Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~ 作:拓田しろう
「ありがとう、由宇。正直ヤバかったけど、助かったよ!」
6月のこみパが終了を迎える放送が流れた後、私と千堂さんと猪名川さんの3人で話をしていた。
「本当に……すごかったです。人があんなに集まって、一気にお祭りのような状態でした」
「そうやろ~、ウチは呼び込み大得意なんや! 即売会は真剣勝負! いかに参加者に知ってもらうかが大事やで!」
むん、と胸を張る。
女性としては少々小柄な体型をしている猪名川さんだが、この中で誰よりも大きく、頼もしく見えた。
「いや、でも本当ありがとう。さっきのことで少し落ち込んでたけど、元気出たよ」
「そんなん、気にせんでええって! それより完売おめでとう! 参加2回目も完売するってすごいなぁ!」
「最後は由宇に助けられたようなもんだよ」
「いやいや、それは和樹はんの実力やで。いくら呼び込みしたかて、本見て納得してもらわな
話を聞きながら、少し気持ちが落ち込んだ。
そうか、本を見て納得してもらえないのだったら、私がやってもダメかもしれない――。そう思ってしまった。
「ただな、まずは見てもらわんとしゃあないところもあるんや。見てもらって
指摘するような発言に、ハッとする。今のは私に向けた発言だろうか?
そう思って猪名川さんの方を見たが、本人は顔を見る限り、そういう訳ではないようだ。
「3人とも、今日一日お疲れ様です」
「あ、牧やん! そっちもお疲れなぁ!」
「もう、創作ジャンル方面で騒ぎがあると聞いてきてみれば、由宇ちゃんが関係していたの?」
「アハハ、いつも堪忍な。牧やん」
「でもそこに和樹さんや彩ちゃんがいたというのは少し意外でしたね」
「由宇を責めないでください、南さん。由宇は俺を元気づけるためにやってくれて」
「そうです……、猪名川さんは悪くないです」
「あら、彩ちゃんまで。事情を聞いても大丈夫ですか?」
千堂さんは詠美さんの一連のことを話し始めた。
事情を聞いて、南さんは難しそうな顔をしている。なんだか目を
「う~ん、なるほど。だから由宇ちゃんが呼び込みをして場を和ましていたと……」
「……私も傍から見ていましたが、あの方からはかなり横暴な印象を受けました」
あの方とは、千堂さんのブースで問題を起こした『
「なぁ、牧やん。和樹はんのこと、詠美に話したりしたんか?」
「ええ、話したわ。この間会った時に、由宇ちゃんが興味を持った新人の作家がいるって」
「たぶん、その話聞いて詠美は和樹はんに興味持ったんやろな」
「どういうことだ? 大庭詠美とは以前少し会っただけでほとんど初対面だったのに、なんであんな対応されたかわからないんだけど」
話を聞いていて、私も驚いた。
大庭詠美、と呼ばれた方と猪名川さんが知り合いだったのは会話の流れからわかっていたが、南さんまであの人と知り合いだったのは意外だった。
しかも話している感じからかなり親しそうに思える。
南さんは人柄もあって誰からも慕われている存在とはいえ、他人の新刊を床に落とすような人と親しいのは、いくらなんでも人が良すぎるように感じた。
「詠美はな、昔ウチとユニットを組んでたんや。ただ一緒にやっていくうちに方向性が違ってきてな。同人誌のあり方で揉めるようになってケンカ別れするような形で解散したんや」
南さんは頭に指を当てて困ったような顔をしてる。
先ほどの頭の痛そうな顔は、この件を知っていたからなのだろう。
「それで今回、ウチが和樹はんに興味持ったから様子見にきたんやろうな」
「……でも、興味を持ったからって言って、他人の新刊をあんな風に扱うなんて……」
「……あの大バカはな、『売れない同人誌に意味がない』っていうのが信条なんや。その上こみパの女王という自負をあるから下々に対して助言してるっていう横柄な気持ちがあったんやろ」
「こみパの女王……?」
「詠美のやつ、このこみパで一番売れとるサークルやってるんよ。それが自慢で、そらもう鼻高々なんやから! ホント、ムカつくやっちゃ! あの大バカ詠美ッ!」
苦々しい表情で言葉を吐き出す。
先ほど威勢の良かった猪名川さんではなく、今は悔しそうで、煮え切らない態度のように思えた。
――そして、その言葉は心にくるものがあった。
なんだか私自身のことを言われているようで、苦しくなった。
しかし意味がない、というならなぜ千堂さんに絡んであんなことをしたんだろう?
