SIDE:チウ
結論から、言おう。その日の昼間は、私達VR組にとってあまり大きな事件の無い一日だった。明石・大河内の二人は≪
それに加えてこの二人は、既に班行動の予定として大阪のUSJに向かうことが決定しており、しかも手練れの護衛として龍宮まで一緒に行動するのだ。相手方としても今更狙うメリットが少なすぎる。
そんなわけで問題となったのは、他の京都近辺を回る面々だった。私とコウの奴で分担するにしても、単純計算で手が足りない。超一派の班は古菲、双子のいる班は長瀬となったが……問題はここからだった。
「ああああああああ………………オレは、オレは……」
「…………だめだ、こりゃ」
ある意味、昨夜の一件で一番影響が大きかったのはコレだった。合計三人から次々とキスされたショックで、約一名
どうやらコウは多大なる自己嫌悪で、思考のループに陥っているようだった。
(まったく最悪のタイミングで面倒事を起こしやがって……)
アーティファクトに関してはヒースクリフに聞いていたし、その内容次第ではパワーアップにもなりうると考えていたので、いずれ機会を見て行うつもりだったが、いかんせんタイミングと状況が悪すぎた。手が足りない状況で、さらに戦力を減らすという状態に陥っている。
「仕方ねえ……私とコウの担当以外は、全部瀬流彦先生に任せるか」
実のところ、もう既に私達は引率の一人である瀬流彦先生が『魔法教師』であることは掴んでいた。その上で同時期に京都に訪れている他のクラスの守護を任せ切っていた。感知と防護の魔法、主に結界系の術を大量に使わせているため、彼の負担は相当だった。さらにそこに3-Aのほかの生徒も任せようというのだから、自分たちも大概だな、とは思った。
ちなみに、彼を説得した言葉は、こうだ。
「ラフコフは、一般人も巻き込む外道だ…………もし一人でも死ぬことになったら、瀬流彦先生の責任問題だよなあ……?」
これである。事実は事実だが、今回こんな大騒動になったのは、この状況で和睦の使者を強要したあのぬらりひょんであろう。いわば彼には余り責任は無かったりするのだが……彼の役目は、『同時期に京都に行く一般生徒の護衛』だった。結果として、彼は目の下に隈を作り、栄養ドリンクで眠気を飛ばしながら魔法を使い続けていた。
この事件が終わったら、差し入れを持って行ってあげよう、と私とコウは固く誓っていた。
「流石に今は瀬流彦先生の心配を出来る状況じゃねえ……アーティファクトの性能を把握しねえとな」
先生への心配は一時棚上げにし、当面の問題に移る。足を僅かでも止めたら次の瞬間に死が待っているのは、SAOの経験だった。この辺りの心構えが出来ているかどうかが、今現在のネギ先生パーティーとの違いだった。
「≪
あの後調べて分かったことは、この杖が電子精霊群の制御に特化したもので、電子精霊を操れば魂のみで電脳空間にダイブすることすら可能というもの。合計三つのアーティファクトの性能や大まかな使い方は、『まほネット』という魔法使い専用サイトを調べて分かった。もっともさらに深部の情報を得ようとすれば、情報取得と検索に特化したアーティファクトが必要だろうが。
(『銃』という分かりやすい武器を手にした明石と、水場限定ではあるが逃亡に特化した大河内……それに比べて私は……)
自分のアーティファクトは、電脳世界に特化してしまっている。VR空間に相手を引きずり込めば、完封することも可能だろうが、その場合も一緒にダイブする自分の身体が無防備となる。あくまでこの『現実世界』で強くなれなければ意味が無いのだ。
「「ちう様、解析終わりましターーーッ!」」
「お、終わったか。ねき゛、ちくわふ」
今やらせていたのは、彼らが首からぶら下げていた謎の結晶の解析である。一応彼らにも聞いてみたのだが、どういうわけか本人たちもどうして首から下げていたのか知らなかった。まあ電子関係のアイテムだろうと仮定して解析させてみたのだ。
「で、どういうものなんだ?」
「ハイ! これは、どうやら一種の『記録媒体』のようデス!」
「それも、メモリ容量がハンパじゃありません! そのクセ、何を記録するものなのかよく分かりません!」
「じゃあやっぱり≪記録結晶≫で当たりか。しかし記録するものが分からないってのは……」
『記録』すること自体は、目の前の電子精霊たちが十分行えるそうだが、肝心の記録するものが分からないというのは致命的だ。役に立つものなのかもいまいち分からない。
「……あ、あの~、ちう様?」
謎の結晶について考察を続けていると、電子精霊の一体、しらたきが話しかけてきた。
「ん? 何だしらたき」
