さあさあ、闘争(ゲーム)のはじまりだ……
「『先端技術対策管理室』――ですか?」
関西呪術協会の長である詠春さんの顔に困惑が浮かんでいる。公人としての立場で政府機関についても詳しくても、流石に今の機関は聞いたことがないだろう。
「ご存知でないのも無理はありません……先日正式に発足したばかりの新設の部署で、まだまだ知名度は高いとは言えませんから」
実際体裁が整ったのは、京都に出発する前日だしね。
「……それで、政府機関のあなたが、どうしてここに?」
それに対して菊岡さんは一見柔和そうな笑みを浮かべて、こう言った。
「今回の京都での騒動、及び『
これに対して、対面に座する近衛詠春、それに列席していた穏健派の主だった者達は、苦虫を噛んだような顔を浮かべた。それも当たり前で、今回の騒動、責任はどこにあるかと言われれば、まず間違いなく関西が真っ先にあがるからだ。
「――失礼ですが、何故そのようなことを、貴方が? こちらと現在まで接触してきた政府機関の代表者は、貴方ではなかったと記憶していますが」
まあ、その疑問も当たり前。もっとも菊岡さんは、その辺りも完全に想定しているんだが。
「まさにその通りですね。僕は元々、『総務省通信ネットワーク内仮想空間管理課』というところの職員でした。≪魔法≫に関わることになるとは思っても見ませんでしたよ」
「では、なぜ貴方が? それに通信ネットワークや仮想空間というのは、今若者達の間で流行中の『VRゲーム』のことではないのですか?」
その言葉に対しても、菊岡さんは余裕の笑みを崩さない。ホントにクセ者だな、この人。
「確かに仮想空間というのは、今代表殿が仰った『VRゲーム』を指します。ですが、問題は少々立て込んでおりましてね」
そこで一組のファイルを、詠春さんの手元に滑らせる。そこに挟まっていたのは――――白衣を着た研究者風の人物。
「全てのVR空間の創始者である、『茅場晶彦』……彼が≪魔法関係者≫であった疑いがあります。加えて、≪VR技術≫に≪魔法技術≫が転用された疑いが、ね」
その言葉に、正面の詠春さんの動揺が大きくなった。まあ、菊岡さんの調査で、≪サムライマスター≫と呼ばれた彼も、茅場と同じ≪紅き翼≫に所属していたことは解っているから、無理もない、か。
「この事実……政府は非常に重く受け止めています。VR技術の普及は、かの『魔法世界』側からの『侵略行為』ではないか、とね」
「バカな! そんなこと、あるハズがない!」
菊岡さんの言葉に、思わず詠春さんが立ち上がった。……気持ちはわかるけど、「組織の代表」として、その行動はどうなんだろう?
「まあまあ、落ち着いてください……その辺りを調べるためにも、政府はVR技術と魔法技術を『先端技術』に指定し、その流入に対して対策と管理を行うために、新たな組織を発足したのです……そこの代表が、僕というわけですね」
「……いいでしょう。貴方が政府機関の代表であると認めましょう。それで、なぜ水原君たちの紹介で貴方が?」
「ええ。彼らは、
「な!」
この言葉に、今まで黙って聞いていたネギ先生達の視線が、こっちに突き刺さるのを感じる。当たり前といえば、当たり前だけど。
「彼らはまだ学生ですよ? 政府がそんな人物を――」
「おや、魔法関係者の中には、正規の教育機関に一度も通ったことがない人物すらいると聞いていますが?」
主に、ネギ先生とか、その父親とかね。
「それに彼らは、正規の職員と言うわけではありません。あくまで≪VR技術≫と≪魔法技術≫、その双方に関わった人物を、『現地雇用』扱いで所属を認めているだけです。立場上は、ウチの関係者ではありますがね」
こちらの後ろ盾は、『日本政府』。それをはっきり伝えておけば、この後の交渉にも、さらに
「前置きが長くなってしまいましたが、そろそろ本題に入りましょうか――――まずは、今回の京都での騒動の責任の所在について」
「それについては、全てこちらの不徳の致す所――」
「おや、全ての責任は、関西にあると?」
『公人』としての謝罪が始まる前に、菊岡さんの声が挟まる。あんなに簡単に、『組織』としての謝罪を口にするとか、この人代表向いてないんじゃないだろうか?
