景色が高速で通り過ぎ、風がチウたちの髪を嬲る。彼女らがいるのは、ヘラス帝国が日本政府のスタッフ用にと提供した高速遊撃艇の中。ネギ先生たちが乗る金魚型に対して、こちらはオレンジ色のクマノミ型とどちらも鑑賞用の魚の形をしている。向こう程の攻撃力はないものの、艦首部分の装甲が厚く、揚陸艦としても使える代物だ。
そして現在、その船の中では、コウたち≪
「全体を見ると、非常に不味い状況だな」
「神楽坂の奴が、魔法世界の亡国のお姫様とか……」
「しかもアスナ、今浚われてるんだよね?」
「……ひどい事されてなければいいけど」
「不味い。非常に不味い。まさか国交正常化交渉に来ている自衛官の目と鼻の先で……」
「まあ、知らなかったんやし、そこはしょうがないやん?」
あの後彼ら全員でネギ先生に詳しい事情を聞き、アスナの身元と現在の状況を詳しく知った。それによって分かったのは、考え得る限り最悪の事態だった。
「何はともあれ、一度整理しようか。見落としもあるかも知れないし」
徐に菊岡が立ち、備え付けられたホワイトボードの前に立つ。そこに現在の状況を整理した図を書き始めた。
「まず最初の問題は、僕らが日本の女子中学生だと思っていた神楽坂明日菜さんが、魔法世界亡国のお姫様だった。この事実が非常に不味い」
滅びたとは言え、他国の
「おまけに彼女の国は、あくまで書類上ではあるが、
旧オスティアは、その国土であり主な居住区であった浮遊島が墜落し、住めなくなっただけ。周辺国家の認識では、浮遊島の直下やその周辺はオスティアの国土という認識だったのだから、そこに身を寄せる人がいれば、国家の体は保てていることになる。多くの国民が難民として流出したとは言え、それでも全員ではない。
「現在のオスティア総督府は、あくまで無政府状態だった周辺地域を治めるために、メガロメセンブリア元老院の肝入りで生まれた暫定政権に過ぎない。旧オスティア王国の血筋が途絶えていないとなれば、復興することも有り得る」
そうした意味では、ネギ先生も王家の血筋を引いている。どちらかが即位すれば、王政復古は有り得る。そうなれば、今度は『賠償問題』が発生する。
「……最悪の場合、他国の王族を危険に曝したとして、日本に多額の賠償金を請求される恐れがあるな」
そもそも知らなかったとは言え、そんなVIPの海外渡航を許したのは日本政府で、おまけに彼女は今や魔法世界全土で賞金首扱い。言い逃れも出来そうにない。
「あとは……亡命を黙認していた日本政府に、魔法世界一の都市大国であるメガロメセンブリアから非難が殺到する事だろうね」
日本政府は、他国からの要人の亡命には、可能な限りノータッチの姿勢を崩さない。『人道的見地』という例外もあるにはあるが、その理由は他国の争いに巻き込まれることを何より恐れるから。平和憲法を標榜する日本として、戦争は出来得る限り避けると言うのが基本方針だからだ。今回のこれは、間違いなく戦争の火種になり得るものだ。
「20年前の戦争で帝国と戦りあった連合と、今度は日本が戦うんか? はっきり言って笑えんわ」
言葉とは裏腹に、戦争でかつて両親を失った千草の顔色は、極めて険しい。子供の頃の自分と同じく、今再び魔法世界側の都合に日本人が巻き込まれようとしているのだから、当然とも言えた。
「……その場合、国交正常化に向かっている帝国側は、日本の支援は難しいだろうね」
今回判明した事実によれば、亜人の身体を形作っているのは、人造異界である魔法世界を維持する膨大な魔力であり、彼らは魔法世界から出ることは出来ない。つまり援軍を日本に送ることは出来ないわけで、帝国国境付近で日本支援の為に戦争を起こすことも良い顔はしないだろう。下手をすれば日本は、国際的にも孤立無援の状態でメガロメセンブリアと戦争に突入することになる。
「……ともかく全ては帰ってからだ。こんな重大事を隠していた関東魔法協会の組織的責任も含めて、帰国後は何とか不戦を貫けるよう着地点を見つけよう」
その際には、先程クルト総督が見せてくれたメガロメセンブリア元老院のかつての陰謀の真相など、数々の弱みも有効だろう、と最後に菊岡が締めた。ちなみに映像は朝倉さんが全て録画していたため、コピーを既に貰っている。世界規模の英雄に関わる陰謀は、さぞかし世界を揺るがす大スキャンダルになるだろう。
とりあえずの方針を決め、それぞれ二脱出に向けた準備を始めようとした時だった。
『あ、あのー、皆さん。少しよろしいですかー?』
金魚船に乗っていた宮崎のどかから、通信が入った。その手には彼女のアーティファクト、『いどのえにっき』。最後にクルト総督から多くの事実を受け取っていたはずだが、新たな事実でも浮上したのだろうか?
