ストックが切れた、切れたぜ…真っ白によ……
「≪The Gleameyes≫…………か」
聞いた話では74層のボスで、暴走した巨大ギルド≪アインクラッド解放軍≫を叩きのめし、当時の指揮官を含め多数の死傷者を出したボス。正直下調べもなしにボスに特攻するなど、攻略以前の問題だ。その上、相手がその階層まで一切見かけなかった悪魔型ボスとなれば、態勢を整えてから挑むべきだろうに。
そう思っていたからこそ、
「てっきりたいしたことは無いボスだと思ってたんだけど?」
そういう認識だった。だが、その言葉にクラインさんは首を振る。
「あのボスは、それまでのヤツに比べても別格だった。正直≪軍≫の奴らがHPをかなり減らしてくれてたのと……キリトのユニークスキルが無かったらヤバかったって今でも思うぜ」
……ユニークスキル≪二刀流≫。ヒースクリフ曰く、SAOで最高の反応速度を持つものに与えられる、片手剣カテゴリのユニークスキル。ヒースクリフとのデュエルで初めて見たときには、確かに強いという印象を受けたが……そのせいで、オレの≪狂乱剣≫やチウの≪七星剣≫の
(そもそも≪七星剣≫に関しては……なんでヒースクリフが
ヒースクリフ曰く、全てのユニークスキルの解放は、第90層にプレイヤーが到達してから行われるはずだったのだ。それなのにユニークスキルはオレ達のスキルウインドウに現れ、オレ達二人そろってそのスキルの
(絶対何か知っている当人は一向に答えないし……)
ヒースクリフは原因に見当がついているらしいが、同時に答える気もない。今まで聞き出そうとする様々な試みは全て失敗した。
「とにかく……その≪グリームアイズ≫は、相当に強いボスと考えていいわけだね?」
「ああ。だが、それだけじゃねえ……このALOの新グリームアイズは、他のボス同様強化が施されてんだ……」
そう。それこそが、現在の攻略ギルドたちが中々先に進めない原因。現在のアインクラッドのボスは、ALOの大変熱心な運営スタッフによって全部が全部、馬鹿げた強化を施されている。…正直、先に進ませたくないのか、と思えるほどに。
「そんで、その強化ってのが――――」
クラインさんの言葉を聞いた瞬間、オレは攻略レイドが進めない理由を察し、同時にこんなボスを生み出した運営に、もしリアルで会ったらぶん殴ることを誓うのだった。
◇ ◇ ◇
「戦闘……開始ッ!」
サラマンダーの将軍、ユージーンさんの号令とともに、ボス部屋に集った異種族混成パーティーは、それぞれボスへと突撃していく。≪ザ・グリームアイズ≫はその手に持った斬馬刀で、群がるプレイヤーをなぎ払う。SAOでは初めての悪魔型フロアボスだった≪ザ・グリームアイズ≫は、その威容にふさわしい実力を兼ね備えていた。かつてのSAOプレイヤーたちが持ち込んだ、≪スイッチ≫の技術にもほとんど怯まないし、その上その手で振るうのは、もはや軽自動車並みの大きさの斬馬刀である。
…正直なところココに至るまで半信半疑だったこのボスの手強さは、開始数秒で払拭された。コイツは確かに75層で戦った≪The Skullreaper≫に迫る強さを持っている。
その上―――
「くそっ! これでも、くらいやがれえっ!!」
「バカモン! よせ!」
暴走したサラマンダーの一人が、中級スペルを唱え、巨大な火球を放った。その狙いは正確で、火球はまっすぐにグリームアイズの側頭部めがけて飛んでいった。
――――が。
ゴヒュウウウウッ!という音とともに、グリームアイズは周りの空気を目一杯肺の中へと吸い込み、向かっていった火炎もまた吸い込まれた。
「くるぞーーーーッ!!」
「総員、退避ーーーーーッ!」
『グォォォォォォォ!!』
号令とともに全員が一斉に後退。ソレを追いかけるかのように、目の前を紅蓮の業火が襲った。
ALOに登場する新生アインクラッドのボスは、以前では考えられなかったような能力や攻撃方法が付加される場合がある。≪魔法≫という概念が加わったことで、様々な特徴を出せるようになったのだ。このグリームアイズも例に漏れず、その追加された能力が、おおよそ『最悪』と呼べるものだった。
「≪属性攻撃吸収能力≫……!」
恐ろしいことに、グリームアイズに追加されたのは、このALOで大きなダメージソースとなる、≪魔法≫を半ば無効化する能力だった。砲撃・射撃系を含むほとんど全ての魔法は、その肺の中に吸収されてしまい、一定の体力回復とともに、放たれた属性攻撃と、自分の毒ブレスを混ぜて吐き出すのだ。これにより、攻略ギルドのほとんどは、大多数の
しかも、こいつはそれだけじゃない。
「やっぱり、情報どおりじゃねえか! コイツに魔法はダメなんだよ! ソードスキルで削っていくぞ!」
「ああ、だが気をつけろよ、クライン。情報どおりなら……」
「ああ……
