空から幾つもの光が、舞い降りる。それの正体は、先ほどまで大鬼神として名を馳せたモノ。それが今や、幾千もの光となって降り注いでいる。
……と。その中に、一際大きな光のカタマリが見えた。
「これが……」
近付いてみると、それは先ほどスクナを一度は吸い込んだ『結晶』だった。最初は無色透明の澄んだ光を放っていたのに、今ではまるで血のような赤と、禍々しい黒の光を放っていた。それに向かって歩み寄り……
「――――それを渡してもらおうか」
……横合いから伸びた、幾本もの≪石の槍≫に押し戻された。
「くっ……悪いけど黙って持っていかせるわけにはいかないね。ソイツは明らかに、ろくでもないことにしか使われない」
「コウの言うとおりだな。その結晶の出所を調べなきゃならねえ」
二人で身構えた先に静かに佇むのは、先ほどの白髪の少年。こうして対峙して、分かった。この
「――悪いけど、スクナは渡せないよ。こちらとしても重要な
「……成程。
チウが相手の言葉尻を捉え、揺さぶる。この辺りの交渉能力や対話スキルは、オレには備わらないものだ。少し羨ましくもある。
「口が滑ったか……まあ、どちらにしても結論は変わらない」
「ホウ……それは、この私を相手にしても逃げ遂せる自信があると言うことか? 若造」
その言葉と共に、圧倒的な威圧感が場を覆いつくす。流石は、600年を生きる最強の魔法使い。オレやチウもそうだけど、ネギ先生や神楽坂さん達は苦しそうだ。
「まあね。だって――――
「! チィッ!」
舌打ちと共に、マクダウェルさんが鋭い一撃を叩き込んだ。その身体はあっという間に『ただの水滴』となって周りに降り注いだ。
「フン、
「こんなものまで作れるとは……魔法って便利だな」
剣振り回すことしか出来ない自分としては、羨ましい限りだ。
「こんなものは、中級クラスの魔法使いならかなりの人数が出来る。上級者や一流にも気づかれない精度となると、かなり限られるがな……キサマ等は出来んのか?」
「剣や武装を作ること以外、ほとんど何も出来ません……」
「同じく」
「……私はこの姿なら、結構色々出来るかな。攻撃・回復や、補助に妨害も一通り覚えたから」
≪心意結晶≫発動状態なら、オレもチウもレーカ以下の魔法使いに成り下がる……。まあ、ALO最強の水メイジと比べるべくもないか。
「どうやら、敵は全員退いたようだな。ラフコフの奴等もそうだが、あの猿女も逃げてるぞ」
「チウの≪索敵≫は相変わらず正確だな……ラフコフが捕まるとは思えないけど、主犯の猿女だけは捕まえないとな」
「それなら、既に我が従者に命じてある。あんな小悪党、私自ら動くまでも無い」
「そっか、それなら――――(ゴトン)――え?」
不意に音に振り向くと、ネギ先生が倒れていた。真っ青な顔で、息も苦しそうだ。
「ど、どうしたの、ネギ!」
「オイオイ、どうした!?」
皆が、ネギ先生へと駆け寄る。オレもそこに駆け寄ろうとして……
「……あれ?」
膝に全く力が入らず、景色がいつの間にか横になっているのに気がつく。
(……ああ、そっか。≪結晶≫の発動に、≪狂乱剣≫の発動、≪スターバースト・ストリーム≫……限界だったんだ)
頬に冷たい桟橋の感触を感じながら、オレは意識を失った。
◇ ◇ ◇
オレが意識を取り戻したのは、翌日の早朝。オレの布団の横に突っ伏すように寝ていたチウや
何でも、ネギ先生は高度な石化魔法をかけられた影響で意識不明となり、その治癒のため、近衛さんがネギ先生と
ところが、オレが倒れたのは体内の魔力と気の激しい消耗、つまりは『スタミナ切れ』だったせいもあって、彼女の魔力では全く回復しなかったそうだ。
……それに、もう一つの
(……やっぱり、『寿命』なんか、そうそう戻らないか)
そう、《狂乱剣》は、現実で発動すると『寿命』を削り取る。十種のユニークスキルの中でも、≪狂乱剣≫は珍しい『常時発動型』。当然維持するためのコストを支払わなければならないのだ。それこそがオレの『寿命』というわけだ。まあこれについては割り切ってしまってるので別にいいが。
「……で、今日の予定は?」
