Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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64話 仲違い

 

「和樹ーっ! いるー?」

 

 チャイムが鳴るや否や、外から声がした。和樹さんが応答すると、そのまま玄関のドアが開かれて両手にビニール袋を抱えた瑞希さんが入ってきた。

 部屋に入ってきた瑞希さんは私と目が合うと、驚いた顔をした後、笑顔で近づいてきた。

 

「彩ちゃん、ここで会うのは久しぶりね! 戻ってきてよかったわっ!」

「瑞希さん、この間はありがとうございました」

「ううん、全っ然大丈夫よ! 私も気付いてあげられなくてごめんね!」

 

 この間ファミレスで会ったとはいえ、こうやって話すのは随分久しぶりな感じがする。

 チラッっと和樹さんに目をやると、なんだか気まずそうな顔をしているのが見える。やはり訪問(しゅうげき)のことはトラウマになっているのだろう。

 軽く二人で雑談してると、和樹さんが瑞希さん分の紅茶を淹れてテーブルに置いてくれた。お礼を言いながらも、視線を私に向けたまま、おしゃべりを続けた。

 

「今日はどうされたんですか?」

「和樹の冷蔵庫の中が空っぽだったから、買い出ししてきたのよ」

 

 そう言って持っていたビニール袋を見せてくれる。なるほど、またいつものお世話を焼いているのか、と思った。

 

「彩ちゃんはどうなの? また前と同じように平日は毎日和樹のところに来るの?」

「いえ、今は週3回だけ来るようにしています」

「あれ? 2回はどうしてるの? バイト?」

「詠美さんのところです。仲良くなってあちらにも顔を出すようになったんです」

 

 そう、詠美さんとの関係は途切れたわけではない。

 結局ユニットを組む話はなくなったが、依然と仲良くしていて、定期的に詠美さん宅でも作業をするようになった。

 なんでも詠美さんのご両親も私が来ないと寂しい、と言ってくださるみたいで、行くといつも笑顔で迎えてくれる。ありがたいことだ。

 

「そうなんだ。詠美ちゃんって『こみパの女王』って呼ばれているのよね。私より年下なのにすごいわね。スタッフの間でも知らない人はいないもの」

「……そういえば瑞希さんはどうしてスタッフをやっていたんですか? タイミング的には私がここに来なくなった辺りからやってたみたいですが……」

「ああ、私もなにかの形でこみパに携わってたいと思ったの。それを南さんに相談したらスタッフなんてどう? って誘われたからさ」

「そうだったんですね」

「うん。なんでも人手不足なんですって。それにね、南さんって田舎にご両親を残してきていて、将来帰省しないといけないかもだけど、自分の仕事を引き継ぐ人がいないんだって。だから私がなれればと思って」

「……それでスタッフをやっていたんですか?」

「まぁそれだけじゃないけど。なんとなくね、私も和樹や彩ちゃんのサポートをしてあげたかったの。彩ちゃんが帰ってきた時に私がスタッフだったらなんかサポートできるんじゃないかと思ってさ」

 

 あまりにも瑞希さんらしい理由で驚いてしまう。

 そして同時に、自分はバカだと思った。私は夢の中で、一度瑞希さんを悪者にしてしまった。

 あの夢はきっと私の嫉妬心からくるもので、和樹さんと離れている間、瑞希さんが取ってしまって2人の仲を決定的にしてしまうんじゃないか、と心のどこかで恐れていたんだと思う。

 瑞希さんはどこにいても誰かのために行動して、そしてみんなから慕われている。本当に素敵な人だと思う。

 そんな人をあんな風に嫉妬するだなんて、本当にどうかしていた。

 

「なんだか、ありがとうございます。私も今度のこみパで、瑞希さんのスタッフ姿を見たいです」

「うんっ! 自分で言うのもなんだけど、結構似合ってると思うの。見たらちゃんと褒めてよね?」

 

 そう言って2人でアハハッと笑う。

 久しぶりということもあって、そのまましばらく雑談をしていた。

 途中で和樹さんも輪に加わって話が盛り上がった。原稿もあるけど、たまにはこういうのもいいだろう。

 

「そういえば彩ちゃんって今年卒業でしょ? 進学するの? それとも就職?」

「そうだ、それ俺も気になってたんだ」

「あの、驚かないで聞いてほしいんですけど……和樹さんと瑞希さんと同じ大学になりました」

 

 2人ともポカーンとした顔を浮かべる。

 意外そうな顔をした後、すぐに表情を崩して笑った。

 

