語られるのは、彼女の『覚悟』――
「――で? 何から話そうか?」
猿女達の襲撃を撃退した後、ロビーの一角に人払いの結界を張り、事情の説明となった。特に目の前で青い顔をしている子供先生には、説明が必要だろう。ちなみにここには、
「………………あの人たちは、何だったんですか?」
沈黙の後で出たのは、余りにも曖昧な問い。
「……向こう側にいた、黒装束たちのことだよね?」
こちらの一応の問いに、彼は頷く。…まあ、そこからだよな。
「あいつ等は、≪
「「……ッ!」」
その言葉に、ネギ先生と神楽坂さんが息を呑む。まさかそこまで危険な奴らが出てくるとは思わなかったのだろう。
「私達は、元々魔法に関わる前は≪SAO
「SAO……ですか?」
やはり魔法使いの中で育ったネギ先生は、事件自体知らないか。
「神楽坂は、≪SAO事件≫は知ってるよな?」
「うん……小学校の頃だったけど、覚えてるわ。確か一万人の人間が、ゲームから帰ってこれなくなったとか」
「それで、正解だよ……」
『SAO事件』。狂気の天才、『茅場晶彦』が実に一万人もの人間をゲーム内に閉じ込めた事件。そのゲームの中では、自身のHP(ヒットポイント)こそが正しく『命の残量』であり、ソレが無くなれば、『死ぬ』。
「実際、事件が終了し、帰ってこれたのは6千人弱だ……3千人以上の人間が、中で『死んだ』。その上で、脳をゲーム機で焼かれ、現実でも死んだ」
「でも、どうして!? どうして、その人はそんなことをしたんですか!」
ネギ先生が激昂して、立ち上がる。正義感が強いのは好印象ではある。
「それは、誰にもわからない……と言いたいところだが、クリアした直後に少しだけアイツと話す機会があってな。オレ達の感じた印象でよければ話すが」
その言葉への返答は、頷き。それでも理解できないかもしれないが。
「何ていうか……アイツはあの世界を、『本物の現実』にしたかったんだと思うよ。ただのゲームじゃなくな」
「『本物の現実』……?」
「そうだな。私達にとって、
その言葉に目の前の彼女達は、理解しがたいといった表情をしていた。まあ、それが当然の反応か。
「解らなくてもいいんだよ……それで、問題はあの黒装束だよな」
「あっ! そうよ、話に圧倒されてたけど、ソレとあいつらと何の関係があるのよ?」
大有りだよ。
「あいつらのギルドは、元々SAOで組まれたもので、SAO最大の≪殺人ギルド≫だからね」
≪笑う棺桶≫。SAOで最初に組まれた
「最盛期には、実に千人にも登った
「何で…なんでその人たちは、人殺しなんか!!」
まあ、茅場よりよほど理解し難い存在だろう。実際オレ達も理解したくない。
「あいつ等は、『殺人』を究極の『快楽』として捉えてる……理解は、するな。すれば、取り込まれるぞ」
実際PoHの奴はソレくらいのカリスマを持っている。右も左も解らない子供なら、簡単に取り込まれるかもしれない。
「……少しいいですか」
そうして口を開いたのは、野太刀を持った少女、桜咲。
「彼らの話は解りました……では、それなら、貴方は何者なのですか? あの猿女の首筋に刀を突きつけた時の『殺気』は……尋常じゃなかった」
……まあ、その話もしなきゃ駄目か。横の二人も納得しないだろうし。
「――――簡単に言えば、オレはSAOの中で、≪犯罪者殺し≫……PKKプレイヤーとして活動していた」
その言葉に、目の前の二人は僅かに身を引き、桜咲は刀の柄に手をかけた。この反応も、当たり前か。
「一応、標的にしていたのは、殺人以上の犯罪を起こしていたプレイヤーのみ……だけど、オレはアイツラと同じ『人殺し』には違いない」
「――、ッ! 長谷川さん、知っていたんですか、このことを!」
そうして彼女はチウに目を向けた。だけど、彼女は、真剣な表情を崩さなかった。
「ああ、知っていた。私は『全部』知った上で、コイツと一緒にいる」
「そんな、何でッ!」
「当時アンタだって、小学生でしょう?! そんな年齢で人を殺したっていうの!?」
「なんで人を殺した人と一緒にいるんですか!」
罵倒が突き刺さる。……そうだ。コレが、オレの犯した『罪』。当たり前の、コト。
――――――だけど。
「オイ、ガキ……あの世界がどれほどの『地獄』だったか知りもしないテメーらが、コイツを罵るんじゃねえ」
この言葉に、どれだけ、救われたか。
「確かに、『普通の』常識からすれば、コイツは犯罪者なんだろう。それは私もそう考える」
「だったら……!」
「だけど、コイツが罪を犯した状況は、そんな『常識』が通用しない場所だった。そこには『警察』も『政府』も存在しない。あるのはただ、『自分で自分の身を守る』っつー原始以来の常識だけだ」
