魔法先生ネギま!~闇の剣と星の剣   作:路地裏の作者

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ラフコフ戦、決着!



118 因縁の決着

 

 それ(・・)が起こった時、現場から離れていた千草たちには詳細が知れなかった。ただ、それ(・・)が現れた時、魔力もまともに操れない菊岡ですら、肌にまとわりつく怖気を振り払えなかった。

 

「………………なんだ?」

 

 明らかに、変わった空気。重苦しく、淀みが目に見えるかのように空気が質量を変えたのだ。状況を探ろうと機関室の機器を操作していると、外部の警戒に当たっていた千草が部屋に転がり込んできた。

 

「ここから逃げるんや! 早うせい!」

 

 彼女の顔色は真っ青で、その手足は震えていた。どうやら彼女はこの異常事態について、何か知っていると見えた。

 

「いや、ここで皆の帰りを待つのも僕らの役目だろう? 逃げると言っても、まずは状況を教えてくれないかな?」

 

「あー、もう! 融通の利かん人やな! そないに知りたかったら、正面扉から近づいてきとるアレ見てみい!!」

 

 その言葉に改めて視線を正面扉へと向ける。別に、他の階でコウたちと死闘を繰り広げているであろうラフコフが、戻って来たわけでもない。扉は固く閉ざされ、誰の人影も見えない。怪訝な顔で扉を見つめ続けると、やがて変化が起きた。

 

 ――最初は、僅かな隙間から零れた紅い滴だった。本当に一筋だけだったそれは、徐々に徐々に勢いを増し、やがては隙間という隙間から零れ始めた。ドロドロと扉を汚し、床を浸す紅い水溜りに目をやっていると、やがて扉がガタガタと揺れ、終いには勢いよく決壊した。

 

 それは、死の奔流だった。暗赤色の血の洪水を伴って、白骨を晒した骸たちが這い寄って来る。呑み込まれればどうなるのか。不吉な予感しか抱かない地獄の再現がそこにあった。

 

「急速回頭! ここから離脱するよ!」

 

 事態を把握し、即座に敏腕自衛官は判断を下した。アレは間違いなくこの世にあってはならない物だ。自分たちが吞み込まれる未来など御免被る。待機状態だったエンジンに一気に火が灯り、迷宮入り口に空けた大穴から、外へと急いで飛び出していく。十分な距離をとって振り向くと、自分たちが出てきた場所から、亡者どもが零れて大地へと落ちていった。

 

「……危なかったね。ちなみに、アレは呑み込まれるとどうなるんだい?」

 

「知りたかったら、試してみるとええ。死ぬか発狂するか知らんけどな」

 

 好奇心を満たすために、命を捨てるというのは笑えない。菊岡は早々に提案を放棄した。そのまま亡者の手の届かない空中から、まだ中で戦っているであろう子供たちの身を案じる。

 

「……コウ君たちは大丈夫だろうか」

 

「まあ、なんだかんだでしぶとい奴らや。アンタは自分の安全だけ考えとき」

 

 そんな軽口を叩く最中、先程の出口よりも上層部で、爆発が起こった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「なん、つー量だよ!!」

 

 ≪狂乱剣≫を宿した刀剣で、近づく亡者を片っ端から斬り伏せる。それでも一向に、数が減った様子を見せない。数万という数は、それだけで一種の暴力だ。どんなに絶大な力量を秘めた個人でも、集団には敵わない。いずれは集団に呑み込まれる結末が待ち受ける。それを遠ざけるためコウは、今はただ必死になって両手の武器を振るうだけだった。徐々に疲弊していくコウの耳に、PoHの言葉が届く。

 

「Ah――? 無駄、無駄。そいつらは一人残らず俺様の忠実な配下だ。ほとんど全員が命令通りに動く。お前には勝ち目なんてありゃしないさ」

 

「っ、! これ、だけの数の、亡者の完全制御?! 一体どうやって!」

 

 通常、使い魔の類ですら、完全に制御することは難しい。高位の物になればなるほど、個性と人格が高度になり、制御することが出来なくなるからだ。ましてやPoHが操っているのは、元人間。人格が形成された個人を数万人も操りきるなど、人間業では考えられなかった。

 

 そんな当たり前のコウの問いに、PoHはあくまで笑みを絶やさず答えた。

 

「まー、俺もこんなことができるようになるとは思っていなかったんだけどな? 出来るようになったのは、キリトの奴のおかげだ」

 

「はあ?!」

 

 その言葉に一瞬PoHの方を振り向くが、すぐに新たな亡者が這い寄って来て、すぐさま正面を向き直した。その間もPoHの言葉は続く。

 

「……以前の仕事の関係でな、体感時間の加速機能が付いた特殊な仮想世界に行く仕事があったんだが、そこでキリトと再会したのさ。で、内部の世界でヘマしちまって、体感時間で二百年ほど中から出られなくなったんだよ」

 

 あの時は流石にやばかった、とPoHはあくまで軽々しく語る。

 

