SIDE:古菲
――――私は、まだまだ甘かったアルナ……
目の前でとんでもないレベルの殺気を放ち、狼の頭持つ獣人と戦う剣士を見ながら、私はそう思った。
『グルアッ!』
「ははっ! そない『素直』な太刀筋当たるかいッ!」
ヒトの身の丈と同じくらいの長大な刀を振るう狼男に対し、サクヤというその剣士は、その手の中の曲刀で受けることすらせずに、紙一重でかわしていく。その目は常に動き回り、狼男の『全体』を捉えているネ。
(恐ろしいアルナ……)
拳法にて最強を目指す、自分には分かる。彼女は、決して剣の動きだけを見ていない。あの狼男の重心やバランス、筋肉の動きなどから、全体を把握して『呼吸』を掴み、相手の攻撃を察知しているアル。
(なまじこの世界も敵たちも、精密に作られてるからこそ、出来ることアル)
この第一層で犬の頭を持つ獣人は何度も見たが、その動きや仕草には、まったく違和感がなかた。恐らく現実の『人間』の動きを取り込んで作られているのだろうが、だからこそ現実の『技』が通用するネ。
『ルオッ!』
攻撃が全く当たらなかった狼男は、今度は肩に一度刀を担ぎ、袈裟懸けに斬り込んで来た。だけど……そんな大振り、通じるわけないアルヨ。
「ふっ……!」
肩口から襲い掛かる一撃に、サクヤはあえて懐へ踏み込み、光を纏わない柄の部分に自分の曲刀の柄を合わせ、そのまま刀身全体を斜めに滑らせ、体を入れ替えたネ。見事な≪捌き≫アル!
『――見てのとおり、師匠は当時、技量においては、他のプレイヤーより頭二つ分は抜きん出ていた。
長谷川の言葉も、納得アル。でも、それなら、一人で行かせてもよかたのでは?
「キリトさん、アスナさん、悪りいけど、手伝ってくれねえか?」
そう言ったのは、当時の長谷川。その手には簡素な両手剣を持ち、加勢に行く気のようだった。
「――――はあ、は……て、手伝う? あんなとんでもない連続攻撃の嵐の中に飛び込む、ってのか?」
「ふう、は――――そ、そうね。それに手伝いは、要らないんじゃないかしら?」
二人とも殺気の中では喋るのもきつそうだが、順応しはじめてるネ。この二人も、かなりの才能アル!
「いや、そうでもないんですよ。端から見ると、師匠の圧勝だけど……HPゲージがね」
そう言われ、狼男の上に薄く表示されたゲージを見ると、先ほどから幾千もの攻撃を加えているにも関わらず、ほとんど減っていないバーがあった。
「「……あれ?」」
「――武器やステータスを含めた師匠の攻撃力と、イルファングの防御力・回復力が釣り合っちまってるんだよ……あれじゃ、何時間かかってもボスは倒せない」
「むしろ武器は損耗していくし、精神的なスタミナも減っていくから、不利になるのは師匠の方だね。師匠の使う、『同じ箇所』への集中攻撃は、それだけ集中力を要するし」
――そうなのだ。さっきから、サクヤは全ての攻撃を、同じ箇所へと集中させている。それもフェイントや牽制なども含め、相手の防御もかいくぐってだ。その位置は、狼男の右の首筋。……どんだけ、『首』が欲しいアルカ。
しかし納得もしたネ。図書館島で見た、長谷川と水原の石像への集中攻撃。やけに手馴れてると思たが、仕込んだ人間がいたカ。
「……ところで、何で二人は平気なの?」
「師匠が、『いずれ殺気を放てる敵が、出てこないとも限らんやろ?』とか言って、この一ヶ月寝る前に本気の殺気をぶつけて来てたんだよ……! おかげで、余波くらいは平気だな」
「最初の頃は、自分の惨殺シーンがリアルに見えて、一晩中うなされたけどね……」
……それはまた。けど多分、モンスターを想定してのことではナイネ。いずれは、『人同士』の戦いが起こると踏んで――
「――どうやら、お喋りの時間は終わりだな。そろそろ師匠の曲刀が壊れる」
「強化回数を全部耐久力に回したものだったけど、やっぱり耐えられなかったか」
その言葉を待っていたかのように、視線の先でサクヤの持っていた曲刀が砕け散った。
「師匠、交代! ここからはボク達がやる!」
「師匠は武器を予備に代えてきてくれ。コイツが使ってる未知のスキルには、絶対に師匠の回避能力が要る」
そう叫ぶと同時に、二人が前に出る。先制攻撃は長谷川!
