Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~   作:拓田しろう

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最終話 彩のこみっくパーティー

 

 3月のこみパが終わりを告げ、マンガ家デビューを果たした3人の打ち上げに行こうという話になった。

 和樹さん、詠美さん、瑞希さん、南さん、由宇さん、そして澤田編集長もいる。なぜ澤田編集長もいるかというと、

 

『3人をお祝いしたいの。久しぶりに南と猪名川さんとも話したいしね。あ、代金は私が持つわ。経費で落ちるから好きなものご馳走できるわよ』

 

 その言葉で、歓喜の渦が巻き起こった。

 南さんと瑞希さんも、早々に切り上げて一緒に行くことになった。とはいえ、一度戻らないといけないので、2人が来るのを待っている最中である。

 澤田編集長は〝会社に3人のスカウトしたことを報告してくる。ついでに経費で接待する承認ももらってくるわね☆〟と言って、携帯で電話しているところだ。

 

「いや~、まいったで。まさか彩はんまでプロデビューとはなぁ。追い越されたぁって感じするわ」

「なによ、パンダ。また売り上げで追い抜かれた時みたいに認められないのぉ?」

「っさい、大バカ詠美! 気にせんって言ってたくせに古傷えぐるんやないっ!」

「ふみゅう~ん! なにも叩かなくてもいいでしょ~」

「あー、でも腹減ったなぁ。なにご馳走してもらお?」

「ウチ焼き肉がええな、代々苑(よよえん)の! 人の金で食うメシはうまいでぇ~」

「お、おい、それはさすがに遠慮なさすぎだろっ!」

「いいんじゃなーい。代々苑(よよえん)の焼き肉弁当ってマンガ家への差し入れの定番よ。言っても普通に連れてってもらえると思うわよ」

「えっ! そ、そうなのか? えらい太っ腹なんだな……」

「ま! それだけマンガ家たちに稼がせてもらってるってこっちゃ! 今日奢るのは先行投資! うまいもの食わせたんやからちゃんと働いて返せや! ってことやで」

「そう考えると、気が引けてしまいますね……」

「ハハハッ! そんな意気じゃプロになった後がしんどいで! ……そういや、和樹はん。手に持ってるんは今日の新刊か? しまわへんの?」

「あ、ああ。これは、ちょっとな……」

「なんや歯切れの悪い。リュックおろすのが面倒ならウチが入れたろか?」

「……」

 

 由宇さんを断り、和樹さんは先ほどからずっとキョロキョロと周りを見回している。

 その様子から、大志さんを探しているのだとわかった。

 以前は売り子の手伝いもしていたが、今日一度も姿を見せなかった。どこかに来ているのではと期待しているのだろう。

 

 ――瞬間、和樹さんの後方。出入り口付近に鼻メガネをつけた大志さんが見えたような気がした。

 

「ちょっと失礼しますっ!」

「お、おい! どうしたんだ彩っ!」

 

 背後からみんなの声が聞こえる。がしかし、今は構っていられない。

 先ほど見かけた大志さんの姿を追って走り出した。

 

 ---

 

 追いかけて10メートルで大志さんであると確信した。

 だって、あちらも私に気付いて逃げ出した。その反応で大志さんであることは確定したも同然だ。

 問題は大志さんに追いつけるかということ。体力的には男性である向こうの方が圧倒的有利。しかも上背があるため歩幅でも敵わないだろう。

 そう思っていた矢先、100メートルくらいで盛大に転ぶのが見えた。つけていた鼻メガネも転んだ勢いでどこかへ飛んで行った。

 

「ぐわぁー! わ、吾輩の膝が、膝がー!」

 

 右膝を抱えながら転げまわりながら悶絶している。

 地面はアスファルト。あれだけ盛大に膝から転べばさぞ痛いだろう……。

 

「大志さん! 大丈夫ですか!?」

「うおぉー! マ、マイシスター!? 来るんじゃない!」

「言ってる場合ですか! ほら、少し見せてください」

 

 軽く右膝を見てみたが、少し擦り剝けているだけだった。

 服も破れていないしビジュアル問題なし。大きな怪我はなさそうだ。

 

「こんな時に普段の運動不足が祟るとはな。運動はちゃんとしておくべきだな」

「なに言っているんですか? ほら、立てますか?」

 

 右手を差し出すと、「むっ」と声をあげて、しばらくそのまま私の手を見たまま止まっている。

 

「どうしたんですか?」

「……いいのかマイシスター。吾輩は……吾輩は君を同志から引き離そうと画策していたのだぞ? そんなやつの手を貸して」

「もう終わったことです。それにそんなこと言っている場合じゃないでしょう? このままじゃ話もできません」

 

