…しかし、にじファン最初の大粛清で載せられなくなった、曰くつきの作品。あの時点で図書館島までしか書き溜められてなかったのに(泣)
001 プロローグ
――どうしてこんなことになったのだろう?
ボクも彼女も、とある事件に関わっていたということ以外、ただの一般人だったのに。
――どうしてこんなことになったのだろう?
ボクらは、あの事件以降、誰よりも日常を望んでいたのに。
――どうしてこんなことになったのだろう?
どうして現実に―――≪鬼≫なんていう非日常が存在するんだろう?
◇ ◇ ◇
ボクの名前は、『水原 光(ミズハラ ヒカリ)』。麻帆良男子中等部の2年生。過去に
その『普通の日常』というものが、何よりもかけがえのないものだと気づいたのは、ボクが二年間の眠りから目覚めたときだった。
ボクはとある事件に巻き込まれ、世間的には二年間昏睡状態にあった。ちなみにその事件に巻き込まれた被害者としては、ボクと、これから会う友人と、二人共が最年少の人物だった。
二年間の眠りから目覚めると、ボクらの環境は一変していて、ボクも彼女も一年ほど速習プログラムで抜けていた学校の授業を受けることになった。幸いボクも彼女も、当時の学力はそれなりに優秀だったので、その一年ですっかり勉強の遅れを取り戻し、かつての同級生達と同じ中学に行くことが出来るようになった。
そう、そこまでは良かったんだ。
おかしくなったのは、周りだった。いや、今まで気づかなかったというべきか。ボクも彼女も、幼い頃から麻帆良の出身で、子供心におかしなところなんてどこにも無いように感じていた。
でも、ちがった。
この街には、明らかに外から見たら異常と思える存在がひしめいていた。車より速く走るヒト、銃や剣を携帯しているヒト、挙句の果てには雲より高い樹木まである。
二年間閉じ込められていた
なぜ今まで、気づかなかったのだろうか。今までの認識は何処に行ってしまったのだろうか。
それをどうしても知りたくて、ボクと彼女は、こうして時間が合ったときに、待ち合わせて調べることにしているのだ。
「――――オーイ、コウ」
道の先、世界樹前広場から声をかけられた。彼女こそ待ち合わせの相手、ボクが二年の間、ずっと背中を任せ続けた
「チウ、ごめんね。待った?」
麻帆良学園女子中等部2年、長谷川 千雨。ボクや仲間内からの呼び名はチウ。―――なんだけど。
「その名を大声で呼ぶんじゃねえ!!」
思いっきり、怒られた。どうも彼女は、仲間内以外にこの呼び名を知られたくないみたいだ。……そんなに変な呼び名かな?
「…ったく、で、今日は何処から調べる?」
「あ、ああ。それは……」
これが、今のボクらの日常。今日この日までは、何も変わらないと思っていた平穏な日々。あの二年間を過ごした―――
≪アインクラッド≫では、考えられなかった日々。
それがボクにとって何より大事で、絶対に変わって欲しくないと思っていた……この日までは。
◇ ◇ ◇
「何だよ……、アレ」
「ここ……本当に現実なのか?」
今、ボク達は目の前で起こっていることが信じられない。それは、明らかな非日常。明らかに非常識で、あの世界にしかいないと考えていた存在―――≪鬼≫だった。
『嬢ちゃんたち、中々に歯ごたえあるが、まだまだやな』
どこかのんびりした印象を受ける関西弁だが、その手にはヒトの身長よりもでかい棍棒が握られており、それが先ほどから眼前の少女達を追いかけている。鬼と戦っている少女達は、片方がチウと同じ麻帆良女子中等部の制服、もう一人はミッション系の高校、ウルスラの制服だった。
「くっ、≪影の槍≫!」
「≪魔法の射手・火の五矢≫!!」
二人の少女が手に持った杖から黒い帯のような槍と、小さな火の玉を出し鬼にぶつけていた。
―――しかし、
『悪いがのう、こんな豆鉄砲じゃあ……きかんのや』
無傷。いや実際にはほんの少しの焦げ跡と、切り傷がついているが、ほぼ無傷の状態だった。
「マズいね……」
「ああ、呑まれちまってるな…」
その言葉の通り、森の中の開けたところで鬼と戦っている二人は、自分達の攻撃が効かなかったことで恐怖しているのか、足が竦んでいるのがわかる。ボクらはああなったプレイヤーが、
「チウ……動ける?」
「……言うんじゃないかと思ってたけど。現実でまで、デスゲームかよ」
ボクは、そういうと足元に落ちている枝を調べ始めた。あんなモンスター相手に、武器もなしにつっかかる真似はできない。
「ん…、これは使えるかな?」
周りを探って、足元に落ちていた手ごろな枝を数本、腰のベルトに挿していく。そうして一際大きな枝を手に持ち、似たような大きさの一本をチウに渡す。やはり本来の武器に比べると心もとない。
「ハア……、初期装備のスモールソード以下だな、こりゃ……」
「まあまあ、それじゃ……」
お互いに準備を整え、動こうとしたときに、ドカンッ!というかなり大きな音が聞こえてきた。急いで目を向けると、吹き飛ばされる二人の少女と、棍棒を横に振り切った鬼の姿が目に入った。
「……ッ、前に出て気を引く! その間に二人の回収を!!」
「ああ! 分かった!」
そうしてボクらは、ボクが前衛、チウが後衛として鬼の前に躍り出た。
『アン? 何やお前ら』
こうやって前に立ってみると、改めてその巨体が分かる。170近くある自分から見ても、縦も横も1.5倍はあるだろうか?
