魔法先生ネギま!~闇の剣と星の剣   作:路地裏の作者

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キッドVSシュピーゲル、決着です!



114 銃士の真実

 

 空間に、何度も発砲音が響き渡る。何も無かったはずの虚空に、いくつもの火花が散って消えていく。二人の銃士の狭間の空間は、何物も立ち入れぬ絶対の殺傷圏内(キル・ゾーン)へと変貌していた。

 

 シュピーゲルの右手に握られた≪ベレッタM92FS≫が、何度も火を噴く。発砲の速度は、圧倒的にシュピーゲルの方が早い。ユニークスキル≪抜刀術≫によって極限にまで至った抜き撃ちの速度はもはや身体全体の動きを霞ませるほどで、視認することが出来ないくらいだ。かつて麻帆良を襲撃した際は、世界で最も早撃ちに適しているとも言われる西部開拓時代の代表的リボルバー、≪コルト(シングル)(アクション)(アーミー)≫を使っていたが、排莢と給弾の利便を考え、自動拳銃に持ち替えたようだ。全弾あっという間に撃ち尽くすと、瞬時に衣服に備え付けたホルダーから新たなカートリッジを装填、再びホルスターに戻すという作業が先程から続いている。一連の動きに一切の淀みが見られないのはさすがと言えた、

 

 しかし、キッドが身に着けた≪心眼剣≫は、そんなシュピーゲルを圧倒的に上回る。抜き撃ちは、確かに遅い。シュピーゲルのそれに比べれば、魔力で強化していても達人クラスが精々だろう。それでも彼女の動きは、最短距離を通って両手の銃を持って行き、最速で飛来する弾丸の全てを撃ち抜いていく。彼女が右手に握る≪七色の銃(イリス・トルメントゥム)≫も、左手の≪デザートイーグル≫も、どちらも変な体勢で撃てばとんでもない反動が生じる銃だが、それらは彼女が宿した魔力で押さえつける。銃をクルクルと回し、頬を緩めるその表情には痛みをこらえる様子も無い。どちらも互いに決定打を打てないまま、結局は膠着状態へと陥っていた。

 

「――ふー、相変わらず凄い腕前だにゃー」

 

 一進一退の攻防が続く銃撃戦に一石を投じるためか、キッドが不意に口を開いた。もちろんその手の銃は、いつでも相手に向けられるよう油断なく構えたまま。

 

「それだけの腕があって……しかも今ではユニークスキルなんて代物まで身に着けて、それでも≪笑う棺桶(むこう)≫に従う理由ってなんなのかにゃ? 正直今のシュピーの実力なら、脱走しようと思えばできるはずだけどね?」

 

「…………」

 

 キッドの言葉に帰って来たのは、沈黙。それでもほんのわずか、彼に躊躇するような様子が見て取れた。

 

「GGOで話してた時のシュピーって、正直『いいお兄さん』って印象しかないんだよね。そりゃ、あれが全て外面だけの仮面だったなら仕方ないけど、少なくともリアルに人を殺そうなんて思う人じゃないし、ましてや誰かを傷つけたいなんて――」

 

「――――黙りなよ」

 

 言葉を連ねたキッドに向けて、放たれたシュピーゲルの言葉は静かだった。艶消しのように抑揚も無く短い言葉。けれどだからこそ、その内心がこの上なく伝わる。今、シュピーゲルは、これまでにないほど――――怒っている。

 

 瞬間、キッドの背筋に最大級の悪寒が奔った。偏差予測の視界に見えるのは、かつてのGGOでよく目にしていた『バレットライン』にもよく似た赤い弾道予測線。その予測線が、一瞬で視界いっぱいに瞬いたのを感知したのだ。

 

「――――ッ!」

 

 瞬時に迎撃をあきらめ、その場から転がるように身を躱す。さっきまで心臓があった場所、喉元、眼球、眉間の位置を寸分たがわず弾丸が奔り抜けていった。それを視界の端で確認し、再度シュピーゲルの方を向くと、其処には移動した眉間と眼球目掛けて飛んでくる三発の銃弾。

 

「……っ! あぐっ……!」

 

 ギリギリで銃弾は避けたが、それでもすぐ近くを通過したために、左頬に深い切り傷が生じる。さらに無理な体勢を支えるため、地面に付いた右手のすぐ近くに、二発銃弾が撃ち込まれる。

 

「……! なんか一気に容赦なくなったね!!」

 

「…………」

 

 こんな時でも軽口を叩くキッドに対し、シュピーゲルは無言。冷徹に冷静に、獲物に向かって自らの銃を向け続ける。

 

 戦場は先程までとは違う様相を見せていた。攻め続けるのはシュピーゲル。辛くも避けて防ぎ続けるのはキッド。防戦一方。その言葉で示される通りの戦場が繰り広げられていた。

 

 何度目かのカートリッジ交換の合間、不意にシュピーゲルが呟く。

 

「……さっき、なんで≪笑う棺桶≫にいるのかって言ったね」

 

 話しながらも、銃撃は収まることは無い。相手の言葉にふと隠れていた瓦礫から顔を出した、キッドの頭のすぐ近くに容赦なく銃弾が撃ち込まれる。

 

