Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~ 作:拓田しろう
今日は詠美さん宅で作業をしている。
チャイムを押して玄関を開けると、詠美さんのお母さんが笑顔で出迎えてくれた。
「いらっしゃい。今日は詠美と一緒に作業してくれるの?」
「はい、お邪魔します」
「あら彩ちゃん、ここ数日で見違えるほどキレイになったわね? 前より明るくなったし。恋でもした?」
「……ッ! いえっ! そんなことは……!?」
「フフ、そんなに慌てるんじゃ恋してるって言ってるようなものよ。とってもいい人みたいね。詠美は同年代だっていうのに明るい話1つもないんだから。親として心配しちゃうわ」
顔が真っ赤になっていくのがわかる。
どうして私の周りの年上はこんなに勘がいいのだろう? いや、私がわかりやす過ぎるだけなのだろうか。
うまく受け答えできず、お邪魔しますと伝えて家に上がらせてもらった。
「詠美さん、お邪魔します」
「ふみゅう……いらっしゃい……」
――あの、どうしたの、詠美ちゃん様?
明らかに様子がおかしい。というか口調もおかしい。そういえば少し前から疑問に思っていたが、詠美さんはたまに変な口癖が出る。今も言ってなかったか?
不審に感じたので、詠美さんの机の上に視線を移すと、原稿ではなく数学の問題集が広がっていた。
「あの……詠美さん、少しいいですか?」
「ふみゅん、なに?」
「今、なにをやっているんです?」
「……ん、数学の宿題……」
そういうと、「ここがわからないの……」と言いながら数学の問題集を見せてくれた。おそらく私が来る前からやっていたと思われる。
しかし、計算した後もなければ、解こうとした形跡もない。つまり私が来るまでの間、少しも進んでいなかったことになる。
「ちょっと、見せてもらいます?」
問題集を手に取って、内容を確認してみる。おそらく卒業に向けた三年間の総復習なのだろう。しかし内容的には、中学三年生レベルの問題だった。
「あの、詠美さん。失礼ですが、高校ってどちらです?」
「ふみゅん、B女ってとこ……」
詠美さんが口にした高校は、近隣でも偏差値が低いことで有名な私立高校だった。『制服は可愛いが、頭が良いイルカだったら入れる』と
前まであれだけ高飛車だった詠美さんが今や見る影もない。定期的に変な口癖を言うだけの生物に成り下がっている。
詠美さんに視線をやると、今も「ふみゅうううん」と肩を落としている。宿題をやっていると、いつもこうなのだろうか? いや、そもそもこの程度の問題でこのありさまだったら、この間の2カ月間はどうしていたんだろう?
マンガの時はあれだけ頼もしいのに、今は見る影もない。
「ちなみに、今日の宿題ってどこまでなんですか?」
「こ、このページと、このページ……」
「しょうがありません。手伝いますよ」
「え、やってくれるのっ!」
さっきまで自信なさげな顔をしていたが、キュルンッと擬音がなったかのように、目の色を輝かせて見つめ直してきた。
「やらないです。わからないところは教えますので、一緒にやりましょう」
「ふみゅん、わかった……」
こうして、詠美さんに勉強を教えることになった。
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詠美さんはびっくりするくらい勉強ができなかった。
「詠美さん……ここはこの公式を使って解くんです。『x²+3x-10=0』ってあるでしょう? 解の公式を覚えてますか?」
「ふみゅう……。それってなんだっけ? あれだよね、“マイナスb”ってやつ……?」
「そうそう。“x=(-b±√(b²-4ac))÷2a”です。ここでa、b、cっていうのは式の係数を指すんです」
「ふみゅううん……“係数”ってどれ?」
「問題文を見てください。x²の前についてるのがa、xの前がb、定数の部分がcです。この式だとa=1、b=3、c=-10ですね」
「ええっと……じゃあ公式に代入すると……マイナス3±√(3²-4×1×-10)……?」
「そうです。そこまでは正しいです。次、計算してみてください」
「√(9+40)だから……√49? ってことは……マイナス3±7?」
「うん、そこまでできればゴールです。だから解は、“(-3+7)÷2=2”と“(-3-7)÷2=-5”の2つですね」
「ふみゅうううん……。なんかパズルみたい……。でも、これ、公式覚えてなかったら絶対無理だよ……」
「まぁ、そうですね。だから受験生はみんな無理やりでも覚えるんです」
「ふみゅうううううん……頭いい人ってこういうのサラッとできるんだね。あたし一生かかっても覚えられる気がしない」
