Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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62話 由宇からの頼み

 

 詠美さんたちと別れた日の夜。1本の電話が鳴った。

 お母さんかな? と思って受話器を取り上げて名乗ったところ。

 

『まいど、その声は彩はんやな。ウチやウチ』

「あ、由宇さん?」

『そやそや。突然電話してすまんなぁ。今大丈夫?』

 

 由宇さんとわかって、少し緊張した。

 今朝ファミレスで謝ったとはいえ、先月あれだけ言いたい放題言ってしまったのだ。あの謝罪だけで全て水に流す、というのは少し難しいだろう。

 しかし、由宇さんはそんな私の状態を見抜いて、すぐに声をかけてくれた。

 

『あ、構えなくてええで。今朝言った通り、先月のことはウチにも責任あるわけやし、そのことについて電話したんやないしな』

「……えっと、由宇さん……あの時は、その……」

『ええって! まぁいきなり言われてもそら難しいわな。ウチも彩はんがあんなに怒るとは思わんかったし、戸惑ったで』

「……」

『あー、今のはウチが悪いな。話を蒸し返してしもた。話進まんし、一旦水にながそ、な?』

「……はい」

 

 由宇さんの言う通り、いつまでもあのことを引っ張ってはいられないし、話も進まない。

 一旦、この場でその話題を出すのはやめる方向で合意した。

 

『電話したのはな、1点報告と1点お願いごとがあったからなんや』

「お願いごと……ですか?」

『そや、まずは報告な。今朝あの後な、和樹はんのところと大志はんのところに行ってきたで』

「えっ! その……」

『2人にはウチらからしっかり言っておいたから、もう大丈夫やで。心配せずに今後は安心して同人活動してや』

「えっ……、ありがとうございます。でも、えっと、どうやって……」

『……詳細は伏せるんやけどな、瑞希はんと牧やんには今度よう礼を言っておくんやで。2人ともカンカンでウチが引き留め役になったほどだったんやで』

「ひ、引き留め役って……?」

『言葉の通りや。ウチも今回のことは怒髪天(どはつてん)()くが如しで怒っといたんやけどな、瑞希はんと牧やんはウチの比やなかったんや。瑞希はんなんてどこからか釘バット持ち出してきてな。それで2人に殴りかかっとったで』

「釘バット!?」

 

 意外なことを言われた。

 どこまで本当かはわからないが、普通に考えてると由宇さんが特攻隊長を務めそうなものなのに、由宇さんが引き留め役にまわるだなんて信じられない。

 しかも釘バットと言ったのか。釘バットってあのテレビなどで暴走族の人が振り回すあの釘バット? そんなの日中帯にどうやって持ち歩いたというのだろうか?

 移動の段階で持ち歩いていたのか聞いてみたかったけど、なんだか怖くて聞けなかった。

 

 『和樹はんは割とすんなりいったんやけどな。大志はんの方が大変だったんよ。大志はんは大志はんの考えがあっての行動だったみたいやな。ウチらがああだこうだ言ったんやけど、あのアホ口達者でな。のらりくらりと躱しよる。そこで痺れを切らした瑞希はんが釘バットで殴りかかってな。脅しのためかと思いきや壁にめり込んでたからえらいこっちゃやで。瞳孔開いてたからこれはアカン、と思って牧やんと止めたんよ』

「……」

『さすがの大志はんも腰抜かしとったわ。『お、落ち着くんだマイシスター!』言うて謝り倒してたくらいや。でも瑞希はんカッコよかったで。『あんたが和樹になに誘おうとやらせようと勝手よ。でもね、彩ちゃんと和樹が恋愛するのだって同じくらい勝手なのよ。それをあんたのふざけた都合と意見で邪魔すんじゃないわよっ!』って啖呵切ったんよ。もう惚れ惚れするくらい痛快な光景やったわ』

 

 唖然とする。なんていうか、とんでもない話だ。

 『後は私に任せてくれる?』と言っていたけど、そんな実力行使するとは思いもしなかった。

 

「……あの、由宇さん」

『ん、なんや?』

「えっと、和樹さんと大志さんにお怪我はないですか?」

『ああ、ギリギリなかったで』

「……」

 

 ギリギリ、というのが少し気になったけど、ないのであればよかった。

 しかし、瑞希さんはどうしてそんなに怒ってくれたのだろう?

