見ていた。見ていた。見ていた。魔法世界の全ての人が、その光景を見ていた。世界を包んだ大異変が終息していく様を、ずっと見ていた。世界の異変が、水平線の彼方へと消えていくのを見ていた。そして、水平線の向こうで――――
――――天を衝く巨神が、ゆっくりとその身を起き上がらせるのを、見ていた。
『■■■■■■■■――■■■■――――――――――――――――――――――――!!!!』
それが上げた産声は、世界を震わせた。
「うるせ――――――ッ!!」
「あらー♡ ずいぶんおっきくなってしまいましたなぁ?」
「ひゃー……フロアボスの百倍くらいあるんじゃない?」
チウたちが言い募るのも無理はない。ヒースクリフの身体に取り憑いた造物主は、
「……つまり、これを倒せと」
「無理じゃないかな……ヒースクリフは、こんな規模の戦いになるって想定してたのかな?」
「どうなんだろうねー? ニヒヒ、少し燃えてきたかな?」
なんとも緊張感に欠ける会話だが、そんな中でもそれぞれの武器を構え、目の前の大敵を攻め崩す準備を進めていく。誰一人、この期に及んで逃げ出そうとする者はいなかった。
「――フム、とんでもないことになったのぉ」
「ええ、お義父さん……これが暴れるなど、ぞっとしませんね」
「これは……二十年前の大戦を超える魔力量ですね」
そんな彼らの元に、続々と戦士たちが集い出す。まずは麻帆良から駆け付けた近衛翁、詠春、クウネルら三人。
「このかさん……父さんと、母さんは?」
「焦らんといてー、ネギ君。ヒースクリフはんの指示通りやってるからなー」
「ああ、もう! 私のハマノツルギで、封印壊しちゃ駄目なの?」
「……そうしたら、アリカの生命が危ない。地道に解くしかない」
「こうしてお二人が並ぶと、かなり印象が違いますね……」
ネギやこのか、刹那。そして二人のアスナ。その周りを囲むのは、ネギの元に集ったネギの教え子たち。
『なんじゃ、あのデカブツはー!!』
「……以前現れたのは、通常サイズだったと聞いています。恐らく、イメージや精神体が直接影響する身体に入ったことで、肥大化したのでしょう」
「……正直、鬼神兵が可愛く見えてくるよ」
帝国保有の軍艦から通信映像を飛ばしてくるテオドラ。事態の変化を察知し、直接軍艦から転移してきたクルト、タカミチ。
そして。
「って、ちょお?! 動いたらアカンて! 今治療するから、大人しくしてて!」
「…………あー、クソ。こっちは、もう大丈夫だ。アリカのこと頼んだぜ」
そう言いながら、封印され続けて強張った肩をコキコキと鳴らす男がいた。今も心臓の辺りからドクドクと出血しているのだが、口元に不敵な笑みを浮かべている。
ふと、彼の視線が、傍らに膝をつき、今にも泣きそうに表情を歪めている少年を捉えた。ふっ、と口元を緩ませ、その頭を撫でるかのように手を伸ばし――
「ふんッ!!」
――ゴキィンッ!!と、かなりいい音を立てるゲンコツを落とした。
「ふぇっ!?」
「あー、あー。なっさけねえな、息子よ。なーに親父と再会したくらいで泣きそうになってんだ」
「ぅぇ、っ、なっ……! こ、こんなの泣くに決まってるじゃないですか!!」
「男なら、泣くな。何があっても涙なんか見せんじゃねえ」
そう言いながら、ふらつく脚を気合で抑え、しっかりと大地に立つ。その傍らには、あの日息子へと譲り渡した一振りの杖が浮かんでいた。
そんな彼の元へと、傲岸不遜な表情を浮かべながら、齢600歳の少女が歩み寄る。
「ハッ、その身体で戦う気か? やめとけ、やめとけ。病み上がりには荷が重い相手だ。何なら、私が変わってやってもいいぞ? 対価は貰うがな」
「へっ、そういう訳にもいかねえんだ。良い様に取りつかれて、十年単位で後輩やら息子やらに迷惑かけちまったからな。こんな時ぐらい親父のいいトコ見せねえとよ」
