Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~ 作:拓田しろう
昨日、詠美さんと離れたすぐあと、和樹さんと会って話したんです。
詠美さんのブースに来ていて、私の新刊を読んでくれました。そして本を渡そうとしたけど、断られてしまって……。
その時、初めてユニットに誘った理由を聞かされました。
実は私のマンガが好きで、もっと売れるようになってほしくて誘ったんだと。けれど和樹さんは『もしお節介だったらやめる』と言ってきて、私は愕然としました。
一緒にいたくて必死に頑張ってきたはずなのに、全てが間違いだったのかと。
だから思わず追いかけて家まで訪ね、事情を話し合って和解できたのですが、その無理が祟って体調を崩してしまい、帰宅後は寝込んでしまったんです。
そもそもユニットに誘われた理由は、当初からよくわからなかったんです。
実際に聞いても『彩と組みたいと思った』とか『学びが多いと思った』とそんなのばかりで。それが由宇さんと詠美さんの誘いを断ってまでの理由だとは、私には納得できなくて。
だから最初は、私があまりにも売れてないものだから、憐れんでいるだけかと思ったんです。
それでも、私は和樹さんと一緒にユニットを組んでやりたかったの。
5年間こみパで同人誌を描いてきて売れなくて。なんのために描いているかもわかんなくて。でも私にはマンガを描く以外なにも能がなかったんです。
私には同人誌に対する情熱はありません。
亡くなったお父さんが、私が描いたマンガを褒めてくれた。だから想い出に縋りついて、惰性で描いていただけなんです。
そんな日々にも限界があって、売れないマンガをただ描き続けるのは本当に辛くて。
でも、マンガが売れなくても感想をもらえるだけで描く意義があるんだって。そんな同人の楽しみ方を教えてくれたのが和樹さんだったんです。
あの人から感想をもらえて、私はそれだけで楽しかった。一緒に原稿を描いて、『ここいいね』とか『今回も面白かった』とか、そんな他愛のない感想を話し合うだけで私は良かったんです。
だけどやっぱり売れないと、周りから実力がないって思われて。
和樹さんはすごい人だから。私があの人といると、なんでお前は隣にいるんだっていう周りの視線が辛くて……。
売れている横で、数十冊しか売れないのはみじめでした。
それでも少しずつ売れたのは、私にとって大きな進展だったの。
だから和樹さんには『すごいね』って言ってほしかったんです。
でも売り上げ部数を報告すると、酷く落胆した表情をして、その表情を見るのが辛かった。時には『ごめん』と謝ってくることもありました。
なんでそんな風に謝られるかわからなかったし、なんでそんな表情をするんだろうって、ずっと悩んでました。
それから和樹さんの指導はどんどんエスカレートして、私にたくさんアドバイスしてくれたんです。
そのせいで、和樹さんは自分の同人誌を描く時間が少なくなって、それを大志さんに指摘されたんです。
『お互い自立した関係でないと成り立たない、じゃないとどちらかが足を引っ張る』って言われて、もうどうしていいかわかんなくて……。
周りの人もみんな和樹さんに期待してるし、私なんかが邪魔しちゃいけない。
でももう1人じゃ描けない。あの人のそばで、一緒に同人誌を描いていたい。
だから私も売れる同人誌を描かないといけない、って思ったの。
和樹さんと肩を並べられるように、邪魔にならないように、誰にも文句言われないように――。
隣にいて相応しい人間だって思われたくて。こだわりも自分の思いもなにもかも捨てて、売れる本を描けるようになりたい。そして詠美さんに相談したの。
沈黙が訪れる。
店内は人が少なく、BGMと時折出入口の開閉音が響いている。
「由宇、南さん、瑞希さん。彩を責めないであげて。確かに会場を勝手に出て行っちゃったのは悪かったけど、それは不用意にみんなに助けを求めたあたしにも責任があるわ」
詠美さんは立ち上がって懇願した顔つきで、私の間に割って入ってくれた。
由宇さんは詠美さんの顔を神妙な面持ちで見つめた後、視線を落とした。
南さんもそのやり取りを見ている。事情はちゃんと話したはずだが、どう受け取ったかはわからなかった。
「それに、私とユニットを組んだことだって、それこそ彩の自由じゃない。文句を言うのは筋違いだわ」
「……詠美、あんたは少し黙ってるんや」
「だって由宇! 彩はずっと悩んで苦しんで、その中で頑張っただけなのよ? それなのにいろいろ言われちゃったら……」
「詠美ちゃん、今は少し静かにして」