「はあっ!」
長谷川は走り抜けながら、右の脇腹に斬撃を叩き込む。黄色の光を纏ったソレは、狼男を一瞬硬直させるが、足りないアル!狼男の刀に、凶悪な赤い光が宿る。
「――遅い」
その言葉と共に、振り上げていた狼男の右腕に、一筋の線が刻まれる。刻んだのは、水原が右手に持つ、曲刀。
「遅いのは、お前もだろ? コウ」
「敏捷よりのチウと一緒にしないでよ。……大丈夫、離れたりしないよ。だって僕たちは――」
「……フン」
二人がそれぞれの剣の切っ先を、狼男に向ける。
「「『二人で一人の剣士』だからね(な)!」」
――ナルホド。思わず納得してしまたアル。図書館島でのコンビネーションから予測はしてたが、戦場に出てからずっと二人一組で動いてたのカ。それは、息も合うはずアル。
「まあ、でも、このままじゃジリ貧かな?」
「そうだな、コイツの使ってくる未知のソードスキルが分からないことには、どうにも……」
見ると狼男は、中段に構えた刀に今度は青い光を纏わせていた。どうにも攻撃の狙いが読み辛いアル……。
「右だッ!!」
そこに響いた一つの声。私が振り向くと、そこにはキリトの姿があった。
「「!」」
その言葉に、瞬時に二人が動いた。長谷川が右側に構えた両手剣の内側に、いつのまにか左手にも西洋剣を持っていた水原が構える。そこに、言葉の通り二人の右側から斬撃が襲い掛かった。
「ッ! アンタ……」
「キリトさん……?」
攻撃を防ぎきった二人が、キリトに視線を向けてくる。何でわかたアル?
「……攻撃の軌道は、俺が指示する。皆は、指示に従って防いでくれ。ここからは、俺たちも戦う」
「――そうね。流石に子供に任せっぱなしは、情けないもの」
そう言って近付いてくるのは、先ほどまでのフードを取り払ったアスナ。薄暗い部屋の中で、まるで光を帯びるかのように茶色の髪がなびく。
「ウチも行くえ。今度は刀壊されるような真似せえへんわ」
そう言ってサクヤも歩み寄る。その手には先ほどのものと同じ曲刀。……何本持ってるアル?
「それじゃ……いくぞ!」
「「「「オオッ!」」」」
H隊リーダー、キリトの合図と共に、再び戦いは再開した。
『グラアアアッ!』
「右、横薙ぎ! その次は上、二段攻撃!」
「了解!」
リーダーのキリトの指示に従い、各人が防ぐ。誰かが防いでいる間に、全員で攻撃を加える。今まで全く減らなかったHPがどんどん減っていくネ。……その中で異質なのが、水原。
「ふっ……!」
短い息と共に、迫り来る攻撃を右の曲刀で防ぐ。次の瞬間には、身体の前に浮かんだ窓のボタンを押し、左手に握られた西洋剣で突きを繰り出す。≪クイックチェンジ≫というらしいその操作は、一瞬で異なる手に異なる性質の武器を呼び出せる。それを使って攻撃役も防御役も、一人でこなしているアル。
「らあっ!」
水原の攻撃に怯んだ狼男に、今度は長谷川の攻撃が突き刺さる。HPは……残り三パーセント。
「アスナ! 最後の攻撃、一緒に頼む!」
「了解!」
二人が同時に地を蹴り、スピードに優れたアスナの剣が先に到達したアル。HP、残りがさらに減る。
「お………………おおおおおおおッ!!」
遅れて到達したキリトの剣が、狼男の胴体で、Vの字を描く。そして、その剣が肩口を抜け出た瞬間、狼の頭持つ『剣士』は、幾万もの光の欠片になって降り注いだアル。
◇ ◇ ◇
……問題だったのは、そこからアル。
キリトがボスと戦っていた際、どうしてガイドブックにも載っていないスキルを知てたか言う話になり、ついに『ベータテスター』と呼ばれる人たちを排除する動きになてしまた。
それを食い止めるため、キリトは自ら汚名を背負って、一人去っていくことになてしまたアル……。正直、数に物を言わせたみたいで、めちゃくちゃ胸糞悪いネ!
「――そんなら、アスナ嬢ちゃんは、キリトの後を追うんやな?」
「その嬢ちゃんって止めてくれないかしら……それに、変な言い方しないで。ただ伝言を伝えに行くだけよ」
キリトが去ってしまってすぐ、サクヤはアスナと話していた。どうやらアスナはキリトを追うらしいネ。
「貴女達はどうするの?」
「あー、ウチも今、ここにはおれんやろ。つい、一般人にも殺気ぶつけてしもたし」
「さっさと街に行って休みたい……」
「これから迷宮区もう一回なんて、精神的に死ねる……」
若干二名グロッキーアルが、それでも来た時と同じ面子で、H隊は進んでいく。私は、その背中を見ながら、ふと思った。
「戦って、みたかったアルなあ……」
――――
ただそれのみを心に置いて、鍛えてきた。強者との出会いは、いつでもこの心を震わせてきた。
でも。だからこそ。
(なんで、これほどの強者が、命を落としたアル……?)
頭をもたげてきたその疑問に、答えることは出来なかった。
SIDE OUT
第一層ボス、終~了~。
感想欄でサクヤが叩かれてますが、別にサクヤは最強ではありません。現実なら、最強クラスに片足突っ込んでるでしょうが……
武器スキルをとらない以上、長期戦になるプレイスタイル。なのに、威力強化する『気』も、愛刀も存在しない世界。そんなになっても『首』を追い求める、どこか壊れた剣士……というのが、サクヤのテーマです。
多分月詠の方がこのゲームにいても、似たようなのになったんじゃなかろうか……もっともそうなってたら、アスナ辺りが追い掛け回されそうだがww