「いや、覚えられますよ。毎日ちょっとずつやれば。……っていうか、これ解けないと卒業できませんよ……?」
「ひぃ……それ言わないでぇ」
勉強していて教えてもらったことだが、詠美さんは赤点が多すぎて卒業の危機なのだそうだ。来週の追試が赤点だと留年が決まるらしい。
さすがの私も、なんでそんな状況でマンガを描いているんですか? と聞くと。
「いや~、本番になればなんとかなるかと思ってさぁ☆」
――頭にお花畑でも咲かせているのだろう。実に楽観的な言葉を口にした。
そんな話を聞いてしまったら無視していられない。というかそんな状態なのにちょっと前までよく私のマンガの指導してたな。
「だって、彩困ってそうだったし、私だったら教えられるし、温泉パンダに後悔させられるって思ったし……」
詠美さんに使った説得の言葉は、性格を考慮した上で、最も効果的な言葉を選んだものだった。
なんとか詠美さんに頷いてもらう必要があったため、考えに考えたが、どうやら効きすぎてしまっていたらしい。
しかし、気概は嬉しいけど、卒業がかかっているのであればそんなこと言っていられない。
来月のこみパよりも詠美さんの学力向上を優先し、解き方や基礎を教えて自己学習できるようにする。――そう思ったが、もっと手前の段階で
「本当に勉強苦手なんですね……」
「ふみゅ! そんなこと言わないで~、あたしも気にしてるの~」
「とりあえず、今やったところをもう一度問題変えてやりましょう。このページをやってみてください。私はその間に原稿やるので」
「……ん、わかった」
そういうと大人しく問題を解き始めた。
勉強は苦手だったものの、基礎や考え方を教えたら、少しずつできるようになった。どうやら最初に理解する部分を
ふう、っと溜息が出る。
まさかいろいろ話したいと思っていたのに、勉強を教えることになるとは思わなかった。
それから1時間ほどしてから問題を解き終わったので採点する。計算間違いはあるものの、ひとまずは及第点だろう。
間違えた箇所を教えて解き直させて、少し休憩に入った。
「終わった~! 彩、ありがとう!」
「よかった。やればできるじゃないですか」
「いやぁ、あたしもうまく教えてもらえればなんとかなるもんねぇ。お茶持ってくるわね」
そういうといかにもルンルンといった様子で部屋を出ていった。よっぽど宿題を終わらせたのが嬉しいと見える。
程なくして2つカップを持った詠美さんが戻ってきた。部屋に甘いカカオの香りが漂う。詠美さんの大好きなココアをテーブルの上に置かれ、2人してゆっくりと啜った。
「あの、詠美さん。少し話していいですか?」
「ん、なに?」
そうして和樹さんと大志さんが仲違いしていることを話した。
詠美さんは眉間に皺を寄せて、うんうんと話を聞いてくれた。
「ふうん、あの2人がねぇ……」
「瑞希さんは違うと言ってくれましたが、なんだか私が離れたことも要因になっているので、複雑な気持ちになってしまって……」
「まぁ確かに辛い状況ねぇ……。それで彩はどうしたいの?」
「なんとか元通り仲良くなってもらえないかなと」
「まぁそうなるわよね。でも難しいわよね。そもそも九品仏大志がどこにいるってわかる?」
「あっ……」
「まぁわかったところでって感じがするけど、かといって会ったとしてどう話すのよ。『和樹さんと仲直りしてください』って言うの? それで『はい、わかりました』で仲直りすれば苦労はないけど、絶対にそうならないでしょ」
「……」
「まぁ気持ちわからなくもないけどね」
「そうなんです。ずっと複雑な気分で……」
「うん、だったら1回南さんに相談してみれば?」
「南さん、ですか?」
「うん、私じゃ考えが浮かばないけど、なにか教えてくれそうじゃない?」
以前南さんになにかあったら相談するように、と言われたところだった。
どういう形になるかはわからないけど、一度相談してみよう。
「わかりました。ちょっと相談してみますね」
「うん、いいんじゃない?」
「そうですね。さて、そろそろ続きやりましょうか」
「……えっ?」
「来週のテストは数学だけじゃないんですよね? あと国語と英語やっておかないと。数学であの調子だったら、そちらも酷いんでしょうし」
「ふみゅ~、まだ勉強するの~! 勘弁してよ~」
「ダメです。卒業がかかってるんですから。しっかりやりますよ!」
そうして、涙を浮かべる詠美さんのお尻を叩きつつ、勉強を教えるのでありました。
――翌週。
『ふみゅうん、なんとか赤点は免れた~』
詠美さんは辛くもテストをクリアし、卒業が決まりましたとさ。
最後まで読んでくれてありがとう。
彩の物語を最後まで楽しんでみてね☆
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