Color!! ~ゲーム『こみっくパーティー二次創作』 : いろどり溢れる長谷部彩の物語~ 作:拓田しろう
こみパ2日前のこと。
既に脱稿し、30部のコピー本を印刷して帰宅してきたところだった。
コピー本をキャリーバッグの中に詰め、明後日のこみパに向けて準備をする。
7月なので暑さ対策は必須だった。
水分はもちろん、塩分補給用の飴と冷感グッズ。またタオルも必要だろう。
いつもは簡単なお弁当を持っていくけど、この暑さで傷んでしまう可能性があるので、現地で購入するしかないだろう。
痛い出費だが、しょうがないだろう。
カタログをチェックして、自分のブースを把握する。
ついでに和樹さんのブースも確認すると、今回も近くだとわかる。
――やった、また近くのブースだ。
心の中で小さくガッツポーズをした。
あれから和樹さんとよく電話するようになった。
またそれ以外にも約束して外で会うことや、バイト中のお店に顔を出してくることもあり、何度か会っている内に、自然とお互いのことを下の名前で呼びあうになっていた。
――ああ、今回はどんな感想を言ってもらえるだろう。
和樹さんと2人で同人誌の話をするのは楽しかった。
感想をもらえるのが嬉しくて、今回の新刊はいつも以上に気合をいれて描いたので、早く読んでほしい。
早く明後日にならないかと心待ちにしていたところ、1階の電話が鳴り響く。
和樹さんのことが頭によぎって、急いで受話器をとって応対した。
『彩はん? まいど~。元気そうやな!』
「あ…………由宇さん、でしたか……」
『あれ、ウチだとわかって元気なくなった? そんなんちょっと悲しいわぁ!』
「いえいえ、そんなんじゃないです」
『アハハ、冗談や! 要件話すとな、明後日のこみパやから明日上京すんよ。そしたらどっかで会わへん?』
どうしよう、予想外な誘いだった。
というのも由宇さんが嫌なのではなく、単純に人からの誘いに慣れていないのだ。一瞬なんて答えていいかわからなかった。
とはいえ、断るのも気が引けるし、少し逡巡したところ1つアイディアが思いついた。
「由宇さん……私明日前日設営に行くつもりなんです。一緒に参加しませんか?」
『え、前日設営?』
「そうです。南さんとも連絡とっていて、今回和樹さんも誘おうと思っているんですが……いかがでしょう?」
『おお、そりゃええな! 南はんとも会いたいし、ちょうどええかもしれん』
「よかった……。これから和樹さんにも連絡するところなんです。また後でかけ直してもいいですか?」
『おおきに! だったら今からいう電話番号にかけてぇな!』
番号を聞いてメモを取り、一度電話を切った。
思いがけない展開になったけど、同人仲間と前日設営に参加するだなんて初めてだ。
ワクワクする。
同じ趣味の人たちと1つの目的に向かって作業する。
ただこれだけのことなのに、なんて心躍るんだろう。
興奮した感情を抑えながら、和樹さんと南さんに電話をかけた。
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翌日、東京ビッグサイトのペデストリアンデッキで和樹さんと待ち合わせをする。
由宇さんは今日東京に来るが、準備や移動で到着するのは午後以降になるとのことだった。
そのため、先に和樹さんと私で前日設営に参加し、後で由宇さんが合流。終わったら南さんも交えてどこか遊びに行こう、という話でまとまった。
南さんはスタッフで既に会場入りして準備の指揮を執っている。今は和樹さんと待ち合わせをしているところだ。
「彩ちゃん、おはよう! 待った?」
「おはようございます……さっき来たところだから、大丈夫です……」
「よかった、じゃあ設営に行く? 俺初めてだからいろいろ教えてもらうことになりそうだけど」
「前日設営は10時からなので……まだ少し時間があります。あの、これ……」
そう言いながら、明日こみパで出す新刊を和樹さんに渡す。
「あれ、これ明日の新刊?」
「はい……私コピー本だから早く出来上がって手元に来たから……早く読んでもらいたくて……」
「マジか。ありがとう! 俺の新刊は明日渡すから。今ここで読んじゃっていい?」
その返事を聞いて安心した。
これから前日設営だし、荷物になる可能性だってあったから嫌がられたらどうしよう、と懸念していた。
でも嬉しそうに受け取ってくれた和樹さんの姿を見て、杞憂だったと感じた。
2人で近くのベンチに腰を掛け、和樹さんは黙って私の新刊を読み始めた。
少し日陰になっている場所を選んだとはいえ、夏の暑さは厳しかった。座っているだけで汗が噴き出してくる。
それでも和樹さんは真剣な表情のまま、私の同人誌を読み進めてくれた。
なぜか時折難しい顔をしているのは、なにか悪い点があったのだろうか?
少し不安になりながらも感想を待ち続けていると、ふぅ、と一息ついて本を閉じた。
「いやぁ、今回も面白かったよ。話の内容もそうだけど、彩ちゃんってコマ割りとかが本当上手だよね。ほら、こことかさ、主人公の心理描写に重なるように意識してるんだろ?」
「ええ……そうですね。主人公の心理が細かく移り変わっているので、そこをコマ割りでも表現したくて……」
「あ、やっぱり? 主人公ってマンガの中では決断力があるように描かれているけど、このコマ割りで本当は迷いがあることを
「そうです。周りからは冷徹で恐れられる存在ですけど、感情に揺られて、本当は優しい人だっていう伏線を貼りたかったんです」
和樹さんは本当に細かい点まで気付いてくれる。
美術を専攻してたというから、この観察力と感性はそこで磨かれたものだろうか?
お母さんにも見て感想をもらったことはあるが、和樹さんのような意見はなかったので、いつも感心してしまう。
一通り感想をもらい、時計を見ると設営開始の時間に近づいていた。
そろそろ行こうかと声をかけようとしたところ、和樹さんが先ほど本を読んでいる時の難しい表情を浮かべていた。
「あの……和樹さん……?」
「ねぇ、彩ちゃん。突然なんだけど、俺と一緒に同人やらないか?」
「……………………えっ?」
「だからさ、今度から俺とユニットを組まないかってことだよ」
急な話で、一瞬なにを言われたかわからなかった。
ユニットを組まないか? 私と? 和樹さんはそう言ったの?
言葉は理解できるけど、状況の整理ができない。
「ご…………ごめん……なさい」
咄嗟に
和樹さんはいかにも残念、と言った顔の後、少し苦笑いして答えた。
「まあ、イヤならいいんだ。ごめんな、ムリ言って……」
それを聞いて、ふるふると首を横にふって、そうではないと意思表示した。
「イヤじゃ……ないです。迷惑に……なるから……」
「迷惑じゃないよ。組みたいと思ったから誘っただけだし」
「でも……邪魔したく……ないから……」
「そっか、急に悪かったね……。さ、気を取り直して設営に行こうか!」
そう言ってベンチから立ち上がり、2人で設営準備に向かった。
最後まで読んでくれてありがとう。
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