正直場違いだから、大分苦しい理由になった……
SIDE:刹那
――――なんなんでしょうか、この人は。
私がこの記憶の世界に入り、彼女を見て最初に思ったことはソレでした。長谷川さんや水原さんの剣の師匠にあたる人が、神鳴流の剣士だったとは伺っていましたが、言動からするとどう贔屓目に聞いても、『戦闘狂』の一言しかありません。
神鳴流の剣士は元々、京の街を護り魔と戦う、人を超える剣士。そのせいか、ある一定の強さを身につけた者の中には、魔に近付いてしまう者もいる。それは、肉体的にかもしれないし、精神的にかもしれない。幼少時に見せられた、
目の前の彼女――現実での本名は、『青山』
つまり、何が言いたいのかというと……何がどうしてこうなったのか、分からないということです。
「よっしゃー! 始めるえー!!」
「「「「いやいやいや……」」」」
場所は街の路地裏の広場。サクヤさん一人が少し離れたところに立ち、それを長谷川さんと水原さん、そしてキリトさんとアスナさんと名乗った二人、計四人が囲んでいる形です。
「……なあ、本気でやるのか?」
「もちろんや! ウチは、アンタらとは初対面やからな。どの程度の腕なのか知っとかんと、流石に背中は任せられん」
「いや、それは俺も賛成なんだけど……」
「それで何で、一対四の模擬戦になるのか分からないってんだろ? 安心しろ、師匠はいつもこうだ」
「基本的に、師匠に一太刀入れれば、その日の修行は終了! っていうノリだからね……」
「…でも、流石に四人がかりは……」
何をどうすれば、四人がかりで掛かって来い!になるんでしょう?
というか、長谷川さんと水原さんは、手馴れてますね?既に準備に入っているようですし。
「まあ、安心しい。アンタら四人同時でも、ウチには一太刀も入れられんから」
その言葉に――四人全員の戦意が、高まりました。身のこなしからすると、あの始めてみるお二人は、まだ発展途上ですね。長谷川さんと水原さんも、未だ未熟の時。そうなると、このゲームに存在するあの『剣技』、≪ソードスキル≫がどの程度役立つか、ですか。
「……シッ!」
裂ぱくの気合と共に飛び出したのは、フードを被った女性剣士。武器は、西洋の
そんな攻撃を迎えたのは…………蹴りでした。
「きゃあッ?!」
「「「ええっ!?」」」
記憶の中の彼らが大層驚いていますが、私も驚きました。貴女、剣士ですよね?!しかも今の、神鳴流と何の関係も無いただの『ヤクザキック』ですし!突きを紙一重で避けた動きは見事の一言ですが、その後!
「……ウチは、『四人がかりで掛かって来い』言うたんやで? 同時に掛かって来んで、どないするんや?」
その挑発と戦意、何より口元に浮かぶ嫌な笑い。本当にこの人が、『青山宗家』なのですか?
「う……おおおおっ!」
「はああああああっ!」
「―――――セイッ!」
「フッ………………!」
そこから四人同時、がむしゃらに攻めますが、全く以って歯が立ちません。振り下ろしの胴体に拳を叩き込み、斬り上げの持ち手を足で抑えて踏み潰し、横薙ぎの前に頭突きで相手を吹き飛ばす…………。
…………この人は、本当に『神鳴流
気がつくと、四人全員地べたに突っ伏していました。あの手に持った、西洋風の曲刀すら使わずに……。
「何や、情けない。そもそもアンタらなあ、その≪ソードスキル≫に頼りすぎやで? 確かに威力もデカイんやろうけど、剣の技は基本の技の中に挟んでこそ、初めて意味あるもんや。そないな技に頼るんわ、せめて一端に剣振れるようになってからにしい」
「はあっ……は……それは、アンタもだろ……」
「ん?」
キリトさんの言葉に、僅かに反応した。
「アンタだって、ここまで進んできたからには、≪ソードスキル≫に頼る場面があったはずだ。それなのに、頼るななんて――――」
「あー、キリトさん。師匠にその常識は当てはまりません。この人は基本、ボクらの常識の埒外ですから」
「……ほう、おもろい事いうな、コウ。それやったら、常識外のお仕置きいうんを味あわせたろうか?」
水原さんの断末魔が響き渡る中、キリトさんとアスナさんは、顔を引きつらせながら、長谷川さんに話しかけています。……結構、ヒドイですね。
「……さっきの、どういう意味?」
「コウが言ってたのは、師匠のスキル構成だろ。メチャクチャだからな、師匠」
「スキル構成? そんなもの、この序盤じゃ誰も彼も似たようなものだろ? 武器スキルを一つ、補助スキルを二つくらい取る。まあ趣味スキルに一つ、枠を振り分ける奴もいるかも知れないけど……レベル20にも満たない第一層じゃ、枠も三つしかないんだし、違いなんて出ようがないじゃないか」
「それは聞けば分かるよ……師匠ならスキルだのステだの、ポンポン答えるからな。おーい、師匠」
その言葉にサクヤさんが振り向きます。足元には何故か痙攣し続ける水原さんが……。長谷川さん、無視ですか!?