私だったらいざ知らず、今回どころか初回も完売している人に対してあんなことをするのは、いまいち理由がわからなかった。
新刊を床に落として見せたのも、なにか理由があるのかもしれない。
「はい、いったんここまでです。由宇ちゃんも少し言いすぎです。気持ちはわかりますけど、2人とも困っているわ」
それを聞いて、猪名川さんもハッとしたように顔を上げる。
「イヤやなぁ、みっともない姿見せてもうた! 2人とも堪忍な」
アハハ、と頭に手を当てながら笑った。
「いえ……猪名川さんは悪くないです」
「ありがとう、彩はん。後、ウチのことは由宇って呼んでや! 下の名前で呼ばれる方が好きやねん」
「……はい、わかりました。由宇さん」
下の名前で呼ぶと、由宇さんは嬉しそうに笑った。
「それはそうと、和樹はん」
「おお、なんだ?」
「突然でなんなんやけど、ウチとユニット組まへん?」
突然の展開に、その場の全員が唖然とする。
「ユニット? パートナーになって一緒に同人誌を描くのか?」
「そんな小難しく考えなくてええ。ただ一緒に情報交換しながら同人誌描いてみぃひん、てことや」
「いやしかし、なんで急に?」
「前々から気になっといたんよ。あんたが描くマンガは面白くって情熱がある! 一緒に描いたらオモロソウ、ってな。どや、やってみんか?」
目の前で始まった勧誘活動に、私は完全に部外者だ。
由宇さんが千堂さんをユニットに誘うなんて思わなかった。それもあって今日ここに来たのだろうか? まさか詠美さんのあの行動まで予想していたとは到底思えない。
千堂さんは、顎に手を当てて考えている。
少しだけ俯いた後に、なぜか一瞬私と目が合って、その後返答を口にした。
「誘ってくれてありがとう。でも今回は断っておくよ」
「ええ、なんでや! 誘いに乗る流れやったろ?」
「いやどんな流れだ! 呼び込みしてくれたのは感謝してるけど、今はまだ1人でやりたい気分なんだ」
「ふふ、フラれちゃったわね。由宇ちゃん」
「牧やん
由宇さんと南さんのやりとりで、その場がパッと明るくなる。
その後も由宇さんは何度か食い下がったが、千堂さんは由宇さんの誘いを受けることはなかった。
返答を聞いて、ホッと胸を撫でおろす。
なぜ安心したか、この時よくわからなかった。
「はい、片付けも済ませてそろそろ撤収しましょうね」
南さんに促されて会場を後にする。
「ま、しゃあないか。どや、和樹はん。この後メシ行かへん? 売り上げ貢献した子にメシ奢っても罰あたらんと思うで?」
「ああ、そうだな。そっちから言わなかったら言おうと思っていたところだぜ。南さん、長谷部さんも一緒にどう?」
「すみません、私はスタッフの仕事が残っているので、ここでお別れです。楽しんできてください」
「私は……すみません、今日は食事当番なので……」
「そっか、残念だな。じゃあ由宇、行くか」
「はーい、ウチ中華食べたい中華!」
そうして2人で会場を後にしようする姿を見て、持っていたメモ帳を開いて急いで電話番号を書いた。
「あの……千堂さん、由宇さん」
「なんや彩はん? やっぱ一緒に行く?」
「これ、私の電話番号で……」
初めてのことだから、咄嗟に続きの言葉が出てこない。
うまく言えないでメモ帳を差し出す形になっていると、千堂さんと由宇さんはニコッと微笑んだ。
「連絡先かいな!? ありがとう。次回参加する時にはちゃんと電話するで!」
「え、俺も?」
「いいも何も、渡されてるやろ? 男やったらサッと察して受け取らんかい!」
「そっか、ありがとうな。機会作って連絡するよ」
「……はい、今日はありがとうございました」
そうして、2人は会場を後にしていく。
その姿を見て、なんだか恋人同士みたいだな、と心にモヤモヤしたものを感じた。
最後まで読んでくれてありがとう。
彩の物語を最後まで楽しんでみてね☆
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