「どうした、宮崎? この魔法世界について、何か他にも分かったのか?」
『い、いえー、長谷川さん。そちらの事実については、お伝えしたことだけで全てですー。そのー、それとも無関係では無いんですが、あのー』
しどろもどろに反応する宮崎は、やがて画面の向こうから、その場にいるキッドへと視線を向けた。
『……ゆーなさんのお母さんについて、クルト総督から伝えてほしいと言う事実があります』
「へ……」
『ゆーなさんのお母さんが亡くなられたのは、海外ではなく、ここ魔法世界。それもメガロメセンブリアに派遣中のことだったそうです』
当時、メガロメセンブリア元老院は戦争の英雄であるナギ・スプリングフィールドとその妻となったアリカ王女を執拗に追っていた。同時にかつての宿敵である≪
『当時、彼女が請け負っていた任務は、メガロメセンブリア元老院内に存在するであろう、≪完全なる世界≫側に通ずるシンパの調査。そしてアリカ王女を陥れた強硬派勢力の裏取りでした。クルトさんも真犯人の特定こそ出来ていませんでしたが、恐らくこのどちらかがー……』
「…………そっか」
関東魔法協会のエージェントだった母は、恐らく覗いてはいけない部分を見てしまった。そのため発覚を恐れるどちらかの勢力に、彼女は殺されたのだろう。そう考えれば色々と合点がいく。
「はぁ~~ぁ~~…………パパもなんで言わないかなぁ~……」
子供だった自分に、負担をかけたくないと言う思いは分かる。それでも母の死因は、真相だけは知っておきたかった。そう思ってやまない。
「…………あー、本屋ちゃん? クルト総督からの情報って、当時の容疑者リストとかも入ってる?」
『え……はい、ありますー。当時夕子さんが調べていた議員のリストが……』
「後でそれちょうだい」
その言葉に、周囲の人間から鋭い視線が飛ぶ。復讐でも考えているのか、と。しかし彼女はそんな視線を笑いながら受け流した。
「安心して。復讐なんてしない。私のおかーさん……ママが最期に遺した仕事があるっていうんなら、ちゃんと形にしておきたいだけ。ママを死なせた奴が、今ものうのうと娑婆にいるって言うんなら、きちんと監獄に叩き込みたいしね」
つまりは、きちんと法の下に晒して、捕まえると。彼女はそんな思いを元気よく告げ、その手のアーティファクトを呼び出す。
「もしも、
手の中でクルクルと≪
「……それなら、俺達も協力する」
「そうだな。まあ、情報戦なら、私も力になれそうだし」
「……潜入と脱出なら、私も協力するよ」
「メガロ側の弱みを握れれば、日本側にも有利になりますね……帰国したら活動が円滑に進むよう、上層部に働きかけてみますか」
「連合が潰れる手助けできる言うんなら、ウチも手伝うで?」
母の遺志は、確かに受け継がれた。≪
ネギまの大きな謎の一つ、ゆーな母のエピソード回収完了。このエピソードについては、後日談でも触れる予定。彼女がいつか真犯人を監獄に叩き込めると信じて!
後大きな謎としては、ネギの母アリカ王女の消息とか、刹那とこのかが同じ年に結婚て書いてある(同性婚?子孫はそっくりだった)とか色々ありますが……亜子の背中の傷の原因も不明なんですよね。しかも今後回収されないだろうし。
近場の本屋に別冊取り扱っているところが無く、今後は単行本でしか話を追えない……ヒド過ぎるよ、マガジン編集部
―6月27日22時追記―
次回投稿についてですが、今週土日に急きょ仕事が入り、7月10日投稿予定となりました。読んでくれてる方、申し訳ないです!