「なんや?」
「ちょっとこの二人に、師匠のスキル構成教えてくれ」
「あ? そないなモン、チウかて知ってるやろ。≪武器防御≫に≪所持容量拡張≫、それと≪疾走≫や」
「「――――ちょっと待った!」」
すらすらと出てきた聞き覚えの無い単語に、二人から待ったがかかった。どうにもゲーム用語というのは、分かり辛いですね。
「どないしたんや?」
「どうしたもこうしたもないでしょ! 貴女、武器スキルはどうしたのよ!」
「あんなん、『邪魔』やん。最初にちょっと試したんやけど、どーも≪ソードスキル≫言うんは肌にあわんかったからな。開始二日目には消したで」
「このゲームの一番の魅力であり、一番の売りを……『邪魔』…………」
「こういう人なんだよ……」
皆さん呆れかえった顔をしてますが、『武器スキル』というのはそれほど重要なのでしょうか?
「――ん? ならアンタ、今どうやって武器を『装備』してるんだ? 確か武器スキルの特徴は、『武器専用ソードスキル』の他に、『一定ランクの武器の装備制限解除』もあっただろ? 武器スキルとってなかったら、『装備』だって出来ないじゃないか」
「ウチはそもそも、武器を『装備』しとらん。『手に持っとる』だけや」
「――――は?」
そう言ってサクヤさんは、手の中の曲刀を空中に放り投げる。
「色々試したんやけど、武器スキルが無くても、武器を『手に持って』、『ダメージを与える』ことまでは可能なんや。もちろんスキルなんぞ使えんし、ダメージ補正もつかん。装備権限も無しや。チウに聞いたら、なんや上の方では武器を『盗む』敵も出るいうんやけど――――」
「師匠ッ!」
サクヤさんの言葉は、長谷川さんの鋭い声に遮られた。夜で見辛いが、長谷川さんの顔色が悪くなっているのは気のせいだろうか?
「あー…………まあ、そういうワケや。どうにも、勝手に身体を動かされる≪ソードスキル≫が気に食わんでな。≪武器防御≫にも防御技はあるらしいけど、そういうんは大抵武器スキルも取らな使えんしな。今のところコレがウチのベストや」
その言葉でサクヤさんの話は終わりとなった。ただ……どうにも妙な空気の長谷川さんと、それを気遣うように見ているキリトさんの表情が、私はどうしても気になっていた。
◇ ◇ ◇
翌日のフロアボス戦。ですが、そこに行くまでの道中で、私は妙な不安に駆られました。
(こんな遠足気分で、大丈夫なんですか?)
確かにここはゲーム世界。現実の戦場とは、違うところもあるでしょう。ですが、自身の生命が懸かった戦いに挑む行軍にしては、彼らに満ちた空気は、いささか緩み過ぎであると感じました。その点そこまでの緩みを感じさせないのは、飄々としながらも視線を昨日より鋭くしたサクヤさん。そして若干の緊張をにじませている長谷川さんと水原さん。キリトさんとアスナさんというお二人も、そこまで緩んではいませんね。……正直、このH隊をボスの取り巻き掃討のサポート役に回したのは、失敗ではないのですか?
「……なあ、アンタ。サクヤって言ったか」
「ん?」
行軍の中、キリトさんが、サクヤさんに話しかけます。
「アンタは、どうしてこのSAOに……?」
「あー。大学の付き合いでな。何や仲の良い親友が、このゲームやるて聞いてな。ウチもおかんの知り合いの、どっかの国のお姫さんに買うてきてもろたんや。その姫さんは、なんや公務で国にトンボ帰りする羽目になったとかで、このゲームにはおらんけど……」
「よし、色々待とうか?」
キリトさんが待ったをかけますが、私も同じ気持ちです。いま、『姫』とかおかしな単語がありましたよね?しかも、やらせたことが、思い切り『使い走り』じゃないですか!
「キリトさん。師匠の言動に一々過剰に反応するなよ。持つべきものは『大きな心』と、水のように雲のように全てを『スルーする』スキルだぜ?」
「……君も、色々大変なんだな」
キリトさんが長谷川さんの方を向いて、そう口にしますが、対する長谷川さんの表情は、とんでもなく虚ろ。……大丈夫なんでしょうか?