 一瞬躊躇したように視線を泳がせたが、手を取って立ち上がった。

 

「他に痛いところはありませんか?」

「大丈夫だ。まったくみっともない限りだ」

「よかった。和樹さんが待っています。行きましょう」

「言うことはそれだけか? なにか言いたいことがあるのではないのか、マイシスター」

「……そうですね。確かに1つだけ聞きたいことがあります。――詠美さんのサークルで売っていたのが『Jamming Book Store』の管理人だと情報を流したのは大志さんですか?」

「……っ!」

 

 あまりにも予想外の質問だったのだろう。驚きで目を見開き、じっと私の顔を見つめてきた。

 今日の売れ行きのよさには覚えがあった。無論、私ではない。あれは()()()()()()()()()()()()()()、と。

 確かに今回の新刊の出来はよかった。澤田編集長の賛辞もあったが、詠美さんからも言われてたからだ。

 だから新刊が完売するのはわかるけど、だからといって旧刊まで売れるのは明らかにおかしかった。新刊は詠美さんからの指導で参加者受けがいい絵になっているが、旧刊は昔のデッサンのような絵柄だったのである。

 いくらなんでもおかしい。もしかしてと思い、鎌をかけてみたのだ。

 

「……その通りだ」

「やっぱり。なんでそんなことをしたんですか? 私のこと、邪魔だと思っていたはずなのに」

「……せめてもの謝罪だ。マイシスターには、本当に悪いことをした……」

「……」

「あの時の吾輩は、なにも見えていなかった。同志をプロデュースし、マンガ家として業界に名を轟かす存在になってほしい。それが吾輩の夢でもあった。同志は……和樹の才能は、それくらい素晴らしいものだと、幼馴染の吾輩が1番よくわかっている。だから君に時間を割いて自分のマンガが疎かになった時、このままじゃいけないと思った」

 

 ……胸が痛んだ。自分のせい、だとは言わないが、確かに自分にも要因はあった。

 あの時の和樹さんは、私の本の売り上げを伸ばすために必死で指導してくれた。そして自分のマンガを描く時間が少なくなり、毎日修羅場生活を送っていた。

 

「どんなに才能があったとしても、酒や女で身を崩してしまう人間はいる。でもそんなことはあってはならない! 和樹の才能を、1人の女のために失墜させるわけにはいかない。だから厳しく叱りつけ、君を引き離そうとしたのだ」

「……そういう、ことだったんですね……」

「だけど間違っていたのは吾輩の方だった。確かにあの時、和樹は伸び悩んでいた。だが一時(いっとき)のことだ。立ち止まっている人間が、1年も経たずにマンガ家デビューなどできるはずない。必死に努力していたのだ。結局、吾輩は素晴らしい才能があると言っておきながら、信じてやることができなかったのだ」

「……」

「そして君のこともだ。マイシスター」

「えっ……?」

「和樹から言われたよ。『彩は俺以上の才能の持ち主だ。絶対にすごいマンガ家になる』ってね」

「和樹さんが……そんなことを……?」

「ああ。なにを言っているかと激怒したものだ。しかし先ほど澤田女史にスカウトされているところを見て、吾輩が間違っていたと自覚したよ。あの人は業界でも辛口評価で有名な人だ。そんな人が、手放しでスカウトしてくるなんてな。いやはや恐れ入ったよ」

「その時から見てたんですね……」

「ずっと隠れて見ていたんだ。〝結果的に〟見れば、()()()()()()()()()()()()()()。勝手に勘違いし、行動して、君たちの中を引っ掻きまわした。そんな吾輩が、許されていい訳ないだろう」

「――――――」

 

 大志さんの話を聞いて、私と同じだな、と思う。

 私も和樹さんの言葉信じられず、勝手に勘違いして、行動して、和樹さんを裏切るような真似をしてしまった。

 自分の選択が勘違いだとわかった時は、私も大いに取り乱したものだ。

 大志さんを見る。

 そこにはいつもは自信満々に、軽快に笑う大志さんの姿はない。自身の失敗を認め、大切な友人を失い、落ち込んでいる1人の男性がいるだけだ。

 

 ――しかし、だ。

 

「なるほど、わかりました。とりあえず一度和樹さんたちのところに行きましょう」

「なっ! ちょっと待てっ! 今の話、聞いていたのか!?」

「はい。今回のことはきちんと反省して、次回は自分1人で考えずに、ちゃんと誰かに相談してくださいね。1人で考えて行動するとロクなことにならないんですから」

 

