Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~ 作:拓田しろう
詠美さんと一緒に和樹さんのスペースに向かう。
「お、さすがね。
「ホントですね」
ただ完売した後だというのに、和樹さんの顔には余裕がなかった。
それもそのはず、目の前には澤田編集長がいて、たった今新刊を読まれている最中だった。
その少し離れたところに由宇さんがいたので、近づいて声をかけてみた。
「由宇さん、こんにちは」
「あ、彩はん……と詠美かいな。2人ともどうしたんや? こんなところで」
「和樹さんに会いに来たんです。でも澤田編集長もいたから声かけづらくて」
「ああ、たった今澤ちゃんのお眼鏡にかかるか見てもらってるんや。もう10分もあのままやで。ウチもさすがに声かけづらくてな……」
澤田編集長は和樹さんの新刊を真剣な表情で読んでいる。
1ページずつ細かい観点を含めてチェックしているのだろう。視線は絵柄だけを楽しむ参加者のソレではなく、数字に不備がないか確認する検査官のようだ。
少し離れた位置からでも、緊張が伝わってくる。
私たちも固唾を飲んで見守る。最後のページを読んで、本を閉じた。
「うん、素晴らしい出来だったわ、千堂くん。この出来であれば、プロになってもやっていけると思う」
「……あ、ありがとうございます!」
和樹さんが一際大きく声を出してお辞儀をする。
緊張がふっと和らぐのがわかって、私たちもそばに駆け寄った。
「和樹さん、おめでとうございます!」
「お、彩!? 来てくれてたのか」
「和樹はん、まいど。澤ちゃんを納得させるなんてさすがやないの!」
「由宇も来てくれてたのか。ありがとう」
「猪名川さん、久しぶりね。相変わらずイベントの度に
「実家のこともあるよってそうもいかんのや。それと東京は家賃高すぎやねん。なんせ新幹線往復とホテル代の方が安いからなぁ。どうや、和樹はんの本はお眼鏡にかなったんかい」
「ええ、素晴らしい出来だったわ。千堂くんなら、いいマンガ家になれるでしょう」
「アハハ、澤ちゃんにそこまで言わせるんやから、やっぱり和樹はんは大したもんやな!」
「――澤田編集長!」
その場にいた全ての人が、声の主に集中する。
そこには真剣な面持ちの詠美さんの姿があった。
「詠美さん……」
「彩、行ってくる。応援しててね☆」
瞳は覚悟を固めた強い光を宿している。
ゆっくりと澤田編集長の前まで歩を進めると、深々とお辞儀をした。
「大庭さん……?」
「すみません。少しお時間をいただけないでしょうか? 今までの非礼無礼驕り、全て反省していちから描きました。どうかご拝見いただきたく」
今まで聞いたことのないような、しっかりとした言葉遣いで挨拶し、新刊を差し出した。
そしてその光景を見て、一番驚いているのは間違いなく由宇さんだ。
「詠美……」
由宇さんを見ると、見たこともない詠美さんの態度に驚いているようだ。
困惑した視線を向けて、この後の行く末を心配しているように見えた。
「いい顔になったわね、大庭さん。いいわ、拝見しましょう」
「ありがとうございます!」
そう言って今日2人目のマンガ家志望のチェックが始まった。
――和樹さん以上に、息が詰まった。今までの経緯があるからか、澤田編集長の顔つきはさらに厳しさを増した。
検査官のような顔つきから、野生の鷹を思わせるような鋭い目つきに変わった。ページごと射抜くのではないかという眼光に緊張感が高まった。
詠美さんの足が震えているのがわかる。さっき『売れる同人誌』から解き放たれて泣いていた詠美さんは、自らを奮い立たせて厳しい現実に向き合った。
喉がカラカラに渇く、息が詰まる、目を背けたくなる。
それでも、親友が勇気を奮いだたせて立ち向かっている姿に、目を逸らせなかった。
永遠とも思える時間の中、澤田編集長の口が開いた。
「ふう……」
「ど、どうですか?」
「まったく、なんて日なの……」
「――――――、ッ!」
「2人の大型新人が出てくるなんてね……」
「……え……えっ? そ、それじゃあ……」
「おめでとう、大庭さん。本当によく成長したわね。あなたの勝ちよ」
そう言って澤田編集長は右手を差し出して、握手を求めてきた。
その手を握り返しながら詠美さんは、先ほどよりも更に大粒の涙を浮かべて、泣き出した。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「ほらほら、泣かないの。あなたは頑張ったんだから」
「だって、だって……ずっと、何度も失敗したから……」
その場で泣く詠美さんに近づこうとした瞬間、横からハヤブサの如き速さで抱きつく由宇さんの姿があった。
そして由宇さんの瞳にも、涙が溜まり頬を伝っていた。
「詠美っ! よかったな、よかったな!」
「由宇。ごめん、ごめんね……! あたしバカだったの……うっ、うぅぅ……」
「ええ! ええんや! ウチも、ウチも悪かったんや……売り上げで上回ったアンタのこと、認めてあげられんくて……ホンマに、堪忍な……」
「そんなこと、全然気にしてなかったよぉ……」
詠美さんと由宇さん、2人して抱き合いながら大泣きしている。
思えば、この中で一番詠美さんのことを思っていたのは由宇さんだった。
積年の恨み辛みはどこへ行ったのやら。冷えて固まり切っていた関係性は、熱い涙と抱擁によって熔解していった。
私も涙を流しながら、近寄って声をかけた。
「詠美さん、本当におめでとうございます」
「彩、本当ありがとう。あたし彩から、いっぱい勇気もらったから……」
「そんなことありません。全部詠美さんが頑張ったからですよ」
「彩はん、ウチからも礼を言わせてや。ホンマありがとう。詠美はずっと、プロになれんくて苦しんでたから……ウチはなんもしてあげられんかったから……ホンマに、ありがとう……!」
「いいえ、ずっと詠美さんのこと、想っていたじゃないですか」
そんな3人を見守るように、澤田編集長と和樹さんは少し離れた場所に立っていた。
編集長は腕を組んだまま黙って頷き、目尻に滲む光を袖で拭う。その表情は、冷徹な編集者ではなく、誰かの夢を祝福する顔だった。
最後まで読んでくれてありがとう。
彩の物語を最後まで楽しんでみてね☆
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