「じ、実は~、ボクチンが解析していた結晶に、メッセージと思われる動画が記録されていまして……」
「…………先に言え」
当たり前の話、電子精霊が知らない以上、確実に送った相手がいるはずである。ならばその手がかりを追うのが必然といえた。
「で、では、流しますね~……えやっ!」
しらたきの気合とともに、空中にウインドウが浮かぶ。そこはどうも白塗りの壁がある部屋の中のようで、どこか研究室を思わせる。そうするうちに、遠間から一人の人物がカメラに近付いてきた。その人物は、白衣を着こなした研究者のようで――――
――――オイ、コイツは。
『私の名は、≪茅場晶彦≫。君にその≪結晶≫を送った送り主だ』
「やっぱりテメエかーーーーーッ!!!」
画面にデカデカと映った元凶に思わずキレて、≪光の剣≫を画面に叩き込んだ私は絶対に悪くない。
SIDE OUT
『――――まずは、君の手元にある結晶について、語らなければならないな。はじめに――――――』
あの後、どうにかこうにか精神を立て直し、二人してチウの手元に届いた『結晶』の説明を受けることになった。
最初は半信半疑だった。次に驚き。最後には呆然としてしまった。
「おいおいおい……」
「これは……」
二人で呆れ返った声を上げるが、その顔には笑み。それはそうだ。目の前の『結晶』は、自分達の不利を完全に覆す代物なのだから。
『………………最後に一つ。今の時点で私は何の事件も起こしていないが、恐らくこの映像が見られるときには、私は稀代の大犯罪者だろう。それでも、願わずにはいられない』
……この時点で『SAO事件』自体は起こすつもりだったってことか。映像の中のコイツは、一体何を考えていたのだろうか?
『どうかこの≪
その言葉を最後に、映像は切れた。
「終わりデス。撮影時期はおおよそ6年前となってマス」
「SAO事件の直前か。やっぱ最初からデスゲームにする気だったか」
「そうみたいだね。でもこうなると、一つ疑問が残るね」
今の映像を見て、疑問を抱かないSAOプレイヤーはいないだろう。
何故、『世界』と『平和』を考える男が、デスゲームなど作ったのか?
SAO事件で亡くなった人は、優に3000人を超える。『平和』を望む男が起こすとは思えない凶行だ。それなのに、彼は起こした。
「SAO、ソードスキル、魔法使い……そして、≪心意結晶≫」
「全部繋がってるってワケか。一体――――」
そう思索を試みていた時、チウの携帯が鳴った。
「朝倉か。どうした?」
『いや、実はね、ちゃんと長谷川の言うとおり、人目のあるところを通って京都観光してたんだけど、今目の前を猛スピードで駆け抜ける桜咲さんが見えたんだよね?』
「……どこに向かった?」
『時代村だよ。他の皆があんまり首突っ込まないようにしておくから、なるべく早くね?』
京都での戦いは、新たな局面を迎えようとしていた。
◇ ◇ ◇
暗い、暗い空間の中、空間の中央と十字の盾と剣を地に据え、瞑目していた男が目を開けた。
「……そろそろ、彼らの元に、かつての私からのメッセージは届いただろうか?」
あるアーティファクトに仕掛けたかつての自分のメッセージ。アーティファクトは本来主人と従者の相性次第だが、あの二人に関しては、何が出るかは半ば確信できた。
「チウ君、君は知らないだろうが、君のユニークスキル≪七星剣≫は、『電子精霊との親和性が極めて高い』ものに贈られるスキルなのだよ……そして君は、まだ私が封印から呼び覚ましてもいない状況で、その余りの適性の高さから、半ば奪い取るようにユニークスキルを目覚めさせた」
彼女が従者となれば、ほぼ確実に『あの杖』が出てくる。逆にコウが従者となる可能性もあったが、現状では一度に運用できる魔力はコウの方が高い。本人の持つエネルギーの総量で主が決まる場合も多く、現在主になる可能性はコウの方が高かった。
「彼らは疑問に思うだろうが、こればっかりは話すわけにもいかないな」
隠し事が多い聖騎士は、そう言って自嘲する。上げた視線には、すでに力強さが戻っていた。
「私の『目的』を果たすため……『約束』を、守るために」
説明回終了。次回は再びバトルです!
結晶の名前は≪心意結晶≫……この単語は、川原先生の作品では大きな意味を持ちます。それにふさわしい能力も与えてありますよ!
そして……地味に今回の京都編で一番割りを食っていたのは、瀬流彦先生だったという……この世界の先生は過労で倒れるのではないだろうか?
―追記―(22:15)
最初のチウSIDEに三人称が混在していたので、少し修正しました。
上で触れませんでしたが、今回≪七星剣≫の取得条件が明らかになってます。さて……あの条件が要求されるソードスキルって、一体どんなものでしょう?