「まあ、二百年も何もしないでいるのも暇なんでな。内部の精神世界で、俺様の糧になっていた亡者どもに、『躾』をしてやることにしたのさ」

 

 それは、ただの虐殺だった。既に死んでいて、殺すことができないはずの亡者たちを何度も何度も殺し、自分に逆らわないように楔を打ち込んでいく。恨みを抱き、生者を憎む者たちを何度も何度も殺し、亡者に『死の恐怖』を教え込んでいく常軌を逸した所業。それを幾万も幾億も繰り返し、ここにいる数万の亡者を従えるまでに至った。

 

「まあ、そういうわけで……説明も一通り終わったし、飽きてきた。お前もさっさとここにいる亡者の仲間入りになりな」

 

 亡者の圧力が増す。生を恨み、死から逃げる者たちがコウの命を引きずり込もうとする。それでも呑み込まれまいと攻撃を繰り返していたが、やがて振り下ろした右手の片手剣を、幾つもの槍が剣が斧が、上から抑え込み逃れられなくした。

 

「じゃあな、≪獣騎士≫。中々楽しかったぜ」

 

 一呼吸の内に、周囲三百六十度から襲い掛かる亡者の群れ。その爪が、今にも迫ろうとした時――

 

「――『ヒドラ・ヴォーテックス』」

 

「――≪テンペスト・メイス≫」

 

「――魔法禁止弾、全弾解放」

 

「――≪マザーズ・ロザリオ≫」

 

「神鳴流奥義≪斬魔剣 弍之太刀≫」

 

 静かに響いた五人の声。それと同時に、コウの周りの全ての亡者が粉微塵に砕かれた。

 

「だー、もう! 何諦めかけてんだ、テメーは!!」

 

「……そうだね。私たちを置いて逝くなんて許せない」

 

「ニヒヒ☆ 勝手に死んだら地獄まで追っかけるよ?」

 

「うっひゃー! すっごい量だねー! 全部倒していいの?」

 

「ええんと違いますか? ウチも、捕まっとった八つ当たりが出来る相手が多いのは大歓迎ですわー♡」

 

 それぞれ違った感想を述べながら亡者たちを逆に蹂躙していく。その頼もし過ぎる光景に、ふっと相好を崩した。

 

「はは……そう簡単には死ねないな、こりゃあ」

 

 そう呟きながら、瞼を閉じて狂乱剣を纏っている両手の刀剣へと集中していく。闇が、渦巻く。全てを吸い込むかのように圧倒的で底の見えない深淵が、刀剣を中心として口を大きく開けていく。

 

「…………いくぞ」

 

 短い言葉と共に、亡者の中心部へと突っ込む。髑髏を砕き、骨を折り、ただ中心にいる元凶に向け、幾度も幾度も剣を振るう。その攻撃力に、恐ろしいまでの殲滅速度に、慌てたようにPoHが周辺から亡者を集中させ、巨大な髑髏の鎧を形成していく。

 

「っ、手前ら、正気かっ!? こっちは数万の亡者の集合体だぞ! たかだか数人で突破できるわけ――」

 

「できるさ」

 

 六人の武器によって築かれた空白地帯。その中心で全員が全員、不敵な表情を浮かべる。

 

「それがどうしようもない『死』だろうが、絶望だろうが――――必死になって『抗う』人間が、負けるわけがないだろ?」

 

 コウの言葉に全員が頷く。そして、彼の背中に全員が寄り添い、武器を構え―――――――――一丸となって突っ込んだ。

 

『ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

 それはまるで、一本の『矢』。六人全員が一塊となって、集団を食い破り、ただPoHへと向かって行く。それに対し、PoHは亡者を何度も突撃させ止めようとするが、止まらない。圧倒的な突破力によって速度を緩めることすら出来ない。

 

 そして、遂にその時が訪れた。

 

『嗚呼ぁああああああああああああああああああああああああああああ!!』

 

「ガ――――ハ――――――――!!?」

 

 先頭を行くコウの両手の刀剣が、二本ともPoHの胴体へと突き刺さる。そのまま亡者の群れに穴を開け、彼らの王だった者を、亡者たちから引きはがしていく。

 

 やがてたどり着いたのは、戦場の上層部に設えられた大ホールの空間。その中心でPoHの意識が無くなり、周辺に散らばっていた亡者たちもその形を崩し、塵へと帰っていく。

 

「…………これで漸く、アンタ達ラフコフとの因縁も終わりだ」

 

 剣の先。串刺しとなって、けれど確かにいまだ息のあるラフコフの元頭目を目にし、コウは静かに呟いた。長年の因縁に、決着が付いた瞬間だった。

 




さて――『中ボス』戦が終わりました。イメージ的にはSAO第一期のグランドクエストですね。『前座』としては手強かったのではないでしょうか。

では、一体『ラスボス』は誰なのか?実はとんでもない相手を想定していたからこそ、ヒースクリフは夏休み前に修行をさせてたりします。詳しくは次回以降の展開にて。
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