魔法先生ネギま!~闇の剣と星の剣   作:路地裏の作者

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122 神を殺す者

 巨大なクリスタルの中、封印されていたナギ・スプリングフィールドの胸に、十字剣が突き立った。

 

「あ――――――――」

 

 その瞬間を、ネギは信じられないものを見るように、呆然と眺めていた。

 

「あ゛ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ?!」

 

 憧れだった。自分の目標だった。大切な人だった。ありとあらゆる感情が綯い交ぜとなって、溶けあい、混ざりあい、たった一つの感情へと集約していく。

 

 すなわち。『殺す』。

 

「ガァアアアアアアアアアアアア!!」

 

 限界域など簡単に振り切り、ネギの両手が漆黒の爪に覆われた。それに加え、側頭部からも角が生え、その姿は魔物と言うに相応しいものへと変貌させた。呼吸をするように、ストックしていた遅延呪文を掌握、雷速の突撃を以てヒースクリフに襲いかかる。

 

「――下がっていたまえ」

 

 雷の速さであるはずの突撃は、ヒースクリフの構えた十字盾に難なく受け止められた。さらにソードスキルの光を纏った盾で容赦なく打ち据えられ、そのまま空中を数十メートルほど吹き飛ばされる。

 

 それでも再度攻撃を試みる。何度跳ね返されようとも、ヒースクリフを殺すつもりだったが――

 

「ネギ君。心配しなくとも、この封印内にいる限り、ナギが死ぬことはない」

 

 ――彼のそんな言葉に、咄嗟にその手を止めた。

 

「正確には、この封印の中にいる限り、ナギは完全に状態を停止させられている。当然生死にかかわる傷を負ったとしても、死に至るのはこの封印を解かれ、心臓から致死量の血が流れ落ちた時だ」

 

 だからそれまでに手当を行えばいい――、などとのたまうヒースクリフに、困惑し、殺気が霧散していく。

 

「ちなみに封印解除の術式についてだが、封印と一体化している君のお母上も助ける必要があるので、少し特殊な措置が必要となる。詳細な術式については、チウ君の電子精霊にデータを持たせてあるので、そちらを確認してくれたまえ」

 

 事ここに至って、彼らはいよいよヒースクリフの意図が分からなくなってきた。そこまでナギとアリカの生命を救うための措置を施してあるのなら、一体なぜ彼はナギを刺したのか?

 

 その答えは、やがて、ナギの身体から立ち上った黒いもや(・・)のようなものが教えてくれた。

 

「…………来たか」

 

 それは、この世にあってはならないものだった。この世の中で、少しずつ少しずつ、澱のように溜まっていった、目を背け続けてきたものだった。

 

『痛イ』

『苦シイ』『憎イ』

『許セナイ』『恨ム』『嫌ダ』

『死ネ』『喪エ』『死ネ』

『殺ス、死ネ、死ネ死ネ、死ネ死ネ死ネ、死死死死死――――――――――――――――!!』

 

 ありとあらゆる憎悪が、怨嗟が、呪詛が凝り固まったかのようなヒトガタ。あらゆる死を、あらゆる呪詛を身に纏いながら、それでも意志を陰らせない存在。はじまりの魔法使いが、ナギの身体から抜け出たのだ。

 

『――成程。仮死状態のナギに、致命の一撃を加えることで、私を身体から追い出すのが狙いか』

 

 不思議とノイズがかかり、女性のようにも、男性のようにも聞こえる声が頭の中に響いた。声の主は、そこでちら、と今もナギの胸に突き立つ十字剣を見つめる。

 

『剣に纏わせているのは、封印への貫通効果と――魔を滅する神聖属性の魔力だな。突き刺した箇所から、身体の中に直接その魔力を注ぎ込むことで、私の意志を追い出した、か』

 

 心底感心したように、造物主は頷く。完全にしてやられた、と本当にほめたたえているように。

 