「我々の認識では、今回の騒動は関東にも責任がある……というか、半分以上関東の責任ではないか、と考えています」
「ええっ!? そんな、どうして!」
その発言に、思わずネギ先生が立ち上がる。やっぱり腹芸とか出来ないんだなあ……。
「そもそもの始まりは、関東魔法協会が関西へ親善のための使節を送り込んだことが始まりでしょう? それも、若干十歳の少年を」
「で、でも、僕は、正式な使節として……」
いや、これはどう考えても『正式』な使節じゃない。
「『正式』な使節なら、『正式』な関東魔法協会の人間を送るべきでしょう? 少なくともいまだ見習いで、イギリスの魔法学校からの
「あ……」
大方、ネギ先生の経歴にハクをつけたかった、とかだろうな。後は……。
「しかも君は、修学旅行中の『ついで』に、関西呪術協会に立ち寄るよう指示されている。そんな事をすれば、土着の魔法組織である関西呪術協会の中でも、関東を嫌う排斥派が動くのは十分予想できることでしょう?」
「あ、あ、う……」
絶対、ネギ先生とその関係者に『戦闘経験』を積ませることも目的の一つだったんだろうな。
「まあ、全てはいかなる書面が渡されたのか、確認すればわかることです。詠春殿、提出をお願いします」
「…………ここには、ありません」
もはや、苦いものは噛めないと言わんばかりの顔で、詠春さんが応じる。内容的に、よほどマズイものでも入ってたのかね?舅と婿養子の日常会話とか。
「……では、後日に提出を。必ず、同封されていた『全ての書面』を提出してください。いいですね?」
「……は」
「では、次に移りましょうか。次の問題は、事態の混乱を招いた、『白髪の少年』についてです。――――彼は、『西洋魔法使い』だそうですね?」
「――はい。イスタンブールの魔法協会から、この呪術協会に研修として派遣されたと……」
「そこなのですよ。問題は」
そういって、大仰な仕草で腕を組む。何でこの人、こんな動作にも胡散臭さが出るかなあ。
「我々日本政府は、そんな人物の来日を一切把握していません。となると、西洋魔法使いの流入を一手に担っている、関東魔法協会が責任を問われることになります」
「そんな、なんで!」
「落ち着け、ネギ先生」
動揺して食って掛かろうとしたネギ先生を、チウが抑える。そのまま肩をつかんで、言い聞かせ始めた。
「組織としての、性格の違いだ。元々関西呪術協会は、土着の組織で、各地の霊脈や封印された魔物なんかを管理するのが仕事……つまりは『国土の維持』が主な仕事なんだ。それに対して、関東魔法協会は外来の組織で、その仕事は外来の存在である『魔法使いの管理と監督』……つまり、『白髪の少年を監督できなかった』という理由で、関東に非があるんだよ」
「そんな……」
まあ、そこまでくっきり分かれているわけでもないが、大別としてはそんな感じだし、これからの『交渉』には有効だからな。
「さらに、彼には≪笑う棺桶≫メンバーの脱獄に関わった疑いが持たれています……刑務所内の映像や証言は得られませんでしたが、近隣の住民に話を伺ったところ、彼と同一の特徴を持った少年が目撃されていました。決定的な場面ではありませんが」
「そうでしたか……」
「加えて、今回の『リョウメンスクナノカミ』強奪……日本政府としては、彼を指名手配し、関東・関西双方に、捕縛の協力を依頼したいと考えています」
「それは、もちろんです。喜んで協力させていただきます」
「ありがとうございます。それでは、最後に――――」
そう言って、居住まいを正す。今までの交渉など、この『本題』に比べれば、何て事の無いジャブでしかない。
「今回の、『関東・関西の和睦』について、話し合いましょうか」
◇ ◇ ◇
「――つくづく、味方でよかったな」
「アレは、敵に回したくないな」
会談の決定事項の詳細を詰めるため、菊岡さんは詠春さんから別室に通されている。一応はその部下という括りになるオレ達は、それを待つことになった。
「魔法世界の下部組織である関東魔法協会を、単純に排斥するため、和睦を潰す気なのかとも思ったが、予想の斜め上だったな……」
「まさか、『和睦の調停役』を申し出て、音頭をとらせろとか言うとは、さすがに予想外だった」
本音としては、関東と関西は牽制し合ってくれた方が、日本政府としてはありがたい。今回の和睦で関西が実質関東に取り込まれてしまったら、関東魔法協会の裏での『軍事力』も『影響力』も計り知れないものになるからだ。
「しかも
「まったくだな……」
そうして覗き込むのは、菊岡さんから渡された一組のファイル。そこには、その人物の今までの経歴・技能と共に……
『特別派遣員』候補、『天ヶ崎千草』という名前が記載されていた。
というわけで、関西との交渉編終了。
原作読んでて思ったのは、詠春さんは、「政治家や組織の代表に向いていない」という印象でした。公的な場で、私的な立場や意見を交えちゃいけません。その点胡散臭さ満載だけど、決定的なことは悟らせなかった菊岡……役者が、違いすぎた。第一アレだけ情報出しても、実は自衛官だとか、じゃあフェイトの密入国見逃した政府の責任だとかは、一切口にしてませんし。
完全な第三勢力として、動くことになったVR組。ここからどう物語が進行するのか!?
……という所で、一つお知らせ。来週またもや仕事が入ってしまい、投稿することが出来なくなりました。本当にスイマセン……