SIDE:夕映
――それは、まるで御伽噺に語られる英雄達の戦いのようでした。
「ぐうっ! ラス・テル マ・スキル――」
「遅いッ!」
杖を片手に、風を纏って空中に紫電を迸らせるネギ先生を、水原さんの日本刀と西洋剣が捉えます。訓練用にと刃を潰し、威力も抑えているその一撃は、それでもネギ先生に十分なダメージを与えています。
「高速戦闘中に詠唱魔法に頼るのは、悪いクセだ! 状況に応じ、自分に出来ることを切り替えるんだ!」
「はいッ!」
そう言って、ネギ先生は今度は何の詠唱もなく、光の矢を手から発生させます。しかしその一撃は、水原さんの剣のガードを崩せません。
「違う! 間合いが空いたのなら、そのときこそ詠唱! こんな牽制用の魔法じゃ、相手にダメージなんて当たらないぞ!」
「は、はい!」
そうこうする内に、再び水原さんが近付き、両手の武器をいささか大降りに振りかぶります。ソレに対し、ネギ先生はすぐさま魔法障壁と呼ばれる光の壁を発生させますが……
「ハアッ!!」
光を纏い、振り下ろされた剣に、まるでガラスでも砕くように、障壁が粉々となりました。
「うああああっ!?」
……そこで、ネギ先生の通算十回めの連敗が確定しました。
◇ ◇ ◇
……いきなり戦いで驚かれた読者の方達も多いでしょう。私は、綾瀬夕映というです。……はて、『読者』とは何のことでしょう?
ここは、私のクラスメートにして、600年の時を生きる真祖の吸血鬼、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさんのご自宅の地下室、そこに設置されたエヴァさんの『別荘』の中になるです。地下室なのに『別荘』と言うのは、今いる空間がエヴァさんの魔法で作り出された人工的な異空間とも呼べる場所だからです。大き目のボトルシップの中に縮小して入れるとか、時間すら操れるとか余りにも興味深過ぎです!まさに
……まあ、ネギ先生を尾行して勝手に入り込んでしまったので、思い切り怒られてしまったですが。
先ほどの様子は、ネギ先生の修行の一環で、模擬戦相手として長谷川さん、大河内さん、明石さん、それと水原さんが呼ばれていたです。何でもエヴァさんからの要請で実現したこの戦い、既に何度も行われており、ネギ先生は今までずっと4人全員に負け越しているそうです。唯一勝っているのは大河内さんで、それも大河内さんが未だ自分の魔力を上手く引き出せないためだそうです。水原さんから魔力を供給されたら、途端に勝てなくなるそうですが。
「にしても、ネギ先生の悪い癖だな。大規模呪文の詠唱や障壁に力入れると、途端に足が止まるのは」
「……そうだね。魔法と近接を両立するのなら、私みたいに槍を振ろうが走って逃げようが、ほぼ無意識に詠唱できるようにならないと」
「…………いや、アキラは流石におかしいでしょ? 水の中で渦潮に巻き込まれて、巨大なきょーりゅうと鍔競り合いながら、大規模呪文完成させた時には私、目を疑ったよ?」
「聞いたら、ALOでコウの奴と会ったときもそうだったらしいしな……」
私の横でお茶を飲みながら、長谷川さんたちが今の模擬戦の総括を話し合っていますが、その内容は驚愕モノ。渦潮の中で恐竜(多分魚竜という奴でしょうか?)と戦う状況って、どういう状況ですか?!しかも、水の中でさっきのネギ先生みたいな詠唱を完成させるって、絶対おかしいです。
「みなさんは――――」
