Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~ 作:拓田しろう
6月のこみパが終わって数日経ったある日のこと、いつものように自室で原稿を描いていた。
今回の同人誌のネームを描きながら、ふと先日のこみパの出来事を思い出した。
『いらはい、いらはい! 5月にデビューした超大型新人、千堂和樹はんの新刊やで!』
『いくら呼び込みしたかて、本見て納得してもらわな
『だからまずは呼び込み! ちゃんと自分を知ってもらうって大事なんやで!』
思い出していたのは由宇さんのことだった。
――私はあの時、何もできなかった。
結局、あの時千堂さんと詠美さんの間で何を話していたのかはわからない。
でも千堂さんは同人誌を床に落とされて、悔しがっていた。
私は気の利いたことを一言も言えず、見ているしかできなかった。
ただ、由宇さんは違った。
騒ぎを起こして冷たい視線が集まる中、由宇さんらしい明るい立ち回りで、周りの参加者を巻き込んで千堂さんを元気づけた。
同人誌、商売に対しての気骨。
咄嗟の機転と行動力。
そして明るく、朗らかな性格。
――どれ1つとっても敵う気がしない。
あの時の千堂さんと由宇さんの後ろ姿が頭から離れない。食事に行くと言っていたが、あの後どうしたんだろう……。
あの日から眠れない。
正体がわからない、モヤモヤした気持ちをずっと抱えていた。
『突然でなんなんやけど、ウチとユニット組まへん?』
そういえば、なぜ千堂さんは誘いを断ったんだろう?
あの流れからすると、絶対に由宇さんの誘いを受けると思ってた。
しばらくは1人で描きたい、と言っていたけど、本当にそうなのだろうか?
モヤモヤは深まるばかり。
まとまらない考えを整理しきれないでいると、自宅の電話が鳴った。
時刻は夜8時。
この時間帯にかかってくる電話に心当たりはなく、少し戸惑いながら受話器を取った。
「はい……長谷部です」
『夜分遅くにすみません。俺千堂って言います。彩さんはいますか?』
「え……千堂さん……?」
『あ、長谷部さんか、今大丈夫?』
「大丈夫です。……電話してくれたんですね」
『ああ、会場だといつもゆっくり話せないからね。ちょっと話したくて』
そういえば、初めて私の同人誌の感想を聞いた時こそ、それなりに時間をとって話したが、その後は挨拶程度の話しかしていない。
ここ何回かのこみパでは必ず顔を合わす仲だが、反面、お互いのことをほとんど知らなかった。
そのことを千堂さんに伝えると、向こうも同じように考えていたようだ。
『そそ、こみパでは必ず顔を合わせて結構話したりするのに、まだなんも長谷部さんのこと知らねぇなって。一緒の時は大抵誰か一緒にいるしね』
「そうですね……こうやって電話してきていただいて、嬉しいです」
『正直迷ったんだけどさ、連絡先渡してくれたしね。それに長谷部さんとはもっと同人誌のことで話したいと思ってた』
「そういえば……6月のこみパの新刊読みました。大魔術によって世界が崩壊した世界線の話、発想がユニークで本当に面白かったです……」
『お、読んでくれたのか? ありがとう~』
それから千堂さんの同人誌の感想を伝えた。
5月の新刊についてはこの間一言伝えただけだったので、その内容も伝えると、千堂さんはとても喜んでくれた。
『ありがとう、フィードバックもらえるのは助かるよ』
「気持ち……すごくわかります。私もなかなか感想もらえなくてモヤモヤしてしまうので……」
『わかるわかる! 5月と6月しか書いてないけど、やっぱり自分の本って読んで感想もらいたいよな』
「え……まだ描いた本って2冊だけなんですか?」
『そうだけど、どうして?』
「絵を……描き慣れてたから……」
『ああ、そういうことか。俺美術専攻してて、元々美大に行こうとしてたんだよ。でも大学落ちちゃって。やることなくてどうしようってところで友人に声かけられて同人始めたんだ』
なるほど、と頷いてしまう。
絵を見たところ、絶対に素人ではないと思ってた。しかし絵を比べるとコマ割りや細かい点がうまくできてない、と感じたのはそういうことだったのか。
それから高校3年生で今年度は受験があること、千堂さんの大学のこと等、いろいろなことを話した。
「彩、もう遅いから相手の方のご迷惑にならないようにね」
「あ……はい、お母さん」
時計を見ると電話がかかってきてから既に1時間経過してる。
思っていた以上に話し込んでいたようだ。
『あ、ごめん、話し込んじゃったね』
「いえ……大丈夫です。いろいろお話しできて楽しかったし……」
『よかったらまた電話してもいいかな?』
「はい……ぜひ。また話せたら嬉しいです」
『よかった! 後俺の電話番号伝えていい? そっちからも連絡してほしいし』
「あ……わかりました。今メモ用意するのでちょっと待ってください」
メモの準備ができたことを伝えて、電話番号を教えてもらった。
『ありがとう。じゃあまた連絡するね』
「ありがとうございます。おやすみなさい」
電話を切って、俄かに喜びだす。
胸の奥がふわっと温かくなる。南さんの真似をして、連絡先を渡してみてよかった――。
千堂さんとはいろいろ話したい、と思っていたけど、まさか連絡してくれるとは思わなかった。
電話番号を教えてくれたってことは、こっちからも連絡していいんだよね?
同人誌のことで話したいことがたくさんある。
電話前のモヤモヤはもはやなんのその。
千堂さんと話せた喜びで忘れ、また今度連絡しよう、と考えながら床についた。
最後まで読んでくれてありがとう。
彩の物語を最後まで楽しんでみてね☆
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