そして、主人公の一面が明らかに……。
SIDE:刹那
――情けない。
そんな想いが、自分の中を満たしていた。
――情け、ないッ!
護るべき人を、大切だった人を、なすすべなく奪われた。
――本当に、情けない……
追いすがる速度を速め、私はそんな想いに満たされていた。
◇ ◇ ◇
「――追いついたぞ、猿女。お嬢様を返してもらおうか」
場所は、京都駅。大階段の下から、私はお嬢様を浚った犯人を睨みあげていた。
「おお、怖。けどな、そんなに簡単に返せるわけないやろ? 返して欲しかったら、奪い返してみたらどうや?」
「――そう、だな!」
短い返答とともに、駆け出す。その眼前に、舞い降りる一枚の、符。
「『大文字焼き』!」
「くっ!」
いきなり広がった炎を、とっさに飛びのくことでかわす。この火力……浴びれば、火傷ではすまない。
「ほななー、時代遅れの神鳴流剣士。あんさんらの、大事な大事なお嬢様はいただいていきますわ」
「逃がさん!」
私は、目の前の炎を無視し、その中へと飛び込もうと――――
「……
突然の詠唱とともに、目の前の炎は荒れ狂う風に吹き飛ばされた。
「な、なんやーーッ!?」
「これは……!」
そして階段の中心、風の中心に、あの少年と彼女がいた。
「ネギ先生! それにアスナさんも!」
「な、なんや、このガキども?! どーやってここまで来たんや!?」
その質問に、いささか青い顔で答えがあった。
「……投げ落とされたのよ」
「杖が無かったら、死ぬとこでした……」
……『投げ落とされた』?
「――――スキ有りだ、猿女」
そうして響いたのは、あの日森で会った少年の声。
「な?!」
女が見上げたのは、
「ひっ、ヒイイイイイッ!?」
女が助かったのは、ただの幸運に過ぎない。彼女がそれなりの呪符使いで、防御用の呪符を多く備えていたこと。人質を抱えていたため、万が一にも影響を及ぼさないよう、剣士が力を抑えたこと。それらが重なり、黒剣は彼女の右耳スレスレに突き刺さった。
「……ちっ」
「あ、あんさん、どっからわいたんや!? あんたらは、あの雇われモンが止めとるハズやろ?!」
「あいつらなら、ある程度足止めしたらさっさと退いたぞ」
「なっ!? これやから雇われモンは―――」
女の声をさえぎったのは、
「Oh……オイオイ、ひどいじゃないか、依頼者(クライアント)」
そう言いながら出てきた、黒装束の三人の男だった。
「アンタラ、どこ行っとったんや! 西洋魔術師どもの足止めを命令したはずやろ!」
「結界もまともに張ってないあそこで、アレ以上暴れるわけにもいかないだろ。一度退いて、ココにおびき寄せただけだ」
そう言って男は、腰に挟んでいたナイフを取り出す。見ると横の覆面の男も、緑色の刀身でギザギザに曲がったナイフを取り出していた。
「ヘッドー、俺には向こうのツインテールの娘下さいよー。ああいう気の強そうな奴を『毒』に染めるのって、格別なんですから」
「オイオイ、一応殺しはご法度なんだ。遊びすぎるなよ?」
「萎えること、言わないでくれよー」
そう言って近付いてくる男達の瞳にあるのは、ただ一色の色……狂気。
「くっ……神楽坂さん、ネギ先生下がってください! あの者達、尋常じゃありません!」
肌で感じて分かった。コイツラは今までのどんな敵より危険だと。
「で、でも、向こうにはこのかがいるのよ!?」
「そうです、このかさんを取り返さないと!」
「……ッ」
この二人は、本質的に善人だ。そして何より、友達思いだ。この状況では退けないのだろうが、それでも目の前の男達はまずい。
「長谷川さんはどうしたんです?! 彼女の加勢があれば――――」
その声は、大階段のすぐ横のビルの屋上の爆発音にさえぎられた。
「なんだ!?」
「長谷川なら、敵の狙撃手を落とすって言って、向かっちゃったわ。多分あそこだと思う」
その言葉にゾッとした。自分の仕事仲間もそうだが、狙撃手が加勢するだけで、戦況は大きく傾くこともある。それを真っ先に落としに行ったというのは、戦略的に見て正しい。
そう思考していると、ビルのてっぺんから、ドクロの仮面をつけた男が降りてきた。
「ク、クク、随分、面白い、ことになっている、な」
しゅうしゅうという呼吸音とともに、非常に聞き取りにくい声が響く。その視線を追うと、未だに猿女の顔の横に剣を突き立てたままの水原さんがいた。
(そうだ……!)