「君には、誰か大切な人はいるかい? 他の誰よりも優先したい、そう思える大切な人が?」

 

「愚問だにゃ~? 私にとって、コウがその人だってわかって聞いてるでしょ?」

 

 そうだね、とわずかにシュピーゲルから笑みが漏れる。

 

「僕にもいるんだ……実の息子に、それなりに儲かる病院の跡取りっていう、商業的な価値しか見出さないような、地獄みたいな家庭の中で、陰になり日向になっていつでも守ってくれた大切な人が……」

 

「…………」

 

 やがてカートリッジ交換が終わり、再びベレッタはシュピーゲルのホルスターに収まる。最後に使うのは、やはり≪抜刀術≫の抜き撃ち。最速にして最適な攻撃。防ぐか躱すかしないと、間違いなくキッドの生命はそこで終わるだろう。

 

 ここに来て、キッドはついに、はあ、と一つだけ溜息を吐いた。諦めたのではない。『切り札』を切ることにしたのだ。

 

(本当は、PoHへの不意打ち用にとっときたかったけどにゃ~……)

 

 そんなことを考えながら、キッドは――――隠れていた瓦礫から立ち上がり、その全身を晒した。

 

 それを見ても、シュピーゲルは多少不審に思う程度で、特に思うところは無かった。目の前の相手は諦めるような相手ではない、決して油断してはいけない相手だからだ。二人の間で、急激に緊張感が高まっていく。

 

 抜き撃ちは、やはりシュピーゲルの方が早かった。人体の急所を一瞬で撃ち分け、回避方向にも時間差で弾丸を飛ばす。防御も回避も不能な攻撃。シュピーゲルにとっても生涯最高の攻撃だった。

 

 それに対し、キッドが取った行動は――瓦礫の後ろにあった野球ボールくらいの石を、足で蹴り上げるというものだった。シュピーゲルの動き出しよりわずかに早かった石は、彼の発砲の時点でキッドの胸くらいの高さに上がっていた。キッドは容赦なく左手の≪デザートイーグル≫で、その石の中心を撃ち抜いた。大口径50AE弾が大きめの石を容易く撃ち抜き、そのすべてを即席の『散弾』へと変えた。

 

 同時に散弾の中に、デザートイーグルをありったけ発砲。向かってくる9mmパラベラム弾を全て防ぐことに成功した。

 

 しかしキッドは、防御の成功などまるで見ていない。左手で防御のための射撃をしながら、右手は既に勝利のために動いていた。右手にホールドされた≪七色の銃(イリス・トルメントゥム)≫があらぬ方向を向く。全ての弾丸が、『地面』に向かって発射された。

 

「――――!!」

 

 加速されて引き延ばされた時間の中で、シュピーゲルは見た。四方八方の地面から、キッドの弾丸が自分を包囲するように向かってくるのを。これこそが彼女の≪心眼剣≫の真骨頂。彼女のユニークスキルは、相手の攻撃の未来だけではなく、自分の攻撃の結果までも掌握する。即ち有り得ないほど正確な『跳弾射撃』すら可能とするのだ。

 

 加速した時間の中で、彼は避ける。最初は右下、次はほとんど左後ろ、次は上、そして完全な後方。辺りの瓦礫に繰り返し跳弾し、もはやどこから飛んでくるかも分からない弾丸を、彼は避ける、避け続ける。そして、最後に奇妙に弾丸が飛来しない空白空間へと踏み込んだ。

 

 極限まで研ぎ澄まされた意識が、目の前を上から下に通り過ぎていく一発の銃弾を認識した。見えているのは側面。自分には当たらない。そのはずだ。そのはずだった。

 

 唐突に、その一発の軌道が変わり、自分の左肩口にめり込むのを感じた。当たらなかったはずの弾丸。当たる訳が無い弾丸。その運命を変えたのは、視界の奥、自分に向けて真っ直ぐ突き付けられた『左手』の銃口だった。

 

(そうか…………跳弾の軌道を、デザートイーグルの弾丸で変えて……)

 

 身体から急速に力が抜け、地面へと転がる。撃ち込まれた弾丸の効果なのか、手足に一切力が入らず、魔力もうまく使えない。自身の敗北を認識し、天を仰ぎ、視界を巡らせた。

 

「僕の…………大好きな兄さんの、願いだったのに、なぁ……」

 

 視界の先、眩しく映る逆光の中で、黒曜の剣と刺剣(エストック)は交差し、それぞれの胴へと突き刺さった。

 




キッドVSシュピーゲル、キッドの勝利!最近SAOAGGOのレンにハマったため、銃撃戦の詳しい描写に挑戦してみました。銃撃戦闘に強い女の子は、正義だ。まあ、本作の戦闘は、人間には不可能ですがw

キッドの視界はGGOの視界とほぼ同一。弾道予測線の形で、相手の攻撃軌道が見えています。相手の動きについては、真っ赤な半透明の分身が重なってるイメージですね。

次の戦闘は、ユウキVSザザ。シュピーゲルの変更点の原因に当たる人なので、今から上手く心情描写できるか心配……
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