「フフフフフ、覚悟なさい、女子中等部3-Aのお猿さんたち! 私たち聖ウルスラの誇るドッジボール部『黒百合』が、今度こそ貴女たちをボコボコにしてあげるわ!!」
「なんで、アンタらはまた中等部のグラウンドに来てんのよー!!」
キャーキャーとそんな姦しい声を上げながら、女子生徒同士の醜い争いが続いている頃――。
『――コウ君は、そんな彼女らの麗しい体操服姿に、鼻の下を伸ばしながら電話中ということだね?』
「とてつもなく、人聞きの悪いことを言うな! 編入した彼女たちの現時点の様子を見てきてくれって、授業中に電話かけてきたのは、そっちだろうが!」
――そう、現在コウは、男子中等部エリアの一番端にある中でも高層の校舎の屋上に陣取り、双眼鏡でほど近い女子エリアを覗いている状態だった。
「大体、そっちでも彼女らの動向は把握してるんだろ? なら、わざわざ俺が動く必要ないだろ」
『ん……まあ、そうなんだけどね。それでも万全を期したいんだよ。なにせ編入生の一人が、亡国の王女なんていう超絶VIPだからね』
「………………」
そう言われてしまえば、納得せざるを得なかった。アスナ・
……一応、その新王国の女王となるべきアリカ様は、現在長期の封印で衰えた体力を回復するため、麻帆良の大学病院に入院中。そこで魔法教師らによる治療も並行して受けながら、通信を繋いで向こうの政務も行っている。
アリカ女王やアスナ姫がこっちにいる理由は、実は同じ理由でもある。つまりは、向こうの政治情勢がここ百年で見たことがない程荒れに荒れており、いつ何時彼女らに刺客や暗殺者が差し向けられるか分かったものでは無かったからだ。現状の打破には一切つながらないが、それでもメガロが刺客を送り込んでくる可能性は十分にあったし、それ以外でも彼女らの政治的価値は計り知れないため、どこかの馬鹿が誘拐を試みる可能性だってあった。日本政府としては、今後復興するであろうオスティア新王国から帝国同様、様々な既得権益を得ることを期待しており、むしろ喜んで療養と留学の体裁を整えたという訳だ。
「……で、比較的警備が整っている病院はともかく、学園側の彼女らの護衛が、俺やチウに全部回って来るとか。いつから日本は、中学生をこき使うブラック企業になったんだ?」
『いや、こちらとしても彼女にはSPを付けることを検討したんだよ? けど、本人が視界の範囲内にそんな仰々しい人員を置きたくないって言ってね』
なにせあのお姫様、両目とも狩猟民族並みの視力である。今もキロ単位で離れたこっちを視認して、手を振ってきているし。結局菊岡さんの言う通り、顔見知りの人間が常に気を付けておくしか無くなった訳だ。
『それに、さ』
不意に、電話口の菊岡さんの口調がわずかに固くなった。
『こういった任務なら、君のその、『症状』も、余り進まずに済むだろう』
「…………」
その言葉に、双眼鏡を持っていた右手に視線をやる。そこには、ネギ先生とはわずかに違うが、渦を巻くような紋章と
……結局のところ、≪狂乱剣≫はあの造物主との激戦の中で、真の完成を遂げていた。それはつまり、ネギ先生と同じ≪
この身体は――――本当の意味で魔物へと変化を始めている。それは一度死ぬことによって一気に変貌を遂げてしまったネギ先生に比べれば、カタツムリのように遅々としたものではあったけれど、確実に。
――けど。それでも。
コウの隣にいる少女たちは、誰一人そこから離れる事は無かった。
『……まあ、ともかく。これからは君も、自分の身体のことを考えなければ駄目だよ。彼女らの為にもね』
「…………ああ」
人間で無くなって。本物の狂犬になりかけて。そこまでして、ようやく自らの生命が、決して一人のものではないと悟った。悟ることが、出来た。
菊岡の言葉を噛みしめていると。
『そ・れ・に。君、
「……一気に、言葉の有難みが無くなったよ」
――そう。あの造物主との戦いが終わり、日本との国交正常化を目指していた帝国は、一連の事件の立役者であった≪
