Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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71話 彩の同人誌

 

「和樹さんのブースで女性が3人大泣きしていると聞いてきてみれば、まさか由宇ちゃんと詠美ちゃんと彩ちゃんだったとはね……」

 

 南さんは目をつむって頭を抱えていた。

 横を見ると瑞希さんも来ていて、他の参加者が不安がらないよう配慮して声をかけて誘導していた。

 

「南、お灸をすえるのはあなたの仕事だから強く言えないけど、ほどほどにしてあげて。大庭さんと猪名川さんに至っては背景を知っているあなたからすれば、こうなるのはしょうがないとわかるはずよ」

「先輩、言っていることはわかりますが、こちらにも仕事というものが……」

「別に悪さをして騒ぎを起こしたわけじゃないんだから。それにここで本をチェックした私にも多少問題はあるわ。だから、ね?」

 

 澤田編集長は軽く微笑みながら両手を合わせると、南さんはため息をつきながら「わかりました」と応じてくれた。

 随分砕けた言葉遣いだと思ったら、同郷の先輩後輩関係らしい。元々仲がよく、社会人になっても業界が同じだったので今でも付き合いがあるとのことだ。

 その光景を見て、詠美さんと由宇さん、そして私はホッと胸をなでおろす。前回の騒動と同じく悪気がなかったとはいえ、立て続けに迷惑をかけている。面目ない限りだ。

 

「はいはい、南からお許しが出たわ。あなたたちもスタッフに迷惑をかけず、マナーを持って過ごしなさい。大きなイベントなんだから」

 

 3人で声をそろえて「はい、わかりました」と返事をする。

 その瞬間、張りつめていた空気がとけ、ようやく解放された。

 胸の奥に溜まっていた重石が外れたようで、思わず肩の力が抜ける。

 

「あー、いつもすまんなぁ牧やん。ウチも周りが見えんくなってしもたわ」

「ええ、特に由宇ちゃんはいつもトラブルばかり起こすんですから、ちょっと反省してくださいね。とはいえ、先輩の言う通り今回のところはしょうがないけどね。詠美ちゃん、本当におめでとう」

「へへ~、あたしもついにプロデビューよ! これから忙しくなるんだから!」

「和樹さんもおめでとうございますね。こみパデビューして1年足らずでデビューなんてすごいわ」

「いやぁ、ありがとうございます南さん」

「和樹さんには最初から特別なものを感じてました。なんかこうなって当たり前、みたいな感じがするわ。澤田先輩を納得させるだなんて本当にすごいことなんですから」

「ええ、素晴らしい出来だったわ。千堂くんも大庭さんも、いいマンガ家になれるでしょう。……ところであなたは、どこかで見たことあるわね。確か以前大庭さんのブースにいなかったかしら?」

 

 突然話を振られて困惑する。澤田編集長は真っ直ぐこちらを見て、話を振ってきた。

 

「ああ、この子は長谷部彩と言います。俺とユニットを組んでいる子で、今はサークルの位置が別れたから別々のスペースで活動しているんです」

「え、でも大庭さんのところにもいたわよね?」

「ちょっと事情があって、先月まで詠美さんと一緒に活動してたんです。今はまた和樹さんと一緒に活動していて……そうだ、和樹さん! 私完売したんですっ!」

「完売!? 新刊全部!?」

「いえ、旧刊も含めて全てです!」

「ホント!? うわ、マジすげぇ! やったじゃないか彩!」

 

 嬉しさに突き動かされるように、和樹さんの手を両手で握った。

 その温もりに触れた瞬間、胸の奥からこみ上げる達成感と安心感があふれ出す。

 互いに顔を見合わせて笑った。瞬間、ふと周りの視線に気づき、思わず2人で「あっ」と声を揃えてしまった。

 頬が熱くなるのを感じながら、私たちは慌てて「す、すみません!」と頭を下げた。

 

「2人とも仲いいのね。長谷部さん、完売おめでとう」

「すみません、嬉しくなってつい……」

「ふふ、いいのよ。完売するのは嬉しいものね。ところで今持っているのはあなたの新刊?」

「あ、はい。和樹さんに渡そうと思って……」

「千堂くんに渡すところで申し訳ないんだけど、ちょっと読ませてくれない? 旧刊まで完売したっていうので興味が沸いたの」

「えっ……」

「あ、大丈夫よ。私も仕事柄、指摘とかしちゃうこと多いけど、そういうんじゃないから。元々すごいマンガ好きでもあるから、長谷部さんがどんな話描くのか見てみたくて、ね?」

