魔法先生ネギま!~闇の剣と星の剣   作:路地裏の作者

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SAO原作と違いすぎるヒースクリフェ……



106 騎士の肖像

 

「まずは一杯いかがです? オスティア近隣の名産である白ワインです」

 

 そう言いながら薄笑いを浮かべる人物を、その場の全員が油断なく見据える。現オスティア総督クルト・ゲーデル氏。魑魅魍魎が跋扈する政治の世界を生き抜いて、総督にまで上り詰めた油断ならない男だ。

 

「定型文じみた誘いはいい……早く本題に入ろうぜ」

 

 コウのそんな言葉に、半ば苦笑するような表情を浮かべるクルト氏。そのままお道化るように肩を竦めると、奥が見えない瞳でこちらを見据えてきた。

 

「こういった駆け引きも政治の世界では必要なのですが……まあいいでしょう。あなた方は、ネギ・スプリングフィールド君をどう思っています?」

 

 突然に投げかけられた脈絡のない質問。今回この場に招かれた案件は、かつてのヒースクリフを知る者について当時の彼の為人、そして彼の思惑について確認することが主だったはずだ。だと言うのに、目の前の相手からの質問は、全く関係のない事柄。それを訝しく思いながらも、全員が一度その質問に答える。

 

「……まあ、頑張ってるんじゃないか」

 

「お姉さんとも離れ離れで、一人で日本での教師生活だもんね~」

 

「……応援したくはなるよね」

 

「ボクはまだ直接会う機会が少ないから、何とも言えないかな」

 

 四者それぞれ違う答え。それらは彼の日本で教師をやると言う過酷な試練への同情、共感的な意見が多かった。そんな中、言葉を濁したのは、コウ。彼は未だにクルトに対し強い視線を向けたままだ。

 

 これまで四者が回答したのは、あくまで普段の教師業についてのみ。目の前の人物は明らかに『英雄』ナギ・スプリングフィールドの息子として、ネギを見ている。ならば、目の前の人物が求める回答は――。

 

「……魔法の才能には溢れているとは思っているよ。ただ――――危うい」

 

 それは、コウ自身がネギ先生と接した中で感じてきた掛け値なしの感想。才能はある。努力も出来る。それでも『英雄』になろうと思ってなれるわけではない。『英雄』はそれを目指した瞬間から、違うナニカへと変化していく。それを理解しないままただ目指すネギ先生は、いずれは違うナニカになってしまうと確信出来た。

 

 そのコウの感想を聞いて、クルト氏はただ微笑みを深くした。そうして、部屋の隅から小型の機械を取り出し、部屋の中心へと持ってきた。

 

「コレは、魔法世界でもそれなりに高額な映写装置でしてね。映像を編集した記録媒体さえあれば、空間全体に映像と音声を再生することができます。……今回ここに来てもらったのは、あなた方に知ってもらうためです」

 

 そう言って映像を空間へと投影する。やがて見えてきたのは、茶髪とオッドアイを持った幼い少女の前で、騎士の礼を捧げる少年の姿。

 

「かつて、『騎士』を目指しながら、全く別のナニカになってしまった騎士気取りの男の物語……」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 それは、かつてあった魔法世界の大戦の渦中。

 

 大戦に巻き込まれた彼ら≪紅き翼≫は、とある歴史のみが残る小国で、幼い少女を助けていた。≪黄昏の姫御子≫と呼ばれた少女は、魔法世界でも最も稀有な能力を現代に蘇らせ、それゆえに兵器として国に利用されるだけの存在であった。

 

 ≪紅き翼≫は彼女を助け、信頼できる小国の一分の王族に預けるまでの間、彼女と生活を共にした時期があった。しかしここで困ったのが、構成メンバーの育児能力の欠如。リーダーはノリと勢いで幼女を危険地帯へ連れていきかねないし、サムライは真面目すぎて遊びが無さすぎる。古本は情操教育に悪影響過ぎるし、ショタジジイは枯れ過ぎている。必然的に、彼女のお守は年少メンバーへと押し付けられることとなった。

 

『――えっと、こんにちは。アスナ、姫、さん……』

 

『…………』

 

 第一印象は、最悪。警戒心全開で仏頂面の少女と、王族など雲上人だと思っていた魔法世界の辺境の戦災孤児。沈黙が痛いお姫様と、緊張し過ぎでどもり過ぎた少年との交流はこうして始まった。

 

 戦災孤児であった彼は、同時に向学心と向上心の塊のような少年でもあった。一度どん底まで堕ちたがゆえか、そこから這い上がるためならばどんな努力も惜しまない少年でもあった。武術については一般兵が用いる盾と片手剣を用いてサムライマスターへと挑み、魔法については座学をショタジジイに師事され、実戦をリーダーとの間で積んでいた。そしてそれ以外の分野の知識についても旧世界を良く知るメンバーから薫陶を受け、科学技術の知識も、魔法世界のアイテム文化も、全て飲み干すかのように吸収していった。

 

 多岐に渡って才能を発揮する彼だったが、アスナ姫との関係だけはしばらくの間改善の兆候が見られなかった。どうしたものかと彼が頭を悩ます中、ある日彼女の方から語り掛けてきた。

 

『……あなたは、どうしていつも懐の本に何かを書いているの?』

 

 各方面で努力を惜しまず多忙を極めていた彼の、唯一といってもいい趣味。それは自身の見聞した体験や、想像・思索の中で思いついた色々な世界について、『物語』を綴ることだった。