 しかし、やはりそれはうわべだけだった。

 

『――とは言え、それでは何も変わらんとは思わなかったのか?』

 

 言葉と共に、造物主を包んでいた漆黒のローブが、まるで生き物のようにヒースクリフへと伸びていく。その真紅の鎧を、十字の盾を全て覆い尽くすかのように。

 

『私を追い出したところで、今度は追い出した者へと報復し、身体を奪う。私のこれは『能力』ではなく、もはや『性質』の類だ。防ぐことなど決して――――』

 

 と、そこで。ヒースクリフが、己を覆い尽くそうとしていたローブを、引きはがすのではなく、逆に思い切り引き寄せた(・・・・・・・・・)

 

『――――?』

 

 ズブズブ、とローブがヒースクリフの身体へとしみ込んでいく。間違いなく、報復型精神憑依が発動している証。だというのに、目の前の男は慌てる様子が一切ない。むしろ余計に笑みを深めていく。

 

『何の真似だ?』

 

 ヒースクリフは、答えない。より一層、ローブを自分の元へと引き寄せていく。

 

『…………気に喰わんな』

 

 キュキュッと金属を引っ掻くような音を立てて、ローブの一端が、細いこよりのように、削岩機のように収束していく。造物主はヒースクリフのその笑みに、どこか不吉なものを感じていた。そのため、その予感を誤魔化すために、笑みを消してやろうと考えた。

 

『一体何を考えているのか、その口から話させてやろう』

 

 そう言って、ローブの槍をヒースクリフの右肩へと向かわせ――――。

 

 

 次の瞬間、造物主の右肩(・・・・・・)が抉り取られた。

 

 

『な――――――――!?』

 

 自分の身に何が起きたのか、さしもの造物主も理解できなかった。造物主は、未だ新たな肉体であるヒースクリフの身体に収まりきっていないのだ。ここにいるのは造物主の精神体そのものであって、通常は攻撃することなど出来はしない。その上、ヒースクリフも周囲の魔法使いたちも、誰一人一切攻撃していない(・・・・・・・・・)のだ。この状況で、自分の身体が抉り取られるわけが――!

 

「――――驚いたかね? 魔法世界の神よ」

 

 その言葉に、顔を上げる。ヒースクリフは、顔を俯けながら、くつくつと笑っていた。右肩を抉り取られ、激痛にあえいでいるはずの男が、それでも笑っていた。造物主の背筋に、数百年ぶりに悪寒が奔った。

 

「なぜ、このようなことが起きるのか――どうして貴方は、私と同じ場所(・・・・)を抉り取られているのか。その答えは――――コレ(・・)だ」

 

 そう言って、ヒースクリフは左腕で自らの胴鎧を砕き、その胸をはだけて見せた。

 

 そこには、一つの『結晶』が埋まっていた。

 

「チウ君がアーティファクトで呼び出した、七つの≪心意結晶≫――かつて、麻帆良での情報戦の折りに、ユイ君に付き添っていた彼女の電子精霊から奪い取った二つの内の一つ――最後の一つだ」

 

 ヒースクリフの胸に埋まった心意結晶は、心臓のように鼓動を刻む真紅の輝きを湛え、そこで確かに息づいていた。まるで、結晶自体が、ヒースクリフの一部であり、生命線そのものであるかのように。

 

「この結晶は、人の心意(おもい)を現実に具象化することが出来る。私の身体は、この結晶によって形作られた、茅場晶彦という一人の男の想いそのもの(・・・・)だ」

 

 茅場は、常にこの目の前の神を倒す方法を求めていた。そうしなければ、自身が仕える姫は、本当の意味で自由になれないから。彼女に纏わりつき、縛り付ける運命という名の鎖を、全て叩き壊すために、あらゆる方法を探し続けた。

 

 その答えが、これだった。

 

 