「……ッ!」
「それとも、そんな狂信者どもに、大人しく殺されてれば良かったとでも言うつもりか?」
「でも……」
「確かにコイツは積極的に狩りに行った。けどな、誰かがやらなきゃいけないことでもあったんだ」
「……」
「コイツの『罪』が、裁かれるべきだっつうんなら……その『罪』は私らSAOプレイヤー全員の『罪』だ。『罰』を受ける時は、私も一緒に受けるさ。それが、私の『誓い』だ」
――ああ、本当に。この人がいるから、自分はまだ生きていける。
◇ ◇ ◇
話が終わり、本日は一時解散となった。あの二人はまだまだ納得はしなさそうではあったが。
(これからが、大変だな……)
まあ、ああいう恐れと好奇を含んだ視線には、慣れているが。
「――――――ちょっと待て、コウ」
そんな考え事をしていたから、自分の長年の相棒が近付いていることにすら気づけなかった。
チウはおもむろにオレの肩を掴んで振り向かせると、もう片方の手でわき腹を掴んできた。
「――――ッ!」
途端に、激痛が身体を突き抜け、声にならない悲鳴を上げる。
「……やっぱり、な」
チウが掴んだ、その位置。旅館にあった上着で隠してはいたが、その下には『穴』が空いていた。≪影≫で締め付けた下からは僅かではあるが出血もにじんでいる。
「さっきの爆風の中で、か」
「……ああ」
そう、実はあの爆風の中、近衛さんを助け出す時に、攻撃を一発喰らっていたのだ。土煙で良くは見えなかったが、赤黒いライトエフェクトを帯びた攻撃を。
「この傷口は、
「多分、ね。だけど、疑問が残る」
あのとき、ラフコフの奴らはかなりの距離離れていた。ザザの奴にいたっては、少なくとも十数メートルは離れていたのだ。
「……あの距離から届く、エストックのソードスキルは無かったはずだ」
「確かに、な」
あるいは……ザザが≪魔法使い≫になったときに、新たに得た力なのかも知れないが。
「だが、だったら何故退いたんだ? この傷なら、追撃をかければ私達を仕留めることも出来たはずだ」
確かに、その通りだ。今もやせ我慢で堪えてはいるが、本当は動くのもツライ。
「――一つ、確実に言える事があるよ」
そう、コレだけは確実に言える。
「次の襲撃までに、何とか今以上に強くならないと、確実に負ける」
◇ ◇ ◇
SIDE:笑う棺桶
「ククッ、中々の首尾だな……」
ここは、京都郊外の廃工場。市内こそ景観を崩す施設はないものの、郊外に出ればこういったものも無くはない。
「そう、だ、な。獣騎士の、ケガ、は、一日二日では、治らんだろう」
独特の呼吸音とともに、ザザが言う。その手には、≪サイレント・アサシン≫に仕込んでいた、携帯用の
「オレも一撃喰らわせたかったのに、なーんか不完全燃焼ですよ、ヘッド」
不満をあらわにするジョニー。その足元には、緑色の薬液に浸かったギザギザのナイフ。
「まあ、そう言うな。これも皆『
「頼みますよ、ヘッドー?」
そんなやる気のない返事の中、その声は響いた。
『――――そちらの首尾は、どうだ?』
声はどうやら、壁に貼り付けた一枚の符から流れているようだった。ここに千草がいれば、その符が異世界すら超越するほど強い力を秘めた『通信用』の符だと看破しただろう。
「Wow……お久しぶりですね、『
『どちらでも構わん。それより首尾はどうなったのだ?』
そう、この声の主こそ、彼らの本当の雇い主。
「上々ですよ。ちゃんと初戦で、こちらの不利を印象付けました。これで『彼』を仲間に引き込まざるを得ないでしょう」
『そうか。これで『アーウェルンクス』がもぐりこめるな』
初戦で勝つ積もりは元々無かった。むしろ、ここで不利であると天ヶ崎に印象付け、雇い主の手駒を引き込ませることが真の目的。
『アーウェルンクスのそちらでのフォローは、任せるぞ。≪
「Yes,sir! ――≪デュナミス卿≫」
――≪棺桶≫は、蠢く。『闇』の中を、『影』の中を。同じ『影』の同胞の下……
SIDE OUT
これにて、第一夜終了です!
やっぱ千雨は、傍観者気取ってる割に、こういう状況下では3-Aでも屈指の強さを誇ります。コレが彼女をメインヒロインに据えた理由です。まあ、もう一つありますが…
ザザのソードスキル。一体『何故』届いたのかが、『ネギま版』の彼の能力に直結します。何せ彼らは……『魔改造』ラフコフですから♪
さて、盛り上がってきたところなのですが、来週所用がありまして、更新を一週お休みします。休日出勤め……
―追記―
書き忘れましたが、今度から『闇の剣と星の剣』は日曜の投稿になります!ソッチの方がどうにも内容まとめやすかったので……