アンチ・ヘイトにはしないつもりですが、どうしても最初の方は魔法使い陣営と敵対に近い立場になってしまう……
「どんな様子? そっちは」
今オレは、時代村から戻り宿泊先へと戻ってきている。本来この旅行で一番狙われるのは、子供先生の持つ『親書』と、関西と関東双方のトップの血を継ぐ『近衛さん』のどちらかだったわけだが、そのどちらも今は関西呪術協会の本山に到着している。万全を期すなら、オレとチウもその本山に赴くべきだ。ちょうど、『他の用事』もあることだし。
だと言うのに、わざわざオレとチウが宿に戻ったのには理由がある。
『ああ、とりあえずのところ問題ない。今続々と、自由見学に出ていた班が帰ってきているところだ。途中で
「まさか、瀬流彦先生が倒れるとは……」
……そう、実のところ急いで戻った理由は、他のクラスや麻帆良の男子生徒、さらに3-Aの一般生徒まで護衛を任せていた瀬流彦先生が突如倒れたからである。一応感知の魔法だけはまだ生きていたため、誰かに何かあればすぐ分かるわけだが、それでも一般生徒に被害を出すわけにもいかないため、急遽戻ることとなったのだ。
流石に午前中役立たずだったため、自分のせいかと深く反省した。
「だけどこうなると、奴等が勝負を仕掛けるのは……」
『ああ。間違いなく関西呪術協会の総本山……それも、狙いやすかった一般生徒を狙ってないってことは、人質を必要としない、電撃作戦で来るはずだ』
普通に考えれば、近衛さんのクラスメートを二・三人人質にすれば、近衛さんは容易に手に入る。少なくとも交渉のテーブルに立たせることは可能だし、その機会に奪えばいい。それをしないという事は、裏を返せばそんな必要が無いということ。ならば敵は、近衛さんが本山に入っても奪えるだけの自信を持っていると考えるべきだろう。
『しかし、方法はどうするんだろうな……本山は、敵勢勢力の排除のための結界が張られてるって話なんだが』
「いや、それも絶対じゃない……ラフコフの思考回路なら、寝所に≪転移≫で忍び込むのが一番考えられる」
『それで外に≪転移≫で連れ出す、か。≪睡眠PK≫でよく使われたからな……飲み物に≪毒≫を混ぜる可能性はどうだ?』
「今回、向こう側は近衛さんを生きたまま確保したいはずだ。そんな不用意な真似は、しないだろう。それに、もし仮に≪麻痺毒≫でも混ぜたら、余計に警戒されて、さっきの電撃作戦も上手くいかないだろ?」
正直、手口については既に見当もついていた。宿に忍び込んで、≪転移結晶≫や≪回廊結晶≫で仲間の待ち伏せ場所に飛ばすのは、よく行われた手口だからだ。SAOの中ではPKのためだけに、プレイヤーを
「そうなると、チウの方から、皆に警告しておくべきだな。向こうにいるんだろ?」
『ああ。図書館探検部の三人組がな……』
何でもチウのクラスの朝倉さんが、上手く皆をごまかして一般生徒は帰るように仕向けてくれたらしいが、パルとか呼ばれてたゴキブリ触覚の同人漫画家さんが、近衛さん達を尾けて行ったらしい。しかも、オレとチウの知らないところで、チウのクラスの宮崎さんに、魔法バレしたらしい。おまけに彼女は、昨夜の仮契約の破棄を拒否。本格的な≪
「こうなると、関西呪術協会の手練れに頼るしかないか……」
『そうなるな。菊岡の『思惑』からすると、余り恩を売れないのは痛いだろうが、仕方ねえさ。流石に、クラスメートに人死に出すわけにはな……』
そうして、チウの方から桜咲さんに警告しておくとのことで、電話を切った。このときオレ達は知らなかった。関西呪術協会には、今現在遠方の仕事が多数入っており、人手が足りなかったこと。さらに昨日敵側に増援が合流しており、そいつが転移はおろか、戦闘者としても計り知れない相手だったということも、何も知らなかったんだ……。
SIDE:チウ
コウとの電話を終え、次に私がかけた先は、呪術協会本山に出向いた桜咲だった。
『――はい』
「桜咲か? 今日の昼間の件と、今夜の護りについて話してえんだけどよ」
『ああ、それでしたらもう安全です。本山には防護結界が張られていますので、敵もこの中には侵入できません』
「――オイ、桜咲。まさか、もう警戒緩めてるんじゃねえだろうな? 敵も必死なんだ。絶対に、もう一回襲撃があるぞ」
『それなら大丈夫です。明日の朝になれば、呪術協会の熟練の術者が戻って参りますので。すぐにも敵の呪符使いの一派を捕縛出来るでしょう』
「……待て。まさか、今夜術者が本山にいないのか?」
戻ってくるってことは、今そこにいないってことじゃねえか!