「ヒトの想いという――――貴様の精神体と同じもので形作られたこの身体は、貴様の精神体とこれ以上ない程に同調してしまう。それこそ、中に入った状態で攻撃を喰らったならば、精神体本体にまでダメージがフィードバックする程に、な」

 

 

 確実に造物主の精神体を、それこそ欠片も残さず消滅させる、そのためだけの肉体を作り上げること。茅場の目指した理想的な『棺』こそ、このヒースクリフの肉体だった。

 

 ようやくヒースクリフの意図を悟り、造物主がそこから離れようとする。しかし、彼の肉体へと食い込んでいたローブは、一向に離れない。むしろより深く、一体化していく。

 

「無駄だ……この身体に、一部だけでも同化してしまえば、後は精神体同士が勝手に混ざり、一体になろうと集束されていくだけだ。わずかでも混ざってしまった絵の具は、もはや分けることは出来ないのだよ」

 

 ズブズブと、互いの身体が混ざり合う。それは、まるで互いを憎み合う大蛇が、互いの尾を飲み込む合う行為にも似ていた。喰らい、傷付け、一つへと収束していく。

 

 不意に、ヒースクリフの視線が、コウやチウたちへと向いた。

 

「魔法世界と、この世界の人々のこと――――そして、何よりも『姫』のこと、君たちに頼みたい」

 

 地球から流れ込んでくる魔力を背景に、ヒースクリフが最後に頼んだのは、それだった。

 

「私がこの場で消えようとも、魔法世界救済のための術式は影響を受けん。現実世界側の魔力をろ過し、送り出す役目として作り上げた『浮遊城アインクラッド』と……ユニークスキルの全てが配置された『墓守人の宮殿』が、魔法世界側の魔力の受け皿として機能する。そして、一度始まってしまえば、例え二つの浮遊城を破壊したところで、術式はもう止まりはしない」

 

 だから、世界救済のことは心配しなくて良い、とヒースクリフは確かに請け負った。その言葉をまるで合図とするかのように、ユニークスキルのアイコンが墓守人の宮殿内から次々と飛び交い、魔法陣を展開。宮殿全体を、巨大な立体魔法陣へと形作っていった。

 

 ここまで、全て茅場晶彦の思惑通りに事は運んだ。地球の魔力で魔法世界を一時的に存続させるのは、あくまで応急処置に過ぎないが、時間的猶予も作った。後はネギや目覚めたナギたちが、何としてでも突破口を作るだろうと、彼は確信していた。

 

 だから、彼が頼みたかったのは、彼にとって、何よりも大事な存在のこと。今この時においても、自分が子供のように叱られることを恐れ、決して視線を向けることが出来ない、ただ一人忠誠を誓った人のこと。

 

 いよいよ、ヒースクリフの身体は、ローブに覆いつくされ、肌の色も見えなくなりつつあった。本当に、彼とはここでお別れだろう。それを悟ったのか、今まで一言も口を開かなかった、巨大な鍵を持つ漆黒のドレスに身を包んだ少女が、一歩だけヒースクリフへと歩み寄った。

 

「カヤバ――――」

 

 そう名前で呼ばれるのも、実に10年ぶり。思わずその声を、視線で追ってしまった。そこにあったのは、何時かのように不服そうに頬を膨らませた少女の姿。

 

「色々、ありがと。それと」

 

 本当に、本当に不満を抱えているように、少女はその言葉を口にした。

 

「ばか」

 

 思わず、苦笑が漏れた。だが、悪くない。それが、ヒースクリフの、茅場晶彦の最期の想いだった。

 




ヒースクリフの最期です。造物主を殺すには、精神体そのものを消滅させるしかない。でも、火星の白と呼ばれる魔法無効化はそう簡単に手に入らない。茅場が考えた方法は、それ以外で精神体に致命傷を与える方法です。

いよいよ、次回以降はラストバトル。同調率120%以上の造物主が暴れまわります。倒せれば造物主も消滅させられますが、さてどうなるか。
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