SIDE:ネギ
――甘かった。僕は何もかも甘かった。
僕が長谷川さんと水原さんの記憶を見て、思ったことはそれだった。僕たち魔法使いは、基本的には世界の裏側――人間が持つ最も原始的な力、『暴力』が支配する世界で生きている。だけど僕は今まで、『あの夜』以降そういった場所から遠ざかり、平穏な魔法学校で過ごしていた。だからこそ、甘かったんだ。
僕は横目で、僕の記憶と、このSAOの記憶についてきてくれた皆さんを見る。お姉ちゃんに少し似たアスナさん。毎日美味しい料理を作ってくれるこのかさん。剣がすごく強い刹那さん。拳法を教えてくれる古老師。面白い本を教えてくれるのどかさんと夕映さん。いろんなことを知っている朝倉さん。
みんなみんな、大切な人たち。だからこそ、誰にも本当は傷ついて欲しくない。
……だけど、僕は巻き込んだ。本当は平穏な日本で一生を終えるはずだった彼女達を、平和とは程遠い魔法の世界へ。
――ああ、そうか。水原さんの言ったことは正しかった。僕は今、どうしようもないくらい、一人でいれば良かったと思っている。
『――――まあ、これが私たちと、師匠の出会いだ』
場に、長谷川さんの声が響いた。
「この後はどうなったんですか?」
『まあ、見てろ。この後は………………よし、場面を変えよう!』
「「「「え?」」」」
途端に、まるで早送りのように一気に流れる場面。ええ!?この魔法に、こんな機能ありましたっけ?!
「ちょ、ちょっと! 何すんのよ、千雨ちゃん!」
『うるせえ、バカレッド! あんなハズイ場面見せられるか!!』
その思いだけで、魔法の効果を書き換えた?こんなことができるものなのか?
「おや、何か街が見えてきたですね」
『あ? あー、見えてきたか。ここが迷宮区最寄の街、≪トールバーナ≫だ』
そこには、そこかしこに簡素な装備に身を包んだ人たちが行き交い、それなりに賑わっていました。とはいえ、あの紅ローブの宣言の前の≪はじまりの街≫とは比べ物になりません。仲間と笑っている人たちも、みんな必死に笑っているようで、どこか張り詰めた感じがあります。
「……こんなに、生き残っていたのですか」
『………………まあ、そうだな。デスゲーム化したSAOで、ここに生きて辿り着いたのは本当に少なかった。他は大抵比較的安全な≪はじまりの街≫の近くで狩りをするか、宿に立て篭もっていたからな』
気持ちは、分かる。僕だって、『あの夜』の後、一人で寝ていると酷い夢を見て眠れないこともあった。街の外には、確実に自分達を殺すことも出来るモンスターがいると思えば、一歩たりとも出たくないだろう。
「ここでは一体、何をするのですか?」
夕映さんの言葉に目を移すと、闘技場のような広場に、何人ものプレイヤーが集まっている。これは、何かの会合?
『これから、≪第一層フロアボス攻略会議≫があるんだよ』
「フロアボス……ですか?」
『あー、そう言えばそこからか。まあ見てみろよ、あの街の外の塔』
その言葉に周りを見回すと、なるほど、街の近くに巨大な塔が建っていた。かなり大きく、高い。
『この≪浮遊城アインクラッド≫は、多層構造になっていてな。それぞれの層と層の間には、≪迷宮区≫と呼ばれる塔が聳え立っている。次の層に行きたかったら、≪迷宮区≫をクリアするしかないってことだ』
「そっか。そういえば、あの赤ローブが『クリア第百層』とか言ってたわね」
『まあ、そういうことだ。私等が外に出るには、上へと登っていくしかない。そしてその≪迷宮区≫の奥で待ち受けている、それぞれの層での『最強』が――――』
「――フロアボス、なんですね」
そうこうするうちにどうやら第一回会議が始まるようだ。壇上に青い髪の人が登る。
「今日は俺の呼びかけに応じてくれてありがとう! 俺は、≪ディアベル≫! 気持ち的に
進行役のディアベルさんのそんな口上から始まった会議は、途中までは順調だった。やたらトゲトゲした頭の人が壇上に乱入するまでは。
「こん中にワビィ入れなアカン奴らがおるはずや!」
そこからは、会議が妙な雰囲気になった。まるで魔女裁判。≪ベータテスター≫と呼ばれる人たちのつるし上げ。……なんだろう、≪ベータテスター≫って。
『……SAOというゲームはな、正式サービスの以前に、『クローズドベータテスト』と呼ばれるテスト期間を設けて、一部のプレイヤーにシステムの実証実験を行わせている。アイツが言ってるのは、そのことだよ』
長谷川さんの注釈が入る。……そうか、つまりその人たちが情報を独占したから、たくさんの人が死んだ、ってあの人は言いたかったのか。
