Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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66話 詠美のやる気

 

 今日も引き続き詠美さん宅で作業を続ける。

 テストは辛くもクリアできたことで、ようやく同人作業に集中することができた。

 着手が遅れること1週間。通常であれば辛い遅れであるが、ベテランの詠美さんであればどうってことないだろう。今も机に座ってプロットを考えているところだ。

 ネームに従って原稿のコマ割りや下書きを描きながら、私は私の作業を進めていた。

 

「ふ~、少し休憩っ! やっぱマンガ描いている方が性にあっているのよね~」

「先週は勉強大変でしたからね」

「もー、彩ったら容赦ないんだから。5時間ぶっ続けで机に向かっているなんて倒れちゃうわよ」

「マンガだったらそのくらい平気じゃないですか。修羅場を迎えた時の方がまだ大変でしたよ」

「マンガ描いてるときとは精神(メンタル)の削れ具合が違うの~。勉強なんてきらーい!」

「でもあれだけ追い込んでやったからなんとか卒業が決まったじゃないですか。そうじゃなかったら留年してもう1年嫌な勉強をやる羽目になっていましたよ?」

「うっ……それはそうだけど……」

「感謝してください。あの日勉強教えられてなかったら今頃もっと辛い気持ちになっていたんですから」

「ふみゅうん、彩ってば、なんか最近変わったわね。以前より物言いが鋭くなってきたというか……」

「変なこと言わないでください。ほら、原稿やっちゃいましょうよ」

「あ、そうだ。今回のネーム見せてよ。今回は『売れる同人誌』にこだわらずオリジナル描くんでしょ?」

 

 そういうと手を伸ばしてきた。どうやら見せて、ということらしい。

 原稿用紙を渡すと真剣な面持ちになって読みだした。ページを捲りながら今回の話やコマ割りを見ているようだ。

 指導を受けていた時に言ってくれたが、実は詠美さんも私の描くマンガを気に入ってくれていたらしい。以前のこみパで私の同人誌を毎回見に来てくれるな、と思っていたが、そんな思いがあって読んでいたとは知らなかったので驚いたものだ。

 詠美さんと描いた時は部数を売ることが目的だった。変な言い方をすれば〝描きたくないモノ〟を描いていた。ただ今回はもう部数など関係なく、描きたいモノを描こう、と以前と同じような雰囲気の本を話を描いている。

 まだマンガになり切っていない原稿を、詠美さんはまじまじと見ている。――しかし、見るとこは多くないはずなのに随分長く原稿を眺めているな。

 眺めているだけならまだしも、眉間に皺を寄せたり、目を閉じてウンウン唸ったりと明らかにマンガを読んでいるようには見えない。

 邪魔してはいけないと思いつつも、話しかけてみた。

 

「あの、なにか変な箇所ありましたか?」

「……うん、やっぱり描き直しね」

「えっ、な、なんでですか? どこか変なところありました?」

「ううん、変なところはないわ。……彩のマンガってやっぱり面白い。なんていうか、本当に〝こうしたら面白い〟ってところを抑えてるって感じ」

「え、えぇ……」

「加えてこの2カ月近く、今風の絵に寄せて画力向上したから、シナリオは面白いのに表紙買い人たちも飛びつきそうな絵になってる。作品に幅が出てきたのよね……」

「だ、だったら、その、なんで……」

「元々基礎的な画力とセンスは高かったからね。そこに加えて参加者にウケる画力が加わったから、なんていうかすごい上手な感じ」

「いえ、まだネーム段階ですし……いえ、そうじゃなくて詠美さんっ! なんで描き直しなんですか!?」

「あ、ごめん。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……えっ」

「さっきプロット書き終わったけど、やり直すわ。()()()()()()()()()()()()()()

「えっ、えっ、あの、詠美さん、それってどういうことですか……?」

「彩がすごくて負けそうって言ってるの。だから今回は『売れる同人誌』を描くんじゃなくて、描きたいモノを思いっきり描いてみる」

「そ、そんなことないですよっ! 絵だってまだまだ詠美さんに敵いませんし、それに今までの売り上げを考えてみてください。詠美さんより良いなんてそんなこと……」

「あるのよ。確かに細かいところで言えば、彩の画力は私に劣ってるけど、それは作家目線の話なの。参加者はそこまで求めてないわ。勝ってるのは絵だけ。シナリオは全然敵わない」

「でも、そんな……今から描き直すなんて……ギリギリですよ……」

「いいの。なんか踏ん切りついたし」

 

 言いながら詠美さんは原稿を返して、机に向くため椅子を回転させ始めた。

 

「ホントはね……少し怖かったの。いつもと違う話を描いて売り上げが下がっちゃったら、澤田編集長からまたなんか嫌なこと言われたらどうしよって……。でも彩のマンガを見てたら〝なんか負けてられないな〟って思った。だから売り上げが下がってもいい。今回は全力で自分が面白いってマンガを描いてみるっ! さぁ今夜は徹夜してでも納得いくプロット書くわよっ!」

「詠美さん……」

「あ、そうだ彩。ちなみに聞くけどさ、今回ってコピー本じゃないわよね?」

「え……いえ、またコピー本にしようかと……」

「それぜったいオフセットにした方がいいわよ。お金は前回の売り上げがあるでしょ?」

「え、でも……」

「つべこべ言わないっ! 100部は刷るのよ。ほら、絶対服従!」

 

 既に詠美さんからの指導は終了したはずだけど、相変わらず〝絶対服従〟命令をしてくる。

 まぁ確かにこの間の売り上げには手を付けてないし、あれはほとんど詠美さんのおかげで稼がせてもらったようなものだ。

 以前の部数より多いが、100部であればまるで問題ない金額だ。詠美さんの言うとおりにするべきだろう。

 

 それから詠美さんは5時間休憩なしで作業に打ち込んだ。

 原稿においてはとんでもない作業量をこなす詠美さんだが、今日は一味違う。

 

 ――本当に描き直すつもりなんだ。

 

 由宇さんが言うには、昔は詠美さんも情熱を持って同人活動をしていたという。今はその頃に近い姿なのかもしれない。

 正直『売れる同人誌』だった頃は面白みがなかった。でもあの画力と技術で情熱を持って描くとしたらどんなマンガになるのだろう。

 詠美さんを見る。先ほどから強い眼光で、原稿を睨みつけている。

 その目は強く輝いているように見えた――。

 

 ――私も負けてらんない。

 

 むんっ、と気合を入れて、詠美さんのやる気をもらいながら原稿に取り掛かっていくのであった。

 




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