剣戟が響き渡る。黒の刀剣が血塗れた包丁をはじき返す。互いの間に横たわるのは、ただ相手を必ず仕留めようとする乾いた殺意のみだった。
「は――――、は――――」
「…………大分、息が上がって来たんじゃないか? そろそろお眠の時間だろ?」
互いに所々裂けたローブと砕けた鎧を纏い、手の中で凶器を弄ぶ。握りを変え、切っ先を揺らし、相手の喉元に喰い付くための最適解を探っていく。コウとPoH、ある意味この二人は良く似ていた。片や
二体の獣同士の戦いは、やがて轟音と共に降り注いだ岩をも砕く激流によって水入りとなった。
同じころ、発着場を粉微塵に砕く水の暴虐を、二人のガンマンも見つめていた。
「あっちゃ~。レーカがアレ出したら、さすがに戦闘は終了かにゃ?」
「…………」
二挺拳銃を油断なく構えるキッドを目にしながら、シュピーゲルは一挺しかない拳銃を簡単にホルスターに収めた。そのままその足で隣に倒れ伏したジョニー・ブラックの元へと歩み寄る。その間キッドに向かって背中を向け、まるで撃つなら撃てと言っているかのようだった。
「……ホント、どうしてそっちにいるわけ? 理由くらい聞かせてくれても――――」
「いや、言ったところでどうしようもないよ。ただの僕の、個人的な我が儘なんだから」
そう言いながら、気絶したジョニー・ブラックに肩を貸して歩き出す。やはりまだ戻ることは出来ないと言う意思の表れだろう。
「……どうしても、力にならなきゃいけない人がいるからね。だから今は、そっち側には戻れない」
「…………」
シュピーゲルが腰のポシェットから円筒状の物体を取り出し、地面に投げつける。視界を奪い取るために作り出されたスモークグレネードは盛大に煙を吐き出し、その役目を全うした。煙の中、離れていく気配。追うことも出来たが、キッドはその後を追わなかった。
そして、発着場の戦場どこからでも見える大惨事の舞台では――。
大瀑布。
そう形容するしかない光景が目の前に広がっていた。四方から殺到した膨大な量の水がその焦点に集中し、ありとあらゆる物体を圧搾していく。またその魔法からわずかに零れた水が激流を生み、発着場の地面を粉砕した。当然その中心にいたオベイロンはただでは済まない。
「ご、が、ば、ぎ、ぼぉおおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」
もはや口から出るのは意味のない音の羅列のみ。河の中に浮かぶ、ただの無力な木の葉か小枝にでもなったかのように碌な抵抗など出来ない。手足は左右出鱈目な方向へと折れ曲がり、内臓も圧縮され、尋常ではなくシェイクされている。まず間違いなく常人なら死んでいる重傷だ。
けれど、オベイロンは死ねない。自分で作り上げた結晶に仕込んだ術式によって、自分で設定
(痛いいたいいたいイタイイタイイタイイタイ――――――――!!)
余りの痛みに、もはや生きているのが地獄のような時間が過ぎる。そうして本人にとっては永遠に等しい苦痛の時間が過ぎ去り、水が少しずつ勢いを弱め………………最後に発着場のあった辺りの浮島の残骸に、べちゃりと襤褸屑のようになった矮小な肉体が落ちた。
「…………本当に、しぶといですね」
「……ア…………ギ………………」
先程までの鬼神や悪魔と融合した巨大な姿など、見る影もない。ぐちゃぐちゃになった手足で這いずるように地面を蠢く奇怪な生物がいた。その両目に宿っていたのはただ、生への執着だけだった。その姿を僅かに哀れに思うも、これまで彼に殺されてきた人々の事を考え、確実に仕留めるべく一歩を踏み出した。
「ヒィ!! …………ヒィ…………!」
近づく足音に大仰に驚き、そのまま少しでも距離を取ろうとする。今まで戦場には出ていても生命を奪ったことは無いレーカは、その姿に本当に少しだけ同情した。けれど、ここで断ち切らねばまた新たな犠牲が出る。だからレーカは、オベイロンをここで仕留める覚悟は決めていた。
――――そうならなかったのは、別の演者が割り込んだから。
「ヒィ――――! ヒィ――――!!」
「――――見ていて実に哀れだ。手を貸そうかね?」
「ヒ…………?」
