墓守人の宮殿、最上階。その場にたどり着いた≪
「オイ、こりゃあ……」
「……一騎討ちになってる?」
戦っているのは、その二人のみ。周囲にはどういう訳か大樹が生い茂って、視界が効かなくなっていた。
「あ! やっと来ましたわね!」
不意にかけられた声に顔を上げると、影操術で編んだ服を纏った魔法生徒が近づいて来た。確かウルスラの生徒で上級生だったという認識しかない。噂では、脱げ女がどうとか……?
「貴女方も協力なさい! 今こそ、世界そのものを滅ぼそうとする、悪を倒す時ですわ!」
そう言って指し示すのは、大樹の影に身体を寄り掛からせていた亜人の少女。その様子を見ると、相当痛めつけられたのかボロボロだ。どう見ても戦闘不能。だというのに、それでもその瞳には力があった。
「……いや、勝負ついてるんじゃないか?」
「そうだな。それより神楽坂の奴はどうした? アイツが敵に捕まったままだと、ヤバイんだろ」
「明日菜さんなら、あの立体型魔法陣の中ですわ! そこの方が樹木で結界を張ってしまったせいで、手出しができません! ですから、早く助太刀を! この方を我々の正義の魔法で懲らしめれば、彼女を出す気になりますわ!!」
『…………』
そう言われても、全く気が乗らない。明らかに戦闘不能の相手に過剰に攻撃を加えて、無理に魔法陣を開くというのはどうにもいい気分じゃなかった。
「…………チウ」
「あいよ――
チウがかけた催眠魔法で、ただでさえ疲れ切っていた亜人の少女は段々と瞼が重くなっていった。それでも眠るまいと唇の端を噛み千切り、自分の腕に爪を立てていたが、やがて完全に力が抜け、すぅすぅと規則的な寝息が聞こえ始めた。
「って、あなた達なにしてるんですか!!」
「あれだけ痛めつけられても、結界を解かなかったんだ。これ以上痛めつけても、コイツは解きはしねえよ。さっさと無力化して、結界解除に全力注いだ方が早い」
そう言って話を早々に切り上げ、結界へと向かう。後ろで憤慨した声が上がっているが、無視だ。必要なのは人質の救出であって、敵勢力の全滅ではない。
結界を形作る樹木へと直接触れ、電子精霊とアーティファクトで結界を構成する術式に、直接ハッキングをかける。こういう分野では、完全にチウの独壇場だった。
「……チッ。厄介な結界に捕まってやがるな。本人を深い睡眠状態に導いて、終わらない夢を見せる無限ループの精神誘導か。そんで被術者の意志が無いと、解けないように調整されてやがる。外部から結界本体へのアクセスは、ほぼ不可。逆に言うと、本人を覚醒させれば、結界張った奴じゃなくても十分解けるな」
「……チウ。明日菜の精神に、直接呼びかけることって出来る? クラスメートの私たちなら……」
「寝坊助のアスナでも、起きるかも知れないにゃ~? よし、やってみよっか!」
レーカの言葉に頷き、チウがすぐに準備を進める。コウ、レーカ、キッド、ユウキ、月詠の五人は周囲に散らばり、あちこちで気絶していた麻帆良女子中3-Aのクラスメートたちを集め始めた。
続々とクラスメートが集まり、目覚めない眠り姫へと想いと言葉を届ける。その光景をコウ・ユウキ・月詠の三人は遠巻きに見守っていた。
「さーて、どないなりますやろか?」
「あんなに必死になって起こそうとしてるんだ……きっと大丈夫さ」
「――うん、大丈夫だよ。人の想いは――特に大事な人の想いっていうのは、どんなことがあったって届くんだから」
そんな三人から、更に距離を置いて見つめていた高音。もっとも最前線から離れ、周囲に気を配っていた彼女が、最初にその異変に気付いた。
「え――――?」
魔法世界すべての魔力が集う上空。そこには合わせ鏡のように、懐かしき麻帆良学園の街並みが映し出されていた。
◇ ◇ ◇
「やはり、こうなったか……」
上空に映し出された墓守人の宮殿を見つめ、独り言ちる。浮遊城アインクラッドの主、ヒースクリフは、その壮大な光景を何の感慨も浮かべずにただ見つめた。
「魔法世界全土の魔力が、唯一残ったゲートであるオスティアへと集中。最後の時空間の繋がりを押し広げ、道を作る。理論上こんな光景になるだろうと予想はしていたが、目にしてみると何とも雄大なものだな」
言いつつも、その手は目まぐるしく空中に浮かんだディスプレイを叩き続ける。やがて一つの画面に、宮殿内部の儀式場の様子が映し出された。
「やはり、『姫』の救出は出来ていないな。そうなると、彼女の覚醒のために、こちら側にいる『神楽坂明日菜』のクラスメートを向こうに送るべきか」
空中にさらに追加される画面。そこには上空を見つめるエヴァンジェリンとその隣の雪広あやか達が映し出されていた。、
◇ ◇ ◇
「――――お?」
場面は戻って、儀式場。目まぐるしくキーボードを叩いていたチウは、突如として真横の空中に空いた黒い穴に首を傾げた。
「あら?」
――え?