ピシャッと言い放つ南さんの言葉に、さしもの詠美さんもたじろいで席に座る。
先ほどまで仲裁の姿勢をとってくれていた瑞希さんも、目を瞑って怒っている顔を浮かべた。
やはりまずかったかもしれない。
昨日和樹さんの家に泊ったこと以外は、全て事実を伝えたはずだけど、経緯が複雑すぎる。内容が内容だけに言い訳みたいに受け取られかねない。
しかもストレスがピークだったとはいえ、先月由宇さんたちにあんな態度をとった理由にはならない。
今回のことにしても、全面的に私に非がある。なんて言われても文句は言えなかった。
3人とも話始める前よりも難しい顔を浮かべている。
これ以上なにも伝えることはないし、かと言って弁解する言葉も浮かんでこない。
あとはゆっくりを沙汰を待つだけの状態が続いた。
そして、ようやくその重い口を開かれた。
「和樹が悪いわね」
「和樹はんが悪いわなぁ」
「和樹さんが悪いですね……」
沈黙を破ったのは瑞希さんだった。そして同意するように由宇さんと南さんがつぶやく。
「ただウチが一番腹立つのは大志はんや」
「確かに……あの人が一番の元凶ですね」
「ほんとに。大志のやつ、許せない」
続けてそういうと瑞希さんは私の手をとり、両手でそっと包んでくれた。
「彩ちゃん、辛かったね。頑張ったね。でももう大丈夫。後は私に任せてくれる?」
「そうやで彩はん。周りがなんと言おうと自分の好きなことは譲ったらあかん。あんたに相応しくないっていう権利なんて誰にもないんや」
「その通りですよ、彩ちゃん。ただ純粋に同人を楽しんでいただけなのに、そんなこと許せないです」
瑞希さんに真っ直ぐと見つめられ、こちらもたじろいでしまう。
罵倒されても仕方ないと思っていたので、意外な展開に驚きを隠せなかった。
「あ、でも1点だけ悪いところがあるとしたら、私たちに相談しなかったことね。1人で考えて行動するとロクなことにならないんだから」
「そうやで。なんでウチらに相談してくれなかったんや。だったらもっと早く和樹はんと大志はんをしばき倒して解決しとったのに」
「そうですね。私たちも気付いてあげられなかったとはいえ、なにか一言あればよかったのに」
キッと睨みつけられて、「ごめんなさい……」と返すことしかできなかった。
「しかし詠美とユニット組んだと知った時は、ウチも完全に冷静さを失っとったし、まさか和樹はんと彩はんの間になにかあったなんて微塵も思わんかった」
「そうですねぇ、その点は私も反省です」
「……いえ、その、あの時は本当にすみませんでした……」
遅ればせながら、席を立って謝罪の言葉と一緒に頭を下げる。
あの時の一件は心残りだったため、ちゃんと謝らなければならないと思っていた。
「ええんや。あんな殴り込みみたいな雰囲気出してたウチらにも問題あったんやしな」
「そうね、いきなりあんな突っかかってきたからあたしも驚いちゃったわよ」
「あんたの普段の態度に問題があったからあんなんなったんやろっ! 今回の件といい、しっかり反省しい、大バカ詠美!」
「ふみゅうううん、なによ~叩かなくてもいいでしょ~」
由宇さんに叱られて小さくなる詠美さん。昨晩から私のせいでずっと肩身狭い思いをしているはずである。
こちらにもあとでちゃんと謝罪をしなければならない。
「さてと、事情もわかったことやし、そろそろいこか」
「大阪に帰るんですか?」
「いんや、和樹はんと大志はんのとこ」
そういうと由宇さんはスッと席から立ちあがる。
目をぱちくりさせる。今どこへ行くと言ったのだ?
「そうね、行って一言言ってやらないと」
「そうですね。彩ちゃんにこんな大変な思いをさせて許せませんし。詫びをしっかり入れさせないと」
南さんから似ても似つかわしくない言葉が出てくる。
伝票用紙に代金を置くと、3人とも荷物をまとめはじめた。
「じゃあ瑞希はん、案内頼んでもええか?」
「ええ、任しといて!」
「じゃあ、彩ちゃん、詠美ちゃん、私たちは用があるからこれで失礼するわね。会計よろしくね。あ、彩ちゃん。体調が悪かったなら無理しちゃダメよ。ゆっくり休んでね」
そう言うと、席を立ってそのまま店外に出て行ってしまった。
詠美さんと2人で顔を見合わせて、ハァっと溜息をついた。
「詠美さん! 本当にすみませんでした!」
「もう! ちょお心配したのよ! 大変だったんだから!」
「すみません! すみません!」
そして第2ラウンドが始まったのである。
最後まで読んでくれてありがとう。
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