彼らはあの女のことを依頼者(クライアント)と呼んでいた。ならば、あの女には人質としての価値がある。
だが、次に響いたその『声』は、そんな思考を吹き飛ばすものだった。
「……女。今すぐ、横の女の子を置いて消えろ。さもなくば
『――――ッ!!』
息を呑んだのは、誰だったか。自分かも知れないし、横のネギ先生たちかもしれない。その『声』が含んでいたのは、目の前の黒装束どもなど及びもつかないほどの、濃密な狂気。そしてその声が孕んでいるのは、『殺意』そのもの。
(――――何なんだ、この人は!?)
思えば水原さんと会ったのは先日の襲撃の折が初めてで、その前は長谷川さんの『恋人』だという触れ込みで、遠くからその姿を見たことがあるだけだった。人となりが分かっているわけでは決して、ない。
(彼の方が危険なのではないか……?)
そんな事を思い、夕凪を持つ手に力がこもった。
……そう、そんな事を思っていたから――――反応が遅れてしまった。
「ざーんくーせ~ん」
その場の誰でもない間延びした声とともに、自分にとって見慣れた技がお嬢様のいた場所へと炸裂した。
「――――ッ! 『このちゃん』!!」
その余りの爆風に、最悪の事態を予想し、駆け出す。もはや、横の黒装束のことなど抜け落ちていた。
「――問題ない」
その声とともに、水原さんが片手に『このちゃん』を抱えたまま、煙から抜け出てきた。そして、そのまま、このちゃんを投げつけ――――?
「え、ちょ、ちょおっ!?」
慌てて刀を放り出し、空中で受け止める。このちゃんにケガが無いのが見て分かると、ようやくホッとした。
「……まだやるか?」
一言。見ると水原さんは階段の上部に退いた猿女達を睨みつけていた……本物の『殺気』とともに。
「アハハ……ほんまにオイシソウやけど、どうします~、千草はん? やるんやったら、ウチがあのお兄さんもらいますえ~?」
「Wow……オイオイ、獲物を奪う気かよ?」
その言葉で身構える私の横に、翅を広げた長谷川さんが降り立った。見たところ外傷もない。
「――いや、退くで。敵の戦力が予想以上になった。オマケにこの街中じゃ、これ以上『人払い』維持したまま戦うんは、キツイわ」
そう言って猿女達が踵を返し、夜の街へと消えていった。その姿が豆粒よりも小さくなって、見えなくなってから、ようやく緊張が解けた。
(……これからが、大変ですね)
このちゃんを抱きかかえたまま、思う。敵はとりあえず撃退できたが、恐らく準備を整えた上で、再度襲ってくるだろう。
(………………何よりも)
視線の先、ネギ先生と神楽坂さんの青い顔。その恐怖の対象は、やはり……
(……水原さん、貴方は何者なんですか?)
その問いに答えるものは、今はいなかった……。
SIDE OUT
はい、第一戦終了です。この後は状況説明ですね。ここで思い切りバトっても良かったんですが、そうなると、第三夜はどんだけ先かと……それにお互いが退いたのには実は裏事情もあるので、こんなところでまとめました。何と月詠VS刹那もなし……
説明回が終わったら第二夜。3-Aのおバカイベントですが、シリアスが続いたので、原作以上にカオスにしようかと考えてます。そのときにコウのクラスメートも何人か……どこかで見たことある人たちかもしれません♪