 考えてみたらスタッフになったことも、まだ理由がわかっていない。今度聞いてみようかと思った。

 

『まぁ瑞希はんにも牧やんにも、今度礼を言っとくんやな。それでお願いしたい件やけどな』

「あ、はい。なんですか?」

 

『……詠美のこと、頼んでもええか?』

 

 一瞬耳を疑った。1件目の話があまりにも突拍子のない話だった、というのもあるが、言った内容を理解するまでに時間がかかった。

 

「あの、どういうことですか?」

『ん、唐突すぎてわからんよな。順を追って説明するな。以前ウチと詠美がユニット組んでて仲違いした話はしたわな』

 

 その話はよく知っている。詠美さんからも聞いていたからだ。

 詠美さんのデビュー時に隣同士のブースで、参加者から同人誌を酷評されたところを由宇さんがかばって以来の仲だとか。

 ただユニットを組んだものの、次第に方向性の違いでケンカ別れして解消したという話だった。

 

『うん、大体合っとる。ただな、詠美が売れる同人誌にこだわるようになってしまったのはウチにも少し関係あんねん』

「どういうことですか?」

『あれは詠美がウチの売り上げ部数を上回った時の話や。あの子の部数が伸びたことを、ウチは素直に喜べんかったんよ……』

「えっ……」

『あの子に売り上げが抜かれて()()()()()()()。だからあの子の成長を素直に喜べんかったんよ。要は認めてあげられなかったんよな』

「……」

『ウチもその時は少しムキになってな。『参加者に媚びるような作品はイカン。情熱が全てや』とかそんなこと言ったと思う。きっと詠美も気付いたんや、悔しがってるって。それ以来、ことあるごとに『同人誌は売れてなんぼ』とか言いだしてな。それから少しずつケンカが多くなったんや』

 

 少し意外な話だった。

 由宇さんにとって『同人誌は情熱こそ全て』というイメージがあったから、売り上げで負けて悔しい、という気持ちはないと思ってた。

 

『ダサい話やろ? 口では情熱が全てや、とかなんとか言いながら、ウチは売り上げを気にしとった。しかも知らず知らずのうちにあの子のことを下に見とったんや。ユニット解消は当然の結果と言えるやろ』

「そう……だったんですね」

『解消した後に自分が何をやったか気が付いたんや。謝ろうとも思ったんやけど、その頃には詠美のやつはすっかり持て(はや)されて天狗になっとってな。生意気なことばかり言うようになったから、売り言葉に買い言葉で更にケンカばかりするようになったんや。でも口ではウチに勝てんから、いつも悔しそうにしてな。そのうち嫌がらせするようになってきたんや。だから彩はんと一緒にいた時も新たな嫌がらせかと思ったんや』

「……」

 

 話がつながったような気がした。

 先月の言い争いの時の由宇さんの態度は少し異常だった。

 普段から乱暴な言葉遣いをするが、なぜあそこまで露骨に暴力を背景に脅すような態度をとるのかと思い、それで私も我慢できなくなった節がある。

 なにより、最後に出たあの一言だ。

 

『なんや……ウチのせいなんか……。彩はんも詠美も、売り上げばかりにこだわったのは、ウチのせいだっちゅうんかい!』

 

 後から思い返してみても、あの一言だけが浮いていた。

 あれは由宇さんの後悔の念も混じっていたのかもしれない。

 また詠美さんを誘う時に、『自分の考えを認めなかった人たちを後悔させる機会を得られる』と言って誘った。

 あれは由宇さんと詠美さんの不仲な理由を考えた上での発言だったが、どうやら完全に的中していたようだ。

 

『ただ実際、詠美の同人誌の内容には情熱が一切なくて、売れるだけの中身が薄っぺらな同人誌を描いているだけやったからな。謝るもクソもなかったわけや。元々内気な性格しとるくせに高飛車な態度なんて取るから友達もおらんくなるし、どんどん1人になっていった。せやけど、なぜか彩はんだけには心を開いとる。だから彩はん、詠美のことを頼みたいんや』

「……そういうことでしたか」

『頼めた義理ちゃうっちゅうことはよくわかっとる。せやけど一度はユニットを組んだ仲や。本当は詠美はマンガにすごい情熱を持ったええ子なんや。昔の詠美に戻してなんて言わん。でも1人でいる姿は見てられへん。今後ともあの子と仲良くしたってぇな』

 

 ガサゴソと服のこすれる音が聞こえる。電話越しにお辞儀をしているのだろう。

 突然の依頼で言葉を失っていたが、クスリッと吹き出してしまった。

 

『なんや~、なんで笑うんや』

「だって由宇さん、お母さんみたいなこと言うんですもの」

『そんなんではないと思うけど……』

「言われずとも詠美さんは私の友達です。私も今回詠美さんにたくさん助けられたし、すごく仲良くなったんです。情熱をもった同人誌を描かせることはできませんけど、仲良くしていきますよ」

『そ、そうかぁ。彩はん、おおきに!』

 

 そうして軽く雑談したのち、電話を切った。

 予想外の依頼だったけど、由宇さんとの関係がギクシャクしていた状態も解消できたよかった。

 たくさんのことがいろいろあった一日だった。後は寝支度をして、気持ちよくベッドに入って寝るのであった。

 

 ――翌日。

 

「いやさ……瑞希と南さんと由宇からメチャクチャ怒られたよ……」

 

 和樹さんは先日の訪問(しゅうげき)の話をしてくれ、私は苦笑いしながら話を聞いた。

 




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