『だけどベータテスターは、あくまで
再び壇上を見ると、さっきの≪キバオウ≫という人が、≪エギル≫という人に言いくるめられて壇上から降りていった。何事もなくて、よかった。
「――さて! それじゃあ気を取り直して、これからのボス攻略に向けて、
その言葉に、周りのプレイヤーが何人かで集まり出す。動き出していないのは…………段の上の方にいた黒髪の人と、赤いフードつきケープを目深に被った人。それと、大小かなりの身長差がある、フード付きマントの三人組。
「……アンタ等も、アブレたのか」
話しかけてきたのは、黒髪の人だった。年齢が掴みにくい印象だったけど、多分まだ幼い。中学生か高校生くらいだろう。
「……アブレてないわよ。周りが仲良し集団だったみたいだから、遠慮しただけ」
そう返したのは、赤フードの人。女性?声は、幼かったけど。
「――――いや、あんなあ」
次に声を出したのは、三人組の中で一際大きなフードの人。……って、この声って。
「………………そもそも、『れいど』って、なんやねん?」
「「……………………」」
……ものすごく痛い沈黙が下りた。どうやら、両脇にいた小さなフードの二人組も呆れているようだ。
「……師匠。ここに来る前に、私、フロアボス戦の仕組みを教えたよな?」
「あ? あー、そういや何か聞いたなあ。なんや、集団でこの第一層で一番強いボスを『袋叩き』しに行くとか……
「師匠みたいに、常識外の人外なら可能かもしれねーけど、私達にンなことできねえからな? 普通は集団で挑むんだよ!」
「なんや、おもろない。そんならウチ、ちょっくら出向いてボスの首取って来るわ。アンタら、この街で待っとき」
「いやいやいや、師匠? ボクらはともかく、そんな事したら、師匠は二度とボス攻略に誘われなくなるからね? この限定空間でハブられたら、かなりマズイからね?」
「なんや、そんなん。そんときは、目の前から敵がいなくなるまで首取ったらええやん。とりあえず百個くらい、ボスの首置いてってもろたら出られるんやろ?」
「どこのバーサーカーですか……」
「いや、『女妖怪・首置いてけ』だろ」
師匠さんと、幼い長谷川さん、水原さんの会話に、目の前の二人が置いてかれている。この師匠さん、随分物騒だなあ……。
「ええか、あんたら。ウチ等剣士は、究極的には主や領民のための、『
「アレが、『そこそこ』とか……」
「ゲーム内なのに、自分の何か大事な物が磨り減る修行だったよね……」
そう言った二人の顔は、とんでもなく虚ろ。なに?何をやらされたの?!
「何言うとるんや。あんなん、ただの『準備運動』やで」
その言葉に、二人が崩れ落ちた。
「まあ、そうまでしても強くなるんは、皆大事な『芯』を心ん中に持っとるからや。あんた等の『芯』、もっかい言うてみい」
その言葉に二人は顔を合わせ、やがて決意に満ちた顔を向ける。
「――――生き残りたい。どんな奴が来ても、どんな敵でも、決して死ぬことがない位に強くなりたい!」
「ボクは――――守りたい。目の前の誰かを、背中に抱えた誰かを、絶対に守れるくらい強くなりたい!」
その言葉に師匠さんは顔を綻ばせ、二人を抱き寄せて頭を撫でる。
「よっしゃ! ――ほんなら、今回はあんた等に免じて、ウチもボス戦の『れいど』に参加したる! で、どうすればええんや?」
「とりあえずアブレた者同士で、パーティー組むんだよ。あー、スイマセン。色々ありましたけど、まずは自己紹介しませんか? 私は、≪チウ≫といいます」
「ボクは、≪コウ≫です。よろしくお願いします」
「ウチは≪サクヤ≫や。よろしゅうな、お二人さん!」
その言葉に蚊帳の外にいた二人は、やがて深々とため息を漏らし、その名を告げた。
「――――ああ、こっちこそよろしく。俺の名前は≪キリト≫だ」
「…………私は、≪アスナ≫」
これが、後に≪黒の剣士≫と≪閃光≫と呼ばれる剣士との出会いだった。
SIDE OUT
というわけで、≪黒の剣士≫と≪閃光≫との邂逅でした。まあ主人公勢に関わらないと、攻略組の話出来ないしね。
作中に出てきた、二人の『芯』。これがあるからこそ、前回生命の危機に瀕した二人が、変わらずに攻略に励んでいます。9歳で『芯』を持てるものなのか?とかのツッコミは無しで。持ってないと、二年間引き篭もりライフの中継だけになりますw
『女妖怪・首置いてけ』。色々考えた結果、師匠の性格はこうなりました。まあ、あの月詠の姉ですし……外見イメージは、某物語の京都出身武闘派陰陽師さんをイメージしてますし、やたら濃いキャラになったなあ…………。そのうち、ジョジョ立ちとかしそうだww