聞こえてきた声に、オベイロンは思わず動きを止めた。その声が、かつて聞いたことのあるものだったから。聞こえてくるはずのない声だったから。
地面にだけ向けていた視線を、何とか持ち上げる。逆光と共に入って来た視界は彼にとって、絶望的な光景だった。
「やあ、須郷伸之君。麻帆良では、随分世話になったね」
そこにいたのは、帽子とスーツ、そしてコートを身に着けた髭の紳士然とした男。爵位級悪魔ヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン、そのひとだった。
「――――――!!」
必死になって後退るその身体を、今度は逞しい体躯が押し留めた。
「なんじゃぁ、
そこに立っていたのは、こめかみに角を生やした二面四臂の異形の武人。明らかにその特徴が、リョウメンスクナノカミ、その人であることを示していた。
オベイロン、須郷が狂乱の坩堝にある中、異形の紳士と武人は、その身体を固定し、いっそ朗らかに話しかけていた。だと言うのに、ふたりの目には一切温かみが無い。まるで、屠殺される家畜を見つめるような目だった。
「さて、須郷君。君には私もスクナも、随分お世話になったものだね」
「まったくじゃなぁ。儂らを縛るために陰陽師の一族を丸ごと皆殺しにして、贄にするかぁ。儂らより余程鬼畜じゃのぉ」
「いや、まったく。だが、おかげで私たちを縛っていた彼らと、魂を通じてコンタクトが出来てね。結晶の中で力を吸われるだけだった私たちと、どうしても『契約』を結びたいと言ってきたんだよ」
ポンポンと須郷の肩に、ヘルマンの手が置かれる。不意に、その手に満身の力がこもり、須郷の肩が粉々に砕かれた。視界を上げた先、紳士然とした人外が、ニタリと三日月の笑みを浮かべる。
「君という人間を、この先未来永劫、永遠に苦しめて欲しい――――対価は、『彼らの魂』だそうだ」
ヘルマンとスクナ、そして須郷の足元に、複雑な魔法陣が浮かび上がる。それは悪魔召喚に使われる魔法陣であり、悪魔の故郷、『魔界』へと通ずる『送還』の魔法陣でもあった。
「須郷君。君は特別に魔界の我が家に招待しよう。君が例え死んでも魂を屋敷に捕らえ、スクナと二人、どのような責め苦を与えるか考えなければならないからね」
「あの一族との契約もそうじゃが、主には散々煮え湯を呑まされたからのぉ。儂も全霊を込めて、
さらりと恐ろしいことを言うふたりに魂まで鷲掴みにされ、須郷が徐々に光の中に消えていく。涙と鼻水を垂れ流し、ただ必死に赦しを乞う姿。それが自称妖精王の最期の姿だった。
須郷がその所業に相応しい最期を迎えた時、別の戦場では全く逆の形で決着がつこうとしていた。
「…………ぐ、クソが……」
地に伏し、頭を垂れているのは、チウの方。それに対して変わらずその手の
「…………さっき、の、は≪閃光≫が使、うと聞く、十一連撃ソードスキル≪マザーズ・ロザリオ≫、か」
ザザには≪マザーズ・ロザリオ≫すら通じなかった。正確には、チウが繰り出した
「……もう、諦め、ろ。お前、で、は俺には勝てん」
「…………」
そのザザの言葉を受け、チウが静かに瞑目する。そして再び眼を開けた時、その瞳に決意をみなぎらせていた。
「あー…………クソ。こんなところで使うつもりじゃなかったのによ……」
そう言って懐から取り出したのは、
「…………?」
「私じゃ勝てない、か……その通りかもな。だったら、『最強』に頼るだけだ」
チウの魔力の滾りに、結晶が反応を増していく。その光はスクロールと共鳴するかのように、徐々に徐々に色を変えていく。
「ゆっくり味わえよ――――――『絶対無敵の剣』ってやつをよ」
ゲスゴウはヘルマン邸へとボッシュート……流石にコイツの命をレーカに背負わせるわけにはいきません。画面のイメージ的には、BL○ACHで地獄に落ちたシュ○ーカー(だっけ)?
スクナの口調は、飛騨(岐阜)弁にする予定でしたが、あのあたりの方言よくわからなかったので、古風な武人風の口調にしてみました。
そして次回!チウにマザーズ・ロザリオ持たせた意味が明らかに!セイバーコスの人が、鯖を持ってもいいじゃないw