「…ただの通りすがり。できれば後ろの二人に、これ以上攻撃しないでくれないかな?」
手に持った大振りの枝でけん制しているが、後ろからはどうやら二人の意識を戻そうとしている声がする。……まずいな、気絶した二人を引きずっては流石に逃げられない。
『悪いが、依頼人の意向でのぉ。目撃者と、後ろの≪魔法生徒≫は、徹底的に潰せ言われとんのや』
―――≪魔法≫?
気を取られて、反応が遅れたのは一瞬だった。
ブオンッ!!というとんでもない風切り音を立て、目の前を棍棒が通り過ぎていった。あの世界での経験無しには、絶対にかわせなかっただろう一撃だ。
『――ほぉ、さっきの嬢ちゃんたちより場慣れしとるな。紙一重でかわしてこれか……』
そう呟く鬼の喉下には、ボクの握った枝の鋭利な先が当たっていた。―――だけど、
『悪いが効かんなあ……≪気≫もこもっとらん一撃じゃあ』
―――今度は≪気≫?
「――コウッ!!」
その声に振り向くと、二人を介抱していたチウが、何かを投げてきた……トランプのクラブが付いた指揮棒?
「コイツラが持ってた! 多分それが、さっき言ってた≪魔法≫使うための杖だ!!」
なるほど、これで≪魔法≫を使えと…………ってちょっと?! ≪アインクラッド≫でも、その後行った≪アルヴヘイム≫でも現実で使う方法なんて教わってませんよ!?
杖を、枝を持っていない左手に持っては見たけれど、何かできる感じがしない。後ろでは、チウもスペードのついた杖を両手で持って、「何か出ろ!」と叫んでいる。実は、彼女も絶賛混乱中なのかもしれない。
『おもろいが……、何もさせへんで?』
ゴウゴウというメチャクチャな風切り音を立てて、目の前を鬼の棍棒が、何度も通り過ぎる。棍棒はモーションが大きく、出来た隙に容易に攻撃も可能だが、どれも決定打にならない。カンカンと岩に打ち付けるような音を立てて、枝の先がはね返ってくる。
……本当に、絶望的な、状況だ。顔だけは、相手へのハッタリとして口元をニヤつかせているが、余裕なんてありはしない。背中には現在進行形で冷たい汗が流れ落ちるし、枝と杖を握った手には、嫌な汗の感触がある。後ろにいるチウも、長年の経験で、ボクのブラフが分かるからこそ、さっきから必死なんだ。
記憶が、よみがえる。感覚がまるで≪アインクラッド≫にいた頃のように―――
『これで、しまいや』
その声に、意識を現実に向けると、目の前に棍棒が振り下ろされるところだった。
渾身の一撃。今からでは、回避など出来ない一撃。迫る棍棒を見ながら、ボクは心のどこかが冷えていくのを感じた。感覚が引き伸ばされ、棍棒が迫る一瞬の間に、かつて味わった絶望を思い出していた。
チウもまた、見ていた。鬼の持つ棍棒が、長年の戦友に振り下ろされるのを。かつて過ぎ去っていった、苦しくも輝いていた日々を、一つ一つ思い出していた。
―――一万人の人々を閉じ込め、二年のときを奪い取っていったSAO(ソードアートオンライン)の舞台、≪アインクラッド≫での日々を。
…また無くすのか?
嫌だ
……また喪うのか?
いやだ
………また守れないのか?
イヤダ!!!
「「≪リンク…………スターーーートオオオオオオッ≫!!!」」
その瞬間、≪闇≫と≪光≫が噴きあがった。
『なっ!』
目の前から噴きあがった闇に押され、鬼は棍棒ごと吹き飛ばされてしまった。見ると先ほど少年がいた所からはおびただしい闇が放たれ、その後ろの少女がいた所からは膨大な光が放たれていた。だが、それも徐々に治まり、二箇所に目を向けてみると、
『こりゃあ、たまげたのう』
手前には、黒一色の甲冑を纏い、闇色の日本刀と、西洋剣を持つ騎士がおり、その後ろには、体中に膨大なチカラを纏わせ、光の剣を携えた剣士がいた。
『おもろいなあ、お前ら。聞いたる、名ぁ名乗れや』
言われ、思考する。名前、戦士として戦い続けた名前。それを考えたとき……、出てきたのはやはり、あのデスゲームでの名前。
「……
「同じく、≪銀騎士≫のチウ」
これが、オレ達の新しい戦いの日々の始まり。魔法に囚われる街での、戦いの始まり。そして、何よりも―――≪立派な魔法使い≫だった『茅場 晶彦』を追う旅の始まりだった。
はい、第一話でした~♪
この作品が粛清に遭って、今度はそうならない作品をと書き溜め始めたのが、作者のもう一つの作品、『心優しき阿修羅の男』……
今ではストックもそちらの方があるので、最初の連載にはソッチを選びましたが、こっちもお気に入りなんだよねえ……
こっちはストックありませんので、続きを投稿するにしても不定期になります。