 以前、南さんから注意されたセリフをそのまま、大志さんに伝える。

 確かに今回やったことは大きな間違いで、色んな人に迷惑をかけたかもしれない。

 だからと言って、たった一度の間違いで全て失われるなんてあんまりだ。

 私も気にしていないし、きっともう和樹さんも気にしていない。

 大志さんの腕を掴み、強引に和樹さんたちの元に連れていこうとする。

 

「やめないか、マイシスター! 吾輩の恥を上塗りするつもりか!?」

「このくらい、恥でもなんでもありません。それに、私は感謝しているんです」

「なに……?」

「私、ちょっと前まで本当に自信がなかったの。みんなの足を引っ張るのが嫌で、迷惑をかけてお前なんかいらない、って言われるのが怖くて、ずっと一歩引いて生きてきたんです」

「な、なんの話だ!?」

「でもあの事件がきっかけで、詠美さんと会えて、みんなとも友達になれて、和樹さんと恋人になれた。そしてマンガ家もデビューできるようになったんです」

「そんなの、吾輩が邪魔しなくても結果なんて……」

「いいえ、あの時大志さんが和樹さんを叱って離れたから私、強くなれたんです。大志さんも言ってたじゃないですか。〝結果的に〟よかったんだって」

「ひ、人の揚げ足をとるような発言をしおって! (たち)が悪いやつだ!」

「ふふ、そうですね。でもみんな必死に行動したから掴んだ今日なんです。これが〝私のこみっくパーティー〟なの!」

 

 大志さんは引っ張ったり、飛んだり跳ねたりと、逃げようとあらゆる抵抗を試みている。

 しかしいくら逃げるためとはいえ、飛ぶのは違うだろう。逃げるセンスゼロだ。つけこむ隙はありそうだ。

 とはいえ男性と女性。やはり基礎体力に大きな差がある。

 片手から両手に切り替えて引っ張るが、それでもなかなか進めなかった。

 

「えーい! 離したまえ! ちょ、こら、意外に力強いな!」

「にーげーなーいーでーくーだーさーいっ!」

 

 しかし、このままだとジリ貧だ。

 膠着状態は続き、このままでは体格差で取り逃がしてしまう。そう思った矢先、見覚えのある2人の姿が目に入った。

 手を離さぬよう注意しながら、大きく息を吸い込み、腹の底から声を張りあげた。

 

「瑞希さーん! 南さーん! 手を貸してくださーーーい!」

 

 予想外の方向から呼び出されて驚いた様子だったが、こちらに気付いてくれた。

 スタッフ業務を終わらせて私服姿に戻った瑞希さんと南さんは、私と大志さんの姿を確認すると、慌てて近づいてきてくれた。

 

「彩ちゃん、どうしたの!? ……って、え! 大志!?」

「どうしてこんなところに大志くんが……」

「和樹さんのところに連れて行くんですっ! 手を貸してくださいっ!」

「うわっ、バカモノ! 助太刀を求めるとは卑怯なっ!」

「なんかよくわからないけど、とにかく大志を連れていけばいいのね! こらぁ大志っ! 大人しく連行されなさい! また釘バットで殴られたいの!」

「ど、同志瑞希!? 落ち着け! こみパ会場内では長さ30センチ以上の長物は禁止されているのだぞ!」

 

 女性3人とはいえ、先ほどよりもはるかに楽だ。しかも瑞希さんへの恐怖で怯んでいる。

 これであればなんとか連れていけそうだ。それでも抵抗する大志さんを強引に引っ張る。

 

「ほら、往生際の悪い! キリキリ歩くのよ!」

「わ、やめろ! 本当に! 痛い痛い痛い!」

「ちょっとの我慢です。辛抱してくださいっ!」

 

「にゃはは☆ なにあれ~?」

「う、うわぁ、市中引き回し刑……。大変な悪事を働いたんですね……」

「ぱぎゅう! 悪モノを捕らえたんですの~!?」

「にゃ~! あれが悪モノさんですか!」

 

「わー! 絶対に誤解されている! 離したまえ~!」

 

 そうしているうちに、和樹さんの姿が見えてきた。

 3人で大志さんを引きずってくる姿を確認すると、驚きで声をあげた。

 

「和樹さ~ん! 大志さんを連れてきましたー!」

「え!? 大志! どうして彩が大志を!?」

「ホンマや、大志はんがおるっ!」

「彩! いきなり走ってったと思ったらなにしてんのよっ!」

 

 ここまで来ると、大志さんは観念したように抵抗するのを止めた。

 和樹さんたちが近づいてくる。大志さんは俯いて目を逸らした。

 お互い向かい合い、一瞬押し黙ったかように見えたが、すぐに和樹さんはニヤリと笑った。

 

「ど、同志……」

「大志、遅ぇよ! ほらっ、今回の新刊。最高傑作だぞっ!」

 