――このALOにおいて、新生した上位のソードスキルには、全て魔法と同じ『属性』が付加されている。これによって、どのタイミングでどの技を出すかという戦略性が増したということにもなるが……逆に言えば、絶対的な物理ダメージは減ったと言うことにもなる。
グリームアイズはそこをつき、『上位ソードスキルで食らった属性ダメージを、そのまま自身の斬馬刀の強化に回せる』という能力まで持っている。簡単に言うと、炎のソードスキルで斬られた後は、一定時間ヤツの持っている武器が、≪炎の剣≫に変わるという一種の
「もー! さっきから埒開かなくなっては、魔法撃っての繰り返しじゃない! 全然倒せる気しないわよ?!」
「いいから手、動かしなさいよ!」
「そーですよ、リズさん! 細かくソードスキルを当てていくしかないんですから!」
リズベットさんのぼやきに、律儀にシノンさんとシリカさんが返す。その間も一切手を休めることなく、戦槌を振るい、矢を放ち、短剣を閃かせる。
それでも、グリームアイズは一切怯むことなく、剣を振るい続けている。
『グォォォォォォォ!!』
「このままじゃジリ貧だな……」
「そうだね、チウ。ここは一つ……」
「
互いに頷きあい、前へと出る。視界の右端では、キリトさんやアスナさんを初めとする、このレイドの中でも最強クラスのメンバーも出てきた。
「各自、OSSで攻撃! 一気に勝負を決めるぞ!!」
OSS、つまりは≪オリジナルソードスキル≫。ALOへのソードスキル実装とともに誕生したシステムで、唯一『上位ソードスキルにも属性が乗らない』スキル。スキル登録の関係から、全てが連撃系に限られるが、純粋な物理ダメージを発生させる一番の手段でもある。
「俺から行く! 各員、連携で
そう言って前に飛び出したのは、サラマンダー最強と謳われる将軍、ユージーン。
『ゴァァァァァァァァ!!!』
一人突出したユージーン将軍にタゲが移り、≪グリームアイズ≫が突進してきた。その手の斬馬刀は、ソードスキルの黄色いライトエフェクトを宿している。
――それに対して、ユージーン将軍の手には、紅蓮のライトエフェクトを湛える、魔剣≪グラム≫。
「ムン!!」
裂ぱくの気合とともに、斜め上段からとんでもない豪剣が繰り出された。そのまま身体ごと回転させ、剣が右横、左上、下段と、あらゆる方向から襲いかかる。
ユージーン将軍のOSS、両手剣8連撃≪ヴォルカニック・ブレイザー≫。とあるOSSがこの世界で生み出されるまで、最多の連撃数と攻撃力を誇ったOSS。
「いけそうね」
「そうだな、俺たちのOSSも加えれば……」
そう言って並び立つのは、リズベットさん渾身の一品である、水晶の柄と白銀の刀身の
「……そうだな。行こう」
そう呟き、手に持っていた武器を、
この二振りの武器は、このALOに存在するたった一つの『伝説級武器を
「遅れんなよ? コウ」
隣に寄り添うチウからも声がかかる。青のドレスの上に銀の胸甲、手甲、脚甲を纏った彼女は、その手に輝く剣を持つ。聖剣の一振り、≪グランシャリオ≫。刀身に北斗七星が刻まれた伝説級武器の一本で、とんでもないエクストラ効果を秘めた剣だ。彼女が持っていたユニークスキルと同じ北斗七星に由来する武器だったことから、どうしても取りたいと言われクエストを手伝ったが、あの時は手伝わされたオレまで泣きを見た。『世界に隠された七つの宝鍵を探せ』というとんでもなく労力と時間がかかるクエストで、比喩でもなんでもなく世界を一周する羽目になった。
「この四人で挑むのは……SAO最後のアイツとのデュエル以来かな?」
「そうね…あれ以来、大体互いのパートナーと行動してたし」
「オイ、アスナ。パートナーって言うな。私とコウは、腐れ縁ってだけだ」
「相変わらずひどいなあ、チウは」
そんな事を話しながら、足は確実にボスへと向かっている。視線の先ではユージーン将軍がノックバックさせたグリームアイズがその身を起こし、反撃へと転じようとしている。
「それじゃ、全員…攻撃開始!」
「「「オー!!!」」」
キリトさんの号令とともに、オレ達はグリームアイズに向け、一直線に駆け出した。
新生第67層編、第二話終了!
強化されたグリームアイズ。RPGをやらない人にはわかりにくいですが、魔法職ばかりのパーティーには最悪のボス。大規模ギルドが進めなくなったのも、数に物を言わせる戦略が使えなくなったから。ただの物理攻撃だけなら、≪軍≫の精鋭を蹴散らしたコイツに勝てるわけが無い。
前書きにも書きましたが、ストックが切れました。書きあがれば次回も投稿しますが、もしかしたら一週休むかも知れません。ご了承下さい。
追記(2月10日18時)
つい先ほどランキングを見たら、何とこの作品が日計の5位に入ってる……
本ッ当ッに、読者の皆さんありがとうございます!これからも精進します!!