魔法先生ネギま!~闇の剣と星の剣   作:路地裏の作者

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108 英雄は去りゆく

 

 その日、オスティア総督府付近を哨戒中であった軍用艦は、有り得ない存在を目撃した。突如として警備の網を縫って、巨大な、触手の生えた巨人が召喚されたのだ。

 

「な、なんだコイツは?!」

 

「分かりません! 我々の警戒網の内側に突然現れました!」

 

「データ照合! 正体と召喚主を割り出せ! 艦砲担当は各自攻撃! 目標は正面、巨大召喚魔!!」

 

 それぞれの艦を操る艦長が、各々の判断で巨大な召喚魔へと攻撃を加えていく。しかしそれらの攻撃は、何か特殊な障壁に守られているのか一向に効いた様子が無い。

 

「砲撃、効きません!」

 

「糞っ、何なんだアレは!」

 

「データ照合、完了! で、ですが、コレは……!?」

 

 軍のデータベースにアクセスしていた情報官が驚愕の声を上げる。それでも今は少しでも情報が欲しい。そう判断した艦長は、情報官に結果の報告を要求した。

 

「情報官! 結果を報告せよ!」

 

「た、大戦時に、『最終決戦』において同様の召喚魔が呼び出された記録有り! 同様の召喚魔を呼び出せる術者は、現在その術者の外にいないとのこと! 敵は――――」

 

 そんな情報官の声が聞こえた訳ではないだろうが、召喚魔の視線が不意に彼らの艦を向いた。触手が迫り、その口の中に眩い光球が映る。

 

「≪完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)≫です!!」

 

 最悪を告げる、情報官の叫び声。その声が、艦長達の記憶する最後の光景だった。

 

 事態は、総督府周辺の上空のみに収まらなかった。同様の能力を持った小型召喚魔が、大量に総督府内部にも召喚されていたのだ。警護に当たっていた魔法兵がすぐさま攻撃を加えるも、ここでも謎の障壁に阻まれ攻撃の一切が徹らない。

 

 恐ろしいのは、それだけではなかった。

 

 バスッ、と音を立てて、ある兵士の重装鎧が召喚魔の光線に貫かれた。彼は信じられないかのように、呆然と鎧に穿たれた余りに小さな穴を眺める。次の瞬間、その小さな穴から全てがほころび、重厚な金属鎧も鍛え上げた肉体も、全てがチリとなっていく。理解できない現象を眺めながら、その兵士は跡形もなく消え去っていった。

 

 一連の光景を見ていた全ての人間に、動揺が奔った。こちらの攻撃が効かぬ相手、重厚な鎧でも防げない攻撃、何より一撃喰らえば終わりの即死性。屈強な警護兵でも動揺するのは当然であり、ましてや訓練など受けていない招待客はなおさらだ。

 

 舞踏会場は、大混乱に陥った。

 

「……! あー、もうどないするんや?!」

 

 ダンスホールで和装に身を包んでいた女性が、京都弁で愚痴を呟く。そこにいたのは天ヶ崎千草。彼女も今回の舞踏会に招かれていたのだが、総督が会談を希望したのがあくまでコウ達四人だったため、会談終了まで雇い主の護衛についていたのだ。

 

「……まずは、会場の混乱を治めることからだね」

 

 そう呟いたのは、現役自衛官にして『先端技術対策管理室』の室長、菊岡誠二郎。彼は徐に懐から一挺の拳銃を取り出すと、天井に向けて三発、いきなり発射した。

 

 混乱した場内が、一瞬水を打ったように静かになる。

 

「招待客の皆さん、落ち着いて。皆さんは誘導に従い、速やかに避難を。警護兵、貴方たちは敵をけん制しつつ避難誘導を。――――行動ッ!!」

 

 最後の鋭い号令に後押しされて、全員が指示の通りに行動し始める。そんな中、召喚魔は兵士・招待客関係なく、無差別に攻撃をしようとして散らばり始めた。さしもの警護兵も攻撃の効かぬ相手にどうやって守ればいいのか、右往左往するばかり。そんな中、遂に一本の光線が逃げまどう客の一人の背中に突き立とうとした。

 

 空中に割り込んだのは、一枚の『符』。その符が光線を弾き、霧散させた。その光景に警護兵と客は呆然とし、符を放った女性はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「……なーんや、効くんやないか」

 

 その女性、千草は先程と同様の符をさらに二枚取り出し、一枚を警護兵の向こう側、召喚魔とのちょうど中間へと投げ放った。

 

「お札さん、お札さん、ウチらを逃がしておくれやす――」

 

 紡がれる言霊と共に、地面がせり上がる。形作られるのは、巨大な岩壁。破壊しようとして召喚魔が再び光線を放つが、彼らの真ん中にさらに符が投げ込まれる。

 

「これで終いや。流れい!!」

 

 符から大量の水が生まれ、途端に濁流と化す。岩壁で流れを変えられた激流は、巻き込まれた召喚魔たちを抵抗すら許さず押し流していった。

 