「「「ん?」」」
だからか、私は彼女達三人に話し掛けていました。余りにも日常とかけ離れた存在だった、クラスメートへと。
「みなさんは、一体どうしてそんなにとんでもない体験を?」
この質問に対して、三人全員が苦虫を噛み潰したような顔をしています。
「あー、まあ色々あってな……」
「……そう、だね」
「あははははは……」
とても乾いた笑いが、周囲に空々しく響きました。
この三人、どうやら聞いた話では、全員が日本政府預かりのような身分で、ここ麻帆良の魔法使い組織とは、あまり仲が良くは無いそうですが、クラス担任のよしみなのか、ネギ先生の修行には付き合ってくれるですし、古さんとも手合わせを快くしてくれてるです。その手合わせも剣VS拳とかなり変則的ではありましたが、目で追いきれないほどのスピードでした。
物理法則の無視、見たことも無い生物、今まで知ることも無かった世界の真実、
全く、本当に興味深いです、
◇ ◇ ◇
……冷や水を、浴びせられた気分でした。つい数時間前、
時刻は、既に深夜。寝室を抜け出したネギ先生やアスナさんを追って、私達はネギ先生の過去を知ってしまいました。
……生まれ育ったのは、ウェールズ。魔法使い達が住む、隠れ里。そこで育った先生は、日中は一人で親類の家で過ごし、村のあちこちでイタズラをする日々。イタズラの理由は、ネギ先生が『父の死』を理解出来ずに、『
あまりに、痛ましい。当時の先生の年齢を考えれば、『死』を理解できないのは、当たり前かも知れません。でも、誰かが、小さな頃のネギ先生を止め、叱る『誰か』が、いて欲しかったと思わずにはいられません。
そして、訪れてしまったある雪の夜。村は正体不明の悪魔達に襲われ、ネギ先生の保護者だった叔父を含めた村の人々は石化し、先生と交流が深かったスタンという名のおじいさんは先生の目の前で石化してしまいました。
村はネギ先生と、姉代わりのネカネという少女を残し、ほぼ全滅。そんな状態の彼らを救ったのは、死んだと思われていたネギ先生のお父様、ナギ・スプリングフィールドでした。
……だからこそ、ネギ先生はあんなにもお父様を探そうと必死なのですね。自分が捜し求めた人だから、自分を助けてくれた
両親に憧れる。英雄に憧れる。どちらも幼い子供ならば一度は通る道でしょう。それと村の襲撃に、因果関係などありません!貴方は少しも悪くなどないですよ、ネギ先生。
そんなことを思い、涙ぐんでいた私の視界の端に、何故か難しい顔をした長谷川さんたち四人の姿が映りました。皆がネギ先生に協力しようと決意を新たにしている時に、何故そんな顔を?
「? 長谷川さん?」
「……マクダウェル、頼みがある」
「ん? 何だ、長谷川千雨」
「これから、私達の記憶を、ネギ先生も含めた皆に見せることって出来るか」
「……何?」
その発言の意図が読めずに、マクダウェルさんが困惑します。かく言う私も、一体何故長谷川さん達がそんな事を言い出したのかが理解できません。
「可能だが…………何故、そんなことを?」
その質問に対し、全員が難しい顔をして、答えます。
「この先、ここにいる全員が≪魔法≫に関わっていこうというのなら――――『覚悟』が必要だからだ」
その言葉に、全員が息を呑みます。正直、先ほどのネギ先生の過去によって、私達の覚悟も十分決まったと言っても過言ではないのですが、さらに何か必要だというのでしょうか?