「なんだ、そうだったのか。じゃあ4月から俺の後輩になるわけだ」

「はい、だからその……よろしくお願いします」

「わー! 彩ちゃんが私の後輩になるなんて嬉しい! 一緒にキャンパスライフ楽しもうね! また校内案内してあげるっ!」

「瑞希お前そればっかだな。まぁ俺も1年のうちに取得しといた方がいい単位とか教えられると思うよ」

「和樹~、あんた単位ギリギリでしょ? ちゃんと教えられるの?」

「うるせぇな、だからこそ教えられるものがあんだよ」

「どうだか。そんなんだから大志のやつにいろいろ言われちゃうのよ」

 

 瞬間、和樹さんが真顔になった。

 口を(つぐ)んで視線を落としてしまった。

 

「あ……ごめん。まだ気にしてたとは知らなくて」

「いや、いいよ。今はそんなに気にしてねぇし」

 

 気まずい雰囲気になるのがわかる。

 2人を見やると瑞希さんはまずいことを言った、という顔をしており、和樹さんは以前と視線を伏せている。

 

「ねぇ、和樹。大志とはあれ以来会ってないの?」

「……ああ、会ってない」

 

 和樹さんは目を合わせず、少し不機嫌そうな顔をして返事をした。

 

「……仲直りしないの?」

「あいつとは、()()()()()()()()。だから、もういいんだよ」

 

 そのやりとりを聞いて、少し状況を察した。

 おそらく私がいない間に、和樹さんと大志さんは不仲になったのだ。

 そういえば由宇さんも電話で、詳細は伏せる、と言っていたような気がするけど、関係あるのだろうか。

 聞いてみたいけど、なんとなく聞き出しにくい雰囲気になってしまい、この話題は流れてしまった。

 しかし、帰りに瑞希さんと一緒に帰宅をした際に、少し聞き出すことができた。

 

「なんだかね、大志とケンカしちゃったみたいなのよね……」

「それは、私とのことが原因なのでしょうか?」

「う~ん、それも1つのきっかけなんだろうけど、それ以外のことかな」

「それ以外、ですか?」

「うん、和樹ってデビューしてすぐに完売して一気に壁サークルになったでしょ? あれって大志が裏でサポートしてたみたいなの」

「どういうことですか?」

「要はね、和樹の本をインターネットとかを使って宣伝してたんだって。大志ってこみパの中では少し有名人みたいで、自分がおすすめしたサークルは人気になるってジンクスがあるみたいなの。そのおかげもあって最初から売れ行きが良かったみたいなのよね」

「えっ……」

 

 以前詠美さんから聞いた話を思い出す。

 詠美さんも以前、大志さんにおすすめされたことがある、と言っていた。

 まさかとは思ったけど、やっぱり和樹さんの同人誌についても、おすすめしていたんだ。

 

 「もちろん、ちゃんと売れたのは和樹の実力よ。こみパには初参加のサークルだから買うなんて文化はないし、同人作家と参加者の真剣勝負だもん。いくら宣伝されたからといって中身が伴っていなければ絶対売れないし」

「でも、普通に考えたら自分を宣伝してくれるんで嬉しいことですよね?」

「うん。確かにその通りなんだけど……、大志が裏で黙ってやっていたのと、和樹に頑張らせるため彩ちゃんを突け放すようなことを言ったことがわかったから、和樹はそれに怒ったの」

「えっ……」

「和樹ね、彩ちゃんと離れてすごい寂しがってたの。あいつにとって彩ちゃんと一緒にいる時間はかけがえがないものだったみたい。それを奪われた上に自分の努力ではなく大志のおかげで売れた、みたいな形になったのがいけなかったのよね」

「和樹さんは、大志さんと仲直りしないのでしょうか?」

「さっきのあの感じじゃね、まだ難しいと思う。和樹って〝腐れ縁〟とか言ってるでしょ? でも辛辣な言い方するのって信頼してる証でもあるの。他の人にあんな言い方絶対しないもの。心のどこかでまた仲良くなりたい、って思っているはずなんだけどね」

 

 なんだか複雑な気持ちだ。

 和樹さんと寄りを戻して、ようやく片付いたと思ったら、まだ禍根を残っているとなると後味が悪い。

 しかも瑞希さんは〝きっかけ〟と言ってくれたけど、普通に考えて原因は私にもありそうだ。あの時の自分にはああする他なかったとしても、その結果恋人(かずきさん)が友達とケンカしているのであれば責任を感じざるを得ない。

 

「なんとか、ならないでしょうか……」

「あ、ごめんね! 彩ちゃんの立場からすると気になっちゃうよね。でもきっと大丈夫よ。だってあいつら〝腐れ縁〟だし」

 

 ニコッと笑顔を返してくれる。

 答えるように微笑み返すが、気持ちのモヤモヤは残ったままだった。




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