 混乱は、喝采へと変わった。喝采を受けながらも、フンと勢いよく鼻を鳴らした彼女が、警護の兵へと檄を飛ばす。

 

「拍手しとる場合か! 第二陣が来るかも知れないんや。とっとと避難誘導せい!!」

 

『ハ、ハッ!!』

 

 全員が姿勢を正し、再び行動を開始する。そうこうする内に危惧した通り召喚魔の第二陣が現れ出す。それらの軍勢を睨みつけ、千草は再び符を取り出した。

 

「……チッ、いけ好かん魔法世界の奴ら助けなあかんとは、ほんま難儀や」

 

「まあそれが、雇われ者全員の心の声だよ。奮闘をお願いしますよ、専門家さん(プロフェッショナル)

 

「わーっとるわ! くされ雇用主(クライアント)

 

 戦場は、彼らがいる舞踏会場だけではなかった。総督府の彼方此方でも、同様の召喚魔が乱入、被害を加速度的に増やして行った。

 

 そんな事態の変化をいち早く察した総督クルト・ゲーデルはと言うと。

 

「……これは、マズイですね。私自身、急いで陣頭指揮を執る必要がありそうです。これで失礼させていただきます」

 

 ネギの攻撃で汚れたロングコートから埃をざっと払うと、部屋内の映像投影機の電源を切った。これでいつでも脱出が出来る。

 

「ですが、最後に――――そちらの『いどのえにっき』をお持ちのお嬢さん!」

 

「は、ははは、はい?!」

 

「私に質問を! 内容は『この世界の隠された真実は?』です」

 

「ハ、ハイ! クルト・ゲーデルさーん! 『この世界に隠された真実はなんですか』ー!!」

 

 質問によってクルトの脳裏に浮かんだ回答が、『いどのえにっき』に投影される。これで後で落ち着いたときにでも、内容を確認出来る。

 

「確認は、ここを逃れてからにして下さい! とにかく今はここから避難を!」

 

「わ、分かりました! のどかさん、朝倉さん。落ち着いて行動を――」

 

 ネギが傍らの彼女らに呼びかけた時だった。轟音と共に空間が砕け散り、内部から機械式の手甲と脚甲を纏ったラカンが現れた。少し遅れて、巨大な漆黒の鍵を携えたフェイトが現れる。

 

「フェ、フェイト!? それにラカンさん!」

 

「む……」

 

「……ぅ、ぐ…………」

 

 ラカンは酷い有様だった。あの強靭なラカンが、今やあちこちから不可思議な煙をたなびかせ見る影もない。心なしか以前出会った時よりも存在感まで希薄な気がした。

 

「……あ――――……、よう、ぼーずか。悪いが、下がってな。コイツの相手は、今俺だからよ」

 

 それでも、折れない。そこには確かにコウやネギたちでは決して届かない、歴戦の戦士としての曲がらない『芯』が見えた。同様の印象は、対峙するフェイトも感じたのか、不快そうに眉を顰め呟く。

 

「……なぜだ? なぜ貴方は、こんな……世界の真実を知り、それでも飄々と意味なき生をただ重ねる……何の意味があって、この世界でそんなふうに生きていられる?」

 

「ケッ……やっぱり先代と違って、人間臭い奴だな……」

 

 フェイトの疑問に対し、かつての英雄、ジャック・ラカンはただニヤリと口元を歪ませた。

 

「真実? 意味? そんな言葉(・・)、俺の生にゃあ何の関係も無えのさ」

 

 ここに、運命は決した。ラカンの返答に不愉快そうに表情を歪ませたフェイトは、黒曜の黒杭の大群をもって挑む。対するラカンは、手足の代わりに取り付けた装甲をもって挑む。二十年前の決戦を彷彿とさせる激突は――――。

 

 

 英雄ラカンの敗北に終わった。

 

 

 身体をチリへと変じさせながら、英雄は盟友の息子へと最期の力で真実を伝える。恐らく傍らにいる≪黄昏の姫御子≫アスナは影武者だと。彼女本人は、既に敵の手に堕ちていると。

 

「あ――――、すまねえな、ネギ……結局俺ら親世代の尻拭い任せることになっちまって」

 

 最期だと言うのに、彼は変わらない。それこそが恐らく、世界の残酷過ぎる真実を知っても、変わることの無かった、彼の『芯』。

 

「――――――――じゃあな」

 

 後には、何も残らなかった。その飄々とした生き様を象徴するかのように、己が最期を汚すことなく、何一つ……。

 




ラカンの最期……!原作でも勝ち目皆無だったけど、それでもラカンなら、ラカンならなんとかしそうと思って読んでました。まあ、この敗北は市街地戦で、最重要護衛対象のアスナのそば離れてフェイトと単独戦闘行ったネギにも結構責任が。『造物主の掟』なければまだなんとかなった……!

そして、大活躍の千草さん。この人本当はかなりの実力者のはずなのに、最初の頃のチョイ役なのが惜しい!
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