「……全世界からの魔力収束、37%を確認……」
世界から、まるでうねる『龍』のように、魔力が集ってくるのが分かる。この現象を齎しているのは、世界中で導入が進んでいる≪
それらのサーバーが、世界の全てに毛細血管のように魔力の経路を張り巡らせ、川のような流れを作る。はじめは小さかった流れは、合流を繰り返し、繰り返し、やがて大きな流れを作る。そうして出来上がった巨大な流れは、地球全土に渡る『
「幻想世界崩壊現象の停止……さらに失われた空間の補完を開始……」
集まって来た魔力によって、魔法世界各地で頻発していた崩壊がストップする。さらには顔を出していた火星の不毛の大地への入り口が、目に見えて閉まりだした。
「発動していたリライトの術式を掌握……今日までに
失われた動植物が、住人が再び大地へと戻っていく。但し明らかに敵対関係にあったような存在同士は、配置位置に気を付けて。リライト直前に亜人の集落を襲っていたような軍勢などは、行軍自体難しい未開の地へ。その一方で理不尽に生命を奪われてリライトを受けたような者たちは、彼らの故郷へ。
「……流石に、膨大だな。≪完全なる世界≫がリライトを用いたすべての住人を再生しているのだから、それもやむなしだが……」
ヒースクリフが行っているのは、今回のリライトで喪われた者たちだけではない。過去に喪われた者たちすらも再生しようと試みている。それがどれほどの大事業であり困難な事柄なのか、想像だに出来なかった。
「それでも……やらなければ……!」
成し遂げなければ、姫が悲しむ。ただそれだけが彼を突き動かす原動力であった。
◇ ◇ ◇
「なにが……起きてやがる……」
異変は、墓守人の宮殿にいたチウたちも感じ取っていた。膨大ということすら馬鹿らしい魔力が麻帆良に集ったと思ったら、水平線の向こうに見えていたどこか破滅的な印象の赤い竜巻が根こそぎ消滅していくのだ。おまけに、さっきから綾瀬に抱き着かれて困惑している、アリアドネの委員長のように、3-Aにかかわりのあった魔法世界の住人が、この場で謎の復活を遂げている。
ふと、視線を上空へと動かしたとき、誰かが空から降って来る
「――――≪心意結晶≫?」
空から降って来たソレは、やがて、神楽坂明日菜を捕らえる立体魔法陣へと近づくと、大きな光の爆発を振りまいた。
「くぅっ――――あぁあああああああああああああ?!」
その光が取り込まれるや、魔法陣内にいた明日菜が苦しみ出した。それだけでなく、身体から膨大な光が放たれ出したのだ。
「明日菜さん!?」
「ヒースクリフのヤロウ、何のつもりだ!!」
明らかに尋常でない様子に、昔からの幼馴染であるあやかの悲鳴が漏れる。しかし、事態は一向に収まらない。明日菜の苦しみはさらに増し、光の中でぼやけるその身体は、どこか
「う――――あ――「――ん。これって――」――あ!?」
「「「はあっ!?」」」
やがて異変は、彼女らの目に見える形となって顕れた。それも誰の予想も裏切る形で。なんと光の中で二つにぶれていた明日菜の身体が、本当に二つに分かれ、それぞれ別の言葉を発したのだ。
周囲が一様に絶句する中、とん、と軽やかな着地音と、ドカッ!といういささか乱暴な着地音が響き渡った。
「――これは、予想外」
「あたた……なんなのよ、一体」
左側に着地したのは、漆黒のドレスを身に纏った少女。静謐と言っていい印象の少女で、その手の狭間に、
それらを悟り、チウがやがて答えを導き出した。
「…………過去の≪黄昏の姫御子≫と、現在の神楽坂を分離して、
おおよそ、通常では有り得ない現象。それも『
「……チウ。驚いてる場合じゃなさそうだぞ」
そう言ってコウが、近くへと寄って来る。彼に指し示された方向を見ると、其処には再び上空から降りてくる存在があった。
「……アインクラッド」
聖騎士が統べる黒鉄の城は、ゆっくりと降臨した。
◇ ◇ ◇
上空に映る鏡写しのような不可思議な世界へと、旅立つアインクラッド。その光景を、麻帆良の地より呆然と眺める者たちがいた。