 

 自身の作り上げた世界について、嬉々として語る少年と、それを黙って聞く少女。端から見るととても分かり辛かったが、その光景を間近で見たコウ達の感想は、少女もまたほんの少しだけ楽しそうでもあった。

 

『そんな世界があったら――――……』

 

 やがて、少女は少年が語る『剣の世界』に思いを馳せ、呟く。

 

『私も、もっと自由に生きられたのかな……?』

 

 兵器として生きてきた少女。望まぬ殺戮、望まぬ戦争にただ駆り出されるだけの日々。少女は確実に、その心を蝕まれていたのだ。それがこの場の誰にも分かった。騎士気取りの少年にも分かった。だから――。

 

『何時か必ず……キミが自由に生きられるようにしてみせるよ。そしたら、僕がこれから作る『剣の世界』、『夢想の城』へ一緒に行こうよ』

 

『無理だよ……』

 

『どうして?』

 

『私お姫様で……そんな剣の世界で生きられるほど強くも無いもん』

 

『そっか。じゃあ……』

 

 そう言って、少年はその腰から剣を抜き放ち、彼女へと捧げた。まるで騎士が己が主へと剣を捧げるように。

 

『――今日この日より、この身が貴方の騎士となりましょう。剣となり、盾となり、如何なる障害をも跳ね除けると誓いましょう――姫、貴女の望む行先は?』

 

 その誓いに少女はしばらく呆けていたが、やがてその剣を受け取ると、ほんの微かだが、しっかりと微笑んだように見えた。

 

 けれど、その誓いは果たされなかった。小国の王族にまで浸透していた秘密結社≪完全なる世界≫によって、少女はやがて世界崩壊の生贄とされ、それを阻止するため世界中の軍勢から放たれた封印魔法によって長い時間を封印されることとなった。それが騎士を誓った少年の、最初にして最大の挫折だった。

 

 数年を経て少女は封印の中から助け出されたが、その時点で≪紅き翼≫は指名手配の逃亡犯と化していた。その上時の政治家や軍だけでなく、かつての秘密結社の生き残りが何度も刺客を差し向け、彼らの命を脅かした。逃亡に次ぐ逃亡。戦闘に次ぐ戦闘。その中で、かつて少女を守ると誓った騎士は仲間からはぐれて瀕死の重傷を負い、再会した少女とも離れ離れとなってしまった。

 

 身体を癒し、少女を安全に保護できる場所として候補に挙げていた麻帆良の地に騎士がたどり着いたとき、全ては終わっていた。最期まで少女を守ったガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグの遺志を受け、同士であった高畑が彼女の記憶を全て消してしまっていたのだった。それは実質、彼女と言う人格を、『殺してしまった』に等しかった。

 

 主を、姫を守れなかった騎士は、この時『堕ちた』。

 

『…………たとえ記憶の消去が彼女の望みでも、記憶を失くし新たな人生を歩む彼女が、姫の『妹』に等しい存在でも! 私は私の姫のために、これからの人生を全て使う……!』

 

 そう言って高畑たちの元を離れた彼は、やがて『SAO事件』と言う大事件と共に、再び魔法の世界へと名を轟かせることになる……。

 

「……以上が、私の知る限りの彼の生涯になります」

 

 沈黙。機器を再び操作するクルトの立てる物音だけが部屋に響き渡る中、その場の誰も言葉を発することが出来なかった。

 

「……なぜ、これを俺達に見せたんだ?」

 

 ようやく口に出来たのは、映像への感想ではなく、目の前の男の意図を問うもの。それでも予想していたのか、クルト氏はあくまで泰然とした態度を崩さず問いに答えた。

 

「正直な話……ヒースクリフについては、何をしたかったのかは、未だに私にも分かりません。ただ彼がその目的のためだけに注力してからは、まさしく『魔王』と言うべき実力を誇ったことも事実です」

 

 全盛期の彼には、神鳴流を修めた自分でも歯が立たなかったと、どこか嬉しそうに語る。そして、その圧倒的とも言える力が今まさに必要なのだと。

 

「魔法世界は、表面上平和で問題が無いように見えますが、実情はそんな悠長なことが言える状況ではありません。この世界は今まさに、『英雄』を欲しているのです」

 

 そう言いながら、彼は機器を操作し続ける。そこを狙いすましたように、一人の少年と数人の少女が入って来た。少年の名はネギ・スプリングフィールド。周囲にいるのは彼を慕う少女たち。

 

「だからこそ――――私もかつての彼と同じ『魔』に堕ちてでも、『英雄』を求めるのです」

 

 ネギ先生を加えて新たに眼前に映し出される光景。それはネギ先生が幼少期に抱え込んだ、最大の『闇』だった。

 




クルトによるヒースクリフの人生録、終了です。この作品においてヒースクリフは出発点が違いすぎるため、才能は確かに有ったけれど努力で全てを乗り越えてきた人物へと変更になりました。SAO原作の彼は、理解不能の宇宙人過ぎんよ……

クルトもヒースクリフの本当の狙いは知りません。しかし魔に堕ちてでも救済を果たそうとしている辺り、高畑よりは好感を持てる相手として考えています。

次回は、原作でのクルトの悪者面全開シーンとなります。あの時はコイツが魔王でいいんじゃね?と思いました。
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