……ですか?」

「そう。安易な方法をとると売り上げは上がるかもしれないけど、本当に欲しいものや認められたい人からは遠ざかってしまうものなの」

「そう……なんですか……」

「うん。だから彩ちゃんも、何をしたいか、誰に届けたいかを見失わないようにね。じゃあ今日も頑張ってね。私次があるから」

 

 そういって南さんは隣のブースに行ってしまった。

 本当に欲しいものや認められたい人、と言われてもピンッと来なかった。

 でも南さんの気遣いは、朝から気持ちを和ませてくれた。

 

 ---

 

 もう10分もしないうちに開場、というタイミングで千堂さんがブースに到着したのが見えた。

 離れた位置からでもわかるほど息が上がっている様子が窺える。

 少し落ち着くと、テーブルのセッティングをし始めた。

 

 とても後少しで準備が終わる様子ではなかった。

 席を立って千堂さんの元に移動し、軽く挨拶して、テーブルの準備を手伝った。

 

「おはようございます。あの……手伝います」

「あれ? 長谷部さん!?」

「私はテーブルの準備などしますから、見本誌などの準備を……」

「わりぃ! 助かる!」

 

 そう伝えると、千堂さんが持ってきたテーブルクロスを長机に敷いて、届いていた段ボールを開けて本日の新刊を並べる。

 ここら辺はすぐには参加者がこないので、値札などは後でも良いだろう。

 とりあえず形だけ整えれば、後はなんとかなる。

 和樹さんは、急いでやってきたスタッフに見本誌のチェックを依頼すると、すぐに戻ってきた。

 

「サンキュー! 準備してくれて!」

「いえ……大丈夫です。新刊は並べましたので、値札などはお願いします……」

「すごい助かった! また後でね!」

 

 戻っている最中に、始まりの合図を告げる館内放送が流れはじめた。

 

 ---

 

 開場して少し落ち着きだした頃、千堂さんがこちらにやってきた。

 

「長谷部さん、今朝はサンキュな! 本当に助かったよ」

「いえ、大したことは……。それにしても今日はギリギリでしたね。どうかしたんですか?」

「はは、ちょっと知り合いの邪魔が入ってね……」

 

 千堂さんの顔が少し曇る。

 なにかやんごとなき事情があるように思えたので、それ以上聞かないでおいた。

 

「あ、それでこれ、今日の俺の新刊」

「ありがとうございます。これ……私の新刊です」

「ありがとう! 読んでもいいかな?」

「あ……どうぞ」

 

 そう言って私の新刊を読みだす。

 読んでいる時の表情は真剣そのもので、時折顎に手を当てるのが印象に残った。

 早く感想がもらいたい私は、まだかまだかと千堂さんの反応を待った。

 最後の1ページが読み終わるのを、じっと見つめていた。

 

「いや、今回も面白かったよ。1000年生きた魔女の恋の物語か。斬新だね」

「あ……ありがとうございます」

「うん。設定もよくできてるし、なにより魔女の心境がリアルで楽しい」

「設定に無理がないように考えるの、大変だったの……。だから気付いてくれて嬉しいです」

「うん、今回も面白かったよ。俺もう戻らなきゃ。ありがとうね!」

「あ……あの……!」

 

 背中を向きかけたところを呼び止めて、千堂さんは顔だけこちらを向けた。

 

「先月の新刊、本当に面白かったです……! この本も、大切にします」

 

 そう伝えると千堂さんは笑いながら礼を述べ、自分のブースに戻っていった。

 

 ---

 

 時間は14時30分をまわった頃。

 ずっと下げていた顔を上げると、首と肩に鈍い痛みが走る。ずいぶん長い時間同じ姿勢でいたせいだろう、体を動かすたび、関節がパキパキと鳴った。

 周りを見ると、そろそろ帰り支度する人が見える。

 ブースに積まれた新刊は動かされた様子も、試し読みされた形跡もない――。

 

 ――心が少し冷たくなるのを感じた。

 

 千堂さんのブースを見ると、後少しで完売するようだ。

 今朝私が並べた時はあんなにあった同人誌が、ほとんどなくなっている。

 これで2回目の参加だというのだから、本当に驚かされる。

 

 残っていたところで結果は変わらない。

 少し早いかもしれないが、もう切り上げてしまおうかと思っていたところ、千堂さんのブースに女性が近づいていくのが見えた。

 

 千堂さんの知り合いだろうか。

 なんとはなしに見ていたら、彼女は新刊を手のひらで乱暴に払い落とすと、何事もなかったように長机に腰を下ろした。

 千堂さんも声を上げているようだが、何食わぬ顔で座っている。

 

 傍から見ていても異様な光景だ。なぜあの女性はあんなことをするのだろうか?

