Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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67話 相談

 

 和樹さんと詠美さん宅を行き来する日が続いた。

 詠美さんの話を和樹さんにすると、負けていられない、と言いながらやる気を出していた。

 それもそのはず、和樹さんにとっても次のこみパは特別なものらしい。

 

「そういえば言ってなかったけど、マンガ家デビューの話が来てるんだよ」

「え、すごいじゃないですか!?」

 

 飲んでいた紅茶を口から離す。あまりにも唐突にサプライズコメントをもらったので、こぼしそうになった。

 そういえば和樹さんが壁サークルになって別れて参加した時に、ブースの様子を見に来てくれた南さんから、スカウトの話が出ていると聞いたような気がする。

 

「ありがとう。いや、まだ全然決まってないんだけどな。彩と離れて活動している時にコミックZの澤田編集長って人がきてさ」

「あれ? その方ってもしかして切り目でショートヘアの紫スーツを着た人ですか?」

「そうそう、知ってるのか?」

「詠美さんのところにも来たんですよ。以前からマンガ家デビューの話が来ているものの、いつも辛口のコメントされてまだデビューできるレベルじゃないと言われているみたいで」

「……マジか。詠美でもそんなんなのかよ」

「はい、私もちょうどコメントされたところを見たの。『〝売れる同人作家〟なのか〝マンガ家〟を目指すのか?』みたいなこと言われてました」

「俺も同じようなこと言われたよ。それ以外にもトーンの貼り方が雑だとかコマ割りが良くないとか」

「厳しい方ですね」

「そうだな。でも言い返せなかったよ。俺も描いている時に『ああ、この程度ならいっか』って妥協してたところ全部突っ込まれたもん。やっぱプロの編集者ってすげーわ」

「そうだったんですね」

「それで次の新刊でいい出来だったら、正式にマンガ家デビューの話をしようって言われてるんだよ」

「和樹さん、マンガ家になるんですね」

「う~ん、正直なりたいと思ってたワケじゃねぇんだけどな。でもマンガ好きだし。きっと描いていこうと思ったら絶対に通る道なんだよな。だから挑戦してみようと思う」

「すごいですね。応援してますっ!」

 

 こんな話をしたのが昨日のことだった。

 和樹さんはマンガデビューに向けて、詠美さんは自分の描きたいマンガを描くためにやる気を出して取り組んでいる。

 私も負けていられない、と思ってはいるけど、その前にどうしても確認しておきたいことがあった。

 そう、なにを隠そう和樹さんと大志さんのことだ。

 南さんに相談したい旨を伝えると、『それではファミレスで待ち合わせしましょ』という話になり、本日に至る。

 待ち合わせ場所(ファミレス)で待っていると、南さんが入店してきたのが見えて手をあげる。南さんも気付いてこちらに来てくれた。

 

「こんにちは、彩ちゃん」

「来ていただいてありがとうございます。今日は土曜日ですけどスタッフの仕事は大丈夫でしたか?」

「ええ、毎日忙しいけどちゃんと週休2日制よ。だから気にしないで」

「ありがとうございます。南さん」

「ふふ、なんだか変わったわね。彩ちゃん」

「えっ?」

「前は少しおどおどして自信がないように感じたけど、なんだか明るくなってしゃべり方もハキハキした感じ。恋する乙女は強いのね」

 

 右手を頬に当てながらコロコロと笑う。それを聞いて顔が紅潮させてあたふたしてしまう。

 

「あら、相変わらずわかりやすい」

「か、揶揄(からか)わないでください」

「ごめんなさいね。でも前より本当にいい顔になったわよ」

 

 素直にお礼を言った方が良いのか判断に迷ってしまう。

 褒められているのはわかるが、慣れていないのでどう返したらいいかわからなかった。

 

「あら、本当におもしろいわね」

「……南さんには敵いません」

 

 そういうと南さんはまた笑った。

 店員さんが来て注文を済ませると、すぐに紅茶が運ばれてきた。

 砂糖を入れて混ぜ、レモンを軽く絞ると柑橘系の良い香りがテーブルに広がる。一口啜ると話を振ってくれた。

 