『? いえ、おりますよ。第一線で動いている者こそおりませんが、引退された方や――――』
「そんなんじゃダメだ! すぐにそっちの責任者に進言して、呼び戻せ!」
そんなんじゃ、結界の内部に侵入されたらお終いだ。そして、間違いなくラフコフは、こうした隙を見逃さない。
『――申し訳ありません、長谷川さん。各地に散っている術者は、それなりに時間のかかる封印や施術を行っています。すぐに呼び戻すことなど出来ません』
「くそっ!」
マズイ。こうなると、間違いなく本山は戦場になるだろう。そうなった場合、危ういのは宮崎を含む図書館探検部の奴等だ。今すぐに宿に戻して、床に伏せっている瀬流彦先生を叩き起こして、明日の朝まで全力で結界を張らせるのが最善だろう。
「わかった。それなら、今すぐに何人か護衛をつけて図書館探検部の奴等だけでも下山させろ。もし戦場になったら、そいつ等が危ない」
『長は夜道が危険なので、ここに泊めると仰っていましたが――――』
「そんなのはいい! いいからすぐに、近衛の親父さんに言え!」
『――申し訳ありません。私は長に仕え、お嬢様をお守りする身。長への進言など出来る立場ではありません』
「フザけんなッ!!」
融通利かないにも、程があんだろ!
「だったら、今すぐこの電話を近衛の親父さんに代われ! 私が直接言う!」
『は、はい。――――長、今回協力していただいた、長谷川さんが』
◇ ◇ ◇
「くそっ……」
説得は、失敗。なまじ本山の結界の強固さに自信を持っているだけに、下手に外に出すと危険だと言われた。それならそれで、図書館探検部の奴等を眠らせて≪転移≫で移送できないかとも言ってみたが、それもダメ。転移符の準備が出来ないのだそうだ。
(おまけに、関東もダメかよ……)
関西での進退窮まって、学園長にもかけてみたが、援軍は却下。本山の結界は絶対だそうだ。
(麻帆良の結界ですら、エロオコジョにも抜かれてるんだぞ? 絶対なんかあるわけねえだろ……)
正直、結界を抜かれて内部での戦闘になったら、終わりである。こっちに来ているラフコフ三人は、どいつも接近戦のエキスパート。おまけに月詠――青山月夜という少女までいる。
(ラフコフが仇だって言っても、間違いなくこの仕事が終わるまでは、向こうの味方だ。正直あの四人相手に近接戦闘が出来る奴がどこにいるっつうんだ)
昼間、月詠相手にコウとチウが撃退出来たのは、はっきり言って不意打ちだったからである。それがわかる程度には、二人とも自分の実力を自覚していた。
何せ、二人とも、≪神鳴流≫で撃てるのは、あの二つの技だけなのだから。
むしろズブの素人だった自分達二人が、一年弱の修行で奥義を一つでも放てることが驚異的だった。彼女を真っ向から落とすには、≪ソードスキル≫を全力で繰り出し、さらに『切り札』まで切ってようやくだろう。
ここまで来たら、すぐにでも動きたい。しかしそんな事をすれば万が一このホテルを別働隊が襲撃した場合、護る者がいなくなる。そんなどうにも動けない状況になってしまった。
「…………長谷川、どうしたの?」
そんなところに、大河内と明石がやって来た。
「なんでもない……お前等もう戻ってたんだな。確かUSJ行くんで、大阪まで遠出したはずだが」
「うん、ついさっきね。それよりどうしたの? 何か悪いことでもあった?」
「ん……あー、いや、なんでもない、なんでもない」
「魔法関係……?」
……流石に、バレるわな。
「ちょっとな……予想通りなら、私とコウの援軍が必要なんだが、二人とも動くに動けねえんだ」
「話は聞いたよ。瀬流彦先生が倒れたんだってね」
「龍宮……」
このスナイパーは、流石に耳が早い。大河内達と一緒に戻ってきたはずなのに、既に状況を把握してやがる。
「瀬流彦先生には私から使いを出しておいた。何、使いを『快く承ってくれた』謎のシスターも、一般生徒の護衛に協力してくれるそうだよ」
「いや、誰だ、ソイツ? まさかウチのクラスに、そんな肩書きのある『魔法関係者』がいたのか?」
もう何が増えても驚かないけどな。ロボに吸血鬼がいるんなら、そのうち悪魔だの火星人だのも出てきそうだ。
「これで動けるな。サンキュー、龍宮。早速準備を――――」
~~~♪
そのとき、ロビーの反対側に座っていた長瀬と古の方から、着信音が鳴り響いた。
「オ、『ゴッドファーザー愛のテーマ』アルナ」
その日、最大の『いくさ』の始まりは、一本の電話が告げたのである――――。
SIDE OUT
というわけで、本格戦闘直前でした。
瀬流彦先生……強く生きろ!そして、そこへの使いに使われた、謎のシスターさんもこんな扱い。龍宮に何をされたのやらww
関西は、下手に外に出すと危ないと言う思考が働いてますが、それでも敵に侵入されてますからね。全盛期なら、詠春だってあんな結界ものともしないだろうに。
関東は……後の対応見ても色々ダメでしょう。余剰戦力の一人や二人用意しとこうよ……