「とりあえず宿に戻って、各班ごとの自由行動だな。もっとも午後にネギ先生の父親の実家を訪問した後、改めて魔法関係者を本山の別室に集めて、礼を言わせて欲しい、だとさ」
「……そうか。分かった。だったら、
そう言って、身支度を整えるべく立ち上がる。それを見て彼女たち三人も、部屋から出て行く。もっともキッドは部屋に居座ろうとしたので、レーカに引きずられながらだが。
「まったく、『アイツ』の『頼み』のせいで、とんだ迷惑だぜ」
「まあまあ……けど、おかげでラフコフの今の実力も分かったし、オレたちの現状も解ったから、良かったさ」
そうして、顔を上げる。ふすま越しに話す相棒と歩む決意を秘めて。
「……もっと、強くならないと」
◇ ◇ ◇
ネギ先生の父親のお宅訪問は、滞りなく終わった。もっともVR組はあまり興味は無く、むしろ逃走中の人間の中に、サクヤ師匠の妹を名乗った『月詠――青山
……オレは彼女から、姉を奪ったに等しいからな。
そして、場面は変わって、ここは関西呪術協会の大広間。この場には、『極僅か』を除いて、魔法関係者しかいない。
「……水原君、といいましたね。これは一体、どういうことですか?」
周りを見ると、VR組以外は全員が困惑顔。それはそうだろう。この会合にあたって、オレが今回の騒動に直接関わっていない人物を連れてきたのだから。
「――――はじめまして、近衛詠春殿。僕は、『先端技術対策管理室』の室長、菊岡誠二郎といいます」
それは日本の防衛省の現役自衛官、菊岡二等陸佐だった。
◇ ◇ ◇
「――やったのか?」
そこは、どこかもわからぬ暗い場所。その場所では、小柄な白髪の少年と、黒いローブを纏った男が佇んでいた。
「君からの注文どおり、『リョウメンスクナノカミ』はこの『結晶』の中だよ。……興味深いね。仮にも大鬼神とまで崇められたスクナを、完全に封印してしまうこの『結晶』は」
そう言って、『結晶』を手の中で弄ぶ少年から、ローブの男は『結晶』を奪い取った。――瞳の中に狂気を湛えながら。
「フン、コレは元々『アイツ』が残した研究成果を、僕が発展・進化させたものだ。まったく、理解し難いよ。ここまで圧倒的な存在を意のままに出来る可能性を、放置しておくなんてねえ……」
そう言ってローブの男は、結晶を撫で回す。その手つきは、正直嫌悪感を抱かせるようなものだったが、生憎この場にそのことに言及する者はいない。
「それで――≪オベイロン≫、一体君はソレをどうする気なんだい? 僕等の当初の予定では、東西の魔法組織の軋轢を表面化させ、東西双方の弱体化を図ることと、関西呪術式の大規模召還・制御術式のデータ収集だけが主な目的だったのだけど?」
「ああ、今後の『計画』実行の際の手駒増強のためだろう? 安心するといい。単純に、僕等の戦力増強に使うだけさ」
そう言って振り向いた先には、本来彼らのリーダーであるPoHや他のメンバーの姿は無い。唯一いるのは、≪シュピーゲル≫という名の青年だけだ。
「もちろん君の強化計画も組んである……安心するといい。君は必ず、『目的』を果たせるさ」
「……はい。よろしく、お願いします。オベイロンさん」
ニヤニヤと笑う金髪の男とそれに辛そうに頷く青年。そんな光景を無視して、白髪の少年は、ふと後方の闇へと語りだす。
「――――決心は、決まったかな?」
その言葉と共に、闇から一人の少女が現れる。二刀を携え、瞳に『狂気』と『憤怒』を纏わせて。
「……決まりましたえ。あんさん
「そうかい。それじゃ条件は前に聞いたとおりでいいんだね?」
「ええ、そうです――――」
言葉と共に、燃え盛る。はっきりとした――――『憎悪』。
「『何時いかなる時でも、≪PoH≫、≪ジョニー・ブラック≫、≪ザザ≫の三人を殺してもいい』、いう条件でなあ……」
そして少女は、闇へと堕ちてゆく……。
さあさあ、満を持して出てきました、菊岡二等陸佐!
しかも、『先端技術対策管理室・室長』という妙な役職がついてるし……やっぱ、こういう暗躍・策謀系のキャラが作者は好きだったりしますw
そして月詠は、PoHたちの『首』狙いでフェイト一派に参戦!
しかもなんか、オベイロンとシュピーゲルまで暗躍中……まあゲスゴウはいつでもこうして小物臭い策略立てますがww