「それでどうしたの? 相談したいことって」

「はい、あの、知っている範囲でいいんですけど、和樹さんと大志さんのことで……」

「あ、そのこと?」

「はい。えっとこの間はありがとうございました。それで少し瑞希さんに聞いたんですけど、2人は今ケンカ中みたいで……」

 

 手元のソフトドリンクを口に運んで、喉を潤す。

 先日、瑞希さんから聞いた話を南さんに伝えると、うんうんと静かに頷きながら話を聞いてくれた。

 

「なるほどね。間接的とはいえ自分が原因だから、なんとかならないかと思ってる、と」

「はい、2人って普段からはそんな仲いい感じではありませんけど、すごい信頼し合っていると思うんです。それが今回のことでケンカ別れしちゃうなんて、なんだか私、イヤで……」

「そうですか。でも難しいわね……」

「あの、この間の和樹さんと大志さんのところに行った時なんですが、どんな感じだったんですか?」

「うん、あの時実はもうケンカしたあとで、お互いもう関係ないって言ってたのよね」

「えっ、あの時からですか?」

「そう。だから会いに行って互いの名前を出した時、結構感情的になってね。『あんなやつ、どうでもいい』って言ってたくらいだったの」

「その話、少し瑞希さんから聞きましたけど、大志さんの方はどうだったんですか?」

「……ちょっと彩ちゃんの耳に痛い話かもしれないけど、大丈夫?」

 

 持っていたカップをお皿の上に置き、カチンッという音が響いた。

 南さんは不安そうな顔を浮かべている。事実を述べることで、私が傷つくことを恐れているのだろう。

 ただそういう言い方をされて、じゃあダメだからやめておきます、とも言いづらい。それにそんなこと言ったら話が終わってしまう。

 また辛い事実を知ることになるかもしれないが、コクッと頷いてみせた。

 

「……あの時ね、本当に大変だったの。もちろん私たちがやったこともあまり褒められたやり方ではなかったけど、大志さんも相当怒ってた。和樹さんのことを『あんな売れていない女に入れ込んで、なにがいいんだ』とか『裏でサポートしてたのに』とかもう言いたい放題だったんです」

 

 ……少し胸に来るものがあった。わかってはいたけど、大志さんは私をよく思っていないようだ。

 しかし、同時に納得した。

 きっと大志さんは和樹さんの本をプロデュースしたかったのだろう。だけど私という存在が現れたことにより、計画が狂った。

 普通にユニットを組んでお互い切磋琢磨しているのであれば問題ない。でも和樹さんは私の同人誌の売り上げを伸ばそうとして、自分の同人誌のクオリティを疎かにし始めた。見ていられなくなり、あの日和樹さんを呼び出して叱ったのだろう。

 由宇さんはこのことを私に知られたくなくて『詳細は伏せる』と言っていたのか。なんとなく背景も見えてきたように感じた。

 

「そう。大志さんにとって彩ちゃんは都合の悪い存在だったみたい。だから追い出したかったのね。あと和樹さんの売り上げが上がれば勝手に離れていくだろうと思って、過剰なまでに和樹さんのサークルを宣伝してたみたいなの。それで和樹さんは怒ったのよ。でも当然よね、サポートしていたとはいえ、和樹さんの手で彩ちゃんを追い出すよう仕向けられたんですもの。私も本当に酷いと感じたわ」

「……」

「私も由宇ちゃんも怒ったんです。『いくらなんでも酷すぎる』って。それでも大志さんは言い逃れするようなことばかり言ってね。その様子を見かねて、瑞希ちゃんが釘バットで殴りかかったの」

「あ、その話由宇さんにも聞きました」

「あらホント? 強気だった大志さんもその様子には驚いたみたい。殴り掛かられそうになって、ようやく観念した感じだったの。瑞希ちゃんを抑えるの大変だったわ」

「……そうだったんですね」

 

 由宇さんの話だと南さんも相当大変だった、という話だったけど、その辺りはどうだったのだろうか?