『ああ、もちろん勘違いしないで欲しい。これは僕ら日本の国益も考えた上での発言だ。今現在魔法世界と繋がっているのは、この日本の麻帆良だけ。これから先、君ら『番人』の立場は、国際的に見ても極めて重要なものになって行くだろう。君らの婚姻にほんのちょっと超法規的措置で便宜を図るくらいは、当然の扱いだよ。だから今後とも我が国を裏切らないでくれ、って言うメッセージでもあるしね』
「……それをわざわざ言うか。本当にタヌキだな」
会話の中で出た『番人』という言葉に、はあと嘆息し、空を見上げる。そこに浮かんでいるのは、ヒースクリフが作り上げ、現在麻帆良のゲートとオスティアのゲートを中継し、さらにその所有権をこともあろうに誓約の魔法具まで使用して、無理やり譲り渡してきた≪
――浮遊城アインクラッド。
現段階において、≪
「……くそ」
浮遊城を見上げながら、思う。きっとヒースクリフがあの城を託していったのは、これから先の世界を託す意図もあったのだろう、と。両世界の狭間に位置し、やろうと思えば世界間の戦争すら引き起こせるあの城は、ともすればあまりに危険な火薬庫だ。それでもそんな火薬庫を、ただの一団体に託したのは、そんなことをしないと信じていたのかも知れない。あるいは、そこまで計算尽くか。あの男は、そんな男だ。
「――――ま、ただの個人に出来る範囲でだけど、世界の平和のために、これから先も頑張っていくか」
一人、わずかに零れたそんな呟きが、風に溶けていった。
――それから、幾つもの月日が、流れていった。
二つの世界に跨る日本は、国際社会の中において日に日に発言力を増していき、百年を数えるころには『世界平和の番人』とまで謳われる国になった。そして、魔法世界と旧世界の多くの企業体を巻き込んで、火星のテラフォーミング計画を推し進めた。魔法世界の基盤たる火星の急速な緑地化によって、裏火星たる魔法世界も滅亡の危機を免れることとなった。
魔法世界最古の王国の王子にして、英雄の息子たるネギ・スプリングフィールドは、麻帆良での教職を終えた後、テラフォーミング計画のために奔走。闇の魔法による魔物化で寿命こそ無くなっていたものの、計画が完全に軌道に乗ったある日、後進に全ての仕事を引き継ぎ、歴史の表舞台から姿を消した。一説には未だ世界に残る虐げられる弱者を救いに赴いたとも、また一説には、ある親友のストーキングから逃げたとも言われているが、定かではない。
そのため再興されたオスティア新王国の王冠は、ナギの封印解放から三年後に生まれ、公爵位を授けられたネギの弟が預かっている。ネギが王国に帰還しない限りは、彼の子孫が代々王冠を預かることになるが、彼らの一族は誰一人自分たちが王であるとは名乗らなかった。そのため百年後には、オスティアは遂に『公国』として新たなスタートを切ることとなった。
そして、麻帆良で学生生活を送っていた『二人のアスナ』については。姫御子の方のアスナは成人後、オスティアからの要請で特別外交官に就任。両世界の平和のため、特使として政治の舞台で奔走する生涯を送った。神楽坂明日菜については、その特殊な出自を鑑み、日本政府の要請で特使付きのSP兼秘書官に任命。自身の半身にして姉たる彼女と終生共にあったという。
一方、ネギ先生の教え子たち、3-Aの生徒たちは、実に多彩な才能を見せて激動の時代の中、各方面でその名を轟かせることとなっていく。
――そして、≪
しかし、メンバーたちが一般企業の定年の年齢を迎えたころ、突如としてその存在も歴史の表舞台から姿を消した。一説には、魔物化によって三十代頃に不老となってしまった夫のため、五人の妻たちが科学的アプローチで不老を試みたからとも言われているが、定かではない。
彼らの消息について、歴史のミステリーとして多く語られるのは、3-A卒業から約八十年後、大親友の消息が一向につかめずに色々拗らせたと言われる、一人の魔法使いによって作り出された『英雄ネギの孫』の前に、何度か現れたという話である。しかしこの話も、どこまで本当なのか誰にも確かめる術などない。