「茅場の奴……」
それは、かつてSAOの中で、聖騎士にして魔王たるヒースクリフへと挑んだ者たち。キリト、アスナ、クラインらSAO生還者のメンバーと、リーファやシノンらVRで彼らに関わった者たちだった。そして、そんな彼らの中に、唯一VRプレイヤーではない女性がいた。
「…………」
彼女の名は、神代凛子。かつての茅場の恋人であり、その最期を看取った女性であった。彼女はあくまで毅然として、旅行くアインクラッドを眺めている。
「……あの、団長に……何か声をかけなくていいんですか?」
彼女の食い入るように見つめるその瞳に、思わず傍らのアスナが尋ねる。その問いにほんの少しばかり苦笑を漏らした神代は、首を横に振りつつ答えた。
「……声なんて、かけられないわよ。あの人は、いつもそう。自分で最良だと思った答えに、全力で邁進するの。そのためなら、自分がどれほど傷つこうが、罵られようが構いやしない。全く、傍で見ているこっちは気の休まる暇もなかったわ」
そう言いながらも、彼女のその顔には確かに微笑みがあった。それは茅場晶彦という人物を心底理解し、また愛した女性だったからこそ浮かべることの出来る表情。SAOプレイヤーとその家族からどれほど恨まれようと、彼の傍にいた彼女だから抱けた、恋人への深い理解だった。
「だから、一言だけ……そう本当に一言だけ、届けるとしたら……」
もう、二度と、彼に会うことは出来ないだろう。何故だかそんな確信があった彼女は、最後にその言葉を告げた。
「晶彦さん……貴方が本当に信じた道を……何処までも突き進んで……」
◇ ◇ ◇
墓守人の宮殿へと降臨したアインクラッドから、一人の騎士が現れる。浮遊術で空に浮かぶのは、聖騎士の鎧に身を包んだヒースクリフ。そして、その背後。彼の本拠たる紅玉宮に、何か見慣れない巨大な岩塊のようなものが浮かんでいた。
「……そんな」
ソレを見た瞬間、既にフェイトとの決着を終えていたネギは絶句した。紅玉宮に浮かんでいたのは、余りにも巨大なクリスタル。内部にはかつて見覚えのある漆黒のローブの人物が内包されている。そして、そのクリスタルをまるで縛り上げるように、結晶に半ば同化した女性が静かに瞳を閉じていた。
「――――かあさん。とうさん」
女性の名はアリカ。ネギの母にして、ナギの妻。そして、クリスタルの中にいる人物は、≪はじまりの魔法使い≫のローブを纏ってはいるものの、確かにナギ・スプリングフィールドだった。
その光景に、全員が絶句する中、突如ヒースクリフの背後の空間に
「茅場! 我らが主に何をする気か!」
全員が決死の覚悟であったろう。しかし、ヒースクリフは振り向きもせず、周囲に張り巡らせた結界から紫電を奔らせ、デュナミスたちを感電させるだけで迎撃とした。黒焦げになったデュナミスたちが落ちる中、静かにヒースクリフは十字剣を抜いた。
「……これでようやく、私の望みが叶う」
そう呟き、ゆっくりとクリスタルの前へと移動していく。
「私は……この剣を持つにあたり、様々な意味をこの十字の紋様へと込めた。十字架は、それだけ様々な意味を秘めている。神聖の象徴。宗教的意味合い。魔除けや戒めとしての意味……」
そして、最後に、とヒースクリフは続ける。
「斃すべき相手の――――『処刑具』であり、『墓標』としての意味」
そう言って、ヒースクリフは、その手の中の十字剣を、クリスタルの中の、ナギの胸へと突き刺した。
魔法世界、救済。リライトされた全員の復活。明日菜、分裂。そして、ナギに剣が突き刺さる!というところで、今週は終了。
明日菜と姫子ちゃんを両方救うには、これしか方法なかったんです。なお、姫子ちゃんは以前のバレンタインの時にもいました。やたら物静かなしゃべり方してるのが、彼女です。
報復型精神憑依がライフメーカーの能力らしいですが、身体が封印状態で殺害のような行為を受けたらどうなるのか?作者なりの解釈でやっていこうと思います。
今回も遅れました。言い訳はしません……。