「君達は、どうしてボス攻略に……?」
「昨日目の前でした、あの恥ずかしい『決意表明』のとおりですよ。結局この世界、自分や誰かを守るのに必要なのは、『力』ってことで」
「なるほどな……現実と違って、子供でもレベルを上げれば戦えるもんな……」
そうこうするうちに、集団は大扉の前に辿り着く。恐らくは、これがボスのいる部屋なのだろう。
ギィィィィ……と軋んだ音を立てて、扉が左右に開いていく。壁際の松明に順に火が灯り、暗かった部屋を照らす。その奥に佇むのは、狼の頭と紅蓮の毛並みを備えた半獣半人の巨躯。その身体に重なって表示される、≪イルファング・ザ・コボルドロード≫の文字。
『グルラァァァァッ!!』
「――戦闘、開始!」
青髪の騎士の号令のもと、第一層を巡る戦いは開幕した。
◇ ◇ ◇
戦闘は、途中までは順調でした。H隊の面々は問題なく取り巻きを片付け、危なげなく戦闘を繰り広げます。途中、同じ取り巻きとの戦闘を担当するE隊のサボテン頭の男から、キリトさんが何か話しかけられる場面がありましたが、どうにも記憶に薄いのか内容までは聞き取れません。
「……何、話しとるんやろな」
「多分、ベータテスト時代のことだよ……思い出したけど、
「『えるえー』?」
「……とどめを刺すと、ボスの持つお宝が手に入るんだよ。それでキリトさんは有名だったんだ」
「へー、そうなんか。まあ、今回のお宝は
「……意外にあっさりしてるな、師匠」
「お宝には興味あらへん。ウチら神鳴流剣士が、寝ても覚めても欲しがるんは、『首』だけや」
それだけは、否定させていただきます!何ですか、その超絶な理論は!
「まー、それでも? 戦友押しのけてまで、首獲りに行ったりせんわ。なんぞ、この妙なチーム構成にも、大将の意図が見え隠れしとるからな」
「――気づいてたのかよ」
――――そうですね。明らかに取り巻きの相手は、一チームだけいれば事足ります。これはつまり、異常な戦力を誇る、彼らH隊を排除するための……
「だ、だめだ……」
考え事をしていたせいか、場面が移り変わっています。キリトさんの視線の中心にいるのは、ボスのイルファング。腰に佩いていた刀剣を抜き出して――ん?あの刃紋、それにあの刃渡りは…………
「全力で後ろへ跳べーーーーッ!!」
≪野太刀≫ッ!?
キリトさんの警告は一歩間に合わず、部隊から突出していたリーダーのディアベルという方が吹き飛ばされました。空中で何度も斬り裂かれ最後には壁へと激突しました。そして、彼はキリトさんにボスを倒して欲しい、と希望を託し………………光となって砕けました。
「………………」
ディアベルという名のリーダーが、欠片となって宙を舞う様子に、サクヤさんが顔を俯けたまま、一歩一歩イルファングのもとへと歩み寄ります。そしてイルファングが次の獲物にと、あのサボテン頭の男へ走り寄ったとき、いきなり走り出しました。
次に起こったのは、私にも信じられないこと。なんと、自分の武器である曲刀をイルファングの顔面へと投げつけたのです。それが顔に当たり、たちまち獲物をこちらへと変更します。
『グルルルォオオオオッ!』
「神鳴流――――」
イルファングの大上段からの振り下ろしに、彼女が選択したのは、『回転』。体中をコマのように回転させながら、手首・足首を固め……この技はッ!!
「『浮雲』≪旋一閃≫!」
武器を持たない状態で、武器を持つ相手を制する、対武器体術の一つ!弱体化した身体で、あの巨体を投げ飛ばすなど……お見事!
いまだ地面に横たわるイルファングには目もくれず、サクヤさんは自分の曲刀を拾い上げます。――ソレと同時、
「――――なあ、ワンコロ」
一言一言に、膨大な殺気が孕む。こんな……!仮想の世界、映像だけの世界で、これほどの殺気が出せるものなのか!?あの場にいる誰も、身動きどころか声をあげることすら出来なくなっている。こんなもの、直に浴びれば気が狂う!
「首ぃ、置いてき?」
殺気により、反転したかのように見える眼光のもと、その言葉とともに始まったのは、一方的な殺戮だった。
SIDE OUT
というわけで、サクヤは武器スキル持たない、アホなキャラになりました。
この、『武器スキル無くても、手に持ってダメージを与えられる』記述ですけど、元になっているのは、原作第一巻の、最終決戦時のキリトです。あのとき、キリトはアスナの愛剣、ランベントライトでとどめを刺しましたが、『スキルがない』と、『装備なし、ダメージ0』ならあんな結末になりません。キリトにレイピアスキルは無いですし……後は圏内事件でも、逆棘の『短槍』を手に突き刺そうとしてますしね。
そのため、武器スキルの熟練度で得られるのは、『上位ソードスキル』、『上位ランク武器の装備制限解除』、『ダメージ補正』と、推察して書いてます。これならダメージは普通でもなんら問題ない。天敵は、『技』でなく、『スキル効果』で武器を盗んでいく敵でしょうか。
神鳴流の投げ技、『浮雲』シリーズ。実は結構好きなんです。桜散華は武道会まで無理だしねえ……あと、相手の勢いを利用してるように見える、こっちの技にしました。
ちなみに、作中にちょろっと話に出てきた『某国のお姫様』は…………まあ、どこぞのインド娘さんです♪