「6年前、貴方の村を襲ったのは――――我々です」
業火が噴き上がり、悪魔が嗤う。それは少年の心に決して癒せない傷を刻み込んだ原風景。かつて召喚悪魔の大群によって滅ぼされたネギ先生の故郷。ネギ先生にとって、それはもはや取り戻せない幸福な場所だったに違いない。
そんな場所が今、悪魔に踏みしだかれ、焔に崩れていく。ネギ先生は割り切ったつもりでいたのかもしれない。何度も何度も周囲の人間から、かつての魔法学校の校長から、ネカネから、アーニャから、言われ続けていたから。「ネギは、気にすることはない」と。そんな風に言われ続け、でも結局こだわっていた。お世話になっていたネカネお姉ちゃんの両親に、街でよく出会う近所のお店のおじさんに、そして何よりスタンおじさんに。彼らが物言わぬ石像と化した風景が、瞼にこびりついて離れない。徐々に徐々に石化しながら、それでも心配してくれたスタンおじさんの声が耳に貼り付いて今も聞こえる。
だから。
かつての村を滅ぼした者を、ようやく見つけた『仇』を、許すことなど出来なかった。
「ガァアアアアアアアアアアアッ!!」
咆哮をあげ、殴りかかる。拳は目の前の仇、クルト・ゲーデルの頬へと突き刺さり、そのまま数メートルは吹き飛ばした。半ば無意識に身体強化を自分にかけ、足元の大理石製の床が蜘蛛の巣状に割れる。もはや相手を気遣う心など一切なく、無心で拳を振るい続けた。
怒りに狂い、憎悪に身を焦がすその様は、とても英雄などと呼べたものではなかった。その様子は、まさに『獣』。復讐の為だけに生き、そして消えていく醜い一匹の魔物の姿だった。
「だ、ダメです、せんせー!」
宮崎のどかをはじめとする彼の従者たちが、何とかそれを止めようとする。しかし、今の彼は生半可な方法では止まらない。一緒に付いて来た古菲が膂力で抑えようとするが、それでも止まらない。
ゆえに。止めるならば、渾身を以て望まねばならない。
「!?」
ネギ先生の蟀谷が、突然の衝撃に吹き飛ばされる。視線を巡らせると、その手の二挺拳銃から硝煙を立ち上らせるキッドの姿があった。ついで、ネギ先生の頭上、2・3m上に突如として水球が形作られる。
「――ッ!」
水球が頭頂部に降り注ぎ、ネギ先生の頭がガクンと下がる。強制的に下げられた視界には、二刀を逆手に持つコウと、黄金の宝剣を携えたチウ、そして腰だめに黒曜の剣を構えたユウキの姿。
「――――――――――――!!」
三位一体の四連撃に、さすがのネギ先生も耐えられず、部屋の壁まで吹き飛んでいく。そのまま壁へと突き刺さり、ようやく止まった。
「…………気持ちは分かりすぎるくらいに分かるよ。けどな、仮にも『教師』なら、そいつは駄目だ」
コウのそんな言葉は、ネギの朦朧とする意識の中、やけに響いた。
◇ ◇ ◇
ネギ先生の意識が戻るのを待って、オスティア総督クルト・ゲーデルとの会談が再開される。改めて話した中で分かったのは、ネギ先生の村を滅ぼしたのは正確にはクルト自身ではなく、彼が所属するメガロメセンブリア元老院の指示であること。当時からオスティア総督として働いていた彼は、直接には襲撃に関与していないことなどが分かった。
「……いくら政治の世界が清濁併せ呑むと言ったって、これじゃ真っ黒過ぎるだろ」
「ハハハ、手厳しいですね」
先程までのネギ先生の鉄拳でボロボロになったクルトは、そんなチウの指摘にも一向に笑みを崩さない。どちらかと言えば、ネギ先生を復讐に走らせてメガロメセンブリア元老院と直接対決させたかった感じもする。この辺り、とてつもなく胡散臭い相手でもあった。
そうして語られるのは、かつての大戦の時代、本当は何が起きたのか。かつてオスティアを治めていたアリカ王女は、オスティア崩壊に前後して、多くの難民を救うため、いわゆる『奴隷制度』とそれを規制する法律を作り上げた。奴隷とは言ってもその身分はマジックアイテムによって保障されており、例え主人であっても人権侵害になり得る行いや、不当な扱いが出来ないように担保されていた。
彼女がそんな法律をメガロメセンブリア元老院に上申したのは、難民となったかつての国民の身分をある程度保障し、未来において救済出来るよう準備を整えるためであった。
しかしそんな彼女の想いは、戦争の責任を問う『生贄』を欲する元老院に踏みにじられ、彼女は極刑を待つ虜囚となった。世界に戦争を齎した、オスティアを滅ぼした『災厄の魔女』と呼ばれ、ありとあらゆる人から罵声を浴びせられる王女。その身は泥にまみれ、彼女の死を望む怨嗟は天にも上った。
そうして迎えた処刑の当日。魔法の使えぬ渓谷に落とされ、そこに棲みつく魔獣に食い殺されると言う残虐極まる刑。厳重な監視と警備の中、彼女の身は中空へと落とされていった。
それを救ったのが、ナギ・スプリングフィールドだった。かつての戦争の英雄は、自分が愛した生涯唯一の女性を救うために魔獣の谷へと駆けつけ、彼女の身柄を救出したのだ。そして、彼の仲間たちもメガロメセンブリア元老院の専横を許さず、警備の軍相手に全員で無双するというハッチャケぶり。晴れてかつての英雄≪紅き翼≫は、全世界指名手配のお尋ね者となったのだった――。
これが、かつての顛末。ネギ先生の父親が仕出かした事の全て。だが、それを知っても、コウ達VR組は、クルトの見せた映像に疑問を抱いていた。
「……おい、クルトさん? ナギ・スプリングフィールドとアリカ王女の顛末は分かったけど、ついさっきアンタがどうして元老院の泥を被ろうとしたのかが語られていないんだが」
「ああ、その件ですか。私としてもネギ君には、ぜひお父上やお母上と同じ世界を救う英雄になって頂きたいと考えているのです。ですが英雄には、それに敵対する『悪』の存在は不可欠でしょう?」
「どこぞの麻婆好きな神父みたいなこと言いやがって……」
つまりは、ここでネギ先生を復讐に走らせ、メガロメセンブリア元老院と完全に敵対させるのが目的だったのだ。つまり、元老院を道連れにした壮大な心中が目的。アリカ王女の遺児が元老院の闇を暴き打ち倒したともなれば、彼女の名誉も回復する可能性がある。よくもまあ考えたものだ。
「ただ、元老院の『闇』を暴くってだけじゃ『英雄』としては弱いんじゃないか?」
「ええ。ですから、彼には救ってもらいたいのですよ。今現在徐々に、ですが確実に滅びに向かっているこの魔法世界を」
笑みを浮かべるクルトと共に、部屋の映像が宇宙空間のような映像へと切り替わる。そこに浮かぶのは地球とは印象を異にする魔法世界の映像。
「そのために、まず――――」
ついに彼の口から世界を救うと言う真相が語られようとしたその時――。
総督府全体に、とてつもない振動が奔った。
原作とは少し変わって来てます。クルトとの分身バトルも無し!そもそも原作も、タカミチとクルトで仲良く喧嘩してる場合じゃなかっただろ!っていうね。タカミチの合流どうすっかなぁ……。