「うりゃぁあああああああああっ!!」
キッドの気合と共に、クマノミ型の船は入口付近の施設を飛び越え、黒ずくめの男たちがいる辺りへ猛スピードで突っ込んだ。とはいえ、向こうもそれに巻き込まれるほど間抜けではなく、全員がすんでのところで飛び退り、船だけが床と擦って火花を上げながら乱暴な急停止を遂げることとなった。
停止と共に静寂が流れる船の周辺。その場所に向けて、そろりそろりとまるで影のように黒いポンチョやフードの人影が近づいていく。先頭の者が、遂に船の縁にたどり着こうとした時、唐突にその扉が内側からはじけ飛んだ。
「いっくよー!!」
元気よく飛び出したのは、ALOで並ぶ者無き最強の剣士≪絶剣≫ユウキ。彼女は空中でくるりと一回転すると、飛び出した勢いを殺すことなく、フードの奥に赤い二つの光を湛えた相手に突っ込んでいく。
「……よう、やくだ。殺、して、やるぞ…………!!」
彼女が突っ込んでいった人影。≪赤目≫のザザは、抱えていたライフルからクリーニングロッドに偽装した
「全く元気いいよねー、ユウキは! こっちもこっちで始めよっか?」
そう言って船から降り立ち、二挺の銃口を向けるのは、≪
「……ああ、始めようか」
それに応じるのは、フードを脱ぎ去り、その幼さがわずかに残る青年。シュピーゲルの名前を持つ、GGOにおいて、速度を追い求めた銃士の一人。
それに異を唱えたのは、黒いマントと共に、顔面に頭陀袋を被った男、ジョニー・ブラック。
「オーイオイオイ。その女は俺にやらせろよ?! 今度こそ毒に染めて、あの顔を散々歪めてやるからよぉっ!!」
そんな下種の台詞を最後まで許さず、ジョニーの目の前を一発の水弾が通り過ぎる。後ろの壁を砕く音が響き渡る中、ゆっくりと飛んできた方向を振り向いた。
「……あなたの相手は、私」
そこにいたのは、≪神槍ネプチューン≫を水平に持ち、水を統べる戦乙女。≪
「で、私の相手は…………おい、マジか……」
遅れて出てきたチウが手近な相手を探し、瞠目する。そこにいたのは、本来なら敵対するはずの無い相手。
「確か、月詠って言ったか、お前?」
「…………」
話しかけられた相手からの返答はない。それどころかその瞳には、光そのものが見受けられなかった。それを感じ取り、はあ、とチウが一度溜息をつく。
「『洗脳』か、『精神支配』……どっちにしても一回ぶっ飛ばして大人しくさせてから、正気に戻さないと駄目だな、こりゃ」
「……!」
≪銀騎士≫と呼ばれた少女は、かつての師匠の妹を囚われた魂の牢獄から救うべく、その手の愛剣≪グランシャリオ≫の切っ先を向けるのだった。
それぞれが各々の相手と戦いに突入する中、彼女らのすぐ脇を、漆黒の西洋鎧を纏った騎士が通り過ぎていく。
「……そろそろ決着をつけよう」
その手に持つ二本の
「Oh...確かに、これから
そう言って黒いポンチョの袖口からぬらりと出されたのは、見覚えのある刃物。≪
「報いを、受けろ……!」
「It’s show time!!」
憎しみと嘲り。二つの感情を胸に、違う黒を纏う両者は最後の激突へと突入した。
◇ ◇ ◇
空気が、ピンと張り詰める。片方はリラックスしながらも、相手の眉間をいつでも狙えるよう牙を隠し。片方は腕をほんのわずかに緊張させ、いつでもホルスターから自身の拳銃を抜けるように。互いに互いを窺い、僅かな動きも逃さないように注目し、勝ちの目を引き寄せるべく集中している。
初動は、やはりシュピーゲルの方が早かった。手が残像さえ見えない程の速さで加速し、ホルスターから一瞬で銃を抜き出し、正確にキッドの眉間へと向ける。そのままわずかの停滞もなく、弾丸を三連射。眉間、喉元、心臓を正確に撃ち分けた。
しかし、それらの銃弾が、キッドに突き刺さる未来は訪れない。
リラックスして銃を手にしていた右手が突如として内側に曲がり、何もない空中に向け同じく三連射。大して狙ってもいないはずのキッドの銃弾は、なんと空中で飛んできたシュピーゲルの弾丸に衝突し、その進行ベクトルを大きく捻じ曲げ絶対の未来を覆した。
一連の動きを見ていたシュピーゲルが、歯噛みする。同じだ。飛行鯨の発着場で繰り広げた戦いと、全く同じだ。
「……未来でも、見えてるのかい?」
「当たらずとも、遠からず、かにゃ?」
シュピーゲルの揶揄に軽く答えながら、キッドが俯けていた顔を上げる。その瞳。つぶらに相手を見据えていた瞳は、いまや。
「……脳内の未使用領域を使い、周囲の状況を高速演算し、偏差予測の未来を全て把握することが出来る――それが私のユニークスキル、≪心眼剣≫の能力なんだよ」
いまや、宝石のような光を一杯に湛え、未来という己が進むべき道を見据えていた。
キッドのユニークスキル、遂に登場!気分的には、キングクリムゾン・墓碑銘(エピタフ)でしょうか?瞳の輝きについては、ガ○ダム00のイノベイター刹那で。
≪心眼剣≫は、一応斧系武器のユニークスキルとしてデザインされたものです。本来の使用方法は、動きが鈍い斧使いが、敵の攻撃を最小の動きで避け、超強力なカウンターを撃ち込むための代物ですね。演算で予測した未来でしかない為、外れることもあるのが弱点でもありますが。