その後、伝説のギルド≪
「――まあ、ここにいるんだけどな」
「そうさね。まさか私らが生きてるってのは、普通の奴らは気付きもしないだろうさ」
「……うん。でももう、マスコミに追っかけられないで済むよね」
「私もおかーさんの仇を五十年前に監獄に叩き込めたせいで、動きにくくなってたしにゃ~」
「でも、ボクは何だかんだで、
「いや~、それはやめといた方がええんちゃいます? 今回は、
そう言って全員が彼らの足元に突っ伏すように気絶した二人の少女を見やる。片方は、黒髪に頭の両側でまとめたお団子のような髪型。もう片方は褐色の肌に、頭の後ろで球状の髪留めでまとめた漢服の少女。
「……ホラ、とっとと立ちな、
魔法世界に点在する、人気のないオアシス。そこでかつてラカンに鍛えられたネギのように、今また彼の子孫とその親友が鍛錬に没頭していた。何の因果か彼女らを魔法世界で拾い、現在の最強に挑む手助けをしている訳だ。最初の出会いは偶然でしかなかったが、これであの日未来へと去っていった超との『もしまた出会ったら、弟子か教え子にしてやる』という約束を果たせたことを思えば、これもまた運命の悪戯なのかもしれない。
そんなことを考えていると、最初はフラフラと、やがてより両脚に力を込めて、二人は立ち上がった。
「……ま、だ。まだネ…………」
「ワタシも……まだへばってないアル……」
そんな二人の姿は、かつてのネギや古菲を思い出させる。恐らく同じ人物を思い起こしていたであろう全員の笑みが深くなった。
「よおし、来な!!」
チウの号令と共に、新たなる世代が駆けてくる。時代は、確かに変わっているのだ。
世界は、変わる。時の流れと共に、確実に。人々も、変わっていく。神がいなくとも、確実に。それでも、俺たちは、その手に剣と魔法を持ち、これからも歩んでいく。仮想から現実へと至った、この世界を――――!!
これにて『闇の剣と星の剣』、終幕と相成ります……終わったー!今後は気が向いたときのみの番外投稿か、このまま完結かという方針です。
この作品、プロットを作ったのが文章書き始めた最初の方で、今思うととんでもなく設定に無理があったりもしました。色々調べてネギまやSAOのシステムに落とし込んだり、かなり大変だった思い出があります、今となってはいい思い出ですね。
作者としては、初のヒロイン多数の作品だったのですが……うむ、鈍感ラノベ主人公の気持ちが、未だに分からんな!!(断言)おかげで主人公のコウはイマイチキャラ立ちしてないし、未練が残る所でもあります。どうやっても劣化キリトの色が強かった……。いっそチウ本命の一途キャラでも良かったかも。
今後の投稿予定ですが……。正直また何か書いて投稿するか、もう片方も終わったら筆を休めるか、考え中でもあります。ちなみに、もし書くとすれば、候補は以下の通り。
1.まったくのオリジナル(これになったら、第一話だけここに投稿して、『小説家になろう』に本投稿にするかも……)
2.ダンまちの新作(以前書いたのがハガレンとの微クロスだったので、クロスなしを書いてみたいんですよね。何故か誰も書いていない、リリ魔改造ものを)
3.UQホルダー×BLEACH(佐々木三太が死神に。後、水無瀬小夜子は虚に。片想い同士なのに、何故か始まる超絶バトル)
4.Fateもの(転生主人公が直死の魔眼のみでZero世界を駆け抜ける。Grand order?マシュは滅茶苦茶可愛いが、ガラケーしか持っていない人間に書けと?)
5.リリなの(白い魔王から逃亡を図りつつ、『嫁』を得るために奮闘するギャグもの?まあ、魔王からは逃げられないんですがwww)
まあ、全体的に予定は未定です。
それでは、皆さん!約四年の長く拙い作品に付き合ってくれたこと、本当にありがとうございました!!