 和樹さんは大志さんの胸元を、新刊でパンッと叩く。

 一瞬驚いた表情を見せつつも、すぐに調子を取り戻した大志さんは笑い声をあげた。

 

「ハーッハハハ! そうかっ! 素晴らしいではないかマイブラザー! これで吾輩の世界征服も早まるというものだっ!」

「てめっ! 遅れてきたくせに偉そうにしやがって! それとな、マンガ家デビュー決まったぞっ!」

「フッ。さすがだな。しかし当然のことだっ! これで一気に我らの覇道を歩もうぞっ!」

 

 ああ、よかった。これでもう安心だ。

 ケンカ別れした期間を埋めるように、そしてお互いの働きを称え合うように、2人で笑いあうのだった。

 

 ---

 

 そして全員が揃い、打ち上げ会場に足を運ぶ。

 

「よし、それじゃあ3人の大型新人のお祝いに行きましょう! みんななにが食べたい?」

「はーい! ウチは代々苑(よよえん)の焼き肉がいい!」

「あたしもー!」

「ハハハッ! 吾輩も腹ペコであるっ! 肉で満たさねば腹の虫が収まらぬわっ!」

「大志! あんたさっき合流したばかりなのに、もう我が物顔して!」

「フッ、小さいことは気にしてはいかんぞ、マイシスター」

「ふふ、でもこれだけ大人数で食べる食事は美味しそうですね」

「あなたたち、遠慮がないわね。まぁいいわ。じゃあ駅に向かいましょ!」

 

 そう言って、8人でぞろぞろと移動を始めた。

 ペデストリアンデッキの階段を下りる前に、思わず足を止めて振り返る。

 そこには、こみっくパーティーを象徴する巨大な逆三角形――東京ビッグサイトが、そびえていた。

 ちょうど1年前も、同じ場所でこの景色を見ていた。

 だがあの時の私は、売り上げの悪さに打ちのめされ、辞める理由ばかりを探していたのだ。

 

 ――でも本当に辞めなくてよかった。

 

 あれから本当に色々なことがあった。

 和樹さんと隣のブースになって感想をもらえる楽しさを知った。

 それからユニットを組んで恋をして、一度は離れて詠美さんに師事して、たくさん友達ができて、以前よりほんの少し、明るく笑えるようになった気がする。

 宝物のような想い出。私は生涯、高校3年生の日々を忘れないだろう。

 

「彩、どうしたんだ?」

 

 振振り返ると、そこに和樹さんの姿があった。

 駅へと歩いていくみんなの背中とは対照的に、彼だけが立ち止まり、静かに私を見守っている。

 

「なんだか、ちょっと見ていたくって……」

「そっか。なぁ、彩」

「なんですか?」

「さっきは、ありがとうな」

「はい。ねぇ和樹さん、私……」

「なに?」

「マンガ家になってみようと思います。私、描いてみたいんです。大好きな人と、一緒に読める本を。ずっと一緒にいたい、そんな大好きな人と一緒に読めて、それが想い出になる本を描きたいです。大好きな人と一緒にいることが、どんなに幸せかわかった気がするから」

「そうか。じゃあ、一緒にやってみようか」

「えっ……?」

「彩、マンガ家になろう。俺もそんな彩の描きたい本を描けるよう支えていくよ」

「ホント……ですか。本当にそばにいてくれるんですか?」

「ああ、当然だろ」

 

 和樹さんは、出会った時と同じ微笑みを浮かべていた。

 気遣いと優しさにあふれたその表情は、以前となにも変わらず私だけを見つめている。

 胸の奥で〝この人となら〟と確信が芽生え、揺れる心は喜びと愛でいっぱいに満たされていった。

 

「私、やってみたいです。みんなと一緒なら――和樹さんがいてくれるのなら、なんでもできます! ですから、そばにいてください。ずっとそばに」

「彩……」

「私、世界で一番、和樹さんのことが――――」

 

 見上げれば、星空さえ呑み込む逆三角形。

 春の産声は風に溶け、頬を撫でる温もりは私たちを祝福するようだった。

 沈みゆく夕暮れの世界で、大好きなあなたに(あい)の言葉を捧げるのであった。

 

 ~fin~

 




〝Color!!〟を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました!
感想・評価・お気に入り、ぜひよろしくお願いいたします。

ここで彩の物語はいったん幕を閉じます。
けれど、彼女と和樹たちの未来は、きっとこれからも続いていくはずです。
どうかページの向こうで彼らの幸せを祈っていただけたら嬉しいです。

これまで支えてくださった皆さまに心から感謝を。
そしてこれからの私の物語も、どうぞ応援してください!
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