「おお?」
そこから次々と出てくる3-Aの生徒たち。些かタイミングが良すぎる登場に、思わずチウは顔をしかめた。
「…………この、狙ったような準備の良さ。とんでもなく覚えがあんぞ」
彼女が漏らした言葉に、嘆息と共に言葉が返った。
「フン、茅場の奴に決まっているだろう。私まで出すとは、アイツもどういうつもりなんだか」
有り得ない言葉に、魔法関係者が全員で振り返る。そこにいたのは、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。麻帆良学園に登校地獄で縛られているはずの真祖の吸血鬼。その有り得ない状況に貯まらず刹那が尋ねた。
「エ、エヴァンジェリンさん? 貴女は麻帆良から出られないはずでは?」
「そのはずだったんだがな……現に、身体というか、魂はあの土地に引っ張られる感覚がある。完全に道が繋がっているならまだしも、不完全に映像が流れる程度なら私が外に出られる道理もない。どうやら茅場の奴が呪いそのものと学園結界に介入して、システムを誤魔化しているな」
道が繋がり切らない現状では、本気は未だ出せない、とそう嘯くエヴァ。それでも今は、彼女の存在が有り難かった。
「……くそ。茅場の奴の思惑に乗るしかねえか。3-A全員! これから神楽坂の奴を起こす! お前らは全員、私と数珠つなぎになって、心の中でアイツに呼びかけてくれ!!」
色々な事情説明を全て投げ捨て、チウが全員へと呼びかける。その呼びかけに、事情を大まかに理解している者、全く理解していない者など様々だったが、とにかく全員が繋がっていった。
それを横目で見ながら、最後にもう一度、チウは上空に逆さまに映り込んだアインクラッドを見つめた。
(あのヤロウ……一体なにを考えてやがる……!)
◇ ◇ ◇
そして、3-Aの全員を魔法世界へと送り込んだ張本人は。
「ようやく、コレの出番か」
歩み寄る紅玉宮大ホールの足元。そこには極めて精緻に、かつ複雑に描かれた魔法陣が設置されていた。ヒースクリフがそこに踏み入ると、魔法陣それ自体が、ぼんやりと光を放ち始める。
変化はそれだけではなかった。やがてその光は床一面を走り、壁に至り、紅玉宮全体を包み込むまでに広がっていった。そして、紅玉宮から伸びる線は更に床へと広がり、最上層である100層から、広がって、広がって……やがてアインクラッド全体を仄かに照らし出し始めた。
「……巨大儀式魔法陣『浮遊城アインクラッド』起動準備。システムに異常なし。各地に散らばる≪
その言葉と共に、世界のあちこちでサーバーが仄かに輝き出す。その光の中、サーバーの側面に六芒星の魔法陣が描き出された。
「世界樹、最大発光まであと600秒。儀式魔法との同期を開始……」
次々とシステムを推し進め、やがてすべての準備が整った。それを見届けたヒースクリフが、十字剣を納刀した十字盾を、地面へと強く突き刺した。
「――――『魔法世界再生儀式魔法』、発動」
ヒースクリフ最大の切り札、発動。ここから怒涛の展開と独自設定の嵐、嵐w
ヒースクリフにとって、『姫』を救うことこそが至上命題。それ以外の世界救済やらラスボス打倒やらは、全て二の次です。それでも『姫』のために、「もののついで」でやってしまった結果がコレですww
まあ、成し遂げたら『姫』にとっても後腐れなくなるよね!
高音が色々ヒドイ態度ですが、正義で凝り固まっている代表みたいな人なので、どうしてもこうなりました。脱げ女ファンの方々、申し訳ありません。