 いかにも余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)、といった表情で千堂さんの新刊を読んで意見しているように見えた。

 

 近づいて何か言った方がいいかな、と思っていたら用が済んだのか、長机から降りて去って行ってしまった。

 それと入れ替わるように怒った顔の猪名川さんが、千堂さんのブースに近づいていくのが見えたので、私も席を立って近寄った。

 

「和樹はん! 今詠美のやつがこっちにきんはったか?」

「ああ、たった今言いたい放題言って戻っていったところだよ」

「あんの大バカ詠美! 先月ウチが和樹はんと絡んだのを聞きつけてやってきたんやな!」

「あの……大丈夫……でしたか?」

「ああ、彩はんやんか! 彩はんも見とったんか?」

「ええ……長机の新刊を落としていたので、何事かと……」

「……ッ! あんガキ! やってええこととアカンことの区別もつかんのか!」

 

 猪名川さんは今にも追いかけようとしていたが、和樹さんの新刊がまだ床に散らかっている。

 他の参加者の迷惑にもなりかねなかったので、まずは新刊を拾い始めた。

 

「あ、ありがとう。長谷部さん」

「いえ、大丈夫です。よかった、あまり汚れていないみたいで」

 

 同人誌についた汚れをパンパンッと手で払い、長机の上に並べ直す。

 

「あの大バカ、ケチつくような真似しくさって! 今度会ったらシバいたる!」

「由宇、そんなことしなくていいよ。俺もしっかり注意しなかったしな」

「言えなくて当然や。いきなりあんなことされたら唖然とするやろ?」

「いや、俺から言うべきだったんだよ。こんなことされたら普通怒る。言えなかったのは俺の実力と熱意が足りなかったからだ」

「和樹はんの同人誌、情熱ぎっしり詰まっとるやん! 読んだら誰でもわかる! なぁ、彩はんもそう思うやろ?」

「……はい、千堂さんの同人誌には特別な思いを感じます」

 

 咄嗟に話を振られて焦ったが、なんとかそれらしい発言ができた。

 

「2人ともありがとう。でも次同じようなことをされたら、唖然とする前に言ってみせるから由宇から怒るのはやめてくれ」

「和樹はん……」

 

 本人にこう言われてしまっては、猪名川さんもこれ以上言えないのだろう。

 とはいえ、千堂さん自身も先ほどまでとは違い、悔しそうな顔をしてる――。

 

 ――当然だ。自分の本をあんな風にされたら誰だって傷つく。

 

 先ほどの騒動のせいで、周りの参加者から冷たい視線が向けられているのがわかる。

 千堂さんに何か気の利いたことを伝えたかったが、こんな時なんて声をかけていいかわからない。

 私も気持ちが沈みかたけていたところ、猪名川さんが口を開いた。

 

「よっしゃ! なら詠美がつけたケチをウチが払ったろう!」

 

 そういうと、どこからともなくハリセンを取り出したと思ったら、声を張り上げた。

 

「さあさあ! いらはい、いらはい! ブラザー2、千堂和樹のオリジナルマンガ、笑いアリ、感動アリの36ページ! これはお買い得やでぇ! お客はん!」

 

 猪名川さんの声に参加者の視線が集まる。

 先ほどまでの冷たい視線とは打って変わって、期待を寄せられる雰囲気に変わっていくのがわかる。

 

「そこ行くお客はん! いらはい、いらはい! 5月にデビューした超大型新人、千堂和樹はんの新刊やで! 買ってみて損なし! 1年も経てばプレミアがついているかもやで! さあ、終了まで残り1時間! 余り物には福がある! ぜひ手に取ってみていってやー!」

 

 猪名川さんが呼び込み始めると、たちまち参加者がブースに寄って来る。

 1人2人3人……と人が人を呼び、アッという間に人だかりになった。

 

「はい、1冊500円! 毎度あり~! あ、そっちのあんたは1000円札かいな? ならいっそそのまま2冊買ってみたらどうや? え、2冊()うてくれる? 男前やんか~! ええことあるでぇ~、ホンマに!」

 

 終了間近ということもあり、先ほどまでは水を打ったような静けさがあったが、猪名川さんの呼びかけに応じて一気に活気を取り戻していく。

 その空気に充てられて、お客様も購買意欲が増していくのがわかった。

 

「みんな、おおきに! ブラザー2の新刊は完売したでー!」

 

 そういって猪名川さんは拍手をする。

 それに呼応するように、私も周りの参加者からも拍手が巻き起こり、みんなで称えあった。

 

 猪名川さんは誇らしく笑顔を浮かべており、千堂さんは購入者から握手を求められて話をしていた。

 それを見ていた周りのブースの人たちも、最後の売り時だと言わんばかりに声を張り上げて、自分の本を宣伝し始めた。

 

 その場だけ、一時『お祭り』状態と化したのだ。




最後まで読んでくれてありがとう。
彩の物語を最後まで楽しんでみてね☆
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