軽口を叩きながらも、身体に魔力を巡らせていく。そんな彼を見て、ほんの少し赤みのさした頬を緩ませたエヴァもまた、肥大化した造物主へと向き直る。
そんな彼らの元に、一片の花弁が舞い降りた。
「――――へっ。俺もロリババアに賛成だな。封印から解放されても寝ぼけてやがる、ロートルは下がってな。なーに、俺様がいれば万事解決よ」
「面白れぇ冗談言うじゃねえか、筋肉達磨。十年間ギャグのセンスでも磨いてやがったのか? テメェこそ下がってやがれ」
「生憎俺様は、生涯現役なんでな。あんな幽霊のできそこないみたいなのに取りつかれてやがった、病み上がりよりは百倍マシだ。テメェこそ下がれ」
「「…………」」
「「やるか、コラァッ!!」」
どっちも復活したてだというのに、割と全力で喧嘩するナギとラカンの姿があった。
『■■■■■■――――――――■■■■――――――――――――――――――――――――』
「おい、バカども。どうやら向こうは待ちきれんようだぞ。喧嘩は後にしろ」
「へっ、いいぜ。
「おー、おー。病み上がりが強がっちゃって、まぁ。勝つのは俺様に決まってんだろ」
「あ、あの、父さんもラカンさんも、それ位で……」
「もー、ほっときなさいよ、ネギ。そいつらの喧嘩腰は、昔っからなんだから」
「ん。ナギもラカンも変わらなくて安心した」
そんなどこかほのぼのとした空気が漂う最前線。世界の命運をかけた最終決戦の舞台。そんなあれこれを見て、コウは一つだけ溜息を漏らした。それを見て、傍らにいたチウが尋ねる。
「どうした?」
「ん? あー、下手したらSAOのボス戦よりヤバイっていうのに、あれだけ緩い空気を出せるって言うのは、やっぱりあの人たちが『英雄』だからなのかな、って」
「いや、そりゃ違うだろ。単にアイツらが底抜けのバカなだけだ。それにお前だってSAOの中じゃ英雄の一人なんだからな」
「でもなー。正直俺にあそこまでの空気は出せないよ。やっぱり余裕がなかったせいもあるけど」
そんなことを宣うコウに、レーカやキッドが苦笑する。
「……コウは十分英雄だよ? 私たちにとっては、特に」
「ニヒヒ、そうだよね~? 死銃の時なんて、『私だけの英雄!』って感じだったんだよ? あー、もっかいあんなに格好いいコウが見たいな~」
「へー、その辺り聞いてみたいなー」
「そうですなー? ウチも新入りやから、どんな風に皆さん惚れていったのか、興味ありますわー♡」
そして、一頻りコウを皆が弄る中、ついに造物主が動いた。その巨体を揺らし、神に楯突こうとする愚か者たちを誅殺すべく、ゆっくりと向き直る。そのころには、全員から緩い空気は吹き飛び、代わりに見る者を圧倒させる闘志が目に見えた。
「――――いくぞっ!!!」
『オオッ!!』
そうして巻き起こる、天地を揺るがす一大決戦。後の世において、この戦いは『オスティア神滅戦争・最終決戦』と呼ばれ、現代に語られる最後の神話の物語とされる。この戦いこそ、人類が真の意味で神々の手を離れた証明であったと語られている……。
一日遅れですが、お待たせしました!この話を以て、長かった戦いは終わりです。正直決戦を詳細に書いてもいいんですが、他の身体に移れない造物主には、万に一つも勝ち目ありません。他への憑依可能ならワンチャンあったのですが……ラカンインパクトでボコられ、千の雷で焼かれ、ソードスキルで削られていくワンサイドゲームは、書いても作業になりそうで。
そして、次回からはエピローグ。長かったこの物語も、ようやく終わりです。一回か二回くらいで終わらせようと思ってます。全員のエンディングと、そして、数十年後の『彼』や、百年後の『彼女』の物語へと!ご期待ください。