SIDE:千草
――ほんま、そっくりやなあ……
この記憶の世界で、サクヤいう女を見ての感想がソレやった。記憶は今、第二層以降の攻略の様子をダイジェストで流されとるけど、その中でも断片的に流れ込んできたサクヤの印象は、もう、本当に、『
基本戦闘狂で、三度の飯より『首』が好き、気に入らんと思たら味方にも牙をむく……もうなんか『この姉にしてこの妹あり』かいう感じやった。
『――千草はんは、なんやウチの姉さまに似とるなー♪ 怒りっぽいとことか☆』
『どーいう意味や!』
『けど、なんだかんだで、ウチや小太郎はんみたいなはみだし
『…………褒めても、今回の報酬は増えんで』
『あ~ん、いけずぅ~』
――余計なこと、思い出したな。あれから行方不明て聞いたけど、どこにおるんやろうな、
あれから場面はどんどん移り変わり、今の攻略の最前線は四十九層。あと一つでこの黒鉄の城の半分に差し掛かるところまで来とった。
けど今の街の中はそれとは別に、もう一つのイベントで浮かれていた。
「アインクラッド、二回目のクリスマスか……」
デスゲーム開始から一年と少し、季節は二度目の冬になり、クリスマスが近付いてきとった。あちこちにそれに即した装飾がされとる。
(この街には、あんまり関係ないみたいやけどな……)
アインクラッド第一層、≪はじまりの街≫。今もあちこちの宿にこもり、全く来ない助けを待つ人々で溢れている街。道を行く人は一様に暗い顔をしとるか、厳めしい顔をしとる≪軍≫の奴らのみ。ほんま、好きになれんで、この雰囲気。
そんな陰気臭い街を、普段使いの小袖に身を包んだサクヤと、あったかそうな子供用のセーターを纏った水原はん、そして――
「……なあ、師匠」
「なんや、チウ。どうかしたんか?」
「……今からでも、この衣装脱いじゃダメか?」
「ダメや。ジャンケンで負けたんやから、今日一日はそれや」
「ふざけんな! いくら季節物でも、要素多すぎンだろうが!!」
――赤のニーソックスと、ミニスカの間の絶対領域が眩しい、ミニスカサンタ服を纏い、トナカイの赤ッ鼻とツノと鈴付き首輪を着けた長谷川はんの姿があった……。
………………なんや、これ?
「あー、もうワガママやなあ。正々堂々の勝負に負けたんや。我慢しい」
「どこが正々堂々だ! 師匠、あの一瞬でこっちの手を見て手を変えただろーが!! しかもこの服、全部『子供用』って書いてあったぞ! 最初から着せる気満々じゃねーかーッ!!」
…………それは、勝負を受けたんが、間違いやないかなあ……?
行く前から、生活に疲れたサラリーマンみたいな空気を纏わせる長谷川はんとそれに苦笑しとる水原はんを連れて、サクヤが向かったんは、街の東、川べりに佇む古びた教会やった。
「サーシャー、差し入れに来たえー」
「サクヤ? 貴女、来る前には、メールの一つもよこしなさいって何度も――」
そうして、出てきたのは濃紺のプレーンドレスに身を包んだ眼鏡の女性。その女性は、既に顔見知りの女性とその周りの子供達の格好を見て、一言。
「……え、えっと……に、似合ってるわよ? チウちゃん」
その優しさに、一人の少女が崩れ落ちとった……。
◇ ◇ ◇
「あははははははは! 似合う! 似合ってるぞ、チウ!」
「うるせえ、ギン! テメエは黙ってろ!」
「なあ、チウ、チウ。はいよー、しるばー」
「そりゃ馬だろうが! トナカイなめんな、コラアッ!!」
「七段変形してよー、チウちゃん」
「どんなトナカイだ、そりゃあああッ!?」
……大分、おもろいことになっとるなあ…………。ここは、はじまりの街で途方に暮れとった子供達を集めて暮らしとる共同生活の場所。サクヤの大学時代の親友やった、サーシャいう眼鏡の女がやっとるところや。
「遊ばれとるなあ、チウ」
「ふふ、そうね。……でも、ありがとうね、サクヤ。貴女がここを気にかけてくれて時々差し入れてくれてるから、ここも何とかやっていけるんだもの」
「あー、らしくないで、サーシャ? もっと高校時代みたいに、『真面目にしなさい!』とかって、熱血委員長口調で怒ったらええやん」
「……私、そんなこと言ってないわよ」
ぶすっとむくれとるけど、その少しの会話でもわかる。この二人には、壁がない。あんな社会不適合者一歩手前な女でも、ほんまに親友はおったんやなあ……。
「まー、今日来たんは、アレや。これから四十九層のボスの首狩るんで忙しくなりそうでな。クリスマスはボス部屋でパーティーナイトになりそうなんや。ターキーやなくて、コカトリスなんがちょっと残念やけどなあ……ククク……」
前言撤回。やっぱり不適合者や。
◇ ◇ ◇
その日の夜。皆が寝静まった頃、水原はんが起きてアイテムを整理しとった部屋に、長谷川はんが入ってきた。
「まだ起きてたのか、コウ」
「ん? まあ明日から、しばらくは素材集めに三十五層に行かなくちゃだめだろう? 早いうちに、情報の整理と準備をね」
「三十五層ランダムダンジョン、≪迷いの森≫か……」
四十九層のボスは、なんでも≪石化≫の能力を持っとるとかで、それを防ぐ薬も治す薬も、全部≪迷いの森≫で採取出来るいう話やった。大手のところはもう必要分の確保は金に任せて行ったみたいやけど、ここは少人数。直接調達に行くとのことやった。
「…………なあ、コウ」
「何? チウ」
アイテムを整理しながら、水原はんは生返事で答える。ほんま、この頃見とると、ウチに殺気投げかけたんと、同一人物とは思えな――
「何時になったら、師匠に『告白』するんだ?」
――――はい?