 気になったけど、本人に聞く勇気がなかったのでスルーしておいた。

 

「とりあえず大志さんから謝罪の言葉を引き出して、その場はお開きになったの」

「大志さんは謝罪したと言いましたが、なんというか、その……」

「うん、真意はよくわからないわ。本当に反省しているのかどうなのか」

「どうにか、ならないものでしょうか?」

「今の時点だとなんとも言えないわね。彩ちゃんを追い出すように仕向けたわけだし、和樹さんも相当怒ってる……」

「でも、私戻ってきました。仲介することで、なんとか仲直りさせることってできないのでしょうか?」

「……彩ちゃん、気持ちはわからないでもないけど、大丈夫?」

「大丈夫ってなにがですか?」

「だって、大志さんはあなたを追い出すように仕向けた人なのよ? 自分に酷いことをした人をどうにかしようだなんて……」

 

 南さんは困った顔をしている。

 当然だ。私は自分に酷いことをしてきた人と和樹さん(こいびと)が元通り仲良くなってほしい、と言っているのだ。

 普通に考えたらありえない話だ。――しかし、と思う。

 

「南さんが言いたいことはわかります。確かに酷いコトされたのかもしれません。ただ私は和樹さんと大志さんがどれだけ仲よかったか、知っているんです」

「えっ……」

「和樹さんって、心を許したり信頼してる人には辛辣な口調で話すんです。瑞希さんにもそうです。でも大志さんと話してる時は特にその特徴が強く出て、どこか誇らしげに『腐れ縁』って言うんです」

「……」

「大志さんもなにかにつけて和樹さんの家に来て、和樹さんの原稿を見てました。そして本当に嬉しそうにいい仕上がりだって笑うんです。私、少しあの2人の関係が羨ましくって」

「そうなのね……」

「はい。2カ月離れることにはなりましたが、あれは私の弱さでもあったんです。でも結果的に詠美さんとは仲良くなれたし、絵もうまくなったし、そしてなにより和樹さんと仲直りできました。だから大志さんのこと、これっぽちも恨んでなんかいないんです。だから、2人にも仲直りしてほしいんです」

「――彩ちゃん、強くなったのね」

「強くなってなんか……。でも私は小さい頃、父を亡くして、いつかまた父に褒めてもらいたいと思って縋りつく気持ちでマンガを描いてきました。ずっと後ろ向きで心から笑えない日々でした。でも和樹さんや詠美さんに出会って、ようやく少し笑えるような気がしてきたんです」

「そう、彩ちゃんはえらいわね。うん、わかったわ。私からもう一度和樹さんと大志さんに話してみるわ。彩ちゃんがそういう気持ちなら、2人もお互い反省して仲直りするかもしれないし」

「あ、ありがとうございます。南さん」

 

 南さんの表情は光が射したようにパァっと明るくなったような気がした。

 そしていつもの優しい表情を浮かべて、紅茶を啜りだした。

 

「……ところで彩ちゃん。ちょっと聞いてもいい?」

「なんですか?」

「――和樹さんとは、()()()()()()()()()

「――――――」

 

 急な話の展開に、思考が真っ白になる。

 ドコまでいったの、とはきっとそういう意味なのだろう。聞かれた意味はわかる。だけどわかりたくなかった。

 周囲で笑い声が聞こえる。入口を見ると人が出入りしているのが見える。

 周りに視線をやり、人が来いていないことを確認しつつ、小声で話しかける。

 

「……南さん、まだ昼間ですよ。そんな話しできるわけないじゃないですか……!」

「なるほど。だったら夜ならいいのね? また今度飲みに行きましょうか☆」

「そういう話じゃなくてですね……!」

「ふふ、でもその反応だともうヤルことはヤッているんですね。相変わらずわかりやすい」

 

 秘密を暴かれて顔が一気に紅潮していくのがわかる。

 それに気が付いて、南さんはいつものようにいたずらっぽくコロコロと笑いだした。

 

「もう! 南さんったら!」

 

 私の顔を見て、さらに大きく笑いだした。

 もう本当に。詠美さんといい、南さんといい、何を考えてるんですか!

 顔の赤みが少しでも引くことを祈って、ソフトドリンクを一気に飲み干すのであった。

 




最後まで読んでくれてありがとう。
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