Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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63話 あなたのことが……

 

 『ピンポーン』

 

 和樹さん宅のチャイムを押して、「開いてるよー」という声が聞こえて、ドアを開ける。

 今日からまた、和樹さん宅で同人誌を描く日々が始まった。

 荷物を置くと、お茶を淹れる旨を伝えて和樹さんから了承をもらう。慣れた手つきでカップを取り出して2人分の紅茶を淹れて、和樹さんの前に置いた。

 

「ありがとう、彩」

「いえ、このくらいどうってことないです」

 

 以前と同じ、気遣いに満ちた声をかけてくれて、胸の奥が温かくなった。

 原稿を描く準備を整えると、早速作業に取り掛かった。

 顔をあげると和樹さんの真剣な表情が目に入る。しばらく眺めていると気が付いて顔をあげた。

 

「どうしたんだ、彩? なんか俺の顔についているか?」

「いえ、なんでもないです」

 

 ニコッと微笑み返すと、和樹さんは見惚(みと)れたような顔をしてボーっとした顔つきになった。

 

 ――好きな人と、一緒に作業ができる。

 

 紆余曲折ありながらも、元に戻った日々のありがたさを噛みしめながら、作業を再開させていくのであった。

 

 ---

 

 2カ月間の詠美さんとの作業を経て、私のマンガは変わった。

 大きく変わったのは2つ。1つは絵の質だ。以前のデッサンのような絵柄も描けるが、詠美さんの同人誌のような絵柄も描けるようになった。

 2つ目は参加者のニーズを掴んだ作品だ。以前は亡くなった父が喜んでくれそうな話ばかりを考えて描いていたが、詠美さんの教えもあって参加者のニーズを満たすような観点も考えられるようになった。

 この2つができるようになったおかげで、作品に大きな幅を持たせることができるようになったのだ。

 そうなると、自然に作業の内容も異なってくる。以前は渋いキャラクターしか描けなかったが、今はこみパの参加者が好きになりそうな若い男女も描けるので、以前より多彩な表現と奥行きを出せるような気がした。

 

「和樹さん、プロットと簡単にネームを考えてみたんですが、どう思います?」

「あ、ありがとう」

 

 そう言って、原稿を手に取ると和樹さんの表情が変わる。

 以前と同じく真剣な表情でネームをチェックしてくれる。ただ、以前と少し変わった点があるとすれば、時間がかかっていることだ。

 変なところあったかな? と思って待っていると、和樹さんの口が開いた。

 

「……なんか、すごいうまくなってない?」

「えっ、そうですか?」

「うん、彩の元々洗練された技術に詠美の画力が加わった感じ。マンガの表現力が圧倒的に増してるよね」

「そう……ですかね?」

「たった2カ月詠美のところで作業してただけでこんなにうまくなるもんか。彩、どんな練習してたんだ?」

 

 返ってきたのは意外な回答だった。この2カ月間でやった練習を伝えると、和樹さんはあんぐりした表情を浮かべた。

 

「1カ月間で詠美の絵を模写600枚!? なんだそのふざけた量は……」

「詠美さんに言われたんです。とにかく描けって。目を瞑っても描けるくらいにならないとダメだって」

「詠美のやつ、そんなに練習してるのかよ。どおりでスケブで一筆書きできるもんだぜ……」

「詠美さん、毎日すごい作業量をこなしていましたから。私の指導をしつつ、原稿はしっかりしたクオリティで仕上げてましたからすごかったですよ」

「……やっぱり、1年目の俺が人を導くってのは無理があったわけだな……」

「えっ……」

「いや、大志に言われたんだよ。結局俺は、まだ成長段階の中途半端な存在だってのに、他人に指導なんかできるはずもなかった」

「……」

 

 大志さんに叱られていた和樹さんのことを思い出す。今言っていたのはあの日のことだろう。正直、私にとっては苦い記憶だ。

 和樹さんが中途半端な存在だっていうのはさておき、一般論で言えば成長段階の人が他人に指導するのは難しいだろう。現にあの時、和樹さんは自分の原稿が疎かになってしまったわけだし、大志さんの指摘は間違いではなかった。

 

「あ、暗い気分にさせて悪い。結局俺がちゃんと彩にユニットを組む理由を伝えなかったのが悪かったわけだしな。彩はなにも悪くない」

「……そういう言い方、悲しいです」

「えっ……」

「確かにユニットを組む理由を話してくれなかったのは、2カ月間離れ離れになった原因の1つかもしれませんが、私にも悪いところがありました。思い込んで勝手な行動ばかりとっちゃいましたし、周りにも相談しなかったわけですし。それに……」

 

 一呼吸おいて、和樹さんに向き合いながら口を開く。

 

「それに私は、自分に自信がなくて()()()()()()()()()()

 

 そう、これが今回の騒動の一番の原因だ。

 私は迷惑をかけたくないと言いながら、1番根っこのところでは傷つくのを恐れていたんだ。

 誰かの足を引っ張ることで、みじめな気分になりたくなかった。邪魔なやつだと思われたくなかった。そして結局『迷惑じゃない』と言ってくれた和樹さんの言葉を信じきることができなかった。

 

 父を亡くしてから、ずっと卑下していたように思える。

 以前のように笑えなくて、明るくなれなくて。学校でもなんでも1歩引く姿勢が身についてしまった。

 父という拠り所をなくした私は、あまりに弱かった。

 自信を持てなくて、同人誌を描いても売れないのは当然だ、とどこかで受け入れてしまっていた。

 

『よくできました。じゃあ今度誘われた時は迷ってはダメよ?』

 

 南さんから言われた一言を思い出す。

 最初の誘いを断ったのも自信がなかっただけだ。ユニットを組んだ後で邪魔と言われても、受け入れることしかできない現実が嫌だったのだ。

 

「だから、そんなに自分を責めないでください。根本的には私自身の弱さがあったの。でも、和樹さんはそれでも迷惑じゃないって誘ってくれた。あなたと一緒に作業をする日々は、本当に楽しくて。私に誰かと一緒に作業する喜びを教えてくれたんだから……」

「……彩」

 

 すっと和樹さんの横に座り、肩に頭を乗せる。頭を撫で返して、軽く肩を抱き寄せてくれた。

 

「――強く、強く抱きしめてください……」

 

 応じるように――もう離れられぬように強く、しかし優しく抱きしめて、頭に口づけをした。

 和樹さんの胸元に顔をうずめる。トクトクと和樹さんの鼓動が聞こえてくる。

 顔をあげると見守るような視線を交わし、目を瞑ると優しくキスをしてくれた。

 

「和樹さん、私、あなたのことが大好きです――」

「俺も、彩とユニットを組んでよかった。大好きだよ」

 

 それから何度もキスをして、お互いの存在を確かめ合った。

 




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