その衝撃的発言に、水原はんも動揺のあまり、手に持っとったアイテムの塊を、ガシャン!と甲高く落としとった。
『チウーーーーーーッ!!? リワインド、リワインド!』
『リワインドは『巻き戻し』だぞ……いいじゃねえか。ここにいる全員が知りたいことだろうし。なあ?』
『……うん、そうだね』
『私も知りたいにゃ~?』
……そういや、いたんやったな、あの二人も。声にとんでもない迫力がこもっとった。
「ななななな、何言ってるの、チウ!? こここここ……」
「あー、まあ落ち着け。お前の気持ちなんて、見てれば分かる」
「うぐ……」
一言呻いて下を向く水原はん。なんや初々しいなー、ほんま。
「別に告白とかする気はないよ。今のままじゃ、相手にもされないって分かってるし……」
「まーな。完全に『弟』ポジションが定着しちまって、今更『男』を名乗るには、お前ガキ臭過ぎるもんな」
「………………」
容赦ないなー。まあ、ウチも同意見やけど。
「……分かってる。ボクはまだまだだって。だから…………」
「師匠を超えたら、なんて言い出すなよ? 正直、あの人外は超えられる気がしないぞ?」
明らかに、月詠より強いからなあ、アレ。
「それでも、超えるよ…………」
「…………フン、好きにしな」
何やウチには、最後に吐き捨てたその言葉に、違う感情も乗ってる気がしとった。
◇ ◇ ◇
「――なんや、全ッ然出ないなー?」
「狩り始めてまだ一時間もたってないよ、師匠……」
「ホントこういうことには根気ねえなぁ。普段は、首狩るためならどんな状況でも待ってられるのに」
いや、それもどうなんや?翌日の十二月二十三日、サクヤ率いるいつもの三人組は、第三十五層の≪迷いの森≫に来とった。ここは森全体がいくつかのブロックに分割されとって、街で買った高価な地図を持たな踏破することも難しい。今回地図を持ったのは、リーダーのサクヤやった。
「そー言われてもな、これだけ出ないとムカつくやん?」
「まー、そう言うなよ。沢山倒してとっとと出れば――」
そう長谷川はんが言ったとき、異変は起こった。
地面に隠されとったロープが、長谷川はんの足に巻きついたんや。
「え? う、うわああああああ?!」
そのロープは、反対側でしなりを作ったバネ仕掛けに巻きついとって、あっという間に長谷川はんをエリアの外へ弾き飛ばしとった。
「チウ!?」
「
「了解!」
そう言って駆け出していく二人。けど、なんか変やないか?
今までも罠の映像はあったけど、それらはお仲間のモンスターを呼んだり、動けなくするのが精々やった。第一今の罠、ソロプレイヤーにはまるで関係ないやん。今のは、まるで、パーティープレイヤーを『分断』するのが目的みたいな――――
「! 師匠ストップ!」
「!」
そいつらが現れたんは、突然やった。
『ホーホーホー!』
妙な笑い声とともに現れた奴らの服は全身黒。それもただの黒服やなかった。
「サンタ服……?」
そう。全員が真っ黒に塗りつぶした黒いサンタ服に真っ黒でボリュームのある付け髭を付けとった。そしてそのうちの一人が、長谷川はんを羽交い絞めしとった。
「チウ!」
「何しとるんや、アンタ等!」
二人同時に駆け出そうとしたところ、目の前に血の色の閃光。
「へへ、落ち着けよ、まだ危害は加えねえ。これから楽しい楽しいショウなんだからな……」
「
その激昂に、大仰な動作での嘲笑。
「ピンポンピンポーンッ! ワシ等は
『メリィィィィッ、クリィスマァァァアアアァァァスッ!!!』
『ホー! ホー!! ホー!!!』
迷いの森、嵐の到来を示す暗い雲が空を覆う中、絶望は始まったんや。
SIDE OUT
と、いうわけで、コウの初恋は、師匠でした。アレのどこに惚れる要素があったのか、作者にも不明です。むしろ気の向くままに書いたら、こうなったので……
サクヤとサーシャは親友。色々正反対な二人ですが、だからこその親友という感じです。実はチウとユイを親友同士にしたせいで、SAO内で知り合う機会を作る必要が出たからなんですよねえ……
犯罪者(オレンジ)ギルド、≪黒ひげサンタ(ブラックサンタ)≫。今回含めて三話ほど続く予定の、『絶望』編の裏主役とも言える方々です。まあ末路は決まってますが……