「――いいだろう、術式は此方で準備しよう」
「ネギ先生、一つだけ言っておくぞ」
「え……?」
術式の準備を横目に水原さんがネギ先生に語りかけます。
「今のままだと、君はいつか皆を置き去りにして行くだろう。後ろで泣く誰かを置いてけぼりに、な」
「!?」
何故そんな事を!?ネギ先生が一体どんな思いで、お父様の後を追っていると――――
「その先には、何もないぞ」
「みずはら……さん…………?」
「目的の為に、何もかも捨て……自分自身すら捨てて、目的を遂げようとしても、『孤独』の道には、何も無いし、何も為せやしない――――って言ってるんだ」
話を横で聞いていた私の背中に、どうしようもない悪寒が走りました。その原因は水原さんの、瞳。どこまでも真っ黒な瞳は、何も写さず、何も存在しないかのような、どうしようもない『虚無』でした。
「終わったぞ、水原……中々興味深いな、貴様」
「600年の時を生きる吸血鬼からすれば、ただのガキの戯言だよ。気にしないでくれ」
そうして描かれた巨大な魔法陣の中に私達が入り、その中心に四人が立って手をつなぎます。
『
そうして、私達は旅立ちます。絶望と希望が渦巻く、もう一つの世界、『仮想世界』へと。
◇ ◇ ◇
『Welcome to Aincrad!!』
「うひゃあ!」
いきなりの大音量に、変な声が出てしまったです。周りを見渡してみると、何か中世風の質素な衣服や皮鎧を纏った人が次々と光の中から現れます。上を見ると、先ほどの英語と全く同じメッセージが、空中に浮かんだ半透明の板に描かれています。……いえ、そうですね。この既視感はおそらく。
「ゲームの、中……と、いうことですね」
今、流行のVRゲームというやつでしょうか。私はやったことがありませんが、成程こんな感じなのですか。横を見ると、一緒に入ったのどかも古さん達もいます。しかし、何故こんな記憶を?
「……さて、行くかな」
その声に振り向くと、そこには金髪を上品にまとめた碧眼の少女がいました。恐らく、先ほどの四人の何方かが操っているのでしょうが、しかし中の人がわからないのは、いささか不便ですね。
それからその少女は走り出し、街の一角に用意された修練場のようなところへと来ました。そうして少女は、そこにいたヒゲの兵士と話し始めます。
「ここでは、自身に合った武器を試すことが出来る。お主は――――」
「あー、そういうテンプレな台詞いいっての。ここでは武器を試すことが出来る。イベントをこなせば、最初のエクストラスキルである両手剣や
その時点で、私はこの金髪の少女が誰なのか気がつきました。この妙に男前で乱暴な口調、『彼女』に間違いないです。
そうしてイベントをこなすこと十数分、見事両手剣を獲得することに成功した彼女は、全くためらわずに空中に浮かび上がったウインドウを操作。装備を両手剣に変えると、そのまま街の外でイノシシや狼を狩っていきました。緑色のイノシシとは、不気味ですね。
狩りを始めてしばらく経ち、時刻表示を見ると、何やらウインドウを操作し始めました。外へ出るのでしょうか?
「……ん?」
そう考えていたから、彼女の口から出てきた言葉は、私にとって完全な予想外でした。
「……ログアウトボタンが、ねえ…………」
「……え?」
その言葉の意味を頭が理解する前に、浮かび上がるのは、光。それは彼女を取り込み、景色を一瞬で変えてしまいました。
「ここは……闘技場のような場所でしょうか?」
ドーム状の施設の中に、沢山の人が押し込められています。一体何故、こんな現象が?
「――――――おい、あれ……」
そんな言葉が、横合いから聞こえてきました。そちらを向くと、その声を出した人物は上を指差しています。だから、視界を上に向けてみました。
そこにいたのは、余りにも異形でした。まるで天井から血が滴るかのように赤い液体が染み出し、一つの形を為します。それは真紅の布を形作り、手袋を象り、最後に、何も無い、何も見えない顔を作りました。
顔なしの真紅のローブ。余りにも不気味なその巨人は、前触れも何も無く、いきなり次の言葉を発しました。
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』
その声は、この空間に満ちる絶望の始まりでした。
SIDE OUT
というわけで、今回からSAO編開幕!ネギパーティーに覚悟決めさせるなら、絶対に必要だろうと思っていました。何せこの世界は、絶望感がそこかしこにあふれてますから……
最初に出てくる『彼女』、中身が誰なのかは次回ということで☆まあ、一切隠せてませんがw
この話を書くに当たって、テーマは一つ!
『――覚悟を、決めろ。これは、お前の物語だ(FFX アー○ン)』
ネギの物語にどうしても必要な『覚悟』!ソレを決めさせるのが、今回のテーマです!!