 

 澤田編集長は両手を合わせて、お願いとジャスチャーしてくる。

 先ほども思ったが、見た目から凛々しい大人の女性というイメージが強いが、仕草だけ見ると少し子供っぽいところがあるように思えた。

 

「わかりました。それではお手柔らかにお願いします」

「ありがとう。――絵上手ね、色合いも素敵だし。どれどれ」

 

 澤田編集長に新刊を読んでもらっている最中、私たちは横で話をしていた。

 

「今回のネームも面白かったもんな。俺も後で読ませてよ」

「ふふ、澤田編集長が終わったら読んでくださいね。今回の話はちょっと頑張ったんです」

「私もさっき読んだわ。あんな発想、私には思いつけないわよ。〝ストーリー〟や〝設定〟とかではあたしも彩には全然敵わないもの」

「へぇー、詠美にそこまで言わせるんかいな。ウチも読みたいなぁ」

「あ、あたし持ってるけど読む?」

「ホンマに? ちょっと貸してや~」

「あら、私にも後で読ませて。彩ちゃんの今回の新刊、絵柄が以前と変わっててすごい興味あったの」

「あ、私も読みたい! マンガを読まない私でも彩ちゃんのマンガは読めるもの。言っちゃ悪いけど、そんじょそこらの壁サークルよりよっぽど面白いと思うわ」

「瑞希、それホントに言っちゃいかんやつ」

「なによっ!」

「おまえ、自分の立場と場所を弁えて発言しろよな!」

 

 新刊の話で盛り上がる。――そうだ、この時間がなによりも楽しいのだ。

 以前、私には和樹さんだけだった。でも今はこんなにマンガの話で盛り上がれる仲間がいる。

 苦労が多かった1年間だったけど、おかげでこんないい仲間たちと巡り会えた。本当に幸せな時間である。

 

 ――しかしその幸せな時間は、あまりにも唐突に、そして全然予想もしていなかった形で遮られることになる。

 

「ちょ、ちょっと、長谷部さん! いいかしら?」

 

 雑談で盛り上がっていたところ、後ろから澤田編集長のひっ迫した声が聞こえて振り返った。

 

「はい、もう読み終わりましたか?」

「――あなた、プロになる気はない?」

「――――――、へ?」

 

 一瞬、時が止まった。

 先ほどまで盛り上がっていた雑談は停止し、全員がたった今澤田編集長から出た言葉の意味を必死に理解しようと努めた。

 

「え~~~! ど、どどど、どういうことですか!?」

「だから、千堂くんや大庭さんと同じように、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

「だから、それってどういうことですか!?」

 

 気が動転している。なにを言っているのかさっぱりわからない。

 もう少し正確に伝えると、澤田編集長がなぜそんなことを言いだしたのかもわからなかった。

 

「ホント、今日はなんて日なの!? 2人の大型新人のデビューが決まったと思ったら、3人目が出てくるなんて! どうかしてるわ!」

「え、だって私、マンガ家デビューなんて考えたこともなかったですし……」

「そうよね、その通りだわ。ちなみに年齢はいくつなの?」

「え……17歳です。今年高校卒業予定で……」

「なるほど、大庭さんと同い年。だから仲がいいのね! しかし未成年だったら親御さんへの挨拶も必要ね。ちょっと親御さんとも一緒にお話しさせてもらう機会をもらえない?」

「え、えっと……」

「長谷部さん、本当すごいわね。この重厚感のある設定や心理描写の描き方だけで言えば、千堂くんや大庭さんも凌ぐわ。ううん、違う。まるで大御所マンガ家のような安定感がある」

「あ……ありがとうございます」

「まだ他の出版社が目をつけていないなら、尚更ありがたいわ。マンガ家を目指すならコミックZでの連載を考えてみて。あ、名刺渡しておくわね」

 

 そう言うと、名刺を差し出してきた。「ああ、どうもどうも」と受け取る。……て、違う、そうじゃないっ!

 澤田編集長は猛攻(かんゆう)は止